第五話 リディアーヌ
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リディアーヌ視点。
王都から出て、少し先の小さな集落。
その村に一軒しかないという宿に私とオルガは落ち着いた。
オルガと話していて、私は気持ちも覚悟も中途半端なんだと言われているのが分かった。
どっちに流されてもいいように、浅く構えて日々を過ごしていると。
それではいけないとオルガは言った。
自分で決めて、自分が考える道に進まなければならないと。
私は今までの自分の考え方が間違っているとは思わない。
勘違いやら思い込みやらいろいろやらかしている私だが、それでも思うのは自分は王族であり、勝手は許されないということだ。
勇者と結婚したくないとか、自由に旅に出たいというのは許されない。
勇者が望めば勇者と結婚する。
それが私の務めである。
私の気持ちは二の次だ。
勇者との結婚は利益のある話だ。
勇者がこの地に留まってくれれば諸外国との交渉が有利に進む。国が潤う。
しかし、出来れば勇者の相手は私ではない方がいい。
私には膨大な魔力がある。
この力、なにかに役立てるのではないか。
今は魔法石などを作っている。いろいろな魔法を小石ほどの結晶とするもので、魔力を込めて少しすると魔法が解放されるという代物だ。
オルガやヴィクトルなど勇者の仲間に渡していて、魔物討伐に役立ててもらっているが、それなら自分が討伐に行ったらどうかと思う。
今は戦闘訓練などした事もなく、魔法のコントロールも下手だが、訓練すればどうにかなるのではないだろうか?
しかし勇者は私が訓練する事を嫌う。
膨大な魔力もあまり人に知られないようにと言われている。
ヴィクトルからも魔物の討伐はそんなに甘いものではないと、お前には無理だと言われている。
そうなのだろうか。
魔物とはいえ意思あるものを殺すのは確かに怖い。
でもそれで守れるものがあるのなら。
今回の件はそういう意味では渡りに船だった。
勇者は従姉妹と結婚し、私は市井に出る。
皆に利益のある話だと思っていたのに。
「なにを考えてるんだい?」
向かいにある粗末なベットに座ったオルガが目を細めて問うてきた。
彼女は着ていた赤いローブとズボンを脱ぎ、これまた赤い薄いスリップドレス一枚だ。
豊満な肉体は目のやり場に困る。
「精霊様はちゃんとヴィクトルに説明できたかしらって。
少し考えたい事があるから二、三日したら帰るなんて、事後承諾でこんな事をして、皆を困らせてるのではないかしら」
「大丈夫だって。駄目だったらすぐにあたしの鏡に連絡がくるさ。
なにもないってことはゆっくりしろって事だろ。
あんたはさ、もっと自分の気持ちに素直になって考えればいいんだよ。
難しいことをごちゃごちゃ考えないでさ」
「素直にといわれても」
難しい事を言う。私に素直になれなんて。
「素直に考えて出した答えを相手に言ってみなよ。言ってみて、相手と話していく中で、結論を出すんだよ」
「出した答えが突拍子もなくて、相手にされなかったらどうするの?」
「自分で突拍子もないと思っているんだったらまだ考える余地があるんじゃないかい?」
「では、真剣に出した答えが相手に受け入れられなかったら?」
「じっくり話し合う。妥協点が見つかるまで」
「見つからなかったら?」
「その時はそっぽを向いて逃げちまいな。他で生き方を探せばいい」
「そんなの」
今の私に換算したら、旅に出たいなら家出してしまえ、みたいなものだ。
「おや? その顔。もうやりたいことは見えてるんじゃないかい?」
「っ! 駄目よ。許されないわ」
「許す許さないは誰が決めるんだい? あんた? それを誰かに言ってみたかい?」
「ヴィクトルに相談したことがあるわ。でも、困ったような顔をしていたわ」
「それで諦めたのかい」
「・・・」
私は黙り込んだ。
私が旅に出たいというのは我が儘だ。
本音を言えば、外の世界を見てみたい。人の営みに触れてみたい。
私が外の世界に出るには理由が必要で、その理由に魔物討伐を掲げただけかもしれない。
それは真剣に魔物を倒している、勇者や仲間たち、他にも兵や市井の冒険者達に失礼な考えだ。
私はずーんと落ち込んだ。
向かいからオルガの笑い声が響く。
「あんたはさあ、真面目なんだよね。もうちょっと気楽に考えて、当たって砕けろーってぶつかっていけばいいのに」
「砕けてしまったら痛いわ」
「ははっ、確かにね。でもなにもしないよりはずっといいさ」
オルガの言葉は胸に突き刺さる。
「まあ、時間はたっぷりあるんだ。ゆっくり考えな。
明日は馬車でレノン湖まで行くよ。朝早いからさっさと寝な」
オルガは言うだけ言ってさっさと寝てしまう。
この人は本当に自由だ。
その自由さが少し羨ましかった。
お読みいただきありがとうございます。
 




