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元魔王(偽)で公爵令嬢リディアーヌの冒険  作者: 星乃 夜一
嫌われ公爵令嬢再び!? 対聖女
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第十三話

晩餐会はつつがなく行われた。


私はいつものように勇者の隣の席に着く。

私は勇者の目の色と同じ水色のドレス、勇者は黒の夜会服で、胸には私のドレスと同じ色のポケットチーフ。

勇者にエスコートされ晩餐会の会場に着いた時から、突き刺さるような視線を至る所で感じた。

エルヴィラ王女、聖女のお付きの方々、さらに私の従姉妹など自国の貴族令嬢からも。

嫌われまくりの私だ。

これから聖女をいじめるからさらに嫌われるかも。


今のところは聖女から好意的な態度で接されていた。

挨拶をし、握手を求められ、頬にキスされた。

頬にキスは聖女の世界の親愛の挨拶らしい。


キスされた途端、勇者は私の腕を引っ張って聖女から離した。

勢いよく引っ張られて痛かった。


晩餐会中も目が合うと、聖女は私に微笑みかける。

その美しい微笑みに、私も微笑み返すが、勇者に名を呼ばれ止められる。

いいじゃない。まだいじめてないのだから、そんなに警戒しなくても。


晩餐会の後は、男女分かれて交流だ。

しかし私がいると空気が悪くなるようなので、アンジェリーヌに任せて今日は早々に退散した。

悪女は明日からしよう。


今は他国の方を招いているとあって、どこもかしこも煌々と明るい。

庭も魔法の明かりで所々明るい。

庭に出てみたかったが護衛に止められた。

いつも以上に警備が厳しい。

いつもなら精霊に頼んで警備の目を掻い潜るのだが、今日はいつも側にいる精霊がいない。

精霊はどこにいったのだろう。

女神様がいるから寄って来れないのかな。


私は庭を見ながら、つらつらと考え事した。


明日から悪女を始めようと思うが上手くいくか不安だ。

女神様は物語が上手く進んだら、向こう二十年、国中をなんとなーく豊作にしてくれると言う。

大豊作ではなく、なんとなーくが重要だ。

大豊作が二十年続いたら、女神様の恩恵がなくなった途端に国が荒れる。

なんとなーくならそんな事にはならないだろう。

それに絶対に凶作にはならないのだからこれってすごい事だ。


もう一つの懸念は勇者が他国に行ってしまったらこの国がどうなるか、だ。

勇者がこの国にいるから今国内は安定しているし、外交も上手くいっている。

いなくなったらどうなるのだろうと思ったが、勇者が他国に行ったり、まさかの聖女について異世界に行ってしまったら、新しい勇者を遣わしてくれるらしい。

女神様至れり尽くせり。


そうとなれば張り切って悪女をやればいいのだが、どうしてか気が進まない。


ぼんやりと外を見ていたら、誰か近付いてきたようだ。

護衛に促され、見てみれば、聖女がこちらに向かっていた。


目の前にきた聖女は、にこっと笑った。


「こんなところにいたんですか。

いなくなってしまったから、どこに行ったんだろうと思って」


聖女は背が高い。

私も女性にしては背の高い方だが、聖女は私より高いので少し見上げる。


「申し訳ございません。

わたくし、少し気分が優れなくて。

下がらせていただきましたの」

「それは大変ですね。

どこか休めるところはありますか。

お連れしますよ」


聖女は心配そうに私の顔を覗き込む。

優しい方のようだ。


「ありがとうございます。でもご心配なさらないで。

もう良くなりましたから」

「そうですか、それは良かったです」


優しく微笑まれる。

微笑むと涼しい目元が和らぎ、優しい印象になる。

さすが聖女。心が和む。


「わたくしはこのまま下がらせていただきますが、聖女様はそろそろお戻りになられた方がよろしいのでは?

