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死ニ生キル魂 Ⅱ

 死ニ生キル魂、完結します。

 長くなってしまいました。申し訳ありません。

 やっとテトネ以外の悪魔が登場します。

 本作にバトル要素は有りません。期待しないでください。

 老人に対しクラウスはただ一言、こう問い掛けた。

 貴方は一体誰ですか。

 そんな単純極まりない、正にコミュニケーションの第一歩と言うべきクラウスの問いに、男は胸を反らし、挑み掛けるようにクラウスを指差した。

「この私を知らないとは……嘆かわしい。何たる無知。しかし、それも仕方あるまい。お前達は旅に生きる身なのだから。…………ならば、名乗ろう。この私こそが、かつて神に祝福された天才児として世に知られ、数多の常識を覆してきた大いなる英知の探究者、『狂考天才』ベルキス・ライト・ロード!!」

「………………」

「パチパチパチパチパチ」

 宿屋に戻ったらテトネに、興味が無いからと言って初対面の相手に適当な対応をするべきではない事を教えよう。

 テトネの保護者的立場に在る者としてそう考えたクラウスは、心のメモ帳に新しく予定を刻むと、目の前のベルキスと名乗る自称天才の老人に言葉を返した。

「どうも、この国にお邪魔させて頂いている旅人です。それでは」

 軽く頭を下げ、テトネを促して老人の横を通り抜けようとしたクラウスの頬を、慌てた老人の叫びが張り飛ばした。

「このベルキスを無視するな!お前達に話が有って、わざわざ出向いたと言うのに…………お前達、少しは礼儀と言う物を学んだらどうだ?」

 道路の真ん中で通せんぼしている老人に礼儀を教えられた事に、疑問を抱かないでもなかったクラウスだったが、この老人を避けて通る事は出来ないらしい、と旅人らしく早々に結論付けると、何処か申し訳無さそうな目をテトネに向け、溜息を吐き出した。二人が抵抗を諦めた事を悟ったベルキスは、満足したように大きく首を縦に振ると颯爽と歩きだした。仕方無く、その後に続こうとしたクラウスはふとテトネへ目を遣り、テトネがソロソロとその場から逃げ出そうとしている事に気付いた。まだ、逃走を諦めてはいなかったらしい。

 苦笑いを隠し、クラウスはテトネのコートの襟を掴んだ。彼女の非難の視線には無視を決め込んで。

 『狂考天才』ベルキスに導かれて、二人はそうとは知らずに、彼の研究所ラボへと歩み出した。

 このクラウスの選択が二人の平穏な滞在を一変させる事になるなど、今の当人達は知る由も無かった。


 クラウスの直感が、激しく警鐘を鳴らしていた。

 どうやらテトネの選択が正しかったらしい。

 辺りに一軒の民家すら無い、この国の中で完全な孤立状態のベルキスの研究所を訪れたクラウスは、自分の愚かさを呪った。

 まず、彼の眼に映った物は、尋常では無い量の、生物とそのパーツのホルマリン漬け、分厚い専門書と誰かのレポートの写し、金属製の細かい何かの部品、そして全身から針を生やした人間とサルのミイラだった。加えて、専門書の中には魔法陣のような図が書き込まれた、妖しい魔導書のような物まであった。 ベルキスの言う、あらゆる科学知識の聖地とやらは、どう控えめに見ても、魔術師か錬金術師の隠れ家と大差無かった。

 横ではテトネが、手で口を覆い、血に塗れたメスや鋸から必死に目を逸らしていた。血が苦手なのだろう。そんなテトネの悪魔らしからぬ姿に、最近、本気でテトネが悪魔である事を忘れがちなクラウスは、苦笑を漏らした。

「悪魔でも、血は嫌い……それは、好きな奴もいるだろうけど」

 どうやらクラウスの苦笑はテトネの耳にまで届いていたようだ。半眼で、悪魔に対しての勝手な偏見を責めるように言葉を放ってくるテトネに、クラウスは慌てた。

「別にそんな事……

 そう言いながらも、言い逃れ出来ない事はクラウス自身が一番良く分かっていた。素直に謝ろうとクラウスが口を開きかけた時、この研究所?の主、ベルキスが奥の部屋から声を放って来た。

「何時までそっちの部屋にいるんだ。私の研究材料に興味を持ってくれるのに悪い気分はせんが……話す事があるんだ。こっちの部屋だ」

 二人が、前の部屋よりはやや小奇麗な奥の部屋に入ると、ベルキスは二人に紅茶を振る舞い、近くの適当な椅子に座るように促した。何故かその部屋には、十を超える様々な椅子があった。そして、振る舞われた紅茶は、研究用なのだろうビーカーの中に入っていた。

