第十二章 ハッピーエンドへ向かって
◆◆◇◇ 視点変更◇ソーヤ ◇◇◆◆
麻呂姫が食われる。いやマジで!
などと悠長なことを言ってる暇はないな!
地竜の牙が麻呂姫を挟み込む、まずい!
『アブダクション!』『ディスペルマジック!』
オレが麻呂姫を引き寄せる魔法を使うと同時に、麻呂姫が魔法の効果を打ち消す魔法を使った。おい!何考えてんだ!!
「これで良いでおじゃる…死ぬ前にソーヤに会えて良かったでおじゃる」
「何言ってんだ!」
地竜の牙が突き刺さる。くそっ、アーチェもユーリも別の競技棟だ。地竜もワニも一緒だよな?よしっ!
オレは地竜に走りよりその鱗に手を当てた。
『マイクロウェーブオーブン!』
そう電子レンジだ!硬ったい鱗の下は普通に焼けるだろ?そして鱗は熱を閉じ込める。そうすればどうなるかというと…
「ギャギャギャッアンギャー!」
沸騰した血液を撒き散らしながら、地竜は麻呂姫を放り出し暴れ始めた。ごめんな、オレの少ない魔力じゃ致命傷は無理だわ。しばらく苦しいかもしれないが我慢してくれ。
とりあえず向こうにやっとかないとな。オレは暴れる地竜を魔法で引き離す。
放り出された麻呂姫の回りには人だかりが集まっていた。回復魔法をかけてるみたいだが、
「こ、このような…」
「おい、どうなのだ!」
「もはや手の施しようも…すでに心臓が止まっております…」
「な、なんということだ。聖女は!聖女はおらぬのか?」
「聖女は別棟にて。今使いの者を出しております!」
ぶつくさ言ってるだけで役に立ってない。じゃまだよどけよ!
『ウインドハリケーン!』
とりあえず回りの連中を魔法でぶっ飛ばす。
「き、きさま何をする!」
「何もする気もないなら、じゃまなんだって!」
傷はどうだ?服がじゃまでよく分からねーな。
オレは麻呂姫の服をはぎ出した。くっ、まったくなんてはぎにくい服だ!
「おい、なんという無礼な事を!」
うるさいなー、『バウンダリーガーダー!』
オレは寄って来られないよう結界を張った。
「な、なんだこれは、見えない壁が?」
ん?これは…オレの服じゃないか。麻呂姫は一番下にオレと初めて会った時に持って帰った服を着ていた。
思ったより傷が浅いな、この服のおかげか…こいつには強力な保護魔法かけといたからな、やぶれてもない。牙に直接傷口をさらけてないなら殺菌の必要もないか。よし、さっそく保険を使う時が来たな。
使わせてもらうぞ、アーチェの魔力。
『リザレクション!』
そう、競技場全体をアーチェとユーリに、リザレクションの魔法を発動状態にしておいてもらっていたのだ。魔法の同時発動と起動の譲渡があればなんとかなると思ってのことだ。あの二人にはそのぐらいのハンデは負ってもらわないとヤベーしな。一石二鳥の保険である。
なんとか魔法が起動し、麻呂姫の傷が塞がっていく。後は…一人で全部やるしかないか。
オレは麻呂姫の胸に手を当て、電気ショックと血流操作を行いながら、人工呼吸をし始めた。
◆◆◇◇ 視点変更◇フィフス殿下 ◇◇◆◆
「な、な、な、なにをしておるのだ奴は!」
なが多いであるな。
「服を剥ぎ取って、胸を揉みながら、キスなどとは…死者に対する冒涜かっ!」
ふむ、知らない人が見ればそう見えるか。ソーヤこの後生きていられるかな。
「あの者をひっ捕らえよ!我が娘になんということを…!」
「ゆるさん!我輩の妹を穢しおって!」
父上も兄上もカンカンであるなー。そろそろ弁護した方が良いか?
