第四章 侵入、迷宮『標なき宮殿』
◆◆◇◇ 視点継続◇ソーヤ ◇◇◆◆
「な、な、な、なんだその涙の後は!」
なが多いな。
ぎっぎっぎとアルシュラン陛下が振り返ってくる。おお、こええ、般若じゃあ、般若がおられる!
「ソーヤアァア…」
ひぃぃぃ、
「ま、待つでおじゃる、これは違うでおじゃる!えーと、そう、涙は涙でもうれし涙でおじゃる!」
おお、かばってくれるのか麻呂姫。ええ子やぁー。
「先ほどソーヤにプロポーズされたでおじゃる」
えええっ!?
「なんと誠か。我輩もちょうどリーシュにソーヤとの婚姻を薦めようと思っておったところなのだ」
「うむ、ソーヤは麻呂をきつく抱きしめ「もっと固い絆で結ばれよう」と言ったでおじゃる」
え?それプロポーズなの?いやそこだけ抜き出せばそう取れないことも?えっ、そんなのアリ?
「ちょっとソーヤどういうことなのよ!」
首絞めんな!お前自分の力のパラメータ知っとけよ!マジ死ぬぞ!
「アーチェ!ソーヤの顔、真っ赤だよ!死ぬって」
ユーリお前だけだよ…そう言ってくれるの。
「よし、帰ったらさっそく祝言の準備だな」
ええ?オレまだ10歳だよ?結婚なんてできないよ?
「我輩は国王であるぞ?そんな物なんとでもなるわ」
えええ?いくら国王でも法治国家でしょ?
「例外を作るくらいの権限はあるぞ」
「器用に心の声と会話してるねえ。アーチェもいいかげん首から手を離したら?」
メリ姉、なんとか、
「もう諦めたら?」
「ふふふ、いよいよリーチでおじゃる!ファーハッハッハァ!!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「分かりましたわ、それでは今から祝言の用意を致しましょう」
「え?ほんと、やったぁ!」
「ちょっ!それは卑怯でおじゃる!」
「どっちがよ?」
しかしてここはファンレーシア。ファンレーシアに着いたと思ったら、アーチェが、
「女王様、私、ここで今すぐソーヤと結ばれたいの。例外作って」
って言い出した。国に帰れば別の女に取られるとか、力の暴走でそれを抑えれるのがオレしか居ないとか、お前いつのまにそんなに饒舌になったんだ?
「アーチェも必死だねえ」
「兄上!兄上ぇ、なんとか!」
「むう、さすがに我輩でも他国のことには口出せぬ」
「くっ、こうなったら、ソーヤ、さっさと迷宮攻略するでおじゃる。そしてさっさと帰るでおじゃる!」
なんで攻略することになってんだ?今回は転移の魔方陣を調べに来ただけだぞ?
「そんなこと言って、ついでに攻略しようとか言い出すに決まってるでおじゃる」
「学院もあるのにか?しかし、ふむ、そうだなー。じゃあこっちに拠点を構えないとなー。どっか安くて、少々壊しても文句言わない宿屋って無い?」
「はっ、もしかして、やぶへびでおじゃったか!?」
「バカねー」
まあ、壊して文句言わない宿は無いか。そう思うと今のおかみさん心がでっかいなあ。ちゃんと感謝しないとな。よし、帰ったら宿の子に色々便利な魔法を教えてあげよう。
「それでしたら、持ち家などどうでしょう。もちろん費用は私が出しますわよ」
「えっほんとに?」
「なにそれ。もしかして私とソーヤの愛の巣とかー」
「何言ってるでおじゃるか!絶対ダメでおじゃる!」
持ち家かー、いいな。それなら少々破壊しても大丈夫だよな?って、なんで破壊されること前提なんだか。よし、一丁、核ミサイルが来ても大丈夫ぐらいの、
「立派な神殿を建てて差し上げますわ」
えっ!?
「祭るのは破壊神でよろしかったですよね」
「なんで破壊神なの?いいかげんそっから離れなさいよ」
いやいや、神殿って何?
