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夢ニ在ル現実

 前回の後書きで新キャラが出ます、と言いました。

 殆ど新キャラしか出ていません。

 嘘は吐いていないのに、申し訳なく思うのは何故でしょう。

 取り敢えず、キャラが増えてきた事を喜びましょう。


 それでは謝罪を。投稿が一日と一時間遅れて本当に御免なさい。

 金髪碧眼の美(少)女悪魔、セルキリアと、執事然とした格好の彼女の『従人』、人哭は二人、荒れた馬車道を歩んでいた。二人旅の様相を呈しながらも、人哭がセルキリアの前に出る事は決して無かった。人哭は、セルキリアの斜め後ろ三歩の位置から、決して外れなかった。忠実な奴隷の如き彼の振る舞いを、セルキリアは当然の事のように受け止めていた。しかし二人の間に、主人と奴隷のような主従関係は一切見受けられなかった。

 重苦しい沈黙を破るように、セルキリアは自らの背後に問い掛けた。

「人哭、前を向いて御覧。…………何が見えるかい?」

「城壁……でしょうか、お嬢様」

「的確な表現だね、人哭。五九点を贈ろう」

「至極光栄で御座います。……お嬢様は昔、寄宿学校で赤点を頻繁に御取りになっていたようですが」

「……人が大勢集まっているのだろうね。あの場所には」

「国で御座いますからね。一人という事は有り得ないでしょう。……お嬢様は寄宿学校で常に御一人ぼっちだったようですが」

「……私の言いたい事が分かるかな、人哭?」

「これでも、成績はA+でしたので」

「…………じゃあ、始めようか、人哭。悪魔の悪戯ゲームを」

「成程、遊んでばかりで予習復習を怠っていたのですね。しかも、遊びと言っても一人遊びばかり。それでは成績がD-でも仕方ない」

「……………………いつまで、そのネタを続けるつもりかな? 人哭」

 セルキリアは半眼になって自らの執事、人哭を睨み付けた。

 二人は一瞬立ち止まり………………揃って可笑しそうに口元に手を遣ると、すぐに再び歩き出した。

 肌寒い風に、纏った純白のコートと流れる金髪を弄ばれながら、幻惑的な笑みを浮かべるセルキリア。

 その姿はまるで、皮肉にも、地に舞い降りた天使のようだった。

 これは、十月下旬の頃の事。


 城門前に辿り着いた二人を迎えたのは、入国審査官でも、門番兵でもなく、絶対的な静寂だった。

 城壁の内部から、人間の存在する雰囲気がまるで感じられない事に、セルキリアは戸惑いの声を上げた。悪魔とは人間達を欺き、誘惑して『魂』を奪う存在達なのだから、当然の事のようにも思えるが、悪魔は基本的に人間の『魂』を感じ取る事が出来る。それは、一人称をボクとする銀髪少女悪魔のような『幼い』悪魔でも例外ではない。セルキリアや、口の悪い赤髪少年悪魔ならば、人間の『魂』の位置などミリ単位で把握する事が出来るだろう。

 そのセルキリアですら何も感じ取る事が出来ない程に、二人の目の前に広がる国は、静かだった。

「捨てられたのかな、この国は?」

「ええ、その可能性が高いでしょうね。……お嬢様、寄宿学校で皆から捨てられたのですか?」

「……そろそろ、誰が君の主人かはっきりさせる必要が有りそうだね、人哭?」

「私の主人はお嬢様、唯一人で御座います」

「……………………何か無性に嬉しいから、先程の暴言は許そう」

「有難う御座います、お嬢様。それで…………どうなさいますか?」

 癖なのだろう、セルキリアは口元に手を当てると、何事か思案するように僅かに首を傾げた。否、彼女が思案している内容は明白だった。無人らしき眼前の城門の中に入ろうと試みるか、来た道を引き返すかを選択しているのだろう。

