第十七話
下品注意。本日二話目。
お茶会は微妙な感じで終わった。
私が小庭園に行った時、ホストであるアンジェリーヌはヴィクトルと二人の世界を作っていた。
二人に近付き、ヴィクトルをドレスの下で蹴飛ばして正気に戻す。
その後は小庭園の東屋でお茶をしたのだが、騎士三人は相変わらずだった。
ヒューは無言。
サミュエルとオズウェルは今度は私に敵意を向けている。
アンジェリーヌとヴィクトル、ジェラルドと私で笑顔で話しているので、遠目には和やかに見えるであろう。
魔法使いのノアは遠くをじーっと見て動かなかった。
なんだったのだろう。
とにかく疲れた。
晩餐会は昨日と同じく、豪勢で有意義なものだった。
しかし、聖女側は全員出席したが、勇者側の四人は欠席で、聖女の仲間と勇者の仲間の交流は出来ていない。
三日後には視察という名目で、聖女一行と勇者一行が魔物退治に行き、お互いに力量を見定めるというのを予定しているのだが、大丈夫だろうか。
それまでにもう少し両者に話し合いをしてもらいたいのだが。
晩餐会中に勇者に二人だけで話がしたいと言われたが、断った。
聖女に心変わりしたとの報告だろうが、今はまだいい。聞きたくない。
晩餐会後の女性の交流は今夜も早々に切り上げてきた。
エルヴィラ王女対我が従姉妹イヴォンヌの嫌味合戦という恐ろしい催しが繰り広げられ、その矛先がだんだん私に向いて来たのだ。
私は笑顔で躱していたが、王妃に促され退出した。
後は王妃とアンジェリーヌに任せよう。
部屋に戻り、床につく支度をする。
しかしいろいろ考える事があり、まだ眠くならないので、居間の椅子に座っていた。
侍女は下がらせ、一人で考える。
女神様の言うとおり勇者は心変わりをした。
これから私は、聖女に優しく接しつつ裏でいじめるのだが、それを実行してくれる人はいない。
昼間は勇者の仲間に、勇者が聖女の元に行ってしまう話をし、ついでにオルガにいじめについて助言を求めようと思ったが、どうもこの事は他の人に話せないらしい。
言おうとすると、めまいがする。
危ない。話を続けたら倒れそうだ。
女神様、この話を他の人にしてはいけないのなら、先に言って!
話したら倒れるなんて、呪いですか!
オルガの助言は当てにならない。
手伝ってくれる人はいなそう。
どうすればいいのだろう?
考え込んでいると、扉をノックする音が響いた。
続き部屋から侍女のポリーヌが出てきて、対応に当たる。
やって来たのは聖女だった。
こんな時間になんだろう。
私はすでに白いナイトドレスにショールをかけている様で、人前に出れる格好ではない。
だが、急ぎの用かもしれないので通した。
格好については大目に見てもらおう。
聖女は私の姿を見ると、目を丸くして固まった。
「申し訳ございません、ユーリ様。
この様な格好で。
ご容赦下さいませ」
「え、いえいえ。
急に来た私が悪いんです。
すみません、出直します! ごめんなさい!」
聖女は真っ赤な顔でわたわたと手を振る。
整った涼しい顔が崩れて、とてもかわいらしい様子だ。
アンジェリーヌも黙っていれば美貌の王女だけれど、失敗した時などこんな風に赤くなって慌てる。
なんだか聖女とは仲良くなれそうな気がしてきた。
「でも、お急ぎの話では?」
「いえ、急ぎではないんです。ただ、二人だけで話をしたくて。
そういう機会がなさそうだったので、来てしまいました」
「まあ、そうですか。
仰っていただけたら、いつでも時間を作りますのに」
「でも・・、外では勇者がいつも見ているので難しそうです」
「・・・」
勇者はもうそんなに聖女にご執心なのか。
切り替えの早さに感心してしまう。
それにしてもいつも見ているって、言葉にするとちょっと怖くない?
