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元魔王(偽)で公爵令嬢リディアーヌの冒険  作者: 星乃 夜一
嫌われ公爵令嬢 対 攻略対象者!?
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第二十九話

とってもお久しぶりですみません。長めです。

「なあ、リディ。

聖女殿の事なのだが」


勇者と聖女、それにオズウェルを送り出し、静かになった部屋。

向かいの長椅子に腰掛けたヴィクトルは、呆れたような顔をしていた。


「随分と人格が変わったようだが」

「そうね」


私が舞踏会に戻らないと決まった後も、今度は部屋に送る送らないで揉めた。

時間がないのでいいと私は言うが、聖女は部屋に転移出来るから、時間はかからないという。

しかし、聖女を部屋に入れると昨日の二の舞になりそうで嫌だ。

勇者に送ってもらおうとすると、聖女が難癖をつける。

結局、ヴィクトルに送ってもらう事にし、勇者と聖女にはさっさと広間に戻ってもらった。

そろそろ二人のダンスが始まるだろうが、きちんと踊ってくれるか心配だ。

足の踏み合いとかしなければいいけれど。


「昨日までと違いすぎないか?

昨日までは清楚で理知的な方だったと思うが」

「・・・・」


昨日までの聖女を振り返る。

確かに背筋の伸びた清廉な女性だったが、私が頬に触れたら顔を赤らめたり、変な事を言ったりと今の聖女の片鱗を見せていた。


「・・・緊張が解けたのかしら?」

「あれが素だと言うのか?」

「そうだとしたら大変ね」


先ほど聖女が我儘を言ったり勇者と喧嘩したりしていた時に、オズウェルが唖然としていたから、いつもは違うのかもしれないが。


ヴィクトルの顔は引きつっている。

それはそうだろう。

先ほどの短いやり取りで、鏡と花瓶、椅子一脚が破壊されている。

勇者と聖女は口喧嘩もするが、手も出る。

本人達には軽い牽制なのかもしれないが、周りは被害甚大だ。


「リディ、昨夜何があったのか、もう一度話してくれないか?

今度は詳しく。何がどうしてこうなったのか知りたい」

「いいわよ」


私は昨夜の聖女の言動を詳しく話した。

私と聖女の為に多少は誤魔化し、最大も問題である聖女が実は男だったという事も伏せたが、それでも聖女の変態性は伝わったようである。

ヴィクトルは頭を抱えて呻いた。


「なぜお前は変なのを引き寄せるのだ。

それとも、お前に関わったせいでおかしくなるのか?」


今もの凄く不本意な言葉を聞いた。


「どういう意味よ」

「お前に惚れるのは危ない奴が多い」

「・・・意味が分からないわ。

セルジュ様の事を言ってるの?

セルジュ様のどこか危ないと・・」


今までの勇者の言動を思い返す。


「・・・それは置いておいて。

多いって、他にわたくしの事を好きだと思ってくださる方がいるというの?」

「お前、まさか一人も心当たりがないのか?」

「・・・・」


信じられないものを見るような目をするヴィクトル。

いや、そんな目をされても。

心当たり、心当たり・・・。

思い返してみても、誰も浮かばない。


「いないと思うけれど・・・」


ヴィクトルは大きく息を吐いた。

心底呆れたとでも言いたげだ。


「セルジュはたまに言うだろう。

お前は警戒心が足りない。

お前を狙う男はそこらじゅうにいると」

「そんな感じの事は言われるけれど・・・」


はっまさか、本当に私はモテモテなの!

勇者の言う事は大袈裟じゃないの!?


「あれは嘘だ」


嘘なの!?

今一瞬自分がモテると思った事が恥ずかしいわ!

