賢者に贈られたとしても
~そもそもソレは本当に賢者か?~ (1年12月)
「クリスマスパーティをやるぞやらんでどうする!」
と、101に乗り込んできたのは、304は3年の熊谷先輩。
「寒いの我慢してココのエントランスで住人限定でも、部室で部員限定ノンアルでもいい! とにかく佐伯ちゃんのゴハンでどうか粗食の独り身を慰めて!!」
「…ツマミ作るのは構いませんが、場所提供に関してはそれぞれの管理人次第ですね」
「部室は、ノンアルなら大丈夫でしょうが…」
かつて学祭で急性アル中が出て緊急搬送されたことから、学内はアルコール禁止となったそうで。だからそこは譲れない。
「エントランス寒いよ? 参加者から電気ストーブ提供して貰わないと、カズミちゃんのメシ喰うどころじゃないと思う」
掃除のオバちゃん達しか使えない掃除機用電源を開放するのか。太っ腹大家。
「んじゃ部室で部員の一次会! 友人知人OBもツマミの持込で参加可。でもってエントランスで2次会酒盛り! 部員じゃない住人も希望者はやはり持ち込みで、こっちは酒大歓迎ということで!」
「事前に101に食材持ち込む、もアリですかね。で、佐伯に調理してもらう、ということで」
「カズミちゃん、それでいい?」
「ま、いいでしょ。メニューは集まった食材で考えます。吾妻、下ごしらえは手伝え」
「…できる限りは」
そして。翌日の朝には、マンションの掲示板にクリスマスパーティ2次会の告知ペーパーが貼り出された。熊谷先輩の手によるモノなのは確実だ。さらに、珍しく部室に来たかと思えば恐ろしいことに佐伯先輩を押し退けてPCを占拠し、昼には部室でのノンアル1次会のチラシも部室中央の会議机に置かれた。ちょっと待てアンタ部室に来たのいつ以来だ! 大体、朝には掲示板に貼ってたんだから(しかも多分大家の了承抜きで)自室にPCもプリンタもあるんだろうが! と内心突っ込まずにはいられない。アンタ大学でナニしてんだ。
そして前日23日。どの部屋も造りは同じで、コンロは一口しかないし、作業スペースも少ないし、ということで。俺は自室でひたすら玉ねぎスライスしたり胡瓜スライスしたりイモの皮剥いて茹でたりと、佐伯先輩に指示された下ごしらえに精を出していた。どうせ冷めるんだから、温かいものを出すよりは冷やしておくものの方がいいだろう、と佐伯先輩。うん、まぁ、それは確かに。てか、どんだけ作らにゃならんのだ…。
そうしてそうして当日24日。
いやまぁ、部室カオス。合宿並みの出席率には驚きましたよ…。どんだけお祭り好きなんだこの部。しかもノンアルだってのに騒ぐ騒ぐ盛り上がる。いやもうなんなんだアンタら…。幽霊さんもOBもノンアルなのに(強調しておく!)トんでるし。
更に更に2次会は。
管理責任者として全員を追い出して施錠しなければならないので、俺だけ帰りが遅れたのだが。
帰ってみれば、告知どおりのエントランスに部の備品なキャンプ用テーブルが置かれ、1次会同様に佐伯先輩の料理が並べられていた。1次会との違いは、テーブル上にカセットコンロがあって、そこにポトフの大鍋がかかっていたことだ。佐伯先輩素晴らしい!
にしても。
住人の6割は部員かOB、3割は部と無関係でも同窓生という特殊な環境だが(立地上そうなるのは肯ける)、無関係の住人も全員混ざっていた。どうだよそれ。
いやもうこの際なんでもいいわメリクリ!
ちなみに叶浦先輩は30日までバイトを抜けられず(俺は20日で終了していた。だからこそのお手伝い)、2次会の料理があらかた片付いてからのご帰還だった。合掌。
とはいえ。肩を落とした叶浦先輩の少々哀れかつ情けない姿を見た後は、いつものごとく101にて3次会。あらかじめ取り分けられていた皿を見て、無言ながらも相当に感激していたのは見て取れた。
なんだかんだ言っても佐伯先輩はやさしい、ということで、叶浦先輩もそれをちゃんと分かっているからこそ、佐伯先輩にだけ土産という名のプレゼントを用意していた。
…フォアローゼス720mlというセレクトは、佐伯先輩にしか通用しないだろうが。