アステリアの八星
「あ!八星の二人だ!」
やっぱり変装して来るんだったなあ…
「ちょっと、ユンファ、私の後ろに隠れないの!」
「だってぇ、みんな見てるしぃ…」
「あなたも八星の一人でしょ?堂々としてればよろしいのですよ」
八星…そうあたい八星って呼ばれるようになったんだ。
あたいは王都より遠く離れた村に生まれたんだけど、とあることからここ王都の学院に通う事になった。
あたいのおじいちゃんが、昔冒険者で魔術をいくつか使えたので教えてもらった所、結構な威力だったらしく、村全体をあげてあたいを王都へ通わそうって話になったんだ。ほんといらんことを…ってこんな風に言ったら怒られるよね?
村の期待を一心に背負って王都に来たんだけど、プレッシャーがすごくて、初日から、まるで雷にうたれたように気絶しちゃった。
そして目が覚めると目の前に知らない男の子が居て…
「雷魔法…使ってみたい奴は手を上げろ!」
って、言うんでつい手を上げちゃった。そしたら…その日あたいは雷魔法が使えるようになっちゃった。
それからもその子…ソーヤ君って言うんだけど、ソーヤ君に魔法を教わる日々が続いて…気が付けば王都でも屈指の魔術師と言われるぐらいの魔法が身についてた。
魔法以外にもソーヤ君には色々な事を教わった。
「もう魔術師になったんだし、これで大手を振って村に戻れるね」
ある日あたいはふとソーヤ君にそう言った時があって、
「んー、魔術師になる為が目的じゃなく、魔術師になって何をするかが大切だと思うんだ、オレ」
「え?」
「ユンファは魔法を使って人を殺すの?それとも魔法を使って人を生かすの?」
「そりゃ人を生かすほうが…」
「それだよ。魔法を使って人を生かす方法。それを教えてくれるのが学院なのさ。まだまだ覚えることは盛りだくさんさ」
そうか。そうだよね。魔法をただ使うのじゃただの凶器だよね。魔法を正しく使う方法…それこそが大切なんだよね。ソーヤ君は小さいのにほんとよく気づく子だね。
で、ソーヤ君と会って2年と半年がたった頃、
「みなさん、ソーヤ様を賭けて武闘大会に参加する気はありませんか!?」
と、突然委員長が言ってきた。
なんでも、アーチェさんとソーヤ君を賭けて大会で勝負する事になったらしい。
自分達だけじゃ不公平だから、クラスの皆にもどうかと言うことで、…気づいたらあたいもエントリーしちゃってた。5つも年下なのに…あたいショタじゃないよね?
そんな訳で迎えた武闘大会なんだけど、大きな事故で結局うやむやになっちゃったけどね。
でも、優勝しちゃった事には代わりなく、今度は国家対抗の武闘大会に参加する事になってしまって…そこであたい達で8つの部門すべて制覇しちゃって…
その時に、ノリでソーヤ君があたい達のことをアステリアの八星って言うもんだから…
あたいは聖魔法部門で、神帝国の聖女を下しての優勝で、そりゃもう回り中から騒がれたのなんのって、村のみんなも見に来ててすごいはしゃぎようだった。でもソーヤ君は観客席でアーチェさんと揉めてたけど。
「「「目がぁー、目がぁぁー!」」」
「おいアーチェ、なんでユンファがアレ使ってんだよ!?」
「え?だってぇ、聖魔法部門なんて自信無いって言ってたしぃー」
「言ってたしぃーじゃねえよ!何教えてんだよ!」
「別に私が使った訳じゃないわよ」
「誰が使おうと一緒だろ?なんでおまえはそうなの?あの魔法各地で連発したらこの世界、狂うぞ?」
って言ってたねぇ…でも、
『リザレクション!』
「ほら、泣かないの。もう直ったわよ」
「え?ほんとだ!ありがとー」
目の前にリザレクション使ってる子供が居るんですが…もうすでにこの世界、狂って来てるんじゃ…
「もう回想は終わりまして?」
「ちょっとファンビー、どうしてあたいが回想しているって分かったの?」
「目がいっちゃってましたから…」
…今度から回想する時は気をつけよう。
「そんなことより、あの子…」
「知ってるの?」
「先ほどリザレクション使ってましたでしょ、ということはきっとソーヤ様関連の子じゃない」
まあ、そうだよね。
「なに?お姉ちゃん達?」
その子が、じっと見てるあたい達に気づき声をかけてきた。
「先ほどの魔法、もしかしてソーヤ様から?」
「お姉ちゃん達もソーヤ兄ちゃんのお知り合い?んーどっかで見たような…あっ、八星の!」
「ええ、そうよ。私はファンビー、この子はユンファね」
「風と聖の八星だね!私はソーヤ兄ちゃんが泊まってる宿屋の娘だよ」
ソーヤ君が泊まってる宿屋の子ですか。
ソーヤ君あちこちでチート級、量産してるんじゃないよね?
