表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元魔王(偽)で公爵令嬢リディアーヌの冒険  作者: 星乃 夜一
嫌われ公爵令嬢 対 攻略対象者!?
24/34

第二十二話

本日四話目です。

ふと、私は目を覚ました。

窓にはカーテンが引かれているため部屋は薄暗いが、外が明るいのは分かっている。

もう起きる時間だろうか。

しかしそう思いながらも、私はまた目を閉じ大きく息を吐いた。


女神様が考える物語。

聖女を主役とした物語。


聖女一行を聖女と仲違いさせて、また仲直りさせるなんて、難易度が高すぎではないだろうか。

人の心ってそんなに簡単に動かせるの?

魔法薬作りが得意だという西の大魔女に会って、惚れ薬でも作って貰おうか。


再度溜め息をつく。


「リディアーヌ」

「!」


いきなり後ろから聞こえた声にビクッと体を震わせた。

横向きに寝ている私の後ろから聞こえた声。

仰向けになりそちらを見ると、ベットに腰掛けた勇者と目が合った。


「セルジュ様」


勇者は麗しい顔に憂いを浮かべて、私を見下ろしている。


「リディアーヌ、さっきから溜め息をついているが、どうした?」

「ど、どうしたって・・」


どうしたって、言われても答えられる訳がない。

女神様に言われて聖女の仲間を唆す為に、惚れ薬を手に入れようとしてました、なんて。


「別に何も・・」

「何も?」


勇者は私の顔に手を伸ばした。

反射的にピクッと体が動く。

勇者の手は私の頬の辺りにかかっていた髪を優しく払い、頬を撫でていった。


「そんなに辛そうに溜め息をついているのに?

何か心配事があるなら言ってくれないか?」

「いえ、別に、心配事なんて・・・」


えーと、どうすればいい?

心配している勇者をどうやって誤魔化せばいい?

寝起きで頭が働かない。


「リディアーヌ」


勇者の手が再び頬に触れ、親指の腹で頬を撫でる。

勇者を見上げていると、勇者は何かを堪える様に眉間に皺を寄せた。


「セルジュ様?」


勇者の名を呼ぶと、勇者は目を見張り、すぐに怖いくらい真剣な顔で私を見下ろす。

勇者の瞳に魅入られ動けなくなった私だが、はたと気付いた。

ここは私の寝室だ。


なぜ、勇者がここにいる?


勇者は私を見つめ、上体を屈める。勇者の顔が近付くがーー


「セルジュ様」


名を呼ぶと、勇者はピタリと止まった。


「ここで何をしているのです」


睨みつけると、勇者は目を泳がせた。

じーっと見ていると、勇者は私の頬から手を離し、上体を起こした。

私も起き上がる。


なおも目を泳がせていた勇者だが、立ち上がり、側にあったショールを私の肩にかけてくれた。


「ありがとう」

「いや」


勇者はバツが悪そうにまたベットに座る。

私は勇者に胡乱な目を向けた。


「セルジュ様、もう何度も言っていますが、わたくしの寝室に入ってはいけません」

「悪かった」


勇者は珍しくすぐに謝罪をした。

目を伏せ、反省した様子を見せる勇者。

しかしそれに騙されてはいけない。

甘やかすと付け上がるのだ。


「本当に分かっていただけた?

分かっていただけたのなら、寝室から退出して下さる?」

「・・・・」


勇者は無言で私の髪に手を伸ばし、その髪を私の耳にかける。

勇者の手が耳に触れて、くすぐったい。


「リディアーヌ、俺は今日からここで寝ようと思う」

「なっ」


全然分かってないじゃない!

その上、何を言っているの!?

