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元魔王(偽)で公爵令嬢リディアーヌの冒険  作者: 星乃 夜一
嫌われ公爵令嬢再び!? 対聖女
19/34

小話 近衛騎士ロジェから見た勇者とリディアーヌ

以前に第三者視点の話をリクエストいただきましたので書いてみました。

近衛騎士ロジェ視点。

時間は勇者とリディアーヌが婚約した少し後です。どうぞ。

俺はその日、近衛騎士団の中でも王族警護を担当するアルチュセール隊の隊長に呼ばれたと聞いて、嫌な予感に身を震わせた。

近衛騎士団の中で、アルチュセール隊は別格だ。

王族や要人の警護を担当するアルチュセール隊はエリート中のエリート。

容姿、実力、身分を兼ね備えた者が所属する隊で、俺のような何の力もない子爵家の三男坊には縁のないところだ。


いや、縁はある。

この間、アルチュセール隊の馬鹿を殴った。


その事で叱責、降格。まさか除隊処分だろうか。

その時は相手の馬鹿の悪行も言い連ねてやる、と意気込んで向かえば、まさかのアルチュセール隊への移動命令。

まさに晴天の霹靂。

俺に何が起こった。


アルチュセール隊の隊長は、王弟の次男。

父親に似ず、焦げ茶色の髪に甘い顔立ち、スラリとした姿の貴公子だ。

剣を持つより令嬢とダンスを踊っている方が似合う男だが、その容姿に油断すると大変痛い目を見るらしい。

前に、彼の妹のリディアーヌ様の悪口を言った将来有望な騎士は、一年中氷に閉ざされた辺境に飛ばされた。

しかも自分から行かせて下さいと言わせるほど、陰険に責め立てられたとか。

噂ではあるが恐ろしい人物だ。


その人物から言われた昇格。

何の罠だ、と警戒する。


言い渡されたのはリディアーヌ様の専任騎士。

俺は心の中で思わず呻いた。


リディアーヌ様といえば、ここのところ名を聞かぬ日はないほどの渦中の人物だ。


フランシス王子の婚約者として将来王妃となるはずが、王子の死により表舞台から姿を消した。

しかし半年前、王宮へ居を移した彼女は、王妃となるべく教育を受けたとは思えぬ奔放ぶりで、王女から勇者を奪おうと躍起になっている嫌な令嬢だ。

かと思えば、庭にて静かに本を読む淑女でもある。


皆がその行動に困惑していたが、先日の精霊様による試練の後、リディアーヌ様は勇者と婚約した。


皆がリディアーヌ様に、王女から勇者を奪い取ったのだと敵意を向けたが、王女はランツ侯爵の嫡男ヴィクトル様と婚約。

しかも周りが唖然とするほどのイチャつきぶり。

独り者には目に毒だ。


訳の分からぬ展開。

その渦中のリディアーヌ様には昔からの専任騎士が一人いたが、勇者の婚約者という立場柄、騎士が増やされたのだ。

がーー


リディアーヌ様の騎士となった者達は、すぐにその任を解かれていく。

噂ではリディアーヌ様からの扱いに耐え切れず、降格でもなんでもいいから移動させてほしいと願うのだそうだ。

任を解かれた者達は決して口を割らず、それはあくまでも噂だが、王族の怖ろしい話として、皆に広まっている。


その任に俺が抜擢された。

つまりは嫌がらせだろうか。自分から辞めろと言わせる罠か。

しかし、俺は受けてやる。

誰が辞めてやるものか。


俺はその任を受けた。


新しく自分の上司になったアルチュセール隊の隊長ーーエティエンヌ様はリディアーヌ様の元に案内する前に言っておく事があると言った。

俺はなんでも来いと身構えた。

エティエンヌ様が真剣な顔で言ったことはーー


リディアーヌ様に勇者を近付けるな、ということだった。

どんな事をしても阻止しろと言う。


????


俺は理解が出来ずに首を傾げた。

リディアーヌ様は勇者の婚約者だ。

近付けるなというのは無理だ。

それにリディアーヌ様が勇者に迫って婚約に漕ぎつけたのだろう。

勇者を止めてもリディアーヌ様が向かっていくのではないのか?

