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吶喊! H大学文芸部  作者: 江南
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ひとめあなたに会えたからといってシアワセかどうか 2

~あなたの為にオニオンスープ、そして大きな玉ねぎの下に敷かれる~

(1年4月中旬)

 そんなこんなで集合場所たる店の前に着いたのが10分前。そこには既に叶浦部長ほか十数人がたむろっていた。


「どーも。ご無沙汰でしたー」

「笑顔でイヤミ言うんじゃないよカズミちゃん」

「事実でしょーが。文句なら部室で言ってください」

「いやいやいや。とりあえず、新人さんをもてなしましょうという心意気は汲んで?」

「呑みたいだけでしょうに」

「排水溝に言われてもなー」

「同類がなにを仰いますやら」


 ぽんぽんと遠慮のない会話が繰り広げられる。多分、これが日常なのだろう。まだ慣れないけれど、心地よいのは事実。

 にしても、排水溝? イミフ。なのでスルー。


 ふと周りに目を遣れば、似たような集団がちらほらと。だからなのか、店の扉は開店時刻の5分前には開けられた。


 いらっしゃいませー! とやたら元気な店員の声に迎え入れられる。口開けだからだろう、入口からの通路の両サイドに整列していた店員の、最寄の1人がすっと歩み寄る。


「佐伯です。とりあえず15人。水とお通しその他お願いします」

「承知しました、こちらです」


 なにごとかを言う前に佐伯先輩が切り出せば、案内役は頭を下げて戻し、営業用笑顔で先導した。別方向に動いた5人はおそらく厨房へ水とお通しを取りに行ったのだろうが。15人分に5人も要るのかは軽く疑問だ。


 後ろでも似たような遣り取りが続くのを聞きながら、奥へ入る。

 半間ほどの上がり框は小上がりの両端に2箇所。部長と佐倉先輩が別れて陣取り、角を挟んだところに新人を招く。後は適当。


「定番の酒と料理は注文済み。あとは自己申告よろ!」


 座敷に上がるなりそう言い渡したのは当然ながら佐伯先輩。今更ながら幹事なのだろう。そしてあちこちからドリンクやら料理やらの注文の声が上がる。まずドリンクを、という店員のお定まりな声を無視して料理の注文に走っているのは『定番の酒』な人達なのだろう。聞き取る方は大変だろうが、多少間違ったところでどうにでもなりそうな気がするカオスっぷりだ。始まる前からこんなんで、どうなるのやら…。

 と思いはしたが、やはりどうにでもなるらしい。即行で来た水お通しおしぼりの盆を、部長が「そこ置いてって。後はこっちで回すから」と軽く流し。それが全員に行き渡る頃には事前注文済みだったという酒が、次いで料理がどかどかと運び込まれた。卓に乗せる手際はバケツリレーを思わせる見事さだ。

 角瓶、グランブルー、さつま美人、北の誉、越後の辛口1本ずつ。アイスペールと水のピッチャー各2つ。烏龍茶のピッチャーが1つ。レモンとライム2個分ずつが八つ割で。グラスは20個。メロンダイキリ、カルアミルク各1つ。ノンアルは新人女子分の苺みるくとマンゴーオーレ。枝豆、ザンギ、串盛2つずつ。胡瓜と茄子の漬物、大根サラダ海草サラダ、いか焼き、シシャモ、サバ半身とたこ刺1つずつ。

 15人で予約したとは思えない広さに納得。卓に乗り切らんわ、これ。


 そして用意された酒をそれぞれ好みに作る間に追加でカクテルやショットを頼んだ者のそれも届き、部長の音頭で乾杯。その一口でグラス半分ほども空けた方多数。新人は怯えますよこれ。

 次いでお約束の新人向け自己紹介は名前と学年、所属学部、他はどうしても言いたい特記事項のみで、1人最大1分がルールだとか。守れるのはまだ酔ってないからか単に慣れなのか。全員が終わる頃には半数以上が2杯目突入してるし。なんにせよ酒のチカラ素晴らしい。


