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元魔王(偽)で公爵令嬢リディアーヌの冒険  作者: 星乃 夜一
公爵令嬢、婚約破棄?
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第八話

勇者は目を見開き、固まった。

やがて、動き出したと思ったら、感情のない声を出した。


「婚約を解消・・」

「ええ」

「そうか」


(そうか? いいって事?

やっぱりオルガさんの言っている事は間違いで、心変わりをしたのかしら?)


勇者は感情のない顔で立ち上がると、私に手を差し出した。


「?」


ぐいっと引っ張られると、いつの間にか勇者に横抱きにされた。

あまりの一瞬の出来事に頭が付いていかなくて、呆然と勇者の顔を見る。

勇者の顔は彫像の様に美しく、作り物の様に生気がなかった。


「セルジュ様?」

「リディアーヌ、二人きりになれる所に行こう。

誰も来る事のない、どこかへ・・」

「え?」


ちょっと待て!

もの凄く不吉な言葉を聞いたけれど!?

誰も来る事のないどこかって、どういう意味だ。

不吉すぎる。


「セルジュ様!? 少し待って下さい。

何か誤解していると思うわ」

「誤解?」


勇者の虚ろな目が私を見る。

おおう、とっても怖いわ。目が死んでるわ。


「あなたは俺と婚約を解消して、俺から離れる。

そんなのは嫌だ。

そうなるぐらいなら、あなたをどこかに閉じ込める。誰にも渡さない」

「・・・・」


オルガさーーん!

あなたの言う通り、勇者ってば、監禁とか言い出したわ!

と言うか、オルガさんは付き纏った挙句に監禁とか言っていたけれど、実際は即実行だったわ。


「セルジュ様、少し落ち着いて下さい。話をしましょう?」

「・・・・」

「セルジュ様、無視しないで」

「・・・・」


勇者は何を考えているのか分からないが、動かない。

身動ぎしてその腕の中から出ようとしたら、さらに強く抱き締められた。


勇者が本当に私を監禁するとは思っていない。

勇者は優しい人だ。

たまに自分の主張を通す時など意地の悪い事も言うが、大体は私の気持ちを優先してくれる優しい人だ。

ただ、たまに暴走する。

見目麗しく、人々の尊敬を集める勇者の、人にはあまり知られてはいけない欠点だ。


「セルジュ様、話を聞いて下さい」


私は勇者の顎を掴んで、強引にこちらに向けた。

勇者は驚いたようで、目を見開いている。


「セルジュ様、婚約を解消してもわたくしはどこにも行きません。

婚約を解消したいというのは離れたいということではないの。

あなたと一から始めたいということなのです」

「一から?」


勇者は目を瞬き、分からないという顔をする。


「そう。一から。

わたくし達は婚約をしているけれど、お互いの事を信頼していない。

だから少しの事で揺らぐの。

政略結婚ならそれでもいいかもしれないけれど、セルジュ様は政略結婚は嫌なのでしょう?」


勇者は頷く。


「わたくし達、婚約をして半年が経ったわ。

でもわたくしはあなたに愛を返せるかまだ自信がない」


勇者は息を飲んだ。辛そうに顔を歪める。


「俺は何年でも待つ」

「あなたは待ってくれるわ。でも周りは待たない。

その内になぜ結婚をしないのだという声が上がるでしょう」

「そんなのは無視すればいい。あなたと俺の問題だ」


言い切る勇者に私は困った目を向けた。


「わたくしは無視できないでしょう。

早くあなたを愛さなければと焦るでしょう。

でも焦れば焦るだけあなたが見えなくなる。

たぶんわたくしはあなたを愛する事を諦めるわ。

諦めて、愛している振りをする」


自分の性格が嫌になる。

たぶん、愛している振りをして、でも心は違うと言って、いつか爆発する。

いや、その前に勇者に愛想を尽かされるだろう。


「俺は振りなんてしてほしくない。

あなたの心が欲しいんだ」

「ごめんなさい、今はあげられません」


勇者は顔を歪め、唇を噛んだ。


「だから、時間を下さい」

「時間を?」

「友人として、始めからやり直させて」

「友人・・・」


勇者は辛そうに顔を歪める。


「俺はあなたの友人なのか?」

「友人というのとは違うかもしれないけれど、大切な人です。

あなたに幸せになってもらいたいの」

「俺の幸せはあなたと共にいる事だ」

「ありがとう、だけど、違う関係であなたと接してみたいの」

「・・・・」


勇者は考え込み、首を振った。


「婚約を解消したら、あなたは他の誰かと結婚してしまうかもしれない」

「それはありません。あなたとの婚約を解消したら、もう誰も貰ってくれないもの」

「なぜそう思う?」

「神様に選ばれた勇者との婚約を破棄するのです。

そんな縁起の悪い娘は誰だって願い下げでしょう」

「・・・あなたの評判が下がるというわけか」

「これ以上ないくらいに。でもわたくしの我が儘だもの。

お父様やお兄様にご迷惑をお掛けしてしまうのが心苦しいけれど、お父様達は許してくださると思います。

いざとなったら勘当していただいても構わないもの」


勇者の目がすっと細くなった。


「そうしてどこかに行ってしまうと?」

「セルジュ様、わたくしはどこにも行きません。

あなたの事を知る為に婚約を解消したいと言っているのに、あなたの前からいなくなったら本末転倒でしょう?