 十数秒後、セルキリアは人哭に結論を告げた。

「人哭、あの城壁を超えられるかい?」

「当然で御座います」

「決まりだ。国内には何か残っている可能性も有る……」

 セルキリアの言葉に人哭が頷きを返した次の瞬間、その出来事は起こった。

 ギギギ、という金属同士の擦れ合う、不快感を伴う音と共に、巨大な城門が左右に開かれ始めたのだ。

 唖然とした表情で人哭に目を遣るセルキリア。

 自らの主人の視線に気付いた人哭は、冷静な声で噛み締めるように言葉を放った。

「自身の力の衰えにも気付かないようでは…………」

「うん、そろそろ私も我慢の限界だよ? 人哭」

 城門解放の原因究明を後回しに、セルキリアは人哭に向け、グーを突き出した。

 それから暫くの間、城門が完全に解放された事により再び静寂を取り戻した不気味な国の前で、二人の旅人の醜い争いが繰り広げられる事となるのだが……それはまた、別の物語。


 城壁内部に踏み込んだセルキリア達は、そこに概ね自分達が予測した通りの光景が広がっていた事に、何とか落胆の意を隠し通そうと振る舞い……そして明らかに失敗していた。口元を……正確には唇の隙間から漏れ出る欠伸を、両の掌で必死に覆い隠しながらセルキリアは自らの執事に問い掛けた。

「全く、呆れる程に予想通りの展開だね? 人哭」

「私、お嬢様の楽観主義が少々心配で御座います。……国中が御覧の様子では、食料や消耗品の補充は恐らく絶望的でしょう。現在、我々の食糧は底を尽きかけております。多めに見積もっても三日分……否、二日分でしょうか。お嬢様、簡潔に申しますと………………

「絶対絶眼の危機ピンチ、かな?」

 二人の眼前に広がる光景、それは見渡す限りの亡霊市街の姿だった。かつての民家群は風化で脆く崩れ落ちて積み上げられた木塊と化し、挙句の果てに、街を東西に貫く馬車道は回転草に占有されている有様だった。旅人は常に沈着冷静を心掛けるべし、とは言っても、この悲惨な状態を目の当たりにすれば、余程の精神鍛錬を積んだ猛者でも、流石に無反応を貫き通す事は不可能に相違無い。故にセルキリアが苛立ち紛れに、我が物顔で馬車道を転がる回転草の一つを蹴り飛ばしたのも、仕方ない事と言えるだろう。

 そして偶然にも、今回に限っては彼女の気紛れが状況打破への一手となった。自身の与えた運動エネルギーによって転がる回転草の行方に通常時より意識を集中していた影響か、セルキリアの超感覚が国の中心部に微弱な人間の『魂』反応を捉えたのだ。幾ら微弱な反応とは言っても、前述した通りにセルキリアの悪魔としての感覚は異様な程に鋭敏であり、加えて彼女はその人間性(悪魔性)から、自らの感覚能力に相当の過剰なまでの自信を抱いていた。時折暴言が目立ちはするが、基本的に絶対的主人至上主義を掲げる人哭が彼女に逆らうはずも無く、結果として………………令嬢と執事の旅人らしからぬ二人組は、旅人として行動を開始する事を決定した。 

 即ち…………セルキリアと彼女の『従人』は、連れ立って国の中心部へ歩みだした。

 

 亡霊市街の只中を馬車道に沿って歩く事、三十数分。無数の回転草と吹き荒れる砂埃を相手取り、二人が何とか国の中心部に辿り着いた時、蒼かった空は既に夕焼け色へと染まっていた。

 そして……二人の眼前に在ったモノ、それは白銀に鈍く輝く異様なドーム状巨大建造物だった。特殊合金製だろうか、周囲の今にも崩壊しそうな建築物と対比すると、その異常性は際立っていた。橙の陽を浴びて静かに佇むソレを前に二人の旅人は暫くの間、言葉を完全に失っていた。

 二人の思考を強制的に現実へ引き戻す程の出来事が発生したのは、それから約一分後の事だった。

「初めまして、旅人さん方。私、この国の唯一の『現生者』、ソオルと申します。城門を御開けしたのは私ですが、本当に此処まで来て頂けるとは…………感激です!」

 年は十七,八と言った所だろうか、一人の線の細い青年が唐突にドームから姿を現し、そんな言葉を投げ掛け始めたのだ。青年の歓待に答えたのは、当然のようにセルキリアだった。自らの美貌を知り尽くしているが故に生み出せる魔性の笑みを口元に貼り付けて、彼女は青年に問い掛けた。

