第十章 最深部へ行こう
◆◆◇◇ 視点継続◇ソーヤ ◇◇◆◆
「ほらソーヤどう?」
ユーリがドヤ顔で聞いてくる。
「おお。スゲーなどうやってんだ?」
「私の時と対応が違う…」
今日から迷宮の51階層に挑戦することにした。
で、ユーリが特訓の成果を見せてくれるってんで、敵の対応をユーリに任したんだが、これが凄い。
あきらかに、これまでの敵より数段上の攻撃を軽くいなしている。しかもだ、
―――バリバリバリッ!
盾に当たった敵が、電撃を受けて沈んでいく。
「補助魔法に攻撃能力を追加したんだよ」
「おー、だからどうやってんだ?」
「アーチェが前に魔法の同時起動やってたからね。プロテクションにサンダーを同時に掛け合わせてみたんだよ」
「へー、いつのまにそんなことが…」
できるのか?やってみるか。おお、意外といけるな。これなら魔法の幅が広がるなー。
「ちょっとソーヤ、そんな簡単に真似されるとへこむんだけど…」
「いやいや、オレのなんて知れてるって。なんせ威力が段違いだからな」
なんせオレのは人が触ってピリッって来るレベル。ユーリのは触ると死ぬ。
「すごいでおじゃるな。とてもここが51階層とは思えぬでおじゃる。こんなにサクサク進むなんて信じられんでおじゃる」
「なんでしれっと居るのよ?」
なんか麻呂姫が付いて来た。
「ここは、こないだの最後の方で「だが、麻呂姫がここに来ることは2度となかった」とかナレーションが入るところでしょ?」
「かってに殺すなでおじゃる!兄上が良いと言ったでおじゃるからな!」
「ちょっと何言ってるの、この脳筋!」
仮にも王族に向かって言う言葉じゃねえな。
「良いではないか。こう見えても妹姫も、王立学院では最高峰に居る魔術師なんだぞ。アーチェも補助、回復に専念できるではないか」
「私の活躍の場を取らないでよ!」
「おっ、アーチェもオレの仲間入りか?」
「何言ってるのよ!ちゃんと補助、回復の…」
回復なんてしてないよなー、なんせユーリが完璧な防御してるし。補助なんて1回かけりゃ暫くは…
おい、オレに当たるなよ。だから電撃はやめろって!
「こらこら、二人とも気が緩みすぎだぞ。51階層はそれまでとは段違いに敵が強く…なってるはずなんだがなあ…」
「うむ、なんだか知らんがアーチェの補助魔法、やけに磨きがかかっておるような気がする。ほら見ろガーゴイルが輪切りだ!」
殿下は楽しそうに無双している。それを見てアーチェが、
「私も剣習おうかなー」
やめろ!まじなんとかに刃物になるだろ!
「アーチェは聖女だろ。その道のエキスパートを極めるべきだ!そうエキスパート!だ」
「エキスパート…いい響きね!まかしときなさい!」
後でみんなに、アーチェに刃物を持たさないよう注意しとかないとな。
「まあしかし、今は良くとも、さらに下層に行けばそうも言えないだろうな」
「剣士不足だねー」
そう、いまだにアタッカーは殿下一人だ。
「誰かいい人いないの?」
「うむう、王立学院では無理だな。今のこのパーティに貴族を入れる訳にはいかん!」
例の政争かー。
「麻呂姫はいいの?」
「妹姫が我に付いて来ているということは、聖女がどちらの陣営にも付いてない証明にもなるしな。後は我と妹姫が手を取ったと思われる件だが…まあ、あの王宮での状況見てそう思う者は少ないであろう」
王宮での状況ってどんなんだよ?