自分に繋ぎ止める為に。


ふと顔を上げると、微笑みを浮かべながら、射殺す様な目で俺を見るエティエンヌ様がいた。

その顔を見て戦慄が走る。

殺される、と思った。


なんとか、誤魔化してリディアーヌ様の部屋に向かえば、そこには優しく微笑む淑女がいた。


焦げ茶色の髪を結い上げた、目と同じ緑のドレスを纏った女性。

顔立ちは兄に似て甘く整った顔だが、若い女性らしい明るい可愛さがある。

こんなに近くで見たのは初めてだが、他の奴らが言っていた意味が分かった。

王女の様に完璧な美貌は、畏れ多くて近寄れないが、リディアーヌ様はどこか隙がある。

俺でも相手をしてくれるんじゃないかなーっていう錯覚を覚える。


魅入られた様に見つめていると、エティエンヌ様に冷たい目を向けられた。

片膝を付き、首を垂れる。


「リディアーヌ様の専任警護の栄誉を賜りました、ロジェ・アメデ・ポドワンと申します。

誠心誠意、務めさせていただきますので、よろしくお願い申し上げます」

「よろしく頼みます、ポドワン」


言葉をかけられ、俺は部屋を辞す。

特に何もなかった。

突然の訪問に罵られた訳でも、身分の低さを蔑まれた訳でも、ましてや色目を使われるということもない。

普通の令嬢じゃないか?

むしろいい方じゃないか?

いやいや、これからだ。

俺は気を引き締めた。



✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎



三日後、俺は勇者に遭遇した。

王宮内を歩いていると、前から、やたらとキラキラした人物がやってきた。

金色の髪、青い目、人を圧倒する美貌。

普段、魔物退治などで外にいるはずなのに、なぜそんなに肌が白いんだ。

まるで深層の令嬢の様だ。

長身で、彫像のような完璧な肢体に纏うのは、なんてことのない藍色の丈の長い上着に茶のズボン。

それなのに恐ろしくキラキラだ。


俺は主の婚約者である勇者に挨拶をしようと構えた。

勇者は向かってくる時から俺から目を離さず、睨みつけている。


俺、何かしたか?


「勇者殿、ご挨拶が遅れました。

私はリディアーヌ様の専任騎士となったロジェ・アメデ・ポドワンと申します。

お見知り置きを」


勇者は、勇者とはいえ平民だ。

だが、神に選ばれた人で、王の客人。

今は王の姪の婚約者。丁寧に接する。


「俺はセルジュ。リディアーヌの婚約者です」


知っている。この城にいて、勇者を知らぬ者はいない。

なぜ、リディアーヌ様と婚約するに至ったのかは、知らないが。

挨拶も済んだので行こうとしたら、勇者に呼び止められた。


「ポドワン殿」

「なんですか?」

「あなたはエティエンヌ様の部下ですよね」

「そうです」

「あなたも俺をリディアーヌに近付けるなと言われましたか?」


俺は言葉に詰まる。

エティエンヌ様の言った事は一応気に留めているが守る気はあまりない。

理由が分からないからだ。

婚約をしている二人を近付けるなとはなぜだ。


「理由は聞きましたか?」

「いいえ」


答えると、勇者は酷薄に笑った。


「エティエンヌ様は俺とリディアーヌの結婚を反対しているんですよ。

俺の事が嫌いなんです」

「・・・・」


聞きたくなかったな。

将来の義理の兄弟の確執か。


「だけど、俺は諦めるつもりはないので、エティエンヌ様からどんな命令を受けていたとしても俺の邪魔はしないで下さい」

「・・・・」

「それと言っておく事があります」

「はい」

「リディアーヌを見ないで下さい」

「は?」


俺は間抜けな声を出す。

何を言っているんだ、勇者は。

護衛対象を見ない騎士がどこにいる?


「リディアーヌを見ないで下さい。話しかけるなど以ての外だ。

あなたはリディアーヌを邪な目で見る男達をとにかく排除して下さい。

あなたも含めて」

「・・・」


これは喧嘩を売られているな。

俺はふんっと鼻で息を吐いて笑った。


「俺はリディアーヌ様の護衛で、エティエンヌ様の部下だ。

あなたに命令される謂れはない。

だが、これだけは守ってやるよ。

リディアーヌ様を邪な目で見る男達を排除する。

あなたも含めてな」


挑発する様に言うと、勇者は目を細めた。


「俺はリディアーヌの婚約者だ」

「俺には関係ないね。

リディアーヌ様の害になるものを排除するだけだ」

「俺がリディアーヌに害を与えると?」


勇者は俺を睨み付け、凄む様に言った。

あたりがうっすらと寒くなってきた。

なんだこれ?