「普通に4部屋ぐらいの建物でいいんじゃね?そんなでかいのいらないよ」
「やだもう、早くも将来設計?そうねー子供は3人ぐらいがいいわねー」
ちげーよ。オレ達5人で4部屋だよ。オレとセイカが一部屋、あと個室。陛下と麻呂姫はお城に間借りだ。
「なにおう!麻呂は100部屋用意するでおじゃる!100人作るでおじゃる」
うん、それはムリ。
「それではさっそく取り掛かりましょう」
「聞いてよ?なんで誰もオレの言う事聞いてくれないの?まじで神殿はやめてよ?」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「どうだ?もう行ったか?」
「はい。でもどうして隠れるので?」
だってお前、捕まったらアレだぞ?アーチェと結婚だぞ?いくらなんでも早すぎだろ?あと、この歳で結婚してどうする気なんだか。
「暫くしたらほとぼりも冷めるだろ。ついでだから迷宮の下見にでもいくか?」
「私達二人だけでですか」
そうセイカが聞いてくる。まあ、下見だけだから大丈夫だろ?
「なーに、セイカが居てくれりゃ百人力だろ?」
「はいっ!」
そう言って嬉しそうに抱きついてくる。うぬ、かわいいかわいい。
「で、どっち行けばいいんだ?」
たぶんあっちかな?まあ、魔法で王宮のポイントは押さえてるし、少々迷っても問題無いか。
「そう言えば、王宮の方での訓練ってどんなんだ?きつくないか。つって、あの陛下だからそんなにきついこともしてないか」
「いえ、陛下は訓練の時は真剣に取り組んでくれてますから、周りの方たちが慌てるくらいは」
「ええっ、大丈夫なのか?」
オレはセイカをよく観察してみた。うむ、どこも問題は無いようだ。
「お父様に教えて頂いた、回復、強化の魔法で、全然大丈夫です!ほんとすごいですね魔法って」
「そうか、それならいいけど。あんま無理すんなよ。回りの連中に嫌がらせとかされたらちゃんと言えよ。オレが悪夢で再起不能にしてやるから」
「…そんなことできるんですか?お父様はどうしてそんなに色々知っているんです?」
セイカがおれにしがみつきながら聞いてくる。
「そういや言ってなかったな。オレは前世の記憶があるんだ」
「でっていう設定ですか?」
なんでそんな言葉知ってんの?
「あ、そういえば陛下が、聖人の生まれ変わりがどうとかと…」
聖人?あーあの聖女の上位クラスとか言ってた奴か?そんなもんになった記憶はないがなあ。
「いや、そもそもオレはこの世界の人間じゃねーんだわ」
「えっ!?」
ほら、映像とかで見せたろ?あの世界の人間なのよ。
「みなさんはご存知なのですか?」
「いやー、言ったけど全然信用しねーの」
まあ、普通は信用しないわな。あのころは立体映像の魔法も使えなかったしな。
「私は信じます!あ、でも、もしかして元の世界に戻るとか…」
「それはないなー、こっちの世界の方が面白いしな。セイカや他のみんなと別れるのも辛いだろ?」
「はいっ!ずっと一緒です!」
セイカは離さないぞってばかりに抱きついてくる。うむ、苦しい…まだ7つなのに力のパラメタ、もうオレの数倍あるなー。あ、意識がもうろうと…
そろそろ意識がなくなりそうになった頃、
「あ、あっちに迷宮らしき反応があります」
そう言って走りだした。ふう、あと少しで落ちるとこだった。これお父様の面目丸つぶれだな。というか反応ってなに?え?迷宮の反応が分かるの?
「セイカは迷宮のある場所が分かるのか?」
「はい。アルシュラン陛下が、迷宮の探知魔法を教えてくれたのです。あのゲートにも使用されているって言ってました」
…陛下、確かそれ、王家の秘法中の秘法だよね?教えていいの?いったいセイカをどうするつもりだろうか。うちの子ですよ?ほんとあげないよ?
「ほら、お父様あれがそうみたいですよ」
セイカに連れられてしばらく歩くと、立派な建物が見えてきた。
おお、あれが迷宮か、ほんとに宮殿みたいだな。
「たしか標なき宮殿だっけ。見たまんまだな」
「あれ迷宮の上に建てたのでしょうか?」
どうなんだろ?けっこう古そうではある。
オレが迷宮に入ろうとしたその時、突然迷宮の中から襲撃が!