 流石は天才だ、現実逃避的な意味も込め、クラウスはそう思った。

「それでは、まずお前達に質問させてやろう。この偉大で寛容なベルキスが」

「なぜ紅茶がビーカーに?」

「有る物を利用するの研究の基本だろう。しっかりと洗ってある、心配するな。旅人のくせに度胸が無いな。ほら、横のお嬢ちゃんは美味そうに飲んでいるぞ」

「…………ならば、何故椅子がこんなに?」

「どんな椅子が一番座り心地が良いか、研究していたのだ。にしてもお前は変な事ばかり疑問に思うのだな。いや、決して責めている訳じゃない。偉大な発明とはそうして生まれるのだ」

「成程。………………では、どうして僕達をこんな所に?」

「フム、では本題に入ろうか。まず、これを見ろ」

 そう言ってベルキスは、手の平に乗るサイズの、全体が金属で出来た、昆虫の蟻のような形の機械を取り出すと、二人に見せ付けた。

「何だと思う?」

「金属製の……蟻……ですか?」

「まあ……………そうだな。しかし、そうではなく、何の為の機械だと思うと聞いているのだが」

「さあ、カラクリ人形のように動いたりするのでは?」

「不正解だ。残念だな。しかしまあ、分かる訳あるまい。私はこの機械を『不死導虫』と呼んでいる。分かったか。言葉通りだよ。この蟻は人を不死に導く機械なのだ。最も、この機械はまだ完成していない。最終段階なのだよ。この『不死導虫』は、人の首筋に本人以外の誰かが取り付ける事で、その装着者を不死にさせるのだ。誰かの首筋に本体が触れた瞬間、この脚のような部分パーツがその人間の皮膚を破って食い込み、本体を固定する。そして、本体からこの針が出て装着者の脊髄にまで刺さるんだ。何故、そんな事で生き返るのか不思議か?そもそも人とは脳からの電気信号によって行動するんだ。そして、この『不死導虫』は本体から針を通して、装着者に電気信号を流せるんだよ。分かったか?」

「…………………………それは決して不死なんかじゃない。死んで、脳からの電気信号が途絶えた人間を偽りの電気信号で動かし続ける。不死にすると言うよりは、生屍ゾンビにすると言った方が正しい」

「同じ事だよ。では、そもそも死とは一体なんだ?誰が、死とは脳からの電気信号が途絶える事、と定義した。死とは魂が天国に旅立つ事、死とは二度と目を覚まさなくなる事、皆、好き勝手に言っている」

「それで、僕達を呼んだ理由は?まさか、研究成果の自慢が理由ではないでしょう?」

「ハハハ、それもある。しかし、もう一つ。どうだ、この『不死導虫』の装着者一号とならんか?」

「お断りします。それにまだ完成していないんでしょう?」

「ああ、どうしても針が負荷に耐えられなくてな。しかし、そうか…………やはり、断られたか」

「ええ、怖いですからね。……もう、用件は済みました?」

「いや、後一つ。お前達、旅人なら旅先で面白い発明品を見たりする事もあるだろう?金は払う、その話を聞かせてくれ」

 金は払う、の単語にクラウスの眉がピクッと動いた。これは財布の中身を補填するチャンスかもしれない。そう考えたクラウスは一瞬の躊躇いの後、頷いた。それに答えるようにベルキスも、交渉成立とばかりに満足気に頷き、そして二人の科学談義が始まった。

 結局、二人の談義は、テトネを置き去りにして、六時間にも及んだ。


 帰り際、明日も来るよう誘われたクラウスは、肩を竦める事でそれに応じた。それは一見、肯定にも否定にも取れる返答だった。しかしクラウスは、明日もこの研究所に足を踏み入れる事になると、何故か強く確信していた。 

 その十数分後、一人会話の外に取り残される形となったテトネの機嫌を直すため、近くの食堂に入ったクラウスは、ベルキスから得たかなりの額の報酬の殆どをテトネに食い潰された。幾分機嫌の回復したテトネを引き連れ、クラウスが宿屋に戻ろうとした時、日は既に沈みかけていた。

 その日、二人は『狂考天才』と知り合い、歪んだ不死の一端に触れ、それでも平和な時を喜んだ。


 次の日。朝早く、ベルキスの研究所へと足を運ぼうとしたクラウスは、テトネを科学談義に付き合わせるのも可哀想と考え、僅かな有り金の全てをテトネに託す事に決めた。テトネを一人にする事に対しての不安は無かった。ただ、代わりに言いようのない不安感が胸に湧き上がった。