と、弁護する暇もなく駆けて行ったな。
「お主達も、もういいであろう」
回りで唖然と佇む近衛兵にそう言い、我も現場に赴く事にした。
で、現場では、
「なんだこれは、早く解除しないか!」
「そ、それが、これまでに見たこともない結界でして、解除に時間が掛かっております」
「おい、そこのガキ、さっさと出て来い!我輩の剣の錆にしてくれるわ!」
ずいぶん荒れておるな。
「おいソーヤ、妹姫の様子はどうだ!」
「心臓は動き出した!後は呼吸だけだ!」
「そうか!頼んだぞ!!」
ソーヤは妹姫に、今までより激しく胸を押さえだした。
うむ、お前ならなんとかすると信じておるぞ!
「お、おい、フィフス、この変質者お前の知り合いなのか!?」
「変質者ではありませんぞ。我と共に80階層を攻略した者であり、聖女の育ての親とも言える存在ですな」
「「は……?」」
「今は妹姫の蘇生を行っているとこであります」
父上と兄上は驚愕した顔で、
「ば、馬鹿な。聖女以外に蘇生の魔法が使えるはずが!?」
「リーシュは!リーシュは助かるのか!?」
助からぬはずがない。なにせ、蘇生魔法はアーチェではなく、ソーヤが編み出した物だからな。
そして、
「がっ、ごほっ」
おお、妹姫が!
「おい、大丈夫か!?しっかりしろ!オレが分かるか?」
ソーヤがうっすらと目をあけた妹姫に問いかける。
「そ、ソーヤでおじゃるかぁ…」
「そうだ、まったく無茶しやがって。何考えてんのか知らねーが、悩みがあるなら言えよ。オレ達仲間だろ?」
妹姫はソーヤを見やり、その瞳に大粒の涙を浮かべ、
「うっ、うっく、こわかったでおじゃる!つらかったでおじゃるぅう!!」
「おおー、そうか。怖かったか。辛かったか。大丈夫だ。もうオレが、怖いものも、辛いものもなんとかしてやる!」
「ソーヤ!ソーヤぁあ!!」
「おーよしよし」
妹姫は、ソーヤにしがみつき泣きじゃくっている。うむ、我も涙が出て来そうだ。兄上は滂沱の涙であるな。
そのままソーヤは妹姫が泣き止むまでじっとなでておった。
◆◆◇◇ 視点変更◇ユーリ ◇◇◆◆
「さてと、これはどういうことかな?」
なんだろ今日のソーヤ、初めて見る雰囲気だ。もしかして怒ってるの?あ、ボクはお久しぶりのユーリです。
なんかリーシュ姫様が大怪我したらしいので、アーチェと共に王族用の特別治療室に案内されたんだけど、そこに居たソーヤの雰囲気がちょっと怖い…
姫様はぐっすり寝て居るんだけど、もう大丈夫なのかな?
「仕方のない事なのだ。我が王家はこうして代々やってきたのだ」
「仕方のない…?」
うわっ!なんだこれ、ものすごい悪寒が!
「バカねー。ソーヤを怒らすなんて、恐怖で人を殺せる魔法とか持ってるのにねー」
「ええ?そんな話聞いてないよ!ってアーチェはソーヤ怒らせた事あるの?」
「前に一回だけねー…ブルブル、思い出させないでよ!」
痛い、痛いよアーチェ!
今まで普通の人なら激怒してもおかしくない場面があっても普通にしてたから、ソーヤって怒らないとばかり思ってたよ。というかアーチェはそれでもやめないんだね。
初めて見るソーヤの一面、うん、今日は記念日にしよう。
「殿下」
「う、うむ、なんであるか?」
なんか殿下まで恐縮しているようだ。
「いくらなんでもこれはないんじゃない?」
「そ、そうだな。こんなこと決してあってはならぬことだ!」
「でも、そっちの二人は必要な事って思ってるんだよね?」
そう言ってソーヤは王様達を見た。
「我輩は…我輩は理屈では、理屈では分かっておるのだが、こんなことは!」
「アルシュラン!」
王様が殿下の兄上をたしなめる。
とたん部屋の温度が急に下がった気がした。
「な、なんだこれは?」
「王と言えども様々な形があるよね。力を鼓舞する王様。贅を満喫する王様。ただ象徴たる王様。まあどんな王様であれ」
ソーヤは冷めた目で王様を見つめて、
「国があってこその王様だよね?政争、政争って言ってるけど、いったい国をどうしたいの?繁栄?平行線?それとも緩やかに衰退させるの?」
「繁栄に決まっておるであろう」
「繁栄させたいのなら、なぜ今までと同じ事をしようとするの?同じ事をしているかぎり、平行線か、緩やかな衰退しかないよ?」
「………………」
王様を絶句させるなんてさすがソーヤだ。そこに痺れる憧れる!