「おわ!あぶねー、なんだ?」
「お父様!!」
そこには、真っ黒な鎧を着た、騎士風の男が立っていた。え、人間?
「きさまら、ここへ何のようだ。遊びで迷宮に入る気か?子供といえども容赦せぬぞ!」
「だからと言って、いきなり斬りかかって来なくてもいいんじゃね?」
「安心しろ峰打ちだ」
それ両刃の剣だよね?どこに峰が?この人ヤバイ系かな。
しかし、鎧から服まで全部真っ黒け。黒好きなのかね。厨二病じゃねえだろうな?
ってセイカ、なに構えてんの?相手は人間だよ?
「お父様に危害を加えるものはすべて敵です!安心してください、スパッと終わらせますので!」
いやいや、やめてよ?殺人はダメよ?ちょっと陛下、ちゃんと道徳の教育もしてよ!
「む、なんだ。子供の癖にこの私にかかってくる気か?ハハハ、まったく教育のなってない奴だな」
なんて言ってるけど、たぶんセイカの方が強いよ?パラメータはそっちが上だけど、うちの子は必殺技があるから。スパッといくよ?
「まあまあ、セイカも落ち着けって。あんなんでオレがどうこうなるわけないだろ?ほら、余裕でよけたし」
「…ほんと失礼な子供達だな。少しお仕置きが必要だな」
そう言って、剣を構える黒騎士。大人げねーなあ。仕方ない。
「セイカ、人殺しはダメだぞ。とりあえずあっちの木の方にでも『魔刃剣・一閃!』なんで、聞かないのぉ!」
セイカが黒騎士に向けて必殺技を放つ。
ほんと、どいつもこいつも!ヤベエ、早く、アーチェかユーリをって、なんともなさそうだな。
魔刃剣で、スパッいったはずだけど、なんでもなさそうに立っている?ん?顔は大分青ざめてはいるが。
「ば、馬鹿な。身代わりの護符が…ということは先ほどの一撃で、私は一度死んだということなのか…」
身代わりの護符?あれか、一度だけ致命傷を回避してくれる奴か?
…いかん、マジ帰ったらセイカに道徳の時間を割かねば。弁償しろとか言われないだろうな?
「おい、人に向けてそれ使ったらダメだろ!」
「ですが、前のお父様も物陰から現われた黒尽くめの奴に…私が躊躇していたばかりに!」
なんかセイカの目がいっちゃって…トラウマが再熱したか。
と、建物が突然振動しだし……轟音と共に崩れ落ちた!
「「………………」」
女王様ゆるしてくれっかなあ…
◆◆◇◇ 視点変更◇黒騎士さん ◇◇◆◆
な、な、なんということだ!迷宮が!我が家が代々、攻略を至上名目としていた迷宮がぁ!
私の名は、プレミセンズ・オルトファン。この国の上級貴族であり、迷宮の管理者も兼ねている者だ。
「どういうことだ!?あれ?今ので?」
なぜ、崩壊したのだ?まさかさっきの攻撃で?ありえん!
「えーと、迷宮って自然回復するんだったよね?じゃあこれも大丈夫じゃ?」
「そんな訳なかろう。確かに迷宮内はどんなに荒れたとしても、時間と共に回復する。しかし、その迷宮の上に建っておるこの宮殿は…」
「あ、やっぱダメですかー」
そんな、暢気げに。これは女王に知られれば、私もお前達もただでは…
「すいませんお父様…まさかここまでになるとは…」
「その剣のせいだろなー。それ迷宮内では使用禁止な」
「はい…」
たった一撃で崩壊させるとは…いったいこの子供達はなんなんだ?