「んん、ん? お兄さん、少し教えて欲しい事が有るんだけど…………一体、この国には何が起こったのかな?」

 そんなセルキリアの問いに、哀れにも彼女の美貌に全身骨抜き状態と化してしまった青年は、視線も彼女の笑みから満足に逸らせないまま……忠実な奴隷の如く、順を追って説明を始めた。青年の口から淀み無く語られた事実、それは彼の頬に指を這わせていたセルキリアと、彼女の背後に影のように控えていた人哭を驚愕させる程度には衝撃的なモノだった。

「…………ええと、この国に一体何が起こったか、でしたね。……簡単に言えばこの国は『眠って』いるのです。……今から、詳しく説明します。…………しかし、その前に見て頂きたいモノが有るのですが」 そこで一旦言葉を打ち切ると、ソオルは懐から金属製の正方形のボードを取り出し、セルキリア達の眼前に掲げた。ソオルの行動の意図を計りかねて、無意識に眉を顰める二人。次の瞬間、二人の顔に在った困惑が納得に変化した。

 ソオルの掲げた金属製のボード、その表面にはとある映像が映し出されていたのだ。その金属ボードは明らかに、超科学技術の結晶だった。しかし、二人が眼球を溢す程に目を見開いた真の理由は、金属ボードに使用されている科学技術の高さではなく、それが映し出す映像の方に有った。…………簡潔に説明するとボードの表面に映し出されていたのは、全裸の人間が青緑の液体に満たされた円筒形のガラス槽の中で睡眠状態を保っている映像だった。……そして付け加えれば、ガラス槽は一つ限りではなかった。映像内では、万に近い数のガラス槽が、巨大な空間に幾何学模様のように整然と並べられていた。二人の反応を満足げに一瞥し、ソオルは再び説明を始めた。

「……これが『眠る国』の正体です。国を構成する殆どの…………私を除いた一万の国民が眠っていれば、国自体が眠っているも同然でしょう?」

「人工的に人間を睡眠状態にしてるって事で良いのかな? 確かに凄いけれど…………何故、そんな事を?」

「……何故? 何故って決まっているじゃないですか。人間は睡眠状態の時に極端に呼吸が減少するので、眠り続けていれば長生き出来ます。不老長寿は人類共通の悲願でしょう?」

「…………成程、理解したよ。…………お兄さんは皆が羨ましい?」

「当然ですよ。決まっています。私も皆と同じく夢の世界で生きたかった。しかし、非常事態が発生した時の事を考えると、現実世界にも人間が最低一人は必要なのです。クジ引きで決まった事です。文句は有りません!」

 言い切ったソオルの寂しげな微笑みに、深淵の瞳で答えるとセルキリアは、彼の耳元で甘く囁いた。

「……そう諦める事は無いよ。頑張り屋の君に、私が御褒美を贈呈プレゼントしよう」 

 彼女の吐息の交じりの妖艶な囁きは、ソオルの脊髄を電撃的に走り抜け、一瞬で思考を麻痺させた。

「ご、御褒美?」

「……その通り……、君には特別に、夢見心地になれる素晴らしいのを贈ろう。……どうする?」

「ど、どうとは?」

「ふふ、焦らせるね……。…………選択するだけだよ、簡単な事だろう?……。私の御褒美……受け取るのか、それとも断るのか…………。……………………さあ、選んで?………………」

 ソオルの理性は最早、セルキリアの傀儡だった。己の欲求の忠実な奴隷と化したソオルは、愚かにも彼女を掴もうと自らの手を伸ばし……その手が純白の頬に触れた瞬間、天使の如き悪魔セルキリアが呟いた。