「…学院の副会長思い出すからヤメテ」
「ならばどうしろと言うのだ…」
王様はうつむき呟く。
「問題は貴族連中なんだよね?だったら貴族連中が何を言って来ても黙らせるだけの実績をつめばいいんじゃない?」
「そんなこと、それこそどうしろと言うのだ?」
するとソーヤは立ち上がり、回り中に聞こえる声で、
「オレなら見える、3人が手を取り合えば、素晴らしい未来が訪れると!」
急に怪しい呪い師みたいになって来たね。
「これから1月以内にそれを証明してやる!それまでは全面的にオレに協力するように!」
おお、ソーヤが燃えている。それほどまでに、今回のことに憤りを感じてんだ。
「よし、アタッカー1名追加だ!これで勝つる。この兄上スゲーパラメータだ!」
あれ?
◆◆◇◇ 視点変更◇ソーヤ ◇◇◆◆
それから一ヵ月後、今日は迷宮攻略の記念パレードだ。
そう、昨日ついに!迷宮攻略しますた!
いやー、フィフス殿下の兄上だが、これまた強いのなんのって。聞けばこの国一の剣士だとかー。それにアーチェの補助魔法を組み合わせると、向かうところ敵無しの状態だった。
王宮のバックアップもいたれりつくせりで、なんと、四次元ポ○ットならぬ、王家の秘宝のマジックバックを貸してもらえた。あれだ、なんでもかんでもいくらでも放り込める、魔法のバッグ。まあ、異空間に放り込むんじゃなくて、入れるとミニチュアサイズに縮小されて、出すと元に戻るパターンだがな。
それに80階層のボス部屋に、アーチェにちょっと強めのサンクチュアリかけてもらってボスを出なくした後に、ゲートも作ってもらった。いやーはかどるはかどる。
81階層から順に、敵の行動パターン、弱点、好物を調べ、マジックバックに毒肉なり、シビレ肉なりを大量に詰め込んで、それを食わせれば即効お陀仏だ。
ワニにはバイソンミノタウルスの肉を市場で買って、毒肉にして仕掛けるとかな。ここでも王家の資金に物をいわせて大人買いだぜ?
今までそんな罠などかかったことのないような敵ばっかで、おもしろいようにかかる。肉を転がせば殺到するからな。もう罠じゃねーなこれ。
ラスボスは例によってエンシェントドラゴン?まあ、アーチェの電子レンジの魔法でほっこり焼けたがな。アーチェもボス戦でしか活躍できないから、大層張り切って魔法かけたしなー。即効魔石になったので良く分からん。魔石の大きさからいってそうだったんだろうって言ってた。
ん?オレ?オレはまあ、ほら毒肉なりしびれ肉なりを大量に持って…まあ、マジックバック一個ですむんだがな。いやー楽でしたよ?バック一個持ってるだけで攻略できちゃうんだから。……全然楽しくないよ!寄生にも程があるよ!だってこれ、別に殿下でもアーチェでも腰にまいときゃすむ話だぜ?オレの存在意義は…
「何言ってんのよ?ソーヤが居ないと私は行かないわよ。私達一心同体よね?」
アーチェおまえ…実はいい奴だったんだなあ…今までさんざん、チョロインとか、お約束大魔王とか言ってごめんな。
「だって私の後始末、ソーヤぐらいにしかできないものねー」
おいっ!