「そんな事は言っていない。

あなたはリディアーヌ様の婚約者なら、それらしく振る舞えばいい。

こんなところでただの護衛に目くじらを立ててないで、もっと手柄を立てればいい。

リディアーヌ様に相応しいように」

「・・・・」


勇者は俺をじっと見下ろすと、


「いいだろう。あなたのリディアーヌに対する忠義を認めよう。

だが、俺の言葉を忘れるな。

リディアーヌに馴れ馴れしくしたら、俺はあなたに何をするか分からない」


言葉を残し、去っていく。

俺はその後ろ姿を呆然と見つめた。


なんだ、あれ?

勇者ってあんなのなのか?

いつも美貌に笑みを乗せて、泰然としていると思っていたのに、なんだ、今の。

物凄く小者っぽい。

いつも護衛にあんな威嚇をしているのか?


エティエンヌ様からはリディアーヌ様に勇者を近付けるなと言われ、勇者からは邪魔をするなお前こそリディアーヌ様を見るなと言われて、板挟み。


馬鹿馬鹿しい争いながら、片や王の甥で陰険と名高い隊長、片や神に選ばれた勇者でこちらも性格が悪そうだ。


リディアーヌ様の護衛が次々と辞めた訳が分かった。


しかし、俺は辞めない。

あんのクソ勇者、人をなんだと思ってるんだ!

護衛対象を邪な目で見るわけがないだろうがっ!

あんな奴に脅されたぐらいで引く俺じゃない。

見ていろ、勇者!



✳︎ ✳︎ ✳︎ ✳︎



リディアーヌ様の護衛として過ごすうちに、俺はリディアーヌ様の人となりが分かってきた。

まず我が儘ではない。

嫌な令嬢でもない。

控えめで優しく、笑顔の可愛らしい人だ。

勇者に言い寄っていたあの半年はなんだったのだろう。


嫌々ながら、勇者の人となりも分かってきた。

穏やかで凛々しいと言われていた勇者は、嫉妬深く、心が狭い。

リディアーヌ様を溺愛していて、リディアーヌ様を見る目が危ない。

リディアーヌ様と話している時は、愛おしい者を見るように穏やかで優しい笑みを浮かべているのだが、リディアーヌ様が他を見ていると、その目は狂気を帯びる。

特に男と話そうものなら危ない。

相手に逃げろと警告したくなる。


一度リディアーヌ様が庭のベンチでうたた寝をしていた時に現れた勇者は酷かった。

リディアーヌ様をじっと見つめて、動かない。

今にも襲いかかるのではないかと気が気ではない。

それは婚約者を見る目か?

もう少し落ち着けよ、余裕を持てよ。


俺はエティエンヌ様が勇者をリディアーヌ様に近付けるなと言った意味を実感した。

そして、実行した。


勇者が訪れても理由をつけて通さないでいたら、直接リディアーヌ様の部屋に転移しやがった。

何食わぬ顔で部屋から出てきた勇者を見て、殺意が湧いた。

俺を見て、鼻で笑ったところもむかつくー!!


リディアーヌ様は月に一度ほどのペースで、部屋を抜け出す。

陛下や重臣方、リディアーヌ様の父君も兄君方もそれを注意しない。

なぜかと思ったら、リディアーヌ様が市井を見に行くのは、平民である勇者の気持ちを少しでも理解したいからだと言う。

それを侍女から聞いて、知っているから誰も止めないのだそうだ。


俺はその話を聞いた時、涙を流した。


あんな勇者の為にそんな事を!

リディアーヌ様! あなたはなんという方だ!

勇者、今までの行動を反省しろ! 精神修行の旅に出て、帰ってくるなー!!


そして俺もそんな嫁さん欲しいー!!


リディアーヌ様は街に行った日は、俺にお土産をくれる。

なんとなく、俺達が抜け出しているのを見逃しているのを分かっているのだろう。

実際は見逃していない。

陛下に報告して城から騎士を派遣して探しているが、いつも見つからないだけだ。


リディアーヌ様は扉を開け、上半身を廊下に出すと、俺に袋を二つくれた。

甘い匂いがする。クッキーのようだ。


「ディオンにはわたくしからって内緒よ」


リディアーヌ様は街に行った日は、少し砕けた口調で屈託なく笑う。


めちゃくちゃ可愛いー!!

そして、リディアーヌ様が街に行っている事は勇者には秘密にしている為、勇者はこの笑顔を見れない。


ざまーみろ、勇者め!!








お読みいただきありがとうございます。

ご期待に添えたかどうか。

次は勇者視点を予定しています。

勇者が思っている事、シリアスです。

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