「せいぜい聖女を取り合って競争しているぐらいにしか思われんな」
「そうでおじゃるな!」
「お、次の階層の階段だね。今日は日帰りだから52階層で少し様子を見て帰るかね」
メリ姉が階下を見やりながらそう言ってきた。
「なんとか51階層以下にゲート作れないの?戻るのたるいなー」
「ゲート作っても管理ができぬからな。今の王宮の兵では、51階層以下の敵からゲートを守る力はない!」
胸張って言われてもなー。
しかし、そうなると日帰りで行けるとこなんて知れてるな。
「ゲートの解析…「いかん!それはいかんぞぉ!さすがに王宮の秘匿であるからな?やるなよ?」」
「兄上は何を慌ててるでおじゃるか?解析などできる訳がないでおじゃる」
「……できない、とは思う。思うが…いいかやるなよ?ほんとにやるなよ?」
アーチェじゃないが、そう言われるとやらなくちゃならない気がするから不思議だなー。
よし、解析じゃなければいいんだな!新たに作れば問題無いよな?
「だめだこりゃ…」
なんか殿下が諦めたようにそう言った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「うーん、瞬間移動かー、そういやどっかの迷宮は転移魔方陣とやらがあったけかなあ」
「どうされたので?」
ここ魔術学院に来てから3度目の春を迎えた。
迷宮の進行はそんなに進んでいない。日帰りではせいぜい60階層止まりだ。
泊まりこみはメリ姉が許してくれないしな。
ゲートの再現には魔石が関わってくるので良く分からない。魔石の分野は完全にオレの専門外だしなー。
きっと迷宮と迷宮外の魔力の違いがキーだとは思ってるんだが。
「ソーヤ様何をお悩みでしょうか?」
この1年で更にかわいさに磨きかかかった委員長が聞いてくる。
うん、なんだかこのクラスで一番かわいい子だが、クラスのまとめ役をしてたので、つい委員長って言ったら、呼び名が定着した。
「迷宮でのゲートがなー。日帰りじゃ60階層行くので精一杯だなーと」
「えっ?1日で60階層まで行って帰ってこれるのですか?」
驚いた顔で聞いてくる。
「ああ、迷宮から迷宮外に出る魔法はなんとか編み出したんで、戻る必要はなくなったんだよ。でも作ると入る方法がなあ…」
外に出るだけなら、迷宮外に設置されているゲートに飛ぶ方法は見つけた。だが、迷宮内のゲートを指定して飛ぶ方法は未だに分からない。
「さすがソーヤ様ですわねー。まあもう驚きませんけど…」
「だめよソーヤ君。いくらなんでも王家の秘匿をあばいちゃ」
ワタクシ先生が言ってくる。大丈夫、解析はしてないから!たぶん。
「なに?また私のソーヤにちょっかいかけてるの?」
「ソーヤ様は誰の物でもありません!」
アーチェ…オレお前の所為で、夜中に街歩いてると襲撃されるんだぜ?なんかオレが聖女をだまくらかして、甘い蜜をすすってるとか噂になってな。
宿屋のおばちゃんまで鋭い視線を投げかけて来るし、しょっちゅう壊してんのアーチェだぜ?