しかし、すげー人だかりだな。まさしく人の海、前に迷宮で御輿持って来た人が、そりゃもう立派な御輿を作ってくれて、眺めは最高だ!
人々からは、王家三兄弟やアーチェ、ユーリ、はてはメリ姉の名前まで大合唱だ。…オレの名前も呼んでくれていいんだぜ?
「ソーヤ!ほらソーヤ!人がごみのようでおじゃる!!」
「こらこら、そのセリフはダメだぞう」
うむ、アレ以来、麻呂姫がオレにくっついて離れようとしない。宿屋にまで泊まりに来ようとしたらしいしな。
「くっ、ソーヤを独り占めして…まあ、おじゃる姫ともこれで縁が切れるしいいよね?なんせもう迷宮攻略終わったんだしー」
「ふっ、あれを見るでおじゃる!」
「ん?なに?」
なんかオレ達が泊まってる宿屋の隣が随分更地になってるな。
「あそこに麻呂の別宅を作る事にしたでおじゃる!」
「ちょっと何やってんのよ!第一、王家の人間が外場になんて過ごせる訳がないじゃない」
「兄上達がソーヤと一緒ならいいって言ったでおじゃるからな!」
「またあの脳筋かっ!」
おいおい、人がいっぱい居るんだから王家の悪口はやめとけよ?
◆◆◇◇ 視点変更◇アルシュラン殿下 ◇◇◆◆
「………………」
「………………」
「………………」
「どうしたでおじゃるか?兄上達も早く食べないと冷めるでおじゃるぞ?みんな早く食べるでおじゃる!麻呂はソーヤとお祭り行くでおじゃるからな!」
そ、そうだな。王宮に戻ってふと冷静になると、まことありえん事が起こったのだと実感してしまってな。
我輩の名は、アルシュラン・フォン・アステリア、この国、アステリア王国の第1王子である。
「のうフィフス、あのソーヤと言う者何者だ?此度の迷宮攻略、ほんとに全てあの者が考えたのか?」
父王がフィフスに問いかける。
「あやつ以外に思いつく者はおりますまい」
「麻呂のソーヤでおじゃるからな!あれくらい屁でもないでおじゃる!」
「おまえも染まって来たのう」
うむ、未だに信じられん。我輩も迷宮は70階層までは潜った事はある。倒しても倒しても次々を現われる敵。硬くて剣も通らず、名剣をいくつ使いつぶしたことか…はっきり我輩の手に負える物ではないと実感した物だ。それが…
「いくら補助魔法をかけたからと言って、あのように劇的に変わる物なのか?我輩の時も学院最高峰の魔術師が付いておったのだぞ?」
「あの補助魔法もソーヤのオリジナルですからな。なんか超振動がどうとか言っておりましたな」
「うむ、ソーヤの編み出す魔法はどれもピカイチでおじゃる!」
ずいぶんリーシュは明るくなったであるな。アレ以来すっかり毒気を抜かれて、歳相応な明るさで、我が王宮に春が来たようである。うむ、我輩にも抱きついて良いのだぞ?
「だがしかし、これで貴族どもも我輩らを軽く扱う事はできますまい。なにせ150年振り、2度目の迷宮攻略を成し遂げたのですからな」
「それもたった7人でな…しかも2度目ではない」
父王が難しい顔をし、そう言った。
「というと?」
「初めてだ。これは秘匿であるが、150年前は最後の階層までは行ったが、エンシェントドラゴンを倒すには至らなかったのだ。我らの攻撃はまったく効かず、ただいたずらに死者を増やすだけであった」
なんと!遭遇して即効で終わったのはまぐれであったのか?