物陰からじーっと聖女を見ている勇者を想像してしまう。
いつもなら、他の事はどうした勇者、って突っ込みを入れるところだけれど、もうそれは私の役目ではない。
これからは聖女に任せよう。
「ユーリ様、どうぞお座り下さい。
お話いたしましょう」
長椅子に促すと、聖女は戸惑いつつも席に着いた。
ポリーヌはお茶を入れると、続き部屋に下がり、二人きりになる。
「どうぞ、お飲みになって。
リラックス効果のあるお茶です。
わたくし、寝る前はいつもこのお茶を飲んでいますの」
「いただきます」
聖女はお茶を飲むとほぅっと息をついた。
「美味しいです」
「よかった。
このお茶はわたくしが行く茶葉屋さんで配合していただいているの」
「茶葉屋さん・・に行くんですか? リディアーヌ様が?」
聖女はキョトンとした顔をした。
呼ぶのではなく、行くと行った事に驚いたのだろう。
「ええ、わたくし、たまに城下に行くのです。一人で」
「一人でですか!?」
「ええ。皆様には内緒よ。驚かれてしまうから」
ふふっと笑いながら言うと、聖女は冗談だと思ったのか、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
「内緒、ですか」
「ええ、内緒よ。
ジェラルド様達に知られたら、とんだお転婆だと笑われてしまうわ」
「分かりました。誰にも言いません」
「お願いしますね」
二人で笑い合う。
聖女の緊張が解けたようで何よりだ。
実は私が城下に行く事があるというのは結構多くの人が知っている。
前々から王や父、兄もヴィクトルも知っていたようだが、この間、オルガと一緒に旅に出た時、なぜか私はもう戻らないかも、という話になっていて、勇者が私を探しまくったらしい。
そのおかげでよく行っていた界隈には、たまに来る「リリー」が「公爵令嬢リディアーヌ」だとばれてしまい、行けなくなった。
今度は違う変装で行こうと思う。
「リディアーヌ様は不思議な方ですね」
「? どうしてですか?」
「なんだか、ほっとします。
気を張らないでいられる」
聖女はカップを見つめて淡く微笑んだ。
どこか悲しそうだ。
「いつもは気を張っているのですか?」
「そうですね。
私は元の世界ではここでの平民みたいなもので。
貴族の振る舞いとかが窮屈なんです。
しきたりが多いし、行動に気をつけないと、すぐに白い目で見られる」
「ユーリ様は異世界から来られたのですから、こちらのしきたりをご存知なくて当然でしょう?
むしろ、話を聞いて、感心致しました。
色々な作法を覚えるのは大変でしたでしょう」
「ありがとうございます。
そう言ってもらえると嬉しいです」
聖女ははにかんだ様な笑顔を浮かべた。
かわいい。
これは勇者が落ちても仕方がない。
「挨拶とか振る舞いとか、覚えるの大変でした。
しかもこちらに来る事になって、急遽ダンスも覚えさせられて。
鬼コーチがいたんで辛かったです」
「おにコーチ?」
「あ、凄く恐ろしい先生です。
ステップを間違うと、蹴られました」
「聖女様を蹴るの!? 一体どなたが・・」
「ジェラルド王子です」
私は呆気に取られて言葉が出なかった。
蹴るの?
聖女を? 女性を?
見かけによらず、なんて乱暴な。
「リディアーヌ様、ジェラルド王子に近付かない方がいいですよ。
あの人、人が苦しんでいるのを見て笑うサディストですから」
「・・・」
サディストというのはよく分からないが、これはもしかして、女神様が言っていた。
「どえす?」
「あっ、よく知ってましたね。
こっちにもドSってあるんですか?
王子は言葉責め、体罰、その他もろもろ、なんでもありの変態です」
「へ、変態なの?」
「変態です」
うわあ、奇遇ねえ。
うちの勇者も私や仲間から変態と言われるのよ。
そちらの王子もなの。
聞きたくなかったわぁ。
思わず遠い目をしてしまう。
これから聖女は勇者や王子と恋愛をするのか。
右見て変態、左見て変態。大変ね。
そういえば女神様は他の方々についても何か言っていなかったかしら?
やんでれ? へたれ?
よく分からないけれど、同情してしまう。
「ユーリ様、ご自愛なさって。
くれぐれも無理をなさらないで下さいね」
聖女は目をパチクリと瞬かせた。
「はい、ありがとうございます。
でも急にどうしたんですか?
もうダンスは及第点をもらったので王子に蹴られる事はないですよ」
「そうですか、それはよかった。
でもユーリ様にはこれからも色々な事があるでしょうし」
「?」
聖女はきょとんとした顔で首を傾げる。
悪役が応援してしまってはいけなかっただろうか。
私は意識して話題を変えた。
「ところで、わたくしには気を張らないでいられるというのはなぜですか?