「なに?私の顔に何かついてる?そんなに見つめられると照れるんだけど」
「お前はもちっと言動に注意しような。このままじゃオレ、まじで埋められるぞ」
「そうよ!アーチェさんは聖女と呼ばれるようになってまで、ソーヤ様に迷惑かけるのだから」
委員長はオレの代わりにぷりぷり怒ってくれてる。
「なんかあれよね、聖女と言われだしてから、面倒ごとばっかよね」
まあ、増したのは間違いないな。
「で、何話してたの?」
「迷宮でのゲートをなんとかならないかなとね」
「そうよねー、毎回50階層からじゃ効率も悪いわよねー。もうミノの顔も見飽きたわ」
「ねえ、先生もなんかいい方法思いつかない?」
オレはワタクシ先生に聞いてみた。
「そうねー、…たしか王家の方と一緒なんでしたっけ?ああ、名前は言わないで!ワタクシは何も聞いていませんので!」
「…まあ確かに居るけど」
「いっそのこと正式に王宮主導にしてもらえればねー。攻略可能でありそうなら手も貸してもらえると思えるんですけどね」
「攻略したら、王宮になんかいいことあるの?」
「そりゃもう!迷宮が攻略されると、その迷宮付近のモンスターが極減するのです!世界5大迷宮の1つである『最も深き豊穣』ほどの迷宮が攻略されたとなると、ここアステリア全土は、しばらくは平穏が訪れるでしょう!!」
なるほど、迷宮攻略は周辺の治安が良くなるのか。
「それ以外でも…」
ワタクシ先生の話を要約するとこういうことらしい。
まず迷宮の最深部のボスを倒すと、かなりでっかい魔石が手に入るらしい。それだけでも一財産。
そして、迷宮としてはボスを再配置するために周辺から魔力を集め出す。
その為、周辺の魔素が薄くなり、モンスターが減る。
迷宮内でも最深部へ魔力が移動する為、敵の強度が下がる。しかも倒した場合に出る魔石は、少ない魔力でモンスターを構成しようとするので、逆に品質が良くなる。
ようは、周辺の治安が良くなり、かつ魔石の収入が多くなり、品質も上がり、国としてはがっぽがっぽと儲け、うはうはになるということだ。
「じゃあなんで本気で攻略しようとしないの?」
「過去に何度も遠征はあったのですよ?しかし81階層以下では王軍も歯が立たず、51階層以下のゲートはしょっちゅう破壊され、150年前の攻略の際も、多大なる犠牲の上で達成されたことなのです」
「なるほどー、ネックは81階層以下かー。あのワニさんクラスがうじゃうじゃ居るんだっけかな?」
「あのワニならもうなんとかなるんじゃないの?」
「まあ対策は考えてるがな。出るのはワニだけじゃないだろ?」
うーむ、せめてもう一人。殿下クラスのアタッカーが居ればなあ。
「とりあえず、夏休みになれば、泊り込みで迷宮潜る事になってるから、それまでに対策考えとくか」
「そうね!」
「ねえ、ソーヤ様私も…」
「だからダメだって!これ以上私の仕事を奪わないでよ!」
アーチェも必死だな。麻呂姫もめきめきと力をつけてきてるしな。
「いいじゃないかお姫様ポジション。さあアーチェもオレと一緒に役立たずの称号を!」
「いやー!絶対いやー!ただの荷物持ちなんて、ぜんぜん冒険者の頂点じゃないわよ!」
◇◆◇◆◇◆◇◆
という訳で夏休みに、迷宮に泊り込みで潜ってみたのだが、
「ねえソーヤ、ちょっと臭くない?」
「まあ、臭いわな」
「アーチェ、そんなことを気にしていると、迷宮探索などできないぞ」
「…何気に外泊って初なのよねー。まあそうよね!これこそ冒険の醍醐味ね!」
「違うと思うなー」
初めての外泊。意外とアーチェもユーリも堪えたようだ。
「お、いよいよ80階層のボスだ。とはいえこっちには聖女が居るしな。普通ならまず勝てない敵だが…」
「まかせといてよ!いよいよ出番ね!ねえ?アレ使っていい?」
「…抑えろよ?二度とボス出ないとかすんなよ?」
「分かってるわよ!」
80階層のボスはリッチだった。アンデットの王と言われる彼でも、アーチェのサンクチュアリによってさっくり昇天。自慢の魔法を撃つ暇もあたえない即効であった。
ちなみに今回のお約束は麻呂姫に担当してもらった。
「ひどいでおじゃるー!目が死んだかと思ったでおじゃるー!!」
いや忘れてた訳じゃないぞ?みんな知ってるとばかり…麻呂姫が知ってる訳ないか。
いよいよ噂の81階層、どんなものかと踏み込めば、来ましたバックアタック!いよいよオレの出番か!?
アレ?どうやって防げばいいんだ?警戒してても対応できないぞ?