「ホントに倒したのだよな?」
「証拠が飾っておりますではないか」
フィフスがそう答える。エンシェントドラゴンらしい魔石は大広間に飾っている。直径2メーターを越えるこれまで見たこともない大物だ。
「確かに…エンシェントドラゴンは、聖女がほぼ一人で倒したそうだな。それ程までに優秀な者なのか」
「あの聖女もどきはボス戦でしか働かなかったでおじゃるからな!麻呂もボス戦だけなら即効してやるでおじゃる!」
そうである。ソーヤは聖女に対し、お姫様ポジションとか証し、道中の戦闘に参加させなかった。また、ソーヤ本人も決して前に出ようとせず、常に全体を見渡し、必要な時、必要な方法で指示を出しておった。
アレこそ、指揮官として必要な才能であるな。
「温存しておいたのでしょうな。最大の戦力を、最も強大な敵に、最適な状態でぶつける。まさしく神采配であるな」
「なるほど。しかし、81階層以下の攻略方法…とても人に言える方法ではないな。みな言うでないぞ?あれは我らの秘密にしておく。ソーヤ達にもそう伝えておいてくれ」
「なんたらほいほいとか言ってたあれか…」
それぞれの好物のモンスター肉を地上で用意し、それに毒などの魔法を付与し、迷宮のモンスターに食わせて弱らせるなど。考えた事もなかったわ。
「……アルシュランよ」
父王が神妙な顔で我輩の名を呼び、
「ワシは此度の件で引退しようと思う。もともとリーシュの件が終わればお前に王位を譲る気だったしな」
「父上…」
そして晴れやかな顔をし、
「お前達3人!手を取り合ってこの国を導いてやってくれ!今のお前達なら安心してまかせられる!」
「「「はい!!」」でおじゃる」
その後、食事も終わり、リーシュは「祭りに行ってくるでおじゃる!」と言って出て行った。
フィフスもリーシュに付いて行き、我輩と父王の二人きりとなった。
「しかし、家族で食事をするということがこんなに大切な事だとは思わなんだな」
父王がふと呟いた。
「そうでございますな。最初ソーヤが言い出した時はなんの為にと思っておりましたが」
そうだ、ソーヤはリーシュを助けた報酬を催促して来た。その内容は、
「今後食事は家族でとること!母親は居ないんだっけかな?じゃあ4人で食卓を囲み、全員が終わるまで席を離れないこと。それがオレへの報酬だ!」
そんな報酬を催促してくるとな。まったく、王族の一人の命を助けたのだ。それこそ貴族への叙勲があっても良いだろうに。
「顔を合わせ、話をし、共に食べる。そんなことが、こんなに安らげるひと時となるとは、ワシも老いて来たのかな」
「いえ、そのようなことはないでありましょう。なにせフィフスも、リーシュも、我輩も、みな笑顔ではありませぬか」
「そうだな、ワシの時にもソーヤのような存在が居て欲しかった…」
父王は遠い目をし、しばらく黙り込んだ。
「確か、ハーヴェスト村の普通の農家の生まれであったか?」
「そうでございます」
「今回の迷宮探索の褒美は…どうだ、貴族への叙勲とリーシュとの婚約とかは」
なんと!思い切った事を!むむむ、リーシュを嫁になど!しかし!しかしぃい!あの者ならば…!
「血の涙を流す程の事か?」
「だが、平民と王家など、無理ではありませぬか?」
「今回の迷宮攻略、それ程の価値はあると思うが」
「…問題は、ソーヤはまったく活躍してないという事になっておるのですが…」
そうなのだ、実際に迷宮攻略を成し遂げた最大の功績者にも関わらず、81階層以下の攻略法の秘匿、および戦闘に一切関わっていない。かつ、王家の者が平民の指揮の下に居たなど…公表できる訳がない。
「そうであったな…本人は納得しておるのか?」
「納得どころか、自分はまったく活躍できなかったとしょげかえっておる始末です」
「変わった奴じゃな?」
「なんか良い案はないものかのう」
「そうですなあ…」
◆◆◇◇ 視点変更◇ソーヤ ◇◇◆◆
ブルブルなんだか寒気が…?最近多いな。
「あっちだ、あっちに行くでおじゃる!」
「いいなー肩車…ねえつぎ私にも」
「あ、じゃあその次はボクで」
「無理だって?何言ってんだか」
オレは麻呂姫を肩車しながら街を歩いている。今日から一週間、迷宮攻略の記念お祭りだ!
