アサシンクリード
私の名はクリード。漆黒の蒼刃と呼ばれているアサシンだ。
「それではこの娘を?」
「そうです。これはこの国を揺るがす一大事にて」
まだ子供ではないか。
「あなたが、女、子供を避けておるのは重々承知でございます。しかし、今回だけは、今回だけは!どうしても必要なことなのです!」
そして、そやつは私の前に大金を重ねる。とんでもない金額だな。この国の貴族だけではないなこれは。
そろそろ私もアサシンから足を洗おうと思っていたところだ。聞けば、聖女を騙って貧しい者から甘い蜜を吸っておるようだしな。
「分かった引き受けよう。ただし、そちらに落ち度があればすぐさま手を引かせてもらう」
「おお!お願いできますか。この国一のアサシンであるあなたであれば、あの者の命も風前の灯ですな」
まずは下見だな。
そう思い私は聖女が居るといわれている宿へ向かった…のだが、
「む?どういうことだこれは?」
一向に辿り着かない。まさかこれは結界か?この私が気づかない程の高度な魔法だと?あの娘だけではないなこれは、何かとんでもない裏がありそうだ。
しかし、一度引き受けてしまった以上、依頼は達成させねばな。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「は?結界破りの最高位護符をお求めで」
「そうだ」
私は行き付けの魔法屋に行き、その結界を破る手段を手に入れることにした。
「最高位というと億は超えるのですが…よろしいので?」
「かまわん」
そういって私は高位護符を見せた。
「これはまた…これほどの高位護符がぼろぼろとは…いったいどこへ忍び込むおつもりで?王宮でもこうはなりますまい。まさか神帝国…」
「いや、ただの下町の宿だ」
「は?」
そうただの下町の宿だ。なのにこれ程の結界…きっと何かあるに違いない。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「くっ、最高位の護符でさえこの状態か。一体何者なのだこの結界を張った者は。神帝国の神殿ですらこれ程ではないぞ」
最高位護符を持って来たというのに、今にもはち切れそうだ。これは心してかからねば!
とりあえず宿の壁をすり抜け…すり抜けられないだと!壁、窓すべてに魔法がかかっているだと!ありえん!どれほどの魔術師が居るのだ?まさか魔術結社…
「あら、何してるの壁に体当たりして?新しい遊び?あんま宿壊してるとまたソーヤが怒るわよ?」
む、ターゲットが向こうから来たか。え?というより私が見えておるのか?私の隠蔽の魔法…いまだ破られたことはないのだが…
「お前が聖女とか名乗っておるものか」
私は警戒しながらそう聞いた。
「え?なに、サインでも欲しいの?仕方ないわねー」
そう言って無警戒に寄ってくる。これはチャンスか?
「そ、そうだ、ぜひここへ…」
私はそう言いながら、寄って来た聖女へ毒の付いたナイフを…
と、その時、最高位護符がはじけとび、爆発が起こった!
ばかな!最高位護符がだと!…最後にとんだへまをしたものだ、しかしこれならば聖女も助からぬだろう。依頼は達成か…私も助からぬがな。私は四肢を吹き飛ばされながらそう自嘲した。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「あら?目が覚めたみたいね」
ん?私は死んでおらぬか。なに!無傷だと!?
そこには無傷の聖女が居た。
「ごめんなさいねー。咄嗟の事で、自分と宿屋しか守れなくて。でもちゃんと復活させたから大丈夫よね?」
そう言いながら辺りを伺う。誰かを気にしているようだが?辺りには誰も居ない。
しかし、最高位護符の爆発だぞ!この宿ごと吹き飛んでなければおかしいはず?
「あー、後これなんか魔道具みたいだけど、とりあえず直しておいたけど大丈夫?」
そう言って最高位護符を私に手渡してきた。
これは!今までとは比較にならないほどの威力を秘めておる!
「こ、これはそなたが?」
「うん。私が壊したんじゃないよね?ソーヤには言わないでよ?」
ソーヤ?そいつが裏で糸を引いておるものなのか?
「あと、目のやり場に困るから、さっさと帰った方がいいかも」
そう言って私の体を指差す。そうか、四肢がふっとんだものな…ん?ばかな!無傷だと!?
