ひとめあなたに会えたからといってシアワセかどうか 3
~あなたの為にオニオンスープ、そして大きな玉ねぎの下に敷かれる~
(1年4月中旬)
そして気がつけば。
俺は見知らぬ場所にいた。
上も下もふわふわぬくぬくで気持ちいい。まず意識できたのがそれ。ほどよく硬いスプリングと、ほのかにいい匂いのするタオルケットと羽毛だろう軽い布団。嬉しすぎる……
と思ってようやくそこが自分の部屋ではないと気づく。思わずがばりと身を起こし、すぐに撃沈。
「あ、起きた」
「で、また潰れるってなんでよ?」
「これはもう襲ってくださいフラグ成立だよね!」
三者三様、放置したらどうなることやら考えるだに恐ろしい。
「……寝起きでいきなり動いたから眩暈がしただけです」
「頭痛や吐き気は?」
そう訊いてくれたのは佐伯先輩。相変わらずの無表情だが、心配してくれたのだと思っておく。とりあえず大丈夫だと示すためにも身を起こした。
「それは平気です。眠らせてもらえたおかげで抜けましたし」
「ん、でもとりあえず水か茶ぁ飲め。スポーツドリンクの方がいいか? レモン風味入ってる奴だけど」
「あー、じゃあスポーツドリンクお願いします」
と、これは叶浦部長。言われて喉の渇きに気づいたから、心遣いが素直にありがたく思える。にしても、スポーツドリンク? 普通はポカリとか商品名を口にしないだろうか。しかもレモン風味と付け加える辺りが更に謎。よし、と腰を上げた先輩の背を目で追ってしまう。
「いやむしろここは2次会参加で迎え酒とか!」
「……2次会だったんですか?」
部長の背から高瀬先輩に目を遣れば、そこは確かに呑み会場だった。
おそらく冬は炬燵なのだろうテーブルというか卓袱台の上には、既に残り少なくなった乾物盛り合わせの平皿を中心に、煮物や漬物などの保存食らしきタッパが大小取り混ぜ5つ。銘々の取り皿とグラス。酒瓶はそれぞれの斜め後ろ。フローリングに直置きなのは、毛足の長いラグの上では不安定だからか。ピッチャーやアイスペールはない。グラスに氷は入っているのだが。
ちなみに佐伯先輩の所にはウイスキー、部長は焼酎、高瀬先輩は日本酒。まぁ、同じ酒を飲むなら瓶はテーブルに上げるだろうし、好みが違うからそれぞれに確保しているということなのだろうが。ウイスキーと焼酎、4Lペットって、あんたら一体どんだけウワバミですか! 日本酒も一升瓶だし!!
「ほら飲め」
いろいろと疑問質問てんこ盛りなのだが、なにをどこからどう突っ込めばいいのか分からずパクパクさせていた口元に、ずいとグラスが突きつけられる。とりあえずはありがたく受け取って、恐る恐る口をつければ、知らない味ながら確かにレモンの風味がした。冷たくて美味い。あとは一気に流し込む。
「酔い明けに柑橘系はよくないって説もあるけど。ま、ヤバけりゃ我慢しないで吐けばいい」
「吐くならトイレでねー」
…これも一応案じてくれるが故のお言葉と受け取ろう。
「それでも。カラダが欲してるなら要るだけ飲んどけ」
唯一、部長だけがまともに思えるわ…。
ベッドのヘッドボードに置かれたのは1Lサイズなペットボトル。ラベルなし。
疑問顔を察したのか高瀬サン曰く
「薬屋とかにあるプライベートブランドの粉末だよ。ボトルは市販のお茶の使い回しだからラベル剥がしてるんだ」
1Lのボトルって実はあんまりないよね、と笑う。俺の疑問を見透かして。
「ちなみにお茶を所望してたら、50パック300円くらいの烏龍茶2L作り置き。水出し可なのにわざわざ沸かして冷ましてるシロモノ」
「そっちのが美味いってアンタが言ったんでしょーが! てか、ネタにすんなら二度と作んねぇ!!」
「えー、ユキちゃん冷たーい! って、あぁ、あったかいお茶飲みたかったら、ちゃんとした茶っ葉、無発酵から全発酵までいろいろあるよ。無論コーヒー豆もございますユキちゃんが淹れてくれれば美味しさ倍増間違いなし!」
「俺を便利に使うなー!!」
「抹茶玉露。吾妻は? 日本茶紅茶中国茶花茶にコーヒー、有名どころならそれなりに揃ってるし、ユキさんに頼めば美味いのが飲める」
問答無用でリク入れた佐伯先輩は、私じゃそれなり、高瀬サンは壊滅的どころか素材への冒涜だと付け加えた。うん、このひと物言いは粗雑だけど、嘘は言わないとこの1週間で知ったから、つまり、事実その通りなんだろう。
なんやらもう遠慮する気も失せたということで、コロンビア濃いめと言ってみた。ら。見事に美味なそれが供された。素晴らしい。遠慮したらむしろ罰が当たるだろう。神降臨なれり。
と、言ったら頭を叩かれた。しかも3人それぞれに。何故だ。
「で、なに呑む?」
「まぁ照れ隠しv」
「これもまた別フラグ成立?!」
……いやはやまったくどこにどう突っ込めばいいのやら。
【to be continued…】
すいません次こそ最終話。
連載はまだまだ続きますが。