わたくしが言っているのは、わたくしになど誰も目を向けませんということよ。

公爵令嬢ではないわたくしに価値などないでしょう?」


勇者は眉間に皺を寄せ、苛立ったような声を出した。


「あなたは自分の事を分かっていない」

「いいえ、分かっています。宮中では態度をコロコロ変えて勇者様に媚を売る嫌な女。市井では王女様から勇者様を横取りした悪女だって言われているわ。

その上、勇者様との婚約を破棄したら誰もわたくしを見ないでしょう」


自分で言っててなんだが、私のやっていることって大分酷い。

国の為、家の為とか思っているけど、全部裏目に出ている。

自分の所業に呆れてため息をつく。

大分迷惑な女だ。陛下や父に申し訳が立たない。


「リディアーヌ、あなたは本当に自分の事を分かっていない。

あなたの評判ではなく、あなた自身を手に入れたいと思う男もいるんだ」


勇者は私をベットに降ろす。

やっと解放されて安堵のため息をついた所、ベットに押し倒された。


「っ」


驚いて勇者を見上げる。

意味が分からない。

なぜこの体勢?

何が起きた?


「それも大勢いる。

貴族にも兵にも街の人間にも」


勇者はするりと私の首を撫でた。

私はびくりと体を震わせる。


勇者は私に近づく男を警戒している。

特に独身の男には敏感で、すぐに不機嫌になり、冷気を撒き散らす。

そうすると大体相手は顔を引きつらせて逃げていくのだが、勇者はそんな事を考えていたのか。

惚れた弱みというか、なんというか。

そんな心配いらないのに。


「セルジュ様」

「あなたは全く分かっていない。

男があなたをどんな目で見ているのか」


ググっと勇者の顔が近づき、勇者の吐息を感じる。

勇者があまりにも熱い目をしているのでどうしていいか分からなくなった。


この状態はよくないのではないだろうか。

暗い室内。ベットの上に男女。しかも押し倒されている。

私は慌てて勇者の鎧に手を当て、力を込めた。

が、勇者重い。動かない。


「セルジュ様、どいて下さい。取りあえず座りましょう」

「嫌だ」


耳元で囁かれて、肩が跳ねる。

ど、どうしよう? どうしたらいい?

慌てた私は思わず魔力を込め、勇者を押し退けようと力を込める。

だが、動かない。

どれだけ重いのだ、この人。

今の私なら片手で成人男性を持ち上げられるのに。


「セ、セルジュ様は愛し合って結婚したいのでしょう?」

「どうだろう、たまにどうでもよくなる。

あなたが手に入るならなんだっていい」


えええええええー!

勇者が愛し合って結婚したいと言ったんじゃないか。

だから私はいろいろ考えていたのに!

婚約をした当初なら、何も考えずにすんなり結婚も出来たけれど、これだけ色々考えてしまった後では、はいそうですかと納得出来ない。


私は勇者の顔を両手で押さえて拒否を示した。


「セルジュ様、今更そのような事は出来ません。

今惰性で結婚したら、わたくしとセルジュ様の関係は捻れ、生涯分かり合う事は出来ないでしょう。

それでもいいのならセルジュ様を受け入れます。

お好きになさればいい」


言い切って、勇者の顔から手を離すと、勇者は泣きそうな顔をしていた。


「リディアーヌ、俺はあなたが好きだ。

あなたの心が欲しい、あなたの全てが欲しい」

「セルジュ様」

「俺は待つよ。あなたが俺を見てくれるまで」

「セルジュ様、ありがとう。ーーごめんなさい」


謝ると、勇者は私を抱き起こした。

ベットの上で二人抱き締め合う。


「こうしているものいいかもしれない」

「・・・・」

「だけど、たまに物足りない時がある」


頭上から聞こえた声はくぐもっていて、よく聞こえなかった。

私は勇者を見上げ、首を傾げる。


「?」


目が合った勇者はゴクリと喉を鳴らした。

しばし見つめ合うと、勇者は疲れたような大きな息をつき、私から離れた。

壁に手をついてこうべ垂れた勇者は恨みがましい目をこちらに向けた。


「魔性の女だ、リディアーヌは」

「・・・・・」


意味が分からない。

どっちが魔性だ。

勇者は息を吸うように女性を落としている癖に。

私はそれを間近で見ているし、勇者が落とした女性に恨まれたりしてるのに。


私は口を尖らせた。


「どっちが魔性よ。セルジュ様の馬鹿」





結局、勇者との婚約は解消するということになった。

勇者とは友人として、一から始めようということになったのだけど、婚約を解消する条件としてつけられた事柄がとにかく理不尽だった。


1 誰の求婚も受けない。

2 どこにも行かない。

3 誰にも着いていかない。

4 必ず勇者に所在を告げる。

5 他の男に近寄らない。

6 他の男と話さない。

7 他の男と目を合わさない。

8 他の男を視界に入れない。入れさせない。


いや、無理だって。

陛下も父も兄もヴィクトルも男だから。

そう言ったら、陛下と父と兄は許すそう。

ヴィクトルは駄目。なんでだろう?




お読みいただきありがとうございます。

章の終わりです。

続きを書きたいので続くにしておきます。

また書いたらお願いします。


ありがとうございました。

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