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元魔王(偽)で公爵令嬢リディアーヌの冒険  作者: 星乃 夜一
公爵令嬢、婚約破棄?
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第四話 その後王城では

本日四話目。お気に入り登録ありがとうございます!

ヴィクトル視点。

「なんですって!」


城にある一室で叫び声を上げたのは自分の従者だった。

二十歳ほどの栗色の髪のひょろっとした男は、はっと口を押さえ、私に頭を下げた。


「申し訳ございません。ヴィクトル様」

「いい」


私は頷いた。

実際に自分も叫び出したかった。

自分にはその元気が無く、絶句していただけだ。


「それで、そのお話は本当ですか? 精霊様」


目の前にいる長い金髪の青年に問いかける。

彫刻のように整った男は人ではなく精霊だ。

半年前からリディアーヌの側に護衛と称してついている。

混乱を避ける為に特定の人間にしか姿を現さない精霊は、その時によって姿が違う。

時に幼子のような姿でリディアーヌの腕に抱かれているのは、勇者に対する嫌がらせか。

その精霊は、悪戯好きのようで、存在を知っているものに度々悪戯を仕掛ける。

これもその一種だとよいのだが。


「本当だよ。リディはセルジュとの婚約をやめて、旅に出るって。

オルガちゃんも一緒だから心配いらないよ。僕も着いていくし」


(オルガの奴!!

なんで連れ帰るはずが一緒に旅に出るんだ! 婚約破棄するにも一度連れ帰れよ!)


私はすぐに懐から鏡を取り出し、オルガに連絡を取ろうとする。

しかし、鏡からはなんの反応もない。


「あ、オルガちゃんの鏡、僕が結界を張っておいたから。

向こうから連絡をしようとしない限り、繋がらないし、探索も出来ないから」


にやりと笑う精霊に舌打ちしたくなった。

信仰の対象にもなる尊い存在だが、目の前の精霊はただの悪ガキにみえる。


「リディアーヌ様達は今どちらに?」

「さあね。もう王都は出たよ。僕もリディ達に着いていくからもう行くよ」

「そうですか」


精霊の言葉に私は心の中でほくそ笑んだ。

オルガの鏡に結界を張って探索を出来なくしても、精霊が一緒ならば、勇者には位置が分かる。

勇者に事が知られるのは恐ろしいが、リディアーヌが行方不明より全然マシだ。


「あ、なんか嫌な顔。なにを考えてるの?」

「いえ、別に」

「言っておくけれど、僕の力を甘くみないでね。

大精霊は僕に印を付けたから行動を制限できると思ってるけど、僕はもう何度も王都を出てる。

大精霊の目を誤魔化す方法なんてあるんだから」

「な⁉︎」


私は目を剥いて絶句する。

それが本当なら、旅に出たリディアーヌをすぐに探せない。


「精霊様、どうかお待ちください! せめて居場所だけは分かるようにしておいて下さい!」

「えー、それじゃすぐにセルジュが来ちゃうじゃない。

セルジュはさ、ちょっとは反省すればいいんだよ。

リディが優しいからっていい気になっちゃってさ。

他の女と仲良くするような奴にリディはあげないもん」

「そ、それはいろいろな事情が・・」

「じじょー? 人間ってすぐ難しい事を言うよね。

僕そんなの分かんないもん。知らない」


彫刻のような美貌の青年は頬を膨らませ、ぷいっと横を向く。

もしかするとこの方の精神年齢は、リディアーヌの腕に抱かれている時の幼子ぐらいかもしれない。


(こんなガキに力を与えるなよ!)


誰に言えばいいか分からないが、取りあえず胸中で叫ぶ。

もしかしたらこのガキに力を与えたのは神様かも知れないが。


「精霊様、私をリディアーヌ様の元へ連れていってください。

私がリディアーヌ様を説得します」

「えー、やだ」


(こーのーガキ!)


思わず拳を握り締めるが、自分で自分を宥める。


(落ち着け、私。私のこの対応に国の命運がかかっている。

勇者という名の魔王を降臨させない為に、私は落ち着いて事を進めなければならない。

そうだ。婚約破棄はいいが、行方不明はまずい。

そんな事になったら、アンジェリーヌが泣く。

リディアーヌの父と兄がなにをするか分からない。

下手をすれば、リディアーヌの父と兄対勇者という怪獣大決戦だ。

国が滅ぶ)


「精霊様、お願いします。悪いようにはしません。

リディアーヌ様と話がしたいだけです。

私は彼女の友人であり、兄のようなものです。

悩みがあるなら、話を聞いてやりたいのです」

「んー、どうしよっかなー」


精霊は顎に手を当てて考え込む。仕草がいやに人間くさい。

もう一押し、と口を開いたところ、精霊が「あ」と声をあげた。


「セルジュが城に来たよ」


その言葉に血の気が引くのを感じる。

勇者は転移陣などなくてもどこにでも自由に転移できる。

しかし、城に来る時は一応城内にある転移陣に転移し、入城の手続きを取る。

たまに直にリディアーヌの部屋に行ったりするので、入城記録も当てにならないが。


「セルジュはどこに?」

「今は転移陣の所にいるよ。じゃあ僕もう行くね。バイバイ」

「ちょっ、まっ」


焦って精霊の手を掴もうとするも、するりと通り抜け、精霊は消える。

後には顔面蒼白であろう自分と、同じく青い顔の従者だけが残った。



お読みいただきありがとうございます。

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