 強引にそれを無視したクラウスがベルキスの元から帰った時、テトネは宿屋のベッドの上で幸せそうに寝息を立てていた。部屋で静かにしていたのかと意外に思ったクラウスだったが、机の上には、自分が部屋を出た時には無かった大量の紙切れが、重なり合って散らばっていた。その紙切れの表面には『黒竜亭・全品半額券』の文字が記されていた。どうやら『黒竜亭』とやらに行っていたらしい。

 その日、クラウスはベルキスとの友情を深め、テトネは『黒竜亭』の主人のお気に入りとなった。


 次の日。昨日の自分の行動に自信を持ったクラウスはやはり有り金をテトネに託し、研究所へと発った。クラウスが部屋に帰って来た時、テトネは部屋の隅でクラウスの喜劇の台本でニヤけていた。

 その後テトネから、『銀鹿亭』で鹿の特大ステーキの大食い大会に挑戦して優勝し、飲み食いが無料になった旨を伝えられたクラウスは、彼女のその自慢げな笑顔に苦笑し、そして癒された。

 その日、テトネは『銀鹿亭』に集っていた全ての人間に、顔と名を覚えられた。


 次の日。クラウスはベルキスの助手として労働を強いられ、多過ぎる報酬を押し付けられた。労働の内容は研究所の整理だったが、幾ら整理しても整理前と全く変わらない程、研究所内は散らかっていた。無事宿屋へ帰還を果たしたクラウスが見た物は、ベッドに顔を押し付けているテトネの姿だった。

 今日ばかりはテトネも連れて行くべきだった、そう後悔しないのがクラウスの優しさの表れだった。

 その日、二人は疲労と満腹から、並んで深い眠りに落ちた。


 次の日。ベルキスの研究所のドアを開け放ったクラウスを、ベルキスの興奮した叫びが襲った。

「針である必要は無いんだ!そう、神経に沿っていれば…………薄い剃刀の刃のような信号伝達部品ならば耐久性の問題もクリア出来るし、負荷の分散軽減も可能になる。これで完成だ。お前が国にいる間にどうやら完成させられそうだ。ハハ、やったぞ、これで………。…………これから集中する、話し掛けるなよ。ああ、今日の報酬はそこだ。それでっ……ッゴホ、ゴホ、ゴホゲホ、ゴホッ……」

「!、大丈夫ですか!」

「ああ、私はもうすぐ逝くらしい。心臓が悪くてな………いや、肺だったかな?まあ、どうでも良い事だ。私にはこの『不死導虫』があるのだからな。これが完成するまで…………それまでで……。私が実験体になるという手も…………ゴホッ、ゴホゲホ、ともかく静かにしてくれよ」

「……了解」

 結局クラウスはただで報酬を手にする事を拒み、ベルキスの研究所の整理を再度実行した。その試みが成功したかについては…………見解が分かれる所となるだろう。

 その日、『狂考天才』は不死を望み、不死に至り、確かに笑みを浮かべた。


 滞在最終日の朝。前日までとことん食事を腹に詰め込んでいた筈のテトネは何故か、クラウスよりも空腹そうな表情を浮かべていた。滞在二日目に食糧、消耗品を買い込んでいた事が功を奏したのか、二人が出国の準備に手間取る事は無かった。

 宿屋の老婆に礼を告げたクラウスは、出国前にテトネの機嫌を最大限良くしようと合理的に判断し、『黒竜亭』でテトネの腹を満たさせた。彼女の食欲がクラウスには不思議でならなかったのだが、クラウスがそれを口にする事無く、代わりに、テトネが食べ終わるまでの時間を一杯のコーヒーをチビチビと飲む事で過ごした。


 『黒竜亭』の主人に、死んだ目と満面の笑みで送り出された二人がベルキスの研究所に到着し、床に倒れ伏しているベルキスを発見したのはそれから三〇分程後の事だった。クラウスに抱え起こされた彼は薄く眼を開けると、何処か安堵したようにホッと息を吐き、クラウスに告げた。

「完成したぞ。私の最高傑作『不死導虫』。思えば、出所不詳の人体不死化装置の研究資料に魅せられてもう何年に…………。この国の人間は皆、良い者ばかりだった。私の母国は私を追い出した。ここが、この国が私の…………ゲホッ、ゴホッ……、頼む、私に『不死導虫』を…………いや、もう、良いか………………」

