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元魔王(偽)で公爵令嬢リディアーヌの冒険  作者: 星乃 夜一
嫌われ公爵令嬢 対 攻略対象者!?
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第二十四話

今夜の舞踏会、私には一つの目標がある。

まずは五人の攻略対象者の内、一番攻略が簡単だという騎士ヒューを攻略、もしくは攻略する為の足掛かりを作る事だ。

その為、今日の支度はとても気合を入れた。


選んだドレスは胸元や背中が大きく開いた薄紫のドレスだ。

薄紫の布に紫の刺繍と宝石があしらわれ、肌の露出は多いが、色合いとデザインの為上品なドレス。

髪は結い上げて、首や背中が綺麗に見える様に。

化粧は薄化粧に見えて、ポリーヌの技術により普段の五割増し美人。妖艶にも儚げにも見えるという出来だ。

ポリーヌ渾身の作。今夜の私は一味違う。


部屋に迎えに来た勇者は私を見て、目を見開いた。

あまりに動かないので心配していると、我に返ったらしい勇者は美しい笑みを浮かべた。


「リディアーヌ、今夜のあなたは他に例えようもなく美しい」


勇者はこちらに歩み寄る。

勇者は私とパートナーという事で、紫の夜会服を身に纏っている。

紫を纏う勇者は初めて見たが、なんというか、色気だだ漏れ。

今夜の夜会では失神する令嬢が出そう。


「ありがとう。セルジュ様もとても素敵です。

こんなに素敵な方にエスコートしていただけるなんて、わたくしはとても幸せね」


すぐ側に立った勇者を見上げ微笑む。

勇者は私の手を取って甲に口付けた。


「リディアーヌ、今夜のあなたは本当に綺麗だ。

まるで甘い蜜を持つ一輪の花」

「ふふ、ありがとう。お上手ね」

「本気で言っているんだ。

美しい花に吸い寄せられて、多くの者があなたに集うだろう」

「どうかしら、そのような事はないと思うけれど」


勇者の褒め言葉はいつも大袈裟なので、話半分に受け流す。


「その花が甘い蜜を持つと知ったら、虫は花から離れない」

「甘い蜜を持つ花はたくさん咲いております。

皆様、自分だけの花を探しに行くのでしょう」

「あなたという花が格別に美しく、甘い蜜を持っていたら?

美しく甘美な蜜を持つ花。それを得ようと虫は花の周りを飛び回り、奪おうとする。

許せない」


うん?

ただ褒められているのだと思っていたが違うらしい。

勇者は私の手をぎゅっと握っている。


「リディアーヌ、今夜は虫がたくさんいるんだ。

他国から来た厄介な虫もいる」


それは、聖女一行や外交官達の事だろうか?