ハハハ、私が生涯を賭けて挑戦していた迷宮が。これではもう、迷宮に入る転移魔方陣もただではすんでおらんだろうな。
もはや、私に生きる希望は…私はがっくりと膝をつき、
「これでファンレーシアの迷宮は終わりだ。こうなれば、入り口すら探すのは困難であろう。それに魔方陣も無傷ではあるまい」
「え?魔方陣は復活しないの?」
「この迷宮の魔方陣は特殊でな。迷宮自体は元の姿に戻るが、魔方陣は傷がつけば消えてしまう。その代わり、別の場所へ新しい魔法陣ができるのだがな」
「ということは、新しい入り口の魔方陣を探せばいいのか?」
簡単に言ってくれる。その昔、入り口の魔方陣が消えた時は、再度探すまでに100年の月日を必要としたのだぞ。なにせ、石の中にある、とか平気であったからな。この地上部分宮殿内にも数百の魔方陣が…もはや私の生きている内は…
「セイカ、迷宮の入り口って分かる?」
「えーと、ちょっと待って下さい。あ、あっちの方から反応が」
そう言って、宮殿とはまったく別の、森の方を指し示す。
何を言っておるのだ?反応?
「ふむ、宮殿外に発生するってこともあるの?」
転移魔方陣がか?
「そんな話は聞いたこともないが…と、いうよりいったいなんの反応なのだ」
「まあ、行ってみようぜ」
子供達に連れられて森の奥に入った先には、
「ここです、ここから反応があります!」
そこには、大きな湖があった。
「水の中かー。こりゃ面倒だな。いっちょフレアで蒸発させるか?」
なにを馬鹿なことを。子供の考えは浅はかだ……できないよな?やらないよな?
「それでは、アーチェお母様か、リーシュ姫様でも?」
「いやいや、今あの二人はまずい。そうだなー。なんか水の中でも息できる魔法とかあったけかなあ」
アーチェ?リーシュ?どこかで聞いた名だな?
しかし、この湖に何があると言うのだ?
「おっ、これつかえんじゃね?試してみっか」『バブルボム!』
「なに!?それは攻撃魔法ではないのか?」
「そうだなー、目標に到達するとはじけて爆発するやつ。でもほら中は空気があるだろ?爆発する前に解除すれば大丈夫。結界も一緒に張ったから内側から破れる心配もない」
攻撃魔法をこのような方法で使うとは、この子はいったい…
「じゃあ、沈むぞー」
そう言って、湖に私達は沈んで行ったのだが、
「あ、これどうやって上がればいいんだ?」
えっ?上がれないの?バカなの?死ぬの?この子はいったい…
「いやー、中に入ることしか考えてなかったわ。まあ、泳いで上がればいいじゃない?」
「私は泳げないのだが…」
「お父様、私も…」
「…そう言えば、内陸の人達は泳げない人多いんだっけかな」
仕方ない、なんとか上昇する方法を、
「しかし、悠長にもしてらんねーんだわ。だって酸素減ってるからなー」
えっ、そういえばそうか。供給されてないものな。と、いうことは…
「片道切符だなー」
「なにを悠長に!!」
そ、そうだ、今からでも遅くはない。泳ぎの練習を!
「何をやっているので?」
「泳ぎの練習に決まっておるだろう!」
「…がんばって下さい」
「あ、お父様!あれを!」
「お、なんか光ってんな。よし、押せ押せ」
暗く沈んだ湖の底、そこには…一際輝く、宮殿があった!
◆◆◇◇ 視点変更◇ソーヤ ◇◇◆◆
おお、あれが噂の竜宮城か!タイやヒラメの阿波踊りか?って良く見たらこの湖、生き物いねーな。
「な、なんだ。湖の底に宮殿だと!」
あ、変な踊りやめてんな。結構面白かったのに。どうみても泳ぎの練習には見えませんでした。ハイ。
「ねーねー、この湖って生き物居なかったの?」
「…そういえばそうだ。この森にこのサイズの湖など無かったはずだ」
えっ、なんで今ごろそんなこと言うの?これまずいとこなのか?
「私も気が動転しておった。そうだ、こんな場所見覚えがない!」
「言うの遅いよ!」
これはあれか?あの宮殿が壊れたことによって、どっかの結界が切れたとか?
となると、セイカ様々だな。褒めてくれていいのよ?
「調子に乗るな。まだこれがなんなのか分からないだろう」
「もう少しで入り口だな。ん、これ、このあたり」
「おい、魔法を解くな!水がぁ、水がぁぁ!」
お、また変な踊り始めたな。オモレー。
「あの、ここ空気があるようです…」
「アバババ、溺れる!溺れてしまうぅう!!」
「まあ、その内気づくだろ。それよりセイカ、もっと奥行ってみよーぜ」
「気絶したようですが…」
なんだこの騎士。役にたたねーなー。つか重っ、鎧重っ!