麻呂姫は歳のわりに小柄だからな。アーチェはオレより身長高いんだから無理だぞ?
「しかしこの隠蔽の魔法だっけ?ほんとにボク達ばれてないの?」
そうだ、麻呂姫を連れて街に出たとたん、群集が寄って来てびっくりしたよ。それぞれにサインやらなにやらをねだって。麻呂姫や殿下は仮にも王族だぞ?
まあ、オレには誰も寄って来ないんだけどな。悔しいから隠蔽の魔法をかけたんじゃないぞ?
魔法をかけて以降は誰も注意を払って来てはいない。殿下なんて頭二つは抜き出てんのにな。
「我で良ければ肩車してやろうか?」
「えっ…遠慮しときます」
「そんなことを言わず!ほら、ユーリほら!」
「えええっ!なんでボク!?」
おい、あんま離れんなよ?迷子になるぞー。あと魔法も切れるからな。
「おい!あそこに居るのフィフス殿下ではないか!」
「おお、アステリアの英雄様だ!」
「守護者ユーリ様もいるぞー!」
あ、切れたな。俺の魔力じゃ有効範囲はそんなとこか。
「ちょ、ちょっとソーヤ助けてよ!」
「こ、こら押すでない、順番だ!順番!」
ユーリと殿下は人の波に揉まれて行った。
「いいのほっといて?」
「いやーあの中に入るのには勇気がいるよね?」
「どうせなら麻呂と二人っきりで楽しむでおじゃるか?」
「何言ってんのよ!」
と、アーチェは前方にいるカップルを見つめ…あ、やな予感、
「フッ、お子様は肩車で満足してなさいねー」
そう言って腕を絡めてきた。こら、麻呂姫が落ちるだろ!
「うふふ、こっちは恋人つなぎですからー」
「あっ、卑怯でおじゃる!勝負でおじゃる!」
だからすぐに勝負しようとするなよ。こんなとこで暴れた日にゃ、えらい事になるぞ。
ほら、暴れるなって。
「そういや殿下が、なんか国から褒美くれるって言ってたけど何くれんの?」
「ん?褒美でおじゃるか?麻呂は聞いておらんでおじゃる」
「そうかー、いや、なんかやな予感がしてな」
まあ、報奨金かなんかかな?と言ってもオレはもらえないかもなー、なんせなんもしてねーし。
「アーチェ、報奨金でも出たら皆でどっか遊びに行こうぜ。アーチェのおごりで!」
「いいわねー、まかしときなさい!ラスボス倒したの私だしねー。きっといっぱいくれるわよね?」
「何言ってるでおじゃるか!アーチェより麻呂の方がいっぱい活躍したでおじゃるぞ!」
だから喧嘩すんなって、そんなに動いたら首が痛い。
「しかし、殿下や麻呂姫は何もらえんだろな。たいがいのもんは持ってるしな」
「そうでおじゃるなー。麻呂はソーヤが欲しいでおじゃる!」
「おいおい、オレは物じゃねーぞ」
そう、この時は唯の笑い話だったのだが、
「えっ?オレが貴族?そんで麻呂姫の婚約者?」
何言ってんのこのお方?
「それはほんとでおじゃるか!やったぁあ!!ふふふ、ざまーでおじゃる」
「ちょっと何言ってんのよ!ソーヤは私のよ!」
祭りの最終日、最後の締めということで、殿下の兄上の戴冠式とオレ達への褒章式が組まれた。
で、何くれんのかなーとその兄上に聞いた所、そんな答えが返ってきた。
「うむ、リーシュに何が欲しいか聞けばそなただと言うしな」
王宮でも言ってたんかい。
「じゃあ私の報酬もソーヤにしてよ!」
「麻呂のほうが活躍したでおじゃるからな!麻呂が先でおじゃる!」
「先も後もないでしょ!?」
いやいや、オレ何もしてねーのにそんな報酬もらっていいの?というか、それ報酬?罰ゲームか何かじゃないの?