結婚前の男女が同じ部屋で寝るなんて許されない。

勇者だってそれは分かっている筈なのに、そんな事を言うなんて。


「セルジュ様、なぜその様な事を・・」

「聖女対策だ」

「聖女対策?」

「ああ。聖女はどこにでも転移できるうえに、俺の結界をすり抜けるようだ。

対して、俺は聖女の結界に阻まれる。

聖女の結界内に転移出来ない」

「そうなのですか?」


そういえば、昨日そんな事を言っていた気がする。

勇者と聖女。どちらも神に選ばれたといえ、その能力は違うらしい。


「ああ、聖女の結界を破るにはそれ相応の魔力をぶつける必要がある」


へー、そう。それは大変だ。


「昨日聖女を潰そうとして分かったんだが、聖女の本気の結界を破るには時間がかかるし、放った魔力の余波で荒野に大穴が開いた」

「・・・」

「ここでやると、城が崩壊すると思う」

「・・・・・」

「聖女はリディアーヌを諦めていない。

結界を張ってリディアーヌを隠そうとするかもしれない。

その時は容赦しないが、結界を破るには時間がかかるから、出来れば聖女に攫われる事態は避けたいんだ」

「・・・・少し、待って」


私は勇者の言葉を遮った。

いろいろ突っ込みどころが多すぎて、ついていけなかった。


勇者と聖女の能力が違う。これは分かった。

勇者が聖女の結界を破るには魔力をぶつける必要がある。これも分かった。

しかし、ここからだ。

聖女を潰すって言った?

どういう意味? いえ、聞きたくないのでそれは置いておこう。

結界を破る為に荒野に大穴を開けたの?

それをここでもやる気なの?

しかも、聖女が私を攫うかもしれないって、勇者、何を言ってるの?

相手は聖女よ?

さすがにそれはないでしょう。

・・・多分、ないよね。

聖女だもの。

魔王を倒す為にこの世界に召喚された尊い方だ。

例え実情があんなでも、召喚された理由が女神様の気まぐれでも、聖女は聖女だ。


それを言おうとして勇者に顔を向けると、視界の端に光る物が現れた。

見れば、それは勇者が現れる時に見かける魔法陣と似た様な物。

勇者は鋭く舌打ちすると、立ち上がり構えた。


「リディアー・・」


聖女らしき声が聞こえた。

しかし勇者がその人物に向かって電撃を放ったのでよく分からない。

電撃を受けた人物は部屋の向こうに吹き飛んだ。


「セルジュ様!?」


私は驚いて目を見開く。

勇者ってば出会い頭に何をしているの!?

まず相手の話を聞こう。

そして部屋の中で電撃はやめて!!


吹き飛んだ人物は壁に叩きつけられて、床に落ちた。

しかしなんでもない様に起き上がり、頭をさすった。


「痛いじゃないですか」


恨みがましい声を上げるが、怪我はない様だ。

女神様、この人、何をやったら傷がつくの?


「チッ」


勇者がまた舌打ちした。


「この程度では効かないか。

しかしここでこれ以上やったら部屋が傷付くな」


気にするのそこ!?

有り難いけれど、人命優先よ!


「セルジュ様、落ち着きましょう。

まずは話し合いを・・」


勇者の服の裾に手を伸ばす。

勇者は何かに気付いた様に、勢いよく振り返ると私にシーツを巻き付けた。


「・・・・」


何も見えない。

何がしたいの?


「あー、酷いです。リディアーヌ様を隠してしまうなんて。

私だって、寝起きのリディアーヌ様を見たいです!」

「誰が見せるか!」


聖女の不満げな言葉と勇者の返し。

そう言うことか。

二人は女神様に選ばれた尊い方で、人々の羨望を集める存在。

その二人がこんなくだらない事で言い合い。

皆に申し訳がない。


「そもそも、何で勇者がここにいるんですか?

ここはリディアーヌ様の寝室ですよ!」

「分かっているなら来るな。

お前が来ていい場所じゃない」

「私の事じゃなくてあなたの事を聞いているんです。

なぜあなたがここにいるんですか!」

「俺はリディアーヌの婚約者だ。

寝室にいて何が悪い」


勇者、開き直らないでよ。

いくら婚約者でも悪いに決まっている。


「まさか!」


聖女は息を飲んだ。


「すでにそういう関係!?