「ほっとくか…?」
「さすがにそれは…」
そう言って、ひょいと担ぐ、えっ、軽いの?なんで俺の周りはチートが集まるんだ?
「お、重いなら、置いていっていいんだぞ?」
「大丈夫です。これくらいは。王宮の訓練なんてもっと重い物を持たされますよ」
マジでカ。陛下、うちの子に何やらせてんの?これは帰ったらちゃんと話をしないとな。
「よ、よし、半分持…重っ…おい、もう鎧脱がそうぜ」
しかし、重たい鎧だな。ぴっちり着込みやがって。ん?鎧の下にも鎧?いーやコレも脱がし…
「ん?っん??」
なんかやーらかい感触が?なんだこれ。おお、胸、これは!?はちきれんばかりのOPPAIが…まさか……ついてない!?ついてないでござるよ!
「んぅ、あっ!」
黒騎士さんが目を覚ましたようだ。そしてその目には、片方の手で胸をもみしだきながら、もう片方の手を股座に差し込んでいるオレが映ってる訳で…
「ギャー!!何をするっ、貴様っ!私がファンレーシア筆頭の貴族と知っての狼藉かっ!!」
ええっ、このお方、筆頭貴族なの?
そして、黒騎士さんはオレを突き飛ばし、自分を見下ろす。
「し、知ったな…私の秘密を…親にだって知られていないのに!!」
ええ!?親もしらねーの?なんだそれ!?
「どういうことで?」
黒騎士さんはしばらく沈黙した後、ぽつりぽつりと語り始めた。
「私の両親は子供に恵まれなくてな。やっと授かった子供に結構な期待をかけたおったのだ」
うむ、よくあるパターンだな。
「やっと生まれた子は女の子、そりゃもう両親は気落ちする…はずだった」
はずだった?
「それをあのくそメイドが!どこをどうやったか知らんが、私のことを男だということにしやがった!!」
くそメイド?
「その場で済ましておけば、傷は少なくて済んだのだ。その後すぐ弟も生まれたしな」
「まあ、結果論では?」
「おかしい、おかしいとは思っておったのだ!なにが、この子は鎧を着ないと死ぬ呪いにかけられてますだ!なにが、この子は漆黒をまとわないと不幸になりますだ!黒はお前の趣味だろう!」
ずいぶんとメイドさんとわだかまりがあるようで。
「どうだ?お前が生まれてすぐ、漆黒の鎧を着せられて育てられたらと思ったら」
生まれてすぐに?そりゃひでーな。つーか、よくそんな鎧あったな。
「夏場など地獄だぞ?暑いは、蒸すわ。私に死ねと?」
「さっさとバラせばよかったのでは?」
「…私がそれに気づいたのは15を過ぎてからのことだ。すでに、私、実は女だったのです、などと言える状況ではなかった」
それはご愁傷様で…。
「それまで気づかなかった私もどうかしているが、あのメイド、よく騙せ通せたものだ」
「えーと、お父様、この方、女性だったので?」
よく事情が分からないセイカが聞いてくる。
「ああ、今までずっと男装して、周りを欺いてたんだとよ」
「人聞きの悪い事言うな!好きでそうしてた訳ではない」
「ちなみに、今は女性に戻りたいとかは?」
「…正直なところ、このままでも問題は無い。もう慣れた。だが、いつかばれると思うとな」
そんなことを言いながら、膝を抱えて座り込んでいる。
しかし、今ままでずっと黒兜、黒鎧か。それなら対策も色々ありそうだが。
「なんとかなるのか?」
「それ着ていると、あんま、素顔も体格もわかんねーだろ?すっぱり脱いで別人として振舞うとか、いっそ鎧のせいにして、呪いの鎧で女になりましたとか、どう?」
「どう?と言われてもな…」
まあ、無事迷宮から脱出できたら色々試してみよーぜ。…脱出できたらな。
そう、ここは深海…いや海じゃねーが。たぶん泳いで上がるのも無理そうな距離だなーと。
オレは頭上を見上げ、それにつられて黒騎士さんも、
「地上が懐かしい…」
そのセリフは、まだ早いと思うが?




