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神ノ世界ニ在ル理由 Ⅰ

 様々な出来事が有り、投稿が出来なかった事を御詫び致します。

 次に会話が皆無に等しい事をお詫び致します。一気に数話を投稿する訳ではない事をお詫び致します。シキーナ達もセルキリア達も登場しない事をお詫び致します。

 調子を取り戻す為に書いた様な作品です。今後は毎週欠かさずに投稿していく予定です。復活した私とテトネ達を応援して下されば幸いです。

 黒髪長身の男、アスタリスク・クラウスと、彼と契約を交わした少女悪魔、テトネは二人、荒々しい大地の露出した急勾配の山道を縦一列に並んで歩んでいた。

 過剰に降り注がれる日差しと、山脈地帯特有の凍て付く寒風に身を嬲られながら。

 体力温存を理由に無言を貫く二人は時折、静かに想いを込めた視線を交錯させていた。

 これは、二月初頭の頃の事。


 …………二月初頭の約三日間、クラウス達は貴重な睡眠時間すら削って険しい山道を登り下り続けていた。出発前、滞在していた集落で食料品等を補給した際にクラウスは、現在地から到達目的地の小国まで最低でも四日は必要だ、との予測をテトネに語った。長年の経験に裏打ちされた自身の距離感覚をクラウスが疑う事は無く、テトネが最愛の相棒の断言に不信感を抱く事もまた、同様だった。

 そして事実、クラウスの予測が外れる事は無かった。集落の酒場で騒音を撒き散らしていた男性達が一様に唱えた、小国には三日で到着する、という発言を嘲笑うかのように三日後の現在、クラウス達は山中に在った。最も、集落で約一週間分の消耗品類の補給を済ませており、精神的にも予め覚悟を決めていたクラウス達にとって、目的地に到着しない事は左程問題ではなかった。

 ……そう、問題は辿り着いてしまった事だった。……本来の目的地ではない集落に。

 旅人が非常事態と常に隣り合わせな存在だという事を、クラウスは実体験として理解していた。ソレは、旅人としての経験が比較的浅い彼の銀髪の相棒ですら身に沁みて知り尽くしている、実際に旅立った『旅人の雛』が一番最初に学ぶ事だった。故に、その非常事態の要因が単純に方角を勘違いした、或いは道を間違えた程度の事であれば、恐らくクラウスは溜息一つで即座に問題の解決へ全力を傾けた事だろう。

 事実、集落に到着したクラウスの最初に取った行動は、彼の相棒に尊敬の念を抱かせるに十分なモノだった。取り敢えず現在位置の確認が最優先事項だと判断したのか、見るからに耐久性に優れた背嚢から地図を手に取り、同時に懐から取り出したコンパスの蓋を開くクラウス。流石と言うべきか、冷静沈着の四字が相応しいその姿からは不安や動揺が欠片も見受けられず、代わりに何処か呆れた様な雰囲気が全身から漂っていた。その呆れの対象が運命の女神なのか、或いは彼自身なのか……それは当の本人すら与り知らない事だった。

 余程の事が無い限り滅多に表情を変化させないクラウスだが、決して四六時中に無表情な訳ではなかった。寧ろ事実はその逆、覚醒時の彼は常に薄い微笑みを浮かべていた。生涯笑顔で在り続ける事を人生の目標の一つに掲げているクラウスの笑みは、彼が元兵士で強靭な精神力の持ち主という事も関係してか殆ど崩れる事は無く……故に仮に彼の笑顔が崩れた場合その周囲の者は、最低でも発生した問題が相当のシロモノだと知る事が出来た。今回の場合『周囲の者』はテトネであり、旅人らしく良い意味で悲観主義な彼女は間違っても愚か者ではなかった。

 地図に視線を遣り、次にコンパスを一瞥し、再び地図を凝視するクラウス。次の瞬間、彼の眼が僅かに見開かれ、鉄壁の微笑みが微かに歪んだ事に目敏く気付いたテトネは取り敢えず、自身の相棒に説明を仰ぐという最優先事項を後回しに天を仰いだ。

 発生した非常事態が自分達の生命を脅かす事が無いよう、修道女も驚きの必死さで神に祈る彼女。長い時間を共に過ごす事で彼女と以心伝心の関係を構築したクラウスは、直感的にその事に気付くと心中で苦笑いを浮かべた。君は悪魔じゃないのかい、と何所か作り物めいた雰囲気を醸し出しているテトネの横顔に無言で問い掛けたクラウスは一瞬後、呆れた様な笑みを浮かべた。

 ……苦笑は、晴れやかだった。

 