思わずヴィクトルを睨み付けた。


「まあ、正確には嘘じゃない。

かなり大袈裟に言っているだけだ。

お前の事を心配するあまり、セルジュの妄想が多分に含まれている」

「妄想?」

「お前に対して少しでも好意を持った男は全員警戒するな。

それが恋愛という意味ではない好意でもだ。

セルジュの話を聞いているとたまに、リディはそこまでモテねーよ! と突っ込みをいれたくなる」


あ、ひどい。何気にひどい。

アンジェリーヌに言いつけてやる。


「そう思うのなら、セルジュ様をたしなめてよ。

わたくしが言っても聞いてくれないのだから」

「いや、確かにセルジュは大袈裟でやり過ぎだが、セルジュの言い分も分かる。

お前の事を変な目で見る奴も多いし、お前と結婚したいと言って、既成事実を作ろうとした輩もいるからな」

「・・・はあ?」


あり得ない言葉を聞いて、変な声が出てしまった。

既成事実って。

そんなの知らないけど。


「いつそんな事があったの? 誰が?」

「ナボルの第一王子だ」

「ナボルの王子?」


隣国ナボルの王子が使者としてこの国を訪れたのは四ヶ月前。

一度断られた妹姫の縁談を纏める為に、王位継承者が直々に訪れる事でこの国に誠意を見せようとしたらしいのだが、その王子がアンジェリーヌ王女に一目惚れし、昔の同盟の話を蒸し返して結婚を迫ったのだとか。

その話に怒った勇者が王子を国に追い返し、一時はやはり勇者と王女は恋仲なのだとずいぶん騒がれた。


「王子が一目惚れしたのはアンジェでしょ?」

「違う。お前だ」


きっぱりと言われ、当時の事を思い返す。

事の顛末を後で噂で聞き、アンジェリーヌに変な男を近づけてはならないと決意を新たにしたぐらいで、他には特に何もなかった気がする。


「王子とは話をしたけれど、そんな素振りはなかったわ」

「お前が気付かなかっただけだ」


またもきっぱりと言われた。

ナボルの王子は噂と違って紳士的で、ナボルの工芸品の事で話が弾んだ。

ナボルの城にあるコレクションを見せてくれるとか言っていたような。


「ナボルの王子は陛下にリディとの婚姻を申し込んだが、もちろん陛下は断わられた」


当たり前だ。その時すでに私は勇者と婚約していたのだから。

しかし、ナボルの王子は引かなかったらしい。


「何か色々馬鹿な事を言ってリディと結婚させろと言っていたが、こちら側は誰も取り合わなかった。

そうしたらその馬鹿王子は、既成事実を作って認めさせようとしたんだ。

夜這いを計画した」

「え?」


知らない所で貞操の危機であったらしい。


「結果はまあ、リディも知っての通り、激怒したセルジュが王子をナボルへ送り返した。

その際に何があったかは分からんが、王子は廃人同然だったらしい」

「・・・廃人ってどういう事?」

「さあな。よほど怖い目にあったのではないか?