そこには無傷の私の体が!素っ裸だが。
「いやー服は粉々で、一部燃え尽きてたから直せなかったのよねー」
「癒したというのか?この私を?」
「まあ、リザレクションで一発だし。まだ死んでなかったし。余裕よね」
……聖女…聖女がここにおる!
◇◆◇◆◇◆◇◆
「なにぃい!聖女様をターゲットだとぉおおお!」
「お、落ち着け。暗殺は失敗だ。げぶぅうー」
「今宵は御主の命日だ!」
「ま、まて、話せば分かる!話せば!!」
聖女の情報を得る為、行き付けの酒場に行ったところ、昔なじみが居たのでつい口を滑らせてしまい…
私は酒場の連中にさんざん袋叩きに合った後、酒樽に縛り付けられた。
「聖女様はなあ!助からないといわれたうちの娘を救ってくれたのだぞぉ!」
「オレが迷宮で大怪我をし、もう助からないと思ってたところを、ただ通りがかったというだけで無償で回復してくれたのだぞ!」
「そうだ、オレが作った御輿を馬鹿にするどころか、気に入ってずっと乗ってくださったのだぞ!」
私が聞いた話とは全然違うな。まさしく聖女がごとき所業。ボレスが作った御輿を気に入るなど!
しかし、私もプロだ!一度依頼を受けた以上…
「どうしてもというのなら…お前とは長い付き合いだったな」
「そうだな…私も散々ひどいことをしてきた。これは報いなのかも知れぬな」
「そうか…」
こいつの手にかかって終われるならそれでも良いか。アサシンとなると決めたときに、碌な死に方はできないだろうと思っておったしな。
「あら?何してんの?なんか樽に巻かれてる人が居るわねー。いじめダメ絶対。ソーヤに言いつけるわよ」
そこへ例の聖女が入って来た。
「聖女様、どうしてここへ?」
「んー、その人の忘れ物届けに来たの」
そう言って、毒の付いたナイフを差し出す。
「どうやって私の居場所を?」
「探知の魔法使えば一発よ?」
そんな馬鹿な!?私は尾行すら許したことはないのだぞ!
「馬鹿だなー、聖女様をそこらの魔術師と一緒にするなよ?死者すら蘇らせたのだぞ」
…ありえん。だが、私を癒した場面を考えれば…
「聖女様、この者はあなた様の命を狙った者なのですぞ。そのナイフは毒塗りですな。それで聖女様を亡き者にしようと」
「えっ、ほんとに?あ、ほんとだ、サーチしたら毒反応出るわね」
ここまでか。これほどの術者、もはや私に敵うはずがない。
と、おもむろにナイフで縄を切って…
「はい、とりあえず毒は危ないんで、浄化しておいたわよ」
「ちょ、ちょっと聖女様なにを!?その者はアサシンなのですぞ」
「そうねー、もし私が死んだら、今度はソーヤから口付けかもねー。いいわねー」
何を考えておるのだこの子は?
「はい、『リザレクション!』」
そして私の傷を治し、
「アサシンなんて辞めなさいよ?今や死んだ人まで復活できる世の中なのよ?やるだけ無駄だわねー」
そう言う。いつのまにそんな世の中になったのだ?
私は知らず涙を流し…
「ほらほら、いい大人が泣かないの。ちょっと失業したぐらいで馬鹿ねえ。今度はガードマンとかどう?その体躯なら十分やっていけると思うわよ」
そう言って私の頭をなでる。ガードマンか…いいかもな。……私は聖女を守るガーディアンになる!
◇◆◇◆◇◆◇◆
「なにぃい!聖女様をたぶらかしておる男が居るだとぉおお!」
「そうだ、なんでも同じ村の出身で、聖女様が熱を上げておる男がおってな」
なんということだ、私の聖女様をたぶらかすなど!フッ、早速私の出番か。
「聖女様をたぶらかすなど言語道断!私が成敗してくれる!」
「なにこのお方?アサシン?えっ暗殺者?うわっ!レベルたけー!!」
このソーヤという者か。うむ、見れば見るほど悪人づらだな。
「御覚悟!!」
「えっ、やめっ!ひぃー!!」