第二十一話
本日三話目です。
「女神様、次をお願いします」
私は瞬時に体制を立て直した。
もう一つの物語は絶対に嫌だ。
「最後はジェラルド王子」
「はい」
しかし、女神様はすぐに続きを話さず、困った顔で私を見る。
なんだろう?
「この子、困った子でね。
聖女に落ちていないの。
だから、この子に関しては、一度聖女に惚れさせてから奪って、また返してちょうだい」
「なっ」
なんという無茶振り・・。
もう私は開いた口が塞がらない。
「なんかね、聖女が男だって気付いちゃってるみたいなのよ」
「・・・」
女神様、聖女が男だって認めちゃってるけど。
「聖女とジェラルドは仲がいいことはいいのよ。
だけど、それは男同士の友情というか、悪友というか。
あの二人って似たところがあるから」
「似たところ、ですか?」
聖女は清楚な美人。
ジェラルドは穏やかで爽やかな美男。
二人でいるととてもお似合いの二人だけれど。
「昨日の聖女を思い出して。
あの子、もっと痛めつけてと言いながら、あなたに逃げられないと脅していたでしょう?」
嫌な事を思い出させないでほしい。
私は少し先にいる真っ赤なウサギに目をやった。
真っ赤だけど可愛い。ふわふわ。触りたい。
ウサギを見て現実逃避としていると、そのウサギが頭上から降って来た。
「った!」
ウサギは私の横の長椅子に落ちると、怯えた目を私に向けて去って行った。
ああ、せめてひと撫でさせて。怯えないでー。
「リディアーヌ、戻ってきなさい」
「はい」
私はしぶしぶ女神様と向き合った。
「昨日の聖女を見て分かったのよ。なぜ聖女とジェラルドが仲がいいのか。
似た者同士だったのよ。
聖女はね、Mかどうかは分からないけど、確実にS気質を持っているわ。
あなたを虐めるのが楽しいみたい」
「虐めるのはわたくしの役ですが」
「そうね。頑張りなさい。
聖女がSに目覚めちゃったのはあなたの所為なのだから、責任をとって」
私は長椅子に手を付いて項垂れた。
無茶振りの上に責任。
「ジェラルドの話に戻るわよ」
「・・はい」
そろそろ本気で私の気力がなくなりそうなのですけど。
しかし女神様は構わず続ける。
「彼は第三王子なんだけど、産まれた時の占いで災いをもたらす存在と言われて、地方領主に預けられたの」
王宮から遠ざけられた王子。
その事は知っていたけれど、理由が占いだとは知らなかった。
「十歳の時にそれは覆るのだけど、それまでいい扱いを受けなかったから、急に手の平を返した王や王妃、貴族達に不信感を持っているのよ。
だからあまり城に寄り付かないのだけれど、能力はとても高いの。
なんでも出来る。
先見の明もあって、ノアを鍛えたり他にも優秀な人材を味方につけて、王宮に送り込んでいるの。
それに国内の至る所に味方や崇拝者がいるわ。
もし彼が反乱を起こしたらメイユールはすぐに彼の物ね」
女神様、そういう事は口に出さないで下さい。
「何度も命を狙われたけれど、彼は魔法も使えるし、剣も使える。
暗殺者はその場で返り討ち。
黒幕は悪事を暴いて、正義の名の下に成敗。多少話を盛ってね。
今では彼に逆らう人間はいないわ。
王でさえも手が出せないわね。
敵に回したらどんなえげつない方法で潰されるか分からない。悪魔の様な男よ」
「・・・・」
そんな人を相手に私にどうしろと?
目を付けられたら、人生終わりの様な気がするけれど。
「彼は誰の事も信じていないけれど、やっぱり寂しいのよ。
誰か、絶対に自分を裏切らない人を探しているの。
だから、心の底から信じさせることが、落とす道よ」
もう何も言えない。
出来る気がしない。
ジェラルドを聖女に惚れさせて、奪って、また返すの?
まずジェラルドを聖女に惚れさせるって、ジェラルドは聖女が男って知っているのだから、男に惚れさせなければならないのでしょ。
ジェラルドってそこのところどうなのだろう。
「ジェラルドは女好きよ。
毎晩女を取っ替え引っ替え」
私はまた長椅子に崩れ落ちた。
聞きたくない聞きたくない。
女神様、せめて言葉を選んで。
「まあね、さすがにこれは無理かなって思うのよ。
だから、あなたに朗報よ!」
女神様は輝く様な笑顔を浮かべた。
「ジェラルドの性癖を満たすのでもいいわ」
「せ、性癖・・」
「あの子、ドSなのよ。俺様ドS」
何か、また聞き慣れない言葉が・・。
「一応ね、聖女は一通りジェラルドに虐げられたから、それで良しとしてあげるわ。
だから今度はあなたが獲物になる番」
「獲物・・」
「そう、彼のドS魂を刺激して、あなたを標的にさせるの。
多分、これはとっても簡単よ。
二人きりで話せば、すぐに向こうはその気になるわ」
「・・・・」
女神様、それはどういう意味ですか?
もう泣きそう。
女神様はニヤリと笑った。
「そうそう。その顔よ。そそるわね。
ただやり過ぎは禁物よ。
聖女の方に戻らなくなるから。
悪魔に目を付けられて、死ぬまで監禁されたくないでしょう」
か、監禁。
物騒過ぎる。
今のうちにどこかに逃げたい。
「逃げても勇者に捕まえさせるから無駄よ」
そうだ、勇者。
勇者ならば、私が虐げられていても助けてくれる筈。
「上手くやらないと大変よお。
魔王な勇者と悪魔な王子のガチ対決を見たい?
国が滅ぶわよ」
「・・・・・」
私はそっと目を閉じた。
気を失いたい。
その対決って世界の終わりへの第一戦では?
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