セルジュは少し話をしただけだと言っていたがな」

「・・・・・」


うーむ。

もしかして、魔王状態の勇者とご対面したのだろうか。

怒ると怖いからなぁ。


「とにかく、リディ。

セルジュの言う事は真に受けなくてもいいが、言い分は聞け。

用心するに越した事はないからな」


うーん、勇者の言い分を聞いていると、部屋から出れなくなりそうなのだけれど。


「少し考えてみるわ」

「そうしてくれ。

では、部屋まで送って行こう」


ヴィクトルがすっと立ち上がり、私に手を差し出す。

しかし私は首を振った。


「いいわ。わたくしは一人で戻るから」


ヴィクトルは訝しげな顔をする。

私は笑みを返した。


勇者や聖女には、「部屋に戻る。広間には戻らない」という約束をしたが、すぐに戻るとは言っていない。

あまりこういう手は使いたくないが、そもそも二人が無理を言ったのだから、このぐらいはいいだろう。


ヴィクトルは察してくれたようで、一つ嘆息すると、「早めに戻れ」と言って、去って行った。




広間に行けない代わりに、何人かとこの部屋で話をした。

と、言ってもこっそり舞踏会を抜けてきてもらっているので長話は出来ず、最近の国内情勢や世界情勢で気になっている出来事の話をする。

真面目な話をしているはずなのに、最後には皆、ニヤニヤ笑いを残して去って行く。

今出て行った初老の男性は、「若いっていいですなぁ」と生暖かい笑みを浮かべて出て行った。

私は顔を引きつらせるしかない。


早急に話をしたかった人とは大体話し終え、そろそろ約束通り部屋に戻る事にする。

これほど大きな会はなかなか無く、色々な人に、色々な話を聞く機会なのにもったいないと後ろ髪引かれながら歩いていると、廊下の先にある人を見つけた。


「あら」


先の廊下を横切ったのはヒューだった。

広間からまだ近いところではあるが、一人でどこに行くのだろう。

少しだけ考え、私は後をつける事にした。


「リディアーヌ様、どちらへ?」


曲がるべきところを曲がらずに進む私に、後ろを付き従って歩いていたポリーヌが疑問の声を上げる。


「先ほど、ヒュー・グラフトン様が歩いているのが見えたの。

後をつけてみようと思って」

「グラフトン様の後をお付けになられるのですか?」


ポリーヌは理由が分からないと首を傾げる。


「ご用がお有りなら、わたくしが言付けに参りますが」

「いえ、用っていうわけではなくて、少しヒュー様に興味があるのよ」

「っ、ご興味、ですか?」


ポリーヌは息を飲んだ。

顔が引きつり、一気に青ざめる。


「リディアーヌ様が他の男性にご興味を・・・。

どうしましょう。どうしたら・・・

まずは王妃様にお伝えして、勇者様対策を考えていただかなければ。

それからエティエンヌ様にご報告・・・いえ、そんな事をしたら、あの方の事だから嬉々としてリディアーヌ様と勇者様を会わせないようになさるわ。

そうしたら勇者様は暴走して・・・」


オロオロと落ち着かない様子で呟くポリーヌ。

ちょっと待てい。

なぜ王妃様に報告した上に、兄エティエンヌにまで?


あと、勇者対策ってなんの事?


「ポリーヌ、興味と言っても変な意味ではないのよ?

ただ、どこに行かれるのかと思っただけよ」

「いつものリディアーヌ様でしたら、男性の後をつけるなんて、決してなさいません。

よほどの事情があるか、グラフトン様に特別な想いがおありになるのではありませんか?」


心配そうな顔をするポリーヌ。

鋭い、さすがポリーヌ。

確かによほどの事情ーー女神様からの指令ーーがある。

だが、それは言えない。


「特に事情も、特別な想いもないわよ?

ヒュー様は、いつもジェラルド様や聖女様と一緒にいらっしゃって、お一人で行動される事があまりないでしょう。

だからどちらに行かれるのか、気になっただけよ」

「本当にそれだけでしょうか」


納得した様子のないポリーヌ。

うーん、どうしたものか。


ヒューの後をつけて、状況が許すなら色仕掛けを仕掛けてみようと思っているのだが、興味があると言っただけでここまで心配するポリーヌを連れて行くのはやめた方がいい気がする。


「ねえ、ポリーヌ」

「はい」

「ここからは、わたくし一人で行くから、先に戻ってもらえないかしら?」


ポリーヌは目を見開いた。

ショックと顔に書いてある。


「リディアーヌ様、わたくしを戻されるなんて・・。

まさか本気でグラフトン様の事を好ましく・・・」

「いえ、違うわ。少しお話があるだけよ」

「お話でしたら、どこかのお部屋ででも。

わたくしがグラフトン様をお呼びいたしますので」


オロオロしつつも引かないポリーヌ。

公爵令嬢としては、後をつけるなんて真似よりも呼び出した方が幾分かまともな行動である。

だが呼び出して警戒された中で迫るより、まずは偶然を装って声をかけたい。


「いえ、いいの。様子を見て声をかけたいから。

ポリーヌ、先に戻っていてくれる?

わたくしの部屋に誰か来ても、もう休んだって言って誤魔化しておいてほしいの」

「いえ、リディアーヌ様のご命令でもお一人には出来ません。

わたくしもついて行きます」


決意を込めた目で告げるポリーヌ。

うーん、どうしよう。

一度部屋に戻ってから一人で抜け出す?

しかし、そうしているうちにヒューが広間に戻ってしまったら元も子もない。


「わたくしは一人でも平気よ?