「…………契約成立、だ」

 セルキリアは両腕を緩やかにソオルの首の後ろに回すと……慈愛を籠めて彼の頭を抱き包んだ。

「……私は君を夢の世界へ誘おう。決して覚める事の無い夢。君だけの幻想世界が、私からの贈り物だ」

 憐憫にも似た不思議な響きを内包する声で、永遠の眠りに身を置いたソオルに語り掛けるとセルキリアは一瞬、自身の背後へ声を放った。

「……人哭、私の為に一仕事して貰おう。………眠り続けている一万人を起こして欲しい……」

 夢と現実の違いとは何か、人間を覚醒めない夢に誘う能力を保持するセルキリアは悩み続けていた。回答の存在する確証も無いその問いに、果しては彼女は何を求めているのか…………それは誰も、恐らく彼女本人すら知らない事。

 それでも、彼女は追い求め続けるのだろう。……『答え』を掴み取るその時まで、未来永劫。

 それが現在いまの、唯一つの『絶対』だった。


 一万の『夢生者』と一人の『現生者』の国で…………セルキリアが『答え』に辿り着く事は無かった。                                    



 その年の秋、その国を二人の旅人が訪れた。

 『目覚め』を迎えたばかりの入国審査官の手際の悪い対応にも、その旅人達は笑顔で答えた。

 入国した旅人達が、手始めに向かったのは平凡な食堂だった。

 そこで旅人の一人、短い銀髪の少女は異常な食欲を発揮し…………食堂の全メニューを二周した。 

 『目覚め』を迎えたばかりの食堂の主人は哀れな事に、その異常事態に発狂一歩手前まで追い詰められた。……彼女の連れと名乗るもう一人の旅人もまた、その異常事態に金銭的に追い詰められた。

 満腹状態の少女を連れ、連れの黒髪長身の男は国の中心へ向かった。

 そして二人は、ドーム状巨大建造物に辿り着いた。

 建造物内に在ったのは一万の、青緑色の液体に満たされた円筒形のガラス槽だった。

 その内の一つには、線の細い若者が裸で浸かっていた。

 二人は、青年が意識が眠りの世界に在る事を一目で見抜いた。

 眉間を揉みながら、男が疑問を発した。

「……この機械で人工的に眠らされているのかな?」

 少女が興味深げに辺りを見回しながら、自信無さげに返した。

「でも…………はら、コードが外れてる」

 現実は残酷だ。故に人は優しい夢を求め、願う。

 夢が現実になった者が見る世界は、残酷なのだろうか。

 青年は、唯一の『現生者』として一万の『無生者』を現実から見守る自身の夢を、見続けていた。

 それが青年にとっての『現実』であり、『世界』だった。 

 青年は夢の中で、現実を生きていた。


 アスタリスク・クラウスは呟いた。

「この世界に目覚める時まで、お休みなさい」

 テトネが囁くように、続きを紡いだ。

「良い夢が貴方に訪れますように」


 一万の『現生者』と一人の『夢生者』の国で…………二人の旅人は祈った。




「人哭、知っていたかい? 最新の研究では、人は見たい夢を見る事が出来るそうだよ」

「本当ですか、お嬢様? 寄宿学校では妙な事を教わったのですね……。……お嬢様は見たい夢を見る事が出来たので?」

「……私は悪魔だから、無理だと思うけどね……。……でも今夜は、私が人哭に痛い目を見せる夢が良いな。頑張ってみるよ」

「では私は、お嬢様に痛めつけられる夢でも見るとしましょうか」

「……アハハハハハハハ、本当に……ハハ、面白いね、人哭は…………。じゃあ、私は人哭は幸せになる夢を見よう。…………人哭、君は私が幸せになる夢を見れば良い。…………契約だよ……?」

 

 妖艶に微笑む天使の如き悪魔と、彼女の『従人』。二人の旅に、終りは訪れるのか。


 



  



  

 新キャラの能力は、人間を覚めない夢に誘う、というモノ。

 名前などは、全く考えておりません。何かアイデアが御有りの方は、是非とも教えて下さい。使わせて頂きます。

 セルキリア…………テトネとは違い、悪魔らしい悪魔です。

 真面目?に人を誘惑して引き摺り堕とします。

 どうぞ、彼女を応援すると共に、『日常記』を宜しくお願いします。

 誤字脱字と文才の件に関してはいつも通りです。

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