皆様がお待ちでしょう?」

「リディアーヌ様。ユーリ、と呼んで下さい」

「え?」

「私の名です。有元悠理ありもとゆうり

こちらの人には呼び辛いから、ユーリ、と。

あなたと仲良くしたいんです」

「・・・」


聖女は女神様から物語について聞いていないのだろうか。

私がいじめる役だとわかっていない?

それともこれはもうお芝居が始まっているのか。

私は仲良くしたいと言う聖女を突っぱねればいいの?

いや、違う。

今回の役は表で優しく笑い、裏でいじめる役だ。

ここは微笑むところだ。


「嬉しいわ、ユーリ様。

わたくしも、あなたと仲良くしたいわ」


私は意識して優しく微笑んだ。

微笑みつつも自分の優位を主張する為、聖女の頬に触れる。

これで嫌がって、私に微かに不信感を持ってくれたら、物語としていいのではないかと思うけれど。


「・・・」


なぜ頬を赤らめる?


聖女は頬を赤らめ、私を見下ろした。

意味が分からない。どういう反応?

首を傾げたら、聖女はさらに顔を赤らめ、聖女の頬に触れている私の手に自分の手を重ねた。


あれ?

私は嫌な予感に顔を引きつらせた。

そういえば女神様は、聖女と私も『あり』とか言ってなかっただろうか。

まさかそっち!?

そっちの話なの?


聖女の顔から手を離せば、聖女は名残惜しそうな声を上げた。


なぜ、そんな声を出す!?


動揺していると護衛から声がかかる。

見れば、エルヴィラと侍女達がやってきた。

どう見ても友好的とは言えない顔だ。


「聖女様、こちらにいらしたの。

戻りましょう。皆様、待っていますわ」


聖女には微笑みかけ、私に敵意剥き出しの視線を送る。


「リディアーヌ様、どういうおつもりですの?

聖女様を連れ出して何を企んでいるいらっしゃるの?

まさか! 聖女様がお美しいからって難癖をつけていたの?

そうなのね! 聖女様、大丈夫ですか?」

「え? いえ、大丈夫です。

なんでもありません」


聖女は顔の下半分を手で覆い、そっぽを向いた。

エルヴィラは怪訝そうに眉を顰める。


「聖女様どうなさったの?

まあ、お顔が赤いわ。

リディアーヌ様に叩かれたのですか?」


そんなわけないでしょ。

聖女は顔全体が赤いのだ。

そんな器用な叩き方は私には出来ない。

聖女はエルヴィラの言葉に慌てたようだ。


「ち、違います。

叩かれたわけじゃなくて。

ただ・・」

「ただ?」

「リディアーヌ様が可愛くて・・」

「・・は?」

「今日ずっと思ってたんですけど、真近で見たら・・・ヤバい! ちょーヤバい!

いい匂いがする!」


聖女は真っ赤な顔で、頭を抱えて悶えた。


エルヴィラと侍女達は呆気に取られ、口をぽかんと開けていた。

聖女の言っている言葉は、一部の意味が分からなかったけれど、雰囲気で察した。

私は一歩後ろに下がる。

聖女は私が距離を取ったことに気付いたのか、こちらを向いた。


「あっ、違っ、引かないで下さい、リディアーヌ様! 違います! 誤解です! 誤解なんです!」

「誤解、ですか?」

「そう、誤解です!

私は同性が好きなわけじゃないんです!

私は異性が好きなんです!」


両手を振って力説する聖女。

そんなに一生懸命にならなくてもいいのに。

確かにこの国では同性の恋愛は認めていないが、聖女は異世界の方だ。

女神様が需要があるって言うのだから、聖女様の世界では普通なのだろう。

聖女の気持ちは聖女の物だ。否定する気はない。


「大丈夫です。あなたはこの世界のお客様。

女神様の選ばれた方です。

この世界に従って、お心を誤魔化すことはございません。

ただ、申し訳ございません。わたくしは・・」

「違いますぅぅぅ」


私は応えられないと言おうとしたが、聖女は焦ったように距離を詰めてきた。


「確かに、私の世界は同性で結婚する方々もいますし、個人の自由でそれはそれでいいのですけど、私は異性が好きなんです!