「うむ、そこは揉めたのだがな。大した活躍となっていないのに、特一級の報酬であるからな」
「そんな例外作っていいの?寄生が急増するよ?」
「そこでだ!お前には伝説の荷物持ちの称号を与える事となった!」
なにそれ?どこのお笑い?
「なにぶん、マジックバックの事はあまり公になっておらぬしな。たった一人でパーティ全員の荷物を運び、それぞれ的確な武器防具を、状況に応じて荷物から持ち出す。そう、そんな存在だ!」
…なんかヤだなあそんな存在。
「オレ、どうみてもそんな力持ちに見えないけど?」
「大丈夫だ、この世界には魔法がある!魔法でって言っとけば、大抵大丈夫だ!」
ついに言っちゃったよこのお方!
「だがあくまで婚約だ!今後の働き次第では最終的にはどうなるかは不明だ!あくまで婚約だぞ!!」
そんなに念を押さなくても。そーだ!
「よし、それならランダムで決めようぜ!」
「は?」
「それぞれの希望を書いたカード用意して、それを裏返しにして順番に取っていくんだ!」
「それだと、我がソーヤと婚約という可能性も出てくるぞ?」
殿下と婚約かー…うっ、ブルブルブル。
「そこはあいまい表現を使うんだよ。たとえば誰か一人指名して婚約できるとかね」
「ほーなるほど。良いなそれ!」
殿下がユーリを見ながそう言う。まさか指名しないよね?男同士だよ?
「良いのかそれで?」
「アルシュラン殿下もって、もう陛下でしたっけ。それでいいんです?」
「我輩はこの国の王であるからな。報酬など迷宮攻略そのものだ!」
お、男だねえ。
「まあ、それじゃあ公平性に欠けるでしょ。とりあえず皆で頑張ったんだから、この方法なら四の五の言う奴も出ないしねー」
「そうであるな。兄上も参加すれば場も盛り上がる事請け合いだな」
「そうエンターテイメント、これはエンターテイメントと言う革命なのですよ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
そしてやって来ました、報酬シーン!いやー盛り上がるのなんのって。
殿下がハズレ引いた時は、回り中が笑いに包まれたよ。誰だハズレ入れたの。あ、オレか。
「ソーヤぁ、ソーヤであろうこれ入れたの!」
なぜばれたし。
次々と報酬が決まっていく。まだ例のカードは出ていない。残るはオレ、アーチェ、麻呂姫だけとなった。
「ふっふっふ、血がたぎるでおじゃる!どうでおじゃるか同時に引くというのは!」
「いいわねー、その勝負買ってやろうじゃないの!」
二人はそれぞれのカードに手を置き、そして…同時に翻した!
「な、なんでおじゃるかこれは!」
麻呂姫の手にしたカード、そこには…『妹をもふもふできる権利』と書かれていた。…妹が居る人と言うと…殿下は首を振っている。残るは…アルシュラン陛下はそっと目をそらした。
「なんで妹固定しておるでおじゃるか!?あいまい表現どこ行ったでおじゃるか!?」
「ふっふっふ、どうやら私の勝ちのようね」
「ま、まさか…」
アーチェが手にしたカード…そこには……『平穏』と書かれていた。
「あいまいすぎるよ!」
「あ、それ私だ」
メリ姉かー…いやー心労かけてますねー、いやー、オレ悪くないよね?