 数分後…………結論から告げると地図の見間違え、或いは方角の勘違いの可能性は完全否定され……地図上に集落が載っていない事が判明した。必要最低限の装備で国を渡り歩く旅人にとって、地図の誤りが致命的な痛手となる事を熟知しているクラウスは、当然の如く信頼に足る地図屋も粗方把握している。

 また地図の誤りが信頼低下に直結する為、殆どの地図屋が地図の編集に細心の注意を払うのだが……中には信頼を失う事を前提に不確かな地図を販売する、所謂『闇地図屋』が存在する事も事実だった。単純に地図の編集者が集落の存在を見落としたのか、或いは『闇地図屋』に騙されたのか……自身のプライドを気遣って後者の可能性を意図的に無視したクラウスは深く項垂れた。

 暫くの間、不安げに集落に目を遣る悪魔の銀髪を優しく掻き乱しながら黙考していたクラウスは、最終的に集落の迂回という決定を下した。食料品等の調達出来る可能性が濃厚に存在する中、しかし彼の下した決断は確かに古参旅人の名に恥じないモノだった。何故ならば、集落の存在自体が危険な可能性が有るからだった。数多くの国で科学が神の座を奪った現在に於いても、山脈や密林の奥には食人祭や輪姦儀式を神聖行為と信奉する集団で形成された集落が意外な程に溢れている、その事実は旅人達にとって最早常識だった。

 君子危うきに近寄らず、そんな極東の大国の諺に倣って素早く転進するクラウス。一瞬で進行方向を見極めると同時、自身の片手を僅かの躊躇いも無くテトネの右腕に絡める用意周到振りは流石の一言に尽きた…………が、残酷な事に今回の場合に限っては彼の行動開始は一足遅かった。元陸軍特殊部隊所属のクラウスは常人に比べて遙かに気配感知能力に長けていたが故に、銀髪の相棒より一瞬早くその異常を察知した。気紛れな神の悪戯か、或いは確率論の果てに在る必然か…………気付けばクラウス達は二〇人近い集落の男性達に取り囲まれていた。

 取り敢えず、男性達の武器の類が無い事を確認したクラウスは、武力による強行突破案を保留して両手を降参を示す様に掲げた。自身の相棒に倣う様に、一拍置いてテトネも体勢を同様に変える。クラウス達の完全に無抵抗な様子を受けて、男性集団内から統率者らしき眼光の鋭い青年が一歩前進した。

「…………おお、素晴らしい…………。……我等が教祖様の、『時詠巫女』様の仰った通りだ…………」

 ……何処か陶然とした様子の彼の唇の隙間から、クラウス達の不安を煽る様な呟きが漏れた。


 二時間後、結局二人は男性集団に集落の中心部まで案内された後、余りにも呆気無く開放された。古参山賊にも匹敵する衝撃的登場を披露した男性集団の目的は、如何やら集落周辺の地理を把握していないクラウス達の道案内だったらしい。何故、集落側が自分達の接近に気付いたのか疑問を抱く二人は、しかし集団暴力に遭遇する事と比較すれば些細な問題だと事実解明を早々に諦めると、更なる現状把握を目的に歩き出した。

 人一倍情報収集能力に突出した古参旅人のクラウスが、年季の入った貴金属屋の木製扉を押し開けて最初に取った行動は、店以上の風格を纏う老主人への集落の内部事情に関しての質問だった。来客が皆無な事で暇を持て余しているのか、老主人は厳格な外見とは対象に友好的な態度で二人に木製椅子を勧めると、億劫そうに自身も手近に在った木製長椅子に腰掛けた。五歳前後の子供達ですら本能的に理解出来る独特の空気、次の瞬間にも老人の苦労自慢語りが開幕するような雰囲気が周囲に充満した事を素早く察知して長期戦を覚悟するクラウス達。二人の体勢が整った事を鋭い一瞥で確認した老主人は、一度柱時計に目を遣ると数度咳払いを重ねた。

 

 意外な事に当初予想の半分程度の時間で解放された二人は、老主人の昔語中に旅人特有の卓越した記憶能力を発揮し続けた事も有り、貴金属屋の木製扉を外側に押し開いた時点で既に集落の内部事情に集落住民以上に精通していた。最も、一時間半の時間を愛想笑いと相槌を駆使する事で何とか生き残った銀髪悪魔は流石に疲労困憊の状態だった。便利な固有能力で肉体疲労とは縁遠いテトネも精神疲労から逃避する事は常人同様に不可能らしく、端的に表現すると彼女は精神的に追い詰められていた。集落の内部事情が把握出来たという事実が、次の瞬間にも精神限界が訪れそうな彼女を唯一慰めていた。