ユーリ様から見て、わたくしは貴族らしくないのでしょうか?」
首を傾げると、聖女はまたわたわたと手を動かした。
「いや、違います!
そういう意味ではなくて。
所作とか、そういうのは凄く綺麗で見惚れてしまうぐらいです。
気を張らないで済むというのは、リディアーヌ様が、他の貴族の人みたいにツンツンしてないからっていうか。
だから緊張しないで済むというか。
別の意味ではすごく緊張するんですけどそれはいい緊張というか。
何を言ってるんだろう。
忘れて下さい、なんかわけが分らなくなっているんで」
赤い顔で言い募る聖女。
よく分らないが混乱しているらしい。
私は立ち上がり、聖女の横へと移動する。
お茶の入ったカップを持って、聖女の両手を取りその手に持たせた。
「ユーリ様、飲んで落ち着いて下さい」
聖女は一瞬固まった後、私をまじまじと見て、さらに顔を赤らめた。
あれ、余計に興奮してしまった。
聖女は片手でぐいっとお茶を飲む。
おお、一気飲み。男らしい。
聖女は勢い良くカップをソーサーに戻すと、持ったままだった私の手を両手で包んだ。
「?」
両手で持たれる意味が分からず、聖女を見上げると、聖女は頬を赤らめ、真剣な顔でこちらを見下ろしていた。
あれ? なんかこの状態、前にもあった。
「ユーリ様?」
「ユーリと呼んで下さい」
あれ? なんか嫌な予感がする。
「でも」
「二人きりの時ならいいと言ったじゃないですか」
言った? 私、そんな事言った?
そして、どうしたの? 聖女。
いきなり何?
急な展開に頭はついていかないが、なんだか、身の危険を感じる。
後ろに下がったら、その分以上詰められた。
聖女がぐぐぐっと身を乗り出すのでその分私は仰け反る。
「あの、ユーリ様」
「ユーリと呼んで下さい」
「いえ、あの・・」
この有無を言わさずに名を呼ばせる感じ。勇者に似ているのだけど。
「少し離れて下さらない? 急にどうしたのですか?」
「あなたが側に来たから」
いや、意味が分からないって。
私は聖女が混乱しているから、落ち着く様にお茶を渡しただけだ。
「ユーリ様。友人の距離として、これはおかしいと思うの」
「おかしくないです。もっと近付きたい」
いやいや、おかしいって!
聖女は意外と力が強い。
先ほどから手を外そうとしているのだが、全く外れない。
仕方なく手に魔力を込めた。
本当は私に魔力がある事は秘密にしたかったのだけど。
少し魔力を込め力を入れると、なんとか右手だけ外れた。
その右手で聖女を押し返す。
「・・・・・・・・・・」
あれ?
うそ?
ぺったんこ?
聖女は昨日と同じ、銀で刺繍がしてある白のドレスだ。
上半身はショールがゆったりと巻かれて、体の線が分らない。
それは神に仕えるものとして性を意識させない計らいかと思っていたのだが。
聖女の胸をなでなでと撫でる。どこにも膨らみがない。
「・・・・・・」
は、発育不良かしら? そうよね。
もしかしたら、聖女様に年齢を聞いていないから、思っていたよりも若いのかもしれない。
まだ胸が成長する年齢ではないのね。
そうよね。そうよ。
だって、まさか。まさかねえ。
聖女を見上げると頬を赤く染め、目を伏せた。
「下も確認します?
リディアーヌ様なら・・いいですよ」
下・・・下って・・・。
「!」
私は手に魔力をありったけ込めて、聖女を押した。
聖女が吹っ飛ぶ。
私は立ち上がり、後ずさった。
「ななななな、何を言って・・」
聖女は何事もなかったかのように立ち上がると、ショールを外した。
目で見ても分かる。
胸がない。
そして、下には・・・。
考えそうになって、ブンブンと頭を振る。
あり得ないあり得ないあり得ない!
聖女って、聖女って、まさか、男ーー!!!
お読みいただきありがとうございます。
作者はあまり、SとかMとかその他諸々について明るくなく、なんとなーくで書いているので、変なところがあるかもしれません。すみません。