 そして、『狂考天才』ベルキスは息絶えた。

 次の瞬間、研究所のドアがもの凄い勢いで開け放たれた。ドアの向こうに立っていたのは、無数の国民だった。神父も、主婦も、医者も、猟師も、乾物屋の主人も、『黒竜亭』の常連客も、ありとあらゆる人間がドアの向こうに押し掛けていた。

 クラウスはまずそれが、大切な一国民だったベルキスを悼む為の行為なのかと考えた。しかし、押し掛けて来た人間達の瞳からは、悲しみも、憐れみも、感情と言う物自体が感じ取れなかった。二人が戸惑っていると、神父らしき男が一人、研究所へと足を踏み入れて来た。そのまま、クラウスの前まで足を運ぶ神父。

 そして彼はクラウスからベルキスの遺体を受け取ると、肩を支えながらベルキスの来ていた服を剥ぎ取り始めた。程無くして、老人の痩せ細った上半身が晒された。次に彼は何処からか白銀に輝く手の平サイズの物体を取り出すと、ベルキスの首筋に『装着』させた。その物体の正体を二人は知っていた、否、知らされていた。たった今、息を引き取ったばかりの老人の口から。

 それは、ベルキスの言う完成品より遥かに洗練されたフォルムを誇ってはいるが、明らかに『不死導虫』だった。どういう事だという疑問を、クラウスは済んでの所で飲みこんだ。

 それを聞ける雰囲気では無かったから、ではなく神父の男が二人に説明を始めようと口を開いたからだ。生気の無い、今となっては恐ろしい目を細め、優しい口調で神父は二人に話し掛けた。

「不思議に思うでしょう?しかし、まずはこれを」

 そう言うと神父は、身体を半回転させると二人に背を向け、首筋を露わにした。そこには、一匹の『不死導虫』が在った。ふとクラウスが神父の肩越しにその向こうを見遣ると、ドアに詰め掛けていた全ての国民も、神父と同じ姿勢をしていた。その全ての首筋には、やはり一匹ずつ『不死導虫』の姿が在った。クラウスは今度こそ、自らの疑問を発した。

「全ての国民が?」

「はい。貴方が入国なさった時、この国で『生きて』いたのはDr・ベルキスだけです。彼は今から一年程前、この国を訪れ、そのまま国民の一人となって下さいました」

「彼も貴方達の中で生きるのですか?」

「はい。この国で、人は死にません。この国の民は皆、死に生きるのです」

「僕達はどうすれば」

「貴方達は今日、出国予定です。どうぞ、良い旅を。ただ…………この国の秘密についてはどうか、他言無用でお願いしたい」

「…………………分かりました……」

 気付けば、神父の後ろに人影が在った。その人間を二人は良く知っていた。その人間は………それは、かつてベルキスと呼ばれた物だった。


「旅人さん方。貴方達には不思議に思えるのかもしれない。しかし、これが私達の辿り着いた、平和なのです。幸福なのです。完成された世界なのです。理解して頂こうとは思いません。ただ、覚えて欲しい。この世には、自分達を、自分達の力で、自分達の納得した世界に生かす、私達のような存在がいるという事を」

「ええ、分かりました。心に刻みます」

「…………貴方達は幸せそうだ。だから、ボクは尊敬するよ。……アリガトウ……」

 そう答えて二人は静かに頷くと、一瞬視線を交わし、死に生きる国民達へ背を向けた。

 手を繋ぎ、肩を触れ合せながら、その瞳に淡く哀しい光を宿し、生に生きる旅人達は城門をくぐった。

 そして二人は旅立った。




 その年の冬、その国を二人の旅人が訪れた。

「入国希望と言う事でしたが、何日間程滞在されますか?」

 笑顔で、しかし何処か生気の無い目でそう問い掛けて来た入国審査官の青年に、答えを返したのは背の高い方の旅人、病的なまでに白い肌を分厚いコートの隙間から覗かせている、審査官に負けず劣らずの暗い目をした女性、いや、年齢的にまだ少女という表現が相応しいだった。

