第1話 決意と告白
美しい月と星が夜空を飾る頃、俺は家の近くの公園に来ている。
「鳳宮 秀夜・・・。待っていた。」
姿こそ見えないが、確かに俺の名前を呼んでいる。
「おい。姿くらい見せたらどうなんだ?」
「無駄な話をしに来た訳ではない。」
どうやらこっちの話を聞くつもりはないらしい。
何故こんな事になったかと言うと、今から2時間前に遡る。
新学期初日を終えた俺が帰宅すると、いつものように1つ下の妹が出迎えてくれた。
「おかえり。おにーちゃん。」
「おう。ただいま。」
「ご飯にする?お風呂にする?それともさ・ら・し?」
「そんな危険かつマニアックなプレイに付き合ってられるほどの余裕と勇気は持ち合わせてねーよ。」
こんな不思議な妹でも一応賢妹だ。学業優秀、八方美人のハイスペック妹だ。
「もう。2人ともバカやってないでご飯にするよ。」
リビングから顔を出したのは、もう1人の妹。この2人は双子だ。
鳳宮 詩乃と鳳宮 弥生。
料理などの家事を得意としている。
姉の詩乃は活発系で妹の弥生はおしとやかな家庭系妹だ。
どちらも超が付くほどの美少女で、今日から俺と同じ学園に通う高校1年生だ。
「そうだおにーちゃん。変な手紙が届いてたよ。」
そう言って詩乃は封筒を投げ渡してきた。
俺は荷物を置くために、自分の部屋に戻った