信じて下さい!」

「は、はぁ」


聖女は私の手を握り力説する。

内容としては「別にあなたの事なんて好きじゃないんだから、勘違いしないでよね」って事だろう。

これだけ異性が好きって言うのだから。


「聖女様、分かりました。ですから落ち着いて下さい」


聖女は口を尖らせる。


「ユーリ、と」

「そうでしたね。ユーリ様」

「様はいりません。ユーリ、と呼んで下さい」

「・・・申し訳ございません。それは出来ませんわ」

「なぜですか?」


真顔で返す聖女に、私は諭すように言った。


「わたくしにもあなたにも立場がございます。

むやみに名を呼び捨てにしてはいけませんし、させてもいけません」


聖女はしゅーんと落ち込んだ。


「それは、寂しいですね。

二人だけの時でもいけませんか?」

「二人だけと言われましても・・」


二人だけで会うことあるの?

あるにしても、他国の聖女を呼び捨てるのはどうだろう。

物語としては恋敵であるし、あまりよくないのでは?


思案していると、正気に戻ったエルヴィラが、べりっと聖女を私から剥がし、その背に隠した。

聖女の方が背が高いから隠せていない。


「な、なんという事!

あなた、勇者様だけではなく聖女様まで誑かすの!?

一体どういう事よ!」


エルヴィラは顔を真っ赤にして激高している。

聖女と私が仲良くするのがお気に召さないらしい。


「大体、可愛いって何よ!

リディアーヌ様の顔なんて、勇者様や聖女様の美しさに比べたら、全然大した事はない顔よ。

勇者様と恋仲だったというアンジェリーヌ王女の方が、あなたよりは相応しいわよ!

なぜ、勇者様はこんな女に騙されたのかしら!」


散々な言われよう。

よく言われる事だけどね。

勇者と王女が並ぶ様は、まるで絵画に描かれる完璧な美男美女だったのに残念って。


それにしても、あれ?

私って、聖女をいじめる役だけれど、もう糾弾されてる?

私の出番は終わり?


エルヴィラの後ろでは、聖女が侍女達に囲まれていた。

何か言っているが、取り合ってもらえていない。


「なにか言ったらどうなの? リディアーヌ様!

どんな手を使ったの!」

「えーと」


私の出番、終わらせてしまっていいのだろうか。

ここで高笑いをしながら悪事を告白すればいい?

でもまだ少し、早いのではと思うが。どうしよう。


迷っていると、「リディアーヌ!」と、勇者の声が後ろから聞こえて、振り返る。

そこには勇者とメイユールの王子ーージェラルドがいた。


ジェラルドは21歳。

栗色の髪を後ろに撫でつけた爽やかな顔立ちの青年。

茶色の瞳には誠実そうな人柄が見受けられる。

そういえば、昨日女神様が言っていた、王子は『どえす』ってどういう意味だろう。

正装用の紺色の軍服を身に纏い、微笑む彼からは、昨日女神様から感じた得体の知れない怖さは感じないけれど。


ジェラルドの後ろには、メイユールの騎士、魔法使いもいたようだが、そちらに顔を向ける前に、勇者に目の前に立ち塞がれ見えなくなった。

ちょっと近い。


「リディアーヌ、何があった?

騒ぎが聞こえたが」


勇者は言いながら私の肩に手を置いた。

エルヴィラと侍女達の悲鳴が響く。

やめて、触らないで、勇者様を離しなさい、と言われても私にはどうしようもない。


「何もないわ。少しお話をしていただけです」

「そうは見えなかった」


断言する勇者。

私はただ笑みを返すにとどめた。

勇者と聖女をどうやって唆したのだと責められていました、なんて言えない。

勇者はともかく、聖女を唆したって何?

ひどい誤解だ。


私は誰も唆していません!





お読みいただきありがとうございます。


リディアーヌや姫様方の口調が話によって変わってしまいそう。

後で読み返して直していきますので、ノリでさらっとお読み下さい。

丁寧語、苦手かも。

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