「ちょっと殿下分身してよ!」
「無茶言うな!」
「くっ、確かに今までの敵とは違う。ボクの防御も破られそうだ」
前衛は前の敵で手いっぱいか。
「アーチェ!」
「分かったわ!」
アーチェが雷の魔法で迎撃するが、
「堪えてないわねー」
「仕方ない、いったん80階層に引き返そう」
そう言ってオレ達はイリュージョンの魔法で敵を目くらましし、いったん引返す事にした。
その後も何度か挑戦してみるものの、
「無理だな」
「無理ね」
殿下とメリ姉が決断を下す。
これまでの敵と違って、明らかに知能がアップしてるな。挟み撃ちなんてしょっちゅうだ。一部の敵は他種族との連携までしてきやがる。
「今回はここまでだな」
「えー、せっかくここまで来たのにー」
「明らかに手数がたりないね。ここに来て私達の弱点が露呈した感じだね」
だなあ。
「まあしかし、80階層突破など150年前の迷宮攻略以来だ!十分な快挙であるな!」
「快挙どころか…たった6人で行ったなんて知れるとまたぞろ大事になりそうな気がするね…」
◇◆◇◆◇◆◇◆
「というのがこの夏休みの出来事だったのだ」
「それにしてはあまり騒がれてませんわね」
「ああ、この話内緒だから言うなよ」
「ええっ?」
「なんでも王宮でしばらくは秘密にしろってことになったらしい」
「だったらなんでこんなとこで言うの!?ワタクシ聞いちゃいましたじゃないですか!」
「まあ、いつものメンバーだし」
いつものメンバー、アーチェ、オレ、委員長、ワタクシ先生で放課後の教室である。
「で、今後の対策をだな」
「どうしてここで対策会議開くの?ワタクシあまりヤバイ事には首をつっこみたくないのですけど」
「ソーヤ様それでしたら、ぜひ私を!」
「なに聞いてたの!必要なのは前衛なの!」
「私最近、剣術の練習を始めまして…」
たしかにこの子、力のパラメータも何気に高いな。
「ねえソーヤ」
「ダメだぞ」
「まだ何も言ってないじゃない!」
どうせ自分も剣術がとか言い出すんだろ?ダメだぞ絶対!被害に遭うのはいつもオレなんだからな!
「と、とにかく、ちょっとかじっただけじゃ、逆に大怪我の元だ。ここは専門家じゃないとダメだ!」
「そうですか…」
「んー、あっ」
なんかワタクシ先生がふと思いついたように、
「バシェード先生なら?冒険者につてが多いはずですわね」
ホーネスト先生のことか?確かに。でも今どこに居るか知らないぞ?
「えーと研究所の地図はと…」
ん?なんか落ちたな?おお!これは!?
学院対抗武闘大会の文字が!
「あ……おぉっと、ワタクシとしたらこんな企画すら怪しいものおぉお!」
ワタクシ先生が急いで拾う前に、
「なになに?これ来月かー」
「…ソーヤさん?それまずいですからね。ワタクシのクラスが出場したらとんでもないことになりますからね?」
「えっ?これ私参加することになっているわよ?」
「なぜにぃい!」
えっ?そんなこと聞いてないよ?
「おじゃる姫がこれで決着をつけるとか何とか言い出してね」
「なるほど。受けるなよ!」
いかん、今すぐ辞退させねば。
「おい、今すぐ辞退「アーチェさん」」
委員長が割り込んでくる。
「それはソーヤ様を賭けた勝負でしょうか?」
「それ以外に何があるの?」
「私も参加いたします!」
ええっ、これ以上話をややこしくしないで。
「いや、あのな」
「これは女の意地を賭けた勝負なのです!殿方は黙っていて下さい!」
「先生なんとか…」
「なんとかー」
ワタクシ先生は諦めたような目をして、
「もうワタクシにできる事はありませんわ…」
そう言ってオレを見てくる。
いやオレにも無理かな?当日はちょっと旅に出ていい?