勇者、あなたは無理矢理リディアーヌ様を・・」

「っ!」


勇者が言葉に詰まった。

私はシーツをがばりと剥がし、聖女に反論した。


「何を仰っているの! あなたは!

わたくしと勇者様は婚姻前です。

その様な事はありません!」

「ああ、よかった。

てっきり野獣に襲われたのかと」

「変な事を仰らないで!」


何を言っているのだ、この聖女。

呆れて物が言えない。

なぜこうも下世話な事ばかり。

そもそも勇者は、人の寝顔を見る趣味はあれど、そんな事なんて考えてもいないのに。


勇者を見ると勇者の目が泳いだ。

何その反応?


「リディアーヌ様、どちらにしても、そんな男の側にいては危ないですよ。

こっちに来て下さい」


聖女は諭す様に言う。

どの口がそれを言うのだ。

私はベットから降りると、勇者の後ろに身を隠した。

勇者の後ろから顔を覗かせて、聖女を睨み付ける。


「あなたの側の方がずっと危ないわ。

二度とこの部屋にも、わたくしの側にも来られないで」

「・・・」


聖女は真顔で私を見つめた後、でれっと笑み崩れた。


「可愛い〜。リディアーヌ様の怒った顔、超可愛い」


話が通じない。

どうしようと思って勇者を見上げる。

目が合うと、勇者はさっと目を逸らした。

だからなんだ。さっきからその反応。


聖女に視線を戻すと、何やらクネクネしていた。

美しい人が笑み崩れてクネクネ。とっても残念。

聖女がどんどん壊れてる。

ちゃんと戻るのだろうか?


「聖女様、真面目にお聞きください」

「えー、リディアーヌ様。

なぜまた聖女呼びに戻っているんですか?

昨日はユーリと呼んでくれたじゃないですか」

「・・・」


指摘されて黙り込む。

距離を取りたいから名前も呼ばない様にすると言ったら納得するだろうか。


「リディアーヌはお前の名など呼びたくないんだ」

「なぜですか?」

「リディアーヌはお前と関わる気はない。

だから呼ぶ必要もない。

分かったか、この変態野郎」


勇者は聖女に言葉を吐き捨てた。

変態。しかも野郎。

野郎って確か男性を表す言葉ではなかっただろうか?

うん。聞かなかった事にしよう。


聖女はムッと口を尖らせた。


「私は変態じゃありません!」

「変態だろうが!

昨日荒野でお前が言っていた言葉の数々を思い出してみろ!」

「あれは・・、リディアーヌ様の可愛さを思い出して、ちょっと暴走してしまったというか・・」

「暴走だろうがなんだろうが、考えているってことだろう!」

「仕方ないじゃないですか!

あなただって考えてるくせにっ!」

「なっ、俺は・・」


勇者が口ごもった。

どうでもいいけど、なんの話?

人をダシに盛り上がらないで欲しいのだけれど。


「いいじゃないですか、妄想するくらい!

あなただって、本当は・・」


勇者は聖女の言葉を遮って、青い光を放った。

聖女はヒョイっと避けた為、それは壁に当たり、壁に大きくヒビを入れた。


「・・・・」


また部屋が損壊。

居間に続き、今度は寝室。


「セルジュ様・・」


勇者を呼ぶと、勇者は振り返って私の肩に手を置いた。


「リディアーヌ、なんでもない。

ちょっと、聖女を黙らせてくる。

壁は後で直す」


勇者は返事を待たずに駆け出し、聖女と共に消えた。


「・・・・」


この分だと、本当に城が崩壊する事もあり得そうで恐い。





お読みいただきありがとうございます。

また間あきます。

申し訳ございません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