「ちょうど良かったわ、今日ソーヤ様が学院に来なかったので私達がその理由を聞きに来たんですわ」
そう、じゃんけんに勝ってね!
「あー、今日はねー。まあ宿屋に行けば分かるから案内するよー」
「ほんと、ありがとね」
「今日はずいぶん機嫌がいいな?」
その子と一緒に居た男の子が言う。
「うん、だって今日これもらったんだもん」
そう言って一枚のカードを取り出した。王家の紋章が入ったカードを…
「ちょ!それは!」
「うん、ソーヤ兄ちゃんに、今片思いの相手がいて悩んでるんだーって相談した所「じゃあこれやるよ。いざとなったら使うといいさ。ただし、大人になってからな」って言ってくれたんだー」
ちょっと、ソーヤ君何あげてんの!これヤバイよ。王家の紋章入りだよ!この国にいる限り絶対実行可能なんだよ!?
「ちなみにその片思いの相手って?」
「もちろんソーヤ兄ちゃん!」
…ソーヤ君、自分で自分の首を締めてるよ?
「まだそんなこと言ってんのか?ソーヤ兄ちゃんには聖女様が居るだろ?」
男の子が呆れたように言う。
「聖女様だって?アーチェなんてだたの乱暴者じゃない。しょっちゅう宿壊してまったく」
「お、おい…」
「聖女様がなんですって?」
と、突然現われた女の子が宿屋の子をガシッと掴んだ。
「ね、姉ちゃん…」
男の子のお姉ちゃん?
「聖女様の悪口を言うのはこの口かな?」
宿屋の子が顔を蒼白にさせて、
「ちょ、ちょっとエイバスなんとか」
「無理だ。姉ちゃんアレ以来聖女様の狂信者だから…」
「何言ってんのよ。結局あんたの病弱体質治したのソーヤ兄ちゃんじゃない。力のパラメータのバランスが突出して、体がおいついてないとか何とか言って」
「ああ、病弱なのに無理やり筋トレさせられてな…おかげで今じゃ道場でも屈指の剣士だ。病弱だったなんて誰も信じないな」
「だったら!」
「姉ちゃんには、ソーヤ兄ちゃんはただ無理をさせていたようにしか映っていない。むしろ毎回リザレクションかけてくれてた聖女様のおかげと…」
「誤解解いときなさいよ!」
そう言いながら宿屋の子は引きづられて言った。宿はあっちの方かなー。でも今は行きたくないなー。
その方角から悲鳴が聞こえて来た。合掌。
そうして辿り着いた宿では、ソーヤ君が宿の窓を修理していた。
「何されてますので?」
「ユンファとファンビーか。学院?ああ、朝からバタバタしてて連絡するの忘れてたよ。これはあれだ、アーチェがまたアレやってな…」
アレかー、アーチェも魔法教えてくれるのはいいんだけど、もっと詳しく説明して欲しかった。「とりあえず、アンデット出たらこれやれば大丈夫!」って言われても…まさか伝説の魔法とは…
「ほら、そっちちゃんと押さえとけよ」
「う、うむ」
ん?誰かいるので?宿の中の方で窓ガラスを抑えてる人が…コワッ!顔コワッ!!
「ちょ!ちょっと!ソーヤさん。もしかしてそこに居るのは…ベルガンディアの国王様では…」
「そうだよ」
え!?誰に命令してるの!そうだよじゃないよ!!
「ほんと、呪われるって分かってんのにどうして壷こするの?」
「こすってみないと分からんではないか?」
「でも売ってくれた人は呪われてるって言ってったんだよね?」
「うむ」
「うむじゃないよ!」
ちょっとソーヤ君、タメ口はまずい、まずいって!
ベルガンディアの王様って言えば、わざと肩をぶつけて、いちゃもんつけて首はねるんでしょ!?