他国の要人を虫って。


「リディアーヌは俺に、今夜の舞踏会では多くの女性達と交流し、ダンスに誘うようにと言っていた」

「ええ、ここまで大規模な舞踏会はなかなかないですし、セルジュ様は皆様の憧れですもの。

皆様の夢を叶えて差し上げて下さい」

「その間、あなたは?」

「わたくし?」


もちろんヒューに近付き、色仕掛けを試してみるつもりだ。

出来ればサミュエル達とも話をしたい。


「そうですね。多くの方がいらっしゃっていますから、いろいろとお話をさせていただこうと思っています」

「話だけではなく、踊るのだろう。・・・俺以外と」


あ、これはあれだわ。

微笑んでいるけれど、怒っている。

原因は肌を出したデザインのドレスか。

このドレスは勇者の許容範囲を超えているらしい。

このぐらい普通だと思うのだけれど。


「ええ、何人かの方と踊るとは思いますが」


勇者の目がすっと細められる。


「誰とも踊るな、というのが難しいのは俺も分かっている」

「ええ、それは無理です」


前だったら、誰とも踊るな話をするなと言っていたのに、勇者も成長してくれたらしい。

ほっとする。


「だから、舞踏会に出ないでほしい」

「・・・・」


成長してなかった。

笑みを消し、まっすぐに私を見下ろす勇者。

その目は本気だ。


これはいつもの展開だと、勇者を説得するのにとても時間がかかるし、下手をすると着替えなくてはならない。

しかし舞踏会の開始まで時間がない。

支度をし直すとしたら完全に遅れてしまう。


私は目を伏せた。


「セルジュ様はお一人で行かれるのですね。

そう・・・。わたくしではあなたの隣に立てないのね」


意識して沈んだ声を出す。握られた手から勇者の動揺が伝わった。


「セルジュ様の隣には、もっと・・・華やかで美しい方がお似合いね。

セルジュ様とわたくしでは月とすっぽん。

わたくしは池の中であなたを見上げる事しか出来ないのね」

「なっ、リディアーヌ」


勇者を見上げると、勇者は目を見開き、口を開けたままだった。

動揺して二の句が継げないらしい。

私は再び目を伏せる。


「わたくしでもセルジュ様の隣に立てるようにと着飾りましたが、やはり駄目ね。

スッポンですもの、着飾っても亀は亀だわ。

このような素敵なドレス、わたくしには似合いませんものね」

「違う! リディアーヌはとても美しい。

あなたほど美しく魅力的な女性はいない!」

「いいえ、いいのです。

すっぽんが隣で着飾って笑っていたらセルジュ様にも申し訳ないわ。

わたくしは池に戻りますから、セルジュ様はどなたか別の方をお連れ下さい」


ごめんね、すっぽん。

別にあなたを貶めたい訳じゃないからね。

そんな事を考えていたら、勇者に痛いくらい強く腕を掴まれた。

動揺して手加減を間違えたらしい。


「リディアーヌ、俺はあなた以外の女性を連れて行くつもりはない」

「ではわたくしをお連れ下さいますか?」


見上げれば、勇者は眉間に皺を寄せ口をへの字に曲げている。

まだ了承する気はないらしい。


「わたくしはセルジュ様の隣には立てないのでしょうか」

「俺はあなたの側にいつも居たい。

片時も離れたくない」

「では」

「でも、駄目だ。あなたを人目に晒したくない」


目を閉じ首を振る勇者。

いつもの私であれば、ここまで拒否されたら諦める。

勇者が私の事を心配して言っているのを知っているから。


しかし、勇者の過保護に付き合っていたら何も出来ないし、何より私には女神様の物語を進める使命がある。

私は腕を掴む勇者の手に自分の手を重ねた。

目を見つめ、意識してゆっくりと言葉を紡ぐ。


「セルジュ様。あなたは、わたくしがあなたの側にいる事を、許しては下さらないの?」


勇者は目を見開き固まった。

うん、私も恥ずかしい。

正面から見上げて、この台詞。

どれだけ自意識過剰な人間のする事だろう。

勇者も呆れているに違いない。

いたたまれなくなって、また目を伏せた。


勇者は呼吸もせずに固まっている。

さすがに少し心配になる。

見上げると綺麗な青い目と目が合った。

勇者の喉がゴクリと鳴る。


「セルジュ様?」

「リディアーヌ」


勇者は私の名を呼ぶと眉間に皺を寄せ、苦しそうに息を吐く。

目は爛々と輝き、怒っているのか苦しんでいるのか、どちらと判別がつかない顔だ。

勇者の手を撫でたら、勇者はさらに苦しそうな顔をして、私の手を外し後ろに下がった。


「セルジュ様?」


声をかけるが、勇者は片手で顔を覆って背を向けた。


「リディアーヌ、すまない。

少し出てくる。すぐ戻るから待っててくれ」

「え? でも」


言うや否や、勇者は魔法陣を発しこの場から消えた。

顔が赤かった気がする。


「やり過ぎたかしら。怒ってしまったわね」

「リディアーヌ様」


反省していると、後ろから呼ばれた。

振り返ると、そこにいたのは私の侍女達だ。

一人はポリーヌ。何やら赤い顔で俯いている。

もう一人は十八歳の赤毛の女性、明るい性格の侍女シュザンヌ。

いつもけらけら笑ってはポリーヌに注意されている彼女は、なぜかハンカチを取り出し、涙を拭っている。


「リディアーヌ様、今のはあまりにむごうございます」


シュザンヌの言葉に私は頷く。


「ええ、やり過ぎてしまったわね。

セルジュ様、怒ってどこかに行ってしまったわ。

謝ったら許してくれるかしら」

「リディアーヌ様、勇者様は怒られたのではございません」

「え?」

「いろいろなものが限界を超えたのでしょう」


意味が分からずに首を傾げると、シュザンヌはまた涙を拭う。

しかし実際には泣いていない。ただの泣き真似だ。


「リディアーヌ様、勇者様は粘着質なでストーカーで、常軌を逸した目をしていて、いつリディアーヌ様に襲いかかるかと、護衛も私達も警戒しております」


いきなりなんだ。

それは少し言い過ぎではないだろうか?

勇者は大体の時は紳士よ?


「しかし、いつもギリギリのところで踏みとどまり、その獰猛な様子をリディアーヌ様に微塵も見せぬその笑顔と精神力は敵ながら賞賛に値すると、ロジェも私も常々申しておりました」


なんか、いろいろ突っ込みどころが多すぎて何も言えないけれど、勇者はいつからシュザンヌ達の敵になったのだろう。


「リディアーヌ様の事を考えて堪え忍ぶ勇者様には、いっそ憐憫を覚えます」

「えーっと、シュザンヌ?」

「ええ。リディアーヌ様に会えずにすごすごと帰っていく姿を見て『ふっ、ざまあみやがれ』とロジェと笑い合いましたが、ここまで悲惨だと、もう笑えません」

「シュザンヌ? 何を言っているの?

『ざまあみやがれ』ってどういう意味?」


シュザンヌが自分の世界に入っているのでポリーヌに目を向けると、ポリーヌは首を振った。

ポリーヌにも分からないらしい。

シュザンヌは続ける。


「常々、ロジェと共になんとか勇者様にひと泡吹かせてやれないものかと画策しておりましたが、さすがはリディアーヌ様。

勇者様にこれでもか、という精神的打撃を与えられました。

私もリディアーヌ様を見習い、日々精進したいと思います」

「何の精進?」


首を傾げるが、シュザンヌは深々と頭を下げたままだ。

ポリーヌは先ほどまで赤い顔をしていたが、すでにいつもの落ち着いた様子に戻っている。


「リディアーヌ様、どう致しましょう?

勇者様がいないとなるとどなたか他の方にエスコートをお頼みしなければなりません」

「勇者様はすぐに戻ると仰いましたから待ちましょう」

「いえ、勇者様はしばらく戻らないと思います」


訳知り顏で宣言したのはシュザンヌだ。


「体を落ち着け、心を落ち着けてからいつもの害のない微笑みを浮かべられるようになるまで相当の時間を要すると思います。もしかしたら舞踏会が終わってしまうかもしれません」


そんなに気分を害してしまったのか。

やはり慣れない事はするものではない。

勇者が戻って来たらきちんと謝ろう。




お読みいただきありがとうございます。

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