わたくしの事はポリーヌが一番よく分かっているでしょう?」


ポリーヌは私の魔力の事も知っているし、今はいないが、無茶する時は精霊様が守っている事も知っている。

だから、私のやる事はあまり止めないのだが。


「分かっております。

けれど、お一人には出来ません。

リディアーヌ様、わたくしはリディアーヌ様の第一侍女です。

わたくしはリディアーヌ様がどのような道をお選びになられようとも付いて行きます。

そして、リディアーヌ様のお心を第一に考えます。

リディアーヌ様がグラフトン様にお心を寄せるというのであれば、わたくしはしっかりと見守り、その成就に全力を尽くします」


いやいや、待て待て。

私はヒューに心を寄せていないって。


「ポリーヌ、わたくしは別にそういう意味でヒュー様とお話がしたいのではないのよ?」

「分かっております。この事は誰にも言いません。

例え、王妃様に聞かれようとも言いません」

「それはありがたいけれど、ええとね」

「リディアーヌ様、ご安心下さい。

今までわたくしは勇者様肯定派でしたが、今から否定派になります」


はい?

勇者様肯定派? 否定派?

なんだろうそれ、初めて聞いた。


「それはつまり、わたくしとセルジュ様の結婚を反対するって事?」

「いえ、違います。

一介の侍女にそのような大それた事は出来ません。

勇者様否定派というのは、勇者様がリディアーヌ様に不埒な真似をしないよう勇者様を牽制し遠ざける派閥です」

「・・・・・」


え? ちょっと何を言っているのか分からないけど。


「えーと、ちなみにシュザンヌは?」

「勇者様否定派です」

「ロジェは?」

「否定派です」

「ディオンは?」

「結婚反対派、エティエンヌ様の派閥です」

「・・・・」


え? ちょっとびっくり。

侍女のシュザンヌと護衛のロジェが勇者否定派。

もう一人の護衛のディオンに至っては結婚反対なの?

私の身近で勇者との結婚を反対をしているのは次兄のエティエンヌ。

実は長兄のレオポルドもいい顔をしていない。

実は勇者って、私の周りで人気ないらしい。

もしくは信用されていない。


「ねえ、ちなみに勇者様肯定派っていうのはどういう人達?」

「勇者様肯定派というのは、勇者様を信じているからこそ多少の事は見逃し、リディアーヌ様と勇者様がお幸せになられるよう祈っている派閥です」

「・・・・・」


えーと、なんだろう。

多少の事を見逃しっていうところが凄く気になる。


「見逃すというと、肯定派だったポリーヌはどのような事を見逃していたの?」

「・・・・・」


ポリーヌはすっと目を逸らした。

頬を赤らめている。


え? え? どういう事?

その反応は何!?


立ち止まって話していた私達は、とっくの昔にヒューの姿を見失っている。

しかし、それどころではない。


「ポリーヌ、セルジュ様の何を見逃していたの?」


私は覚悟を決めて再度聞いた。

場合によっては勇者との結婚を考え直さなければならない。


「それは・・」

「それは?」


ゴクリと唾を飲む。

何をしていたんだ。


「わたくしがたまに見かけますのは、早朝にリディアーヌ様のベットに腰掛けている勇者様でございます。

勇者様はうっとりとしたお顔でリディアーヌ様の御髪を撫ででおり、リディアーヌ様の御髪を一房取り、口づけを落として・・・・」


んにゃあああああああああああ。

聞かなければ良かったーー!


恥ずかしいわ!

何しているの勇者! 何をしているの!


私の寝室は立ち入り禁止だと言っているのに!

寝顔も見るなと言っているのに!


髪に口付け!? そんな事をしているの!? うっとりした顔で!?


「他には、リディアーヌ様に後ろから抱きつこうか抱きつくまいか葛藤している勇者様を見守っていたり」


え、勇者、そんな葛藤をしているの?

たまに気付くと後ろに立っているのはそういう事!?


「今日ですと、あまりに美しく着飾られたリディアーヌ様に心を奪われ、大胆に露わになった胸元を見て、ぷちりと理性が切れるか切れないかという戦いを見守っていました」


ちょっと、待てい!

それは見守っていては駄目でしょうに。

というか、その時は勇者否定派のはずのシュザンヌも何も言わなかったわ。


「それもこれも、勇者様は決してリディアーヌ様が嫌がる事はなさらないと信じていたからこそ。

しかし、リディアーヌ様のお心が他にあるのであれば、万が一の事も起こってはいけませんわ。

これからは、勇者様の行動はしっかりと阻止していきます」

「そう・・・。よろしくお願いね」


ちょっと衝撃すぎて、他に言葉が出なかった。






お読みいただきありがとうございます。

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