ガシっとワタクシ先生はオレを掴み、
「引率はお願いしますんで!」
ヤだよ!!
◇◆◇◆◇◆◇◆
「もうユーリだけが頼りなんだ!」
「なにソーヤいきなり」
オレは宿に戻るとユーリに泣きついた。
「アーチェが武闘大会に出るらしいんだ!」
「それはまた…」
「せめて死人が出ないようにだけ、ユーリが守ってくれないか」
「ソーヤがやめるように言えば?ソーヤの言う事ならかじろうて聞くじゃ?」
聞かないんだよ!
「今回ばかりはね。なんせソーヤを賭けた戦いですものね!」
「えっ、ソーヤが懸かってるの?じゃあボクも」
なんでだよ!ユーリが勝っていったいオレをどうしたいんだ?
っていうか誰が勝っても碌な事にならないような…オレマジでどっか遠くへ旅に出るかな…
「とにかく、ユーリもリザレクション使えるんだろ?オレじゃあさすがに致命傷は治せないからな」
「えっ、ボクだってアーチェほどは無理だよ?」
「それでも死人が出ることはないだろ?」
「ちょっとソーヤ、なんで私が出ると死人が出るのよ」
胸に手をあてて考えてみろ!どうせ手加減なんてしないんだろ?死ぬぞ?マジ死ぬぞ?
「バカねー、いくらなんでも手加減はするわよー」
「ほんとか?ほんとのほんとか?」
「…信用ないわねー」
「ちょと手加減してそこの椅子に魔法撃ってみろ」
「はいはい」『サンダー!』
椅子が粉々に砕け散った。
「……手加減したんだけどねー」
「もっとしろよ!」
これ魔法で作ってんだから、ちょーかてえんだぞ!えっ?元々あった椅子はって?聞くなよはずかしい、残ってる訳ないじゃん。
部屋の備品はアーチェとユーリの魔法で作成、強化済みだ。
壁も超頑丈にしている。ん?そういや最初、オレとユーリ、メリ姉とアーチェの2部屋借りたはずだよな?いつの間にか壁がなくなってるような……深くは考えないでおこう。
オレは砕け散った椅子を直しながら、
「これから毎日特訓だな、手加減の」
◆◆◇◇ 視点変更◇フィフス殿下 ◇◇◆◆
「ん?今なんと言ったでおじゃるか?」
「だから、ソーヤがアーチェにつきっきりで特訓するので、迷宮探索はしばらくは休みになったと」
「…つきっきり?」
なんか急に温度が下がったような気がするな。我なんか気に触ること言ったであるか?
今日もユーリとの訓練が終わって戻ってきたところ、妹姫が我の部屋に尋ねてきた。
最近迷宮に行ってなかったからな。それで理由を聞かれたのだが、別に置いて行ってはないぞ?
「どうしてそうなったでおじゃるか?」
「ん?リーシュが決闘を申し込んだのじゃないのか?」
「今度の学院対抗武闘大会で白黒つけるよう言ったでおじゃる」
なるほど、そういうことであるか。というかこの妹様、小刻みに震えていったい…寒いのか?
「なぜ…なぜソーヤが聖女もどきの肩を持ってるでおじゃるかー!!」
とたん我に掴みかかって叫び出した。うむ、いつものこととはいえ、暴力は良くないぞ?バチバチは反則だぞ、ソーヤも碌な事を教えん。
「さっさと答えるでおじゃる!」
「いや、我に聞かれても…」
「どうして知らないでおじゃるか!」
どうしてと言われても知らんものは知らん。というかなぜ我が掴みかかられてるのだろうか?