 とまれ。


 最初こそ遠慮して烏龍茶にしたが、グランブルーに手を出したのは入店15分後。つまりノンアルは1杯限り。素面じゃやってられないと気づいて早々に空けた。ちなみにそれでボトル1本目はカラ。みんなペース速いと思うのは気のせいじゃないだろう。当然すかさず追加注文となるのだろうが、なんせ新人、どの銘柄を頼めば角が立たないかなんて分からず、頼る先はやはり佐伯先輩だ。幸い、卓の角を挟んで隣にいるし。


 ちなみに新人女子二人は部長と角を挟んだ側に並んで座っている。

 物の受け渡しの直近にいれば、必然、周りに声をかける。受け取りたい側はそれに応える。会話が生まれる。傍には必ずお目付け役がいるから酔っ払いの無体も止められると思えれば新人女子も安心できるだろう。現にふたりは楽しげだ。いい席だと素直に思える。楽しめる。


 それはともかく。

 初っ端からウイスキーをハーフロックでいってる強者は軽やかにお答えくださった。


「基本、空けた奴に選択権があるから好きなの頼め。希望がなきゃ、焼酎派にリク権譲渡」

「乙類は呑んだことないから分からないし、お任せします」

「んじゃ、希望者で奪い合って下さいー」


 女性にしては低音だし決して大声を出してるわけでもないのだが、何故かよく通るその声に、既にテンション上がってるのが丸分かりなダミ声が複数被さった。とりあえず多数決で鏡月ゆずに決定するまで約5分。

 呑んだことのない酒のボトルが多数並ぶのは垂涎モノだが、まずはとサラダや漬物ばかり摘んでいたら草食かとからかわれた。ま、そのくらいは初対面の幽霊さんが話しかけてくれる取っ掛かりとしては許容範囲。


 なのだが。


「おお、呑んでるね~」


 と、グラス片手にすり寄ってきたのは高瀬といったか。店の前で叶浦部長の隣にいて、佐伯先輩とどつき漫才かましてたひとだ。赤味がかった金髪が緩くウェーブしてるのは天然モノか? 肩を越す長さのそれを首元で結わえているのは髪ゴムではなく革の飾り紐。ややタレ目だがこれまたイケメン。見るからにチャラいけど。


「はい、呑んでますー」


 そんな相手へのそんな声掛けにだってにっこり笑ってグラスを掲げて応える程度の社交性はある。無論、自力で帰れなくなってはまずいだろうということでちびちびと、とは言わない。


 なのだが。


 ち…近い……。


 普通に卓に向かって座る俺の左隣に腰を下ろしたそのひとは、なぜか時計回り90度強を向いている。しかもお互い胡坐の脚が触れている。というか密着したいしてやる! みたいなイキオイだ。そのまま上半身もずずいと寄せられれば、その分右に逃げたくなるのも道理だろう。道理であって欲しいと切実に願う!


 助けて!と 思わず目を遣った右隣の佐伯先輩はいつのまにやら移動済み。空いたスペースが心もとない。


「そんな怯えなくたって~。おにーさん優しいよ?」

「怯えますよ普通。イタイケな新人タラさないでください」


 逃げたその先、なにかに肩がぶつかって反射的に謝らねばと顔を向けるより早くそんな言葉が降ってきた。

 叶浦部長、救世主?!

 …事実としては、宴席&新人の世話役二人が定時場所チェンジしただけなのだろうが、それでも!

 彼を見上げた俺の目は哀訴に満ちていたことだろう。ぽん、と宥めるように頭に手を置かれ、彼は佐伯先輩のいた所に腰を下ろした。

 …だが何故に反時計回り45度? 俺を間に高瀬先輩と睨み合い? 竜虎相搏つ?

 なんだか分からないけどもうなんでもいい、せめて壁際まででも尻で後退って逃げたい…。


【to be continued…】

まだ続きます多分あと1回。

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