「そんなことは、したことはないのだが…」
「見た目って大切だよね?」
そして宿屋の中では…
「それならば我が国へいらっしゃってください。我が国では聖女様とソーヤ様は婚約者と公表してますわ」
「ほんとに?やったー!」
「ちょっ、それは卑怯でおじゃる!」
あれはー…西の大国ファンレーシアのー…
「くっ、こうなったら国境に兵を配備して、なにがなんでもソーヤを出させないようにするでおじゃる!」
「いやいや、意味もなく国境に兵を集めたら戦争になるぞ?」
「大兄上、大兄上なんとかー」
「うむ、かわいいリーシュの頼みならば…」
「ダメですぞ、さすがにまずいですぞ」
この国の陛下とそのご兄妹まで…ここはどこのVIPの宿屋?普通の下町の宿屋にしか見えないんだけど…
「ふっふっふ。これで私もソーヤと婚約者ね!」
「おいアーチェ、いいかげんそれやめないか?オレこないだスゲーレベルのアサシンに追いかけられて死ぬ思いしたんだけど…」
ええ?アサシン!?いったいどこから狙われているので?…まあ、心当たりは多すぎるけど。
「なんか、漆黒の蒼刃とか言ってたな。黒の癖に蒼とかワケ分からん名前だな」
「それ…我が国一と謳われている暗殺者じゃ…どこの貴族が雇ったのでしょう?」
「ん?なんか聖女をたぶらかしおってぇ!とか叫んでたから、雇われてたんじゃないんじゃね?」
国一番の暗殺者が聖女様の信者とカー。
「あら、あなたは聖部門の優勝者では?」
ええ!?ファンレーシアの女王様ともあろうお方が、あたいの事を知っている!?
「そりゃねえ、神帝国の聖女を下したのですよ?八星の中でも一番有名ですわよ」
女王様がそうおっしゃる。そうかー有名なのカーそうかー、明日から変装しよう。髪型変えるくらいで大丈夫かな?
「聖女様が出場なさるとばかり思っていたのに…まさか闇部門に出られるとは…」
そうアーチェは闇部門に出場したんだよね。聖女の癖に闇とカー。
「私が神帝国の聖女より、アステリアの聖女の方が優秀だと言っても誰も信用しませんですのよねー。それを証明するいい機会だと思ってたとこを、あーくるとはねー」
ほんとアーチェの考えている事はよく分からない。
「聖女様は闇魔法は苦手じゃないのですか?」
女王様がアーチェに聞いてくる。
「え?そうねー、なんか相性悪いのよねー。でもおじゃる姫に負ける訳にはいかないもんねぇ」
「それなのに、長年無敗を誇ってた闇の王を退けちゃうんだものねえ。まあ、かえって聖女様の器の大きさを証明する事になりましたけどね。自分は苦手の闇部門、そしてその弟子は聖部門で優勝、神帝国の聖女など歯牙にもかけてないとかね」
あたい、いつの間にアーチェの弟子になったんだろう。確かに魔法は教えてもらったけど。
「そう言えば、アルシュラン陛下。王立学院に彼女達を移籍させて、さらにチート級を増殖なさるとか?」
「うむ、王立学院の方から数名、彼女達と一緒に学ばそうと思っておる」
「一国がこれほどの戦力を独占していれば戦争の火種になりかねませんわ。どうです?私の国から留学生など」
「おお、それはよい提案じゃな。我がベルガンディアからも頼む!」
ファンレーシアの女王様とベルガンディアの国王様が、アルシュラン陛下にそう言った。
陛下は考え込み、
「ふむ、そうであるな。それは良い考えかも知れぬな」
こんな下町の宿屋でそんな重要な事決めてもいいのかな?
「ワタクシ先生も大変だなー」
「え?ソーヤ君が教えるんじゃないの?」
「あ、オレ、こんどファンレーシアの迷宮に行く事にしたんだ」
ええっ!?
「なに?そんなに私と婚約者になりたいのー?」
アーチェが嬉しそうに言う。
「兵を!兵を国境へ!!」
リーシュ姫様が慌てたように言う。
「違う違う。あそこの迷宮、転移の魔方陣があるらしいから、それを研究しに行こうと思ってな。やっぱ転移は便利だからなー。つーかないと迷宮攻略できんだろ?」
また裏技使うの?ソーヤ君は一度、真面目に迷宮攻略しようとしてる人に謝るべきだと思うなー。