「今すぐソーヤをここに呼ぶでおじゃる!」
「王宮にか?あいつらを呼んでみろ、即効首ちょんぱだぞ?」
「むむむ……」
まったく我が妹様は何を興奮しておるのやら。
と、急に力を抜き、
「ソーヤは麻呂のことなどなんとも思っておらんのだろうな…」
ふむ、ずいぶんソーヤのことが気にかかっておるようだな。妹姫がこれほど人に執着するとは。
今まで、学院の誰一人として王宮へ呼んだことはないのにな。
しかし、ユーリはともかく、他の3人は確実に揉め事を起こすであろうな。
「なら今から行くか?」
「行くでおじゃる!」
◆◆◇◇ 視点変更◇ソーヤ ◇◇◆◆
「なに連れて来てんのよ!?」
「アーチェだけ特訓など卑怯でおじゃる!」
「…そうよね、私だけなんて不公平よね!」
「ん?…ん?」
…そうだよな、よく考えたらアーチェだけ手加減できても、麻呂姫も委員長も、十分危険領域だよな。これ詰んだわ。
「殿下」
「なんだ?」
「大会ってどこですんの?」
「王立学園の修練場だな」
「そうかー、どんくらい壊せば中止になるかな?」
「……マジでか?」
もうそれしかないと思うんだオレ。なーに、
「昔のえらい人は言った『ばれなきゃOK』」
「良くないぞ!考え直せ!仮にも我が母校であるからな?さすがに見過ごせんぞ?」
「じゃあ、当日は大嵐で」
「できんよな?そんなことできんよな?……できるの?」
確かそんな魔法があったはず。
「思い出すな!思い出すでないぞ!…まったくなぜそのように中止にしたがるのだ?」
「だってアーチェや麻呂姫が出るんだよ?相手死ぬよ?」
「ん?魔術師の競技は対人戦ではないぞ?」
えっ?そうなのか。それなら安心…できるのか?
「別にアーチェや妹姫でなくとも、魔法が当たれば普通に死ぬからな。魔法の対人戦などある訳なかろ」
「えっマジックバリアやリフレクトは?」
「…魔法の同時発動ができる奴も、そんな高度な魔法をさくさく使える奴も、普通は居ないからな。お前の常識で考えるでないぞ」
そりゃそうか。
「そういうことなら…ちなみにどんなことするの?」
「そうだな……どんなことをするのだ?」
知らんのかよ!
「各属性に分かれて、それぞれのテーマをこなすでおじゃる。火ならば巨大な氷をどれだけ短時間で蒸発させるかなどでおじゃる」
それなら心配することもないか?
「アーチェならどうする?」
「フレア?」
「やめろよ!競技場火の海にする気か!?」
「大丈夫よ!手加減するから!!」
ああ。やっぱりダメだなこりゃ。
「ふふふ、何を隠そう麻呂は総合で2年連続トップでおじゃるぞ!」
「え?接待プレイで?」
「実力でおじゃる!失礼でおじゃる!」
あいかわらずアーチェと麻呂姫は仲が悪いなあ。
「総合とは?」
「総合は、すべての魔法を駆使してモンスターを倒すでおじゃる」
「モンスターと戦うのか?そんなの相対するモンスター次第じゃないのか?」
モンスター戦かー、大丈夫かなあ。オレもずいぶん心配性になって来たな。
「別にモンスターを倒すことが目的ではないでおじゃる。いかに効率よく倒すか、評価で決まるでおじゃる」
「バカねー、そんなの王族の評価が高いに決まってるじゃないの?」
「失礼でおじゃる!そんなことは…ないでおじゃるよな?」
麻呂姫がすがるような目つきで殿下を見た。
「うむ、一昨年はともかく、昨年は文句無しだな。すでに迷宮で51階層以下のモンスターを相手にしていると言うのに、今更そんな雑魚など目ではないであろう」
「一昨年はともかくでおじゃるか…」
あんまり弱いと優劣つかないんじゃないか?まあ、安全ならそれでいいか。
「大丈夫!今年はすごいのを連れて来るように言ってるでおじゃる!」
何してんだよ!