「それのどこが勝ちでおじゃるか!」
「バカねー、残ったカードは例の一枚、そして引いてないのはソーヤだけ。これが意味することが分からないの?」
アーチェが勝ち誇ったように言う。
「ず、随分な自信でおじゃるな!アーチェを選ぶとは限らないでおじゃる!」
「フッ、ソーヤが私以外を選ぶはずないじゃない?」
「ソーヤは麻呂を選ぶでおじゃる!」
オレは最後のカードを引き、
「じゃあこれで報酬イベントは終わりだなー」
「「えっ!!」」
二人は驚いた顔でこっちに訴えかけてくる。
「例のカードじゃないの!?」
「そうでおじゃる!もう残ってるのは例のやつだけでおじゃろ!?」
オレは手にしたカードを見た。うむ確かに『誰か一人指名して婚約できる』と書いてある。
「どうしてスルーするの?指名は?」
アーチェ達が聞いてくる。
「えっ?これ今すぐって書いてないじゃん?」
「「えええっ」」
「まあ、いずれ使わせてもらうよ。まだ10歳にも満たないのに婚約はないだろー」
そう、いずれね。おっとブーイングの嵐がすごいな。さっさと退散させてもらうとするかー。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「あらソーヤ君、こんなとこで何してますの?」
「いやーなんかそこら中から追ったてられて」
「まあ、仕方ないですわねー」
いやー、こっちは子供だってのに、みんな容赦しないのなんのって。
「あまり待たす物ではありませんわよ?」
「先生が言うと重たいなー」
「それどういう意味!?」
おっとワタクシ先生まで怒らせちゃったな。
しかし、こっちへ来てから色々あったなあ。
一時はどうなることかと思ったが、ほんと、生まれ変わって回りに恵まれて。
物心ついた時からずっと隣にいたユーリ。今じゃアステリアの守護者とまで言われて、いったいいつからあんなにパラメータ伸びたんだろな。
アーチェと初めて会ったのは、文字を教えてもらいにいった時だっけ。あの時のチョロインが今じゃ聖女とかー。いや、未だにチョロインではあるが。
それからホーネスト先生、メリ姉、ワタクシ先生と来て、殿下かー、最初、ユーリなに連れて来てんだよって思いはしたが、今じゃすっかり下町にとけこんじゃってまあ。一階の食堂では、すっかりおなじみになってしまっておる。
麻呂姫も最初の頃はとんがって居たが、今じゃすっかり丸くなって。まあ、最初の頃のとんがりは演技だったらしいしな。オレに懐いてくれて、かわいいざかりだ。
今回の迷宮突破、どんなにあがいても今のオレ一人じゃ、10階層も怪しいくらいだな。だからと言って転生前に戻りたいかと言えばそうでもない。
今じゃ、アーチェ達の居ない世界なんて考えられないしな。
「お、ここにおったのか。アーチェとリーシュが探しておったぞ」
「いや、今あの二人に会ったら殺されるよ?」
「男なら黙ってやられて来い」
そりゃないよ殿下。
「別にアーチェ達じゃなくてボクを選んでくれてもいいんだよ?」
なぜに?まあ、ユーリが女の子ならそりゃ文句もないが…男だろ?
「お、ソーヤ君ここにおったか」
「ホーネスト先生?久しぶりだなー」
「うむ、電気の事で少し聞きたいことがだな…」
「ソーヤ様此度はおめでとうございます。同じクラスとして私も鼻が高いですわ」
委員長達まで来てくれてたのか。
「それででして、あの報酬の件ですが、私とかどうでしょうか?」
「ちょっいきなり抜け駆け!?私も立候補しますわよ」
「うちもー、平民は平民どうしつるむのがいいと思うよー」
えっ、ちょっ、おれは皆に押され、後ろの人にぶつかった。
「はぁ、どこに行っても問題起こすね、ソーヤは」
「ええ、オレなの?問題起こしてるのオレなの?」
そのオレの後ろにいたメリ姉がそう呟く。
「全部ソーヤが元凶じゃない?」
…メリ姉はきついなあ。そんなことある訳ないですよねー?あれ、なんでみんな頷いてんの?
「あ!居たでおじゃるぅう!」
「えっ、どこ!?」
「あっちの塊の中に居るでおじゃる!」
「ほんとね!」
ヤバイ、見つかった。そりゃこれだけ集まってりゃバレるか。
ちょっ離して、やられる、殺られちゃう!
「ほら、ちゃんと決着つけてこい」
「そんな殺生な!」
「ソーヤ!逃がさないからね」
「お、おい!何しようとしてんだ、おい、やm
……その日、王宮の一部が吹っ飛んだとかなんとか。