「…………すぐに発つから、一日?……で、良いかな?」

 その返答に答えたのは、審査官の青年…………ではなく、背の低い方の旅人だった。

 燃えるように鮮やかな赤髪を逆立てた、恐らく少女より更に若い、小柄なその少年は苦笑交じりに告げた。

「長居する必要は無えから、今夜には発つゼ」

「あっ、はい。では、今夜中に出国するという事で、分かりました」

 何処か捉え所の無い少女より、この少年の方が話が分かると即座に判断したのだろう。審査官の青年は少年に再度確認すると、城門をくぐるように促した。

「オイ、許可出たゼ。行こう」

「分かってる」

「嘘ダロ?今、ボケっとしてたよな、お前」

 ム、ムムム、と不満げに低い声を漏らす少女を置き去りにして、少年は城門をくぐり抜けた。


「…………この国の人間、生きている感じがしない」

「流石、人間のくせにお前はそういう所、妙に鋭いよナ。でも、マア当たり前だろ。なんせこの国の連中、ミンナ死んでるからな」

「えっ?嘘、皆、普通に生きてる。確かに生気は薄いけど…………」

「いや、こいつらはミンナ、機械かなんかで強引に操られてんダヨ。オレは悪魔だらかナ。ニンゲンの魂を感じ取れんダヨ。基本能力の一つダ」

「そんな…………じゃあ」

「どうするヨ?お前はこの間違った存在達を、どう裁ク。クク、皆殺しカ?見なかったフリか?」

「ロウはどうするの?」

「オイオイ、決めるのはお前だろ、御主人様マイマスター。俺はタダ従うだけ。オレとしては、コンナ不味い魂でも無いよりはマシなんだが…………まあ、好きにしてくれヨ」

「ロウは勝手。私を『従人』にしたくせに。少し位、私を導いてくれたって良い」

「「………………………………………………」」

「……………おい、ヴィア?」

「…………もし、私達がこの国を焼いたら、この国の人は私達を恨むかな?」

「そりゃあ、ナ。当然ダロ。ドウシタ?恨まれんのが怖いのカ?オレが守ってやるぜ」

「……………ロウの好きなようにして」

「イイのか?この国が消えるぜ?」

「……………そう、でも、私は分からない。正しさも、尊さも、美しさも。全て、ロウが知ってる」

「ククク、随分と高く評価してくれたナ。まあ、お前の希望を壊すのも可哀想だから、否定はしないゼ」

「ロウ、無理はしないで。私と同じで貴方は…………」

「悪いナ。オレはお前ほど優しくない。オレが大事なのは、お前だけダ。『契約』の時、そう誓った」

「……分かった。私はロウを否定しない。……………それが私の誓い」

「「……………………………………………」」

「取り敢えず、買い物済ませようゼ」

「分かった。じゃあ、ロウは食料を。三〇分後にこの場所で」

「了解ダ」                         


 食料、消耗品の入手を済ませた二人の旅人が、城門脇の入国審査官小屋を訪れたのは二人が合流を果たしてから二,三〇分後の事だった。入国審査官の手際の良さも手伝い、一瞬にして出国許可を得た二人は、多くの国民から生気の無い目で見送られて旅発った。

 二人の間には、無言が在った。それは決して、心で通じ合っている、といった事ではなかった。

 その証拠に少女は、三〇秒に一回のペースで、もどかしげに隣を歩く少年に目を遣っていた。そして、必死にその視線に気付かない振りをする少年もまた、かなりの挙動不審振りを見せていた。

 二人が城門を離れて十分近くが経過した頃、遂に少女は少年に問い掛けた。

「ロウ…………あの国……」

「ナンダヨ?オレは何にもしねえヨ」

「えっ、だって…………」

「ん、まあナ。…………どうせお前はイヤなんだろ?あの国を消すのはヨ」

「良いの?魂、貴重なんでしょ?」

「お前に嫌われる方がメンドクセーからナ。仕方無くダヨ。感謝しろヨ」

「……………有難う、ロウ」

「オイオイ……そう言うぐらいならヨ、最初からヤメロって命令すればイイよな?」

「…………私は馬鹿だから。有難う、本当に」

「はあ、…………ドウイタシマシテ」

 



 そして、二人の旅人は歩き続けた。

 手を繋ぐように、指先だけで繋がり合って。

 いつまでも、決して苦笑と微笑を絶やす事無く。          

 赤髪小柄な少年悪魔、ローエンと、彼の『従人』、シキーナ・ツヴィア。

 かつて、大食い少女悪魔と彼女の『従人』が歩んだ道を、今、新たに二人の旅人が踏み締めた。





 

 



 悪魔ローエン、新登場です。まだ、彼の能力は明らかになっていません。

 国一つ滅ぼせる程の力を持っているのか?

 実は、ツヴィアのキャラが固まっていません。

 しかし、何とかします。

 誤字脱字が有りましたら御免なさい。

 文才の無さに関しては許して下さい。

 これからも、善ノ悪魔ノ日常記を宜しくお願いします。

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