 約一時間半の衝撃的で劇場的な時間からクラウス達が把握した集落の内部事情は、二人の想像を遙かに凌駕する程の代物だった。結論から言えば集落内部は危険性の観点からは全くの問題無しであり、異常性の観点からは残念な事に問題しか存在しなかった。

 老主人曰く、集落の中心部に屹立する木造巨大建築物の内部には『時読巫女』と呼称される預言者が存在している。『時読巫女』は集落住民の少女に創造神の祝福が与えられた事で誕生した。『時読巫女』は発動条件等の皆無な未来予知能力を保持しており、未来の出来事を神託として集落住民に告知している。集落住民は『時読巫女』を崇拝対象として、創造神像と同様に崇めている。『時読巫女』に供物や食事等を運ぶ役割は、人間時代の『時読巫女』の兄弟が請け負っている。『時読巫女』が誕生した約二年前の時点から集落では春夏秋冬に沿う形で一年間に四回、彼女と創造神へ感謝と祝福を捧げる為に『神礼祭』を執り行う様になった。『時読巫女』の未来予知は集落住民達の絶対の行動指針であり、長老権限でも『時読巫女』を縛る事は出来ない。

 老主人の齎した約一時間半を必要事項のみ極端に集約して客観的に要約した結果に、僻地集落の多様な独自文化に非常に耐性の有るクラウスは眩暈を覚えた。預言者信仰や偶像崇拝は程度の差こそ在っても基本的に大多数の集落に存在する為、少女信仰自体も独特なだけで左程問題ではなかった。今回の場合、問題は崇拝対象の少女が未来予知能力保持者という事だった。当然の様に意図的な虚偽情報の可能性や、老主人の高年齢に伴った妄想の可能性も存在した。

 ……最も僻地集落の訪問経験が豊富なクラウスは、自身の経験則から『時読巫女』の実在を、未来予知能力の存在を半ば確信していた。余りにも非常識的な彼の見解は不思議な事に、僻地集落内部に虚偽情報を拡散させる事の無意味さと、銀髪悪魔という幻想的存在の影響で絶大な真実味を伴っていた。数秒程、黙考する様に無言で虚空を睨み続けた彼は、視線を傍らの相棒に逸らすと端的に一言だけ問い掛けた。

「…………仲間?」

「…………違うと思うけど。……悪魔だって忙しいんだよ、多分……。勿論、可能性はゼロじゃないけどさ……。……ボクは悪魔になって日が浅いんだからさ、仲間とか言われても分かんないし。…………当然だけど気配だって全然感じ取れないし…………ボクは人間の気配と動物の気配の区別も……。……ボクが知ってる悪魔って、ボクの『親』と『空胞光虚』だけだし……。……役立たずで御免ね?」

 最愛の相棒の期待が彼女に過剰な義務感を抱かせたのか、或いは悪魔として必要最低限の能力操作技術すら不完全な事への劣等感からか、躊躇いと罪悪感が痛い程に含まれた返答を垂れ流すテトネ。所謂旅人の印象を裏切る超小柄体型の彼女は、身に纏う不安定な雰囲気の影響で最早、職人技による硝子細工の様だった。自身の相棒の思考回路が-磁気を帯びている事を理解している古参旅人は、素早く今後の行動指針を決定すると、彼女の言葉を律儀に傾聴し続けた。それが随分と親馬鹿的な行動だと今更の様に気付いた彼は、嘆息すると苦笑混じりに微笑んだ。


 『時読巫女』が悪魔の可能性が否定出来ないと結論付けた彼は、当然の如く『時読巫女』の居場所である木造巨大建築物を訪問する事を決定していた。純粋な好奇心と合理的判断から必然的に導き出された安全第一からは程遠い行動指針に、彼は自身の相棒が反対意見を持たない事を確信していた。

 彼の鼓膜に相棒の非難する様な言葉が突き刺さった。 

「…………ァス……アス、聞いてる? ボクが経験不足なのは不可抗力と言うか…………そう、不可抗力で、だから仕方ない事だと結論付けても…………」

「……『時読巫女』の本拠地に乗り込もう。彼女が悪魔か預言者か詐欺師か、手っ取り早く分かる」

 純粋な驚愕に一瞬呆けた様な表情を浮かべた彼女は、次の瞬間には満面の笑みで銀髪を揺らしていた。

「……了解!……」

 

 


 『空胞光虚』なる悪魔が登場しました。

 ……嗚呼、設定を考えるだけで胸が痛い……。

 更に次回は遂に、遂にシキーナ達が少々登場する予定です。

 実は作者の私自身、物語の展開が全く読めません。登場キャラのアイデア等、募集中です。

 毎度の事ですが誤字脱字が有りましたら御免なさい。

 文才の無さに関しては許して下さい。

 『善ノ悪魔ノ日常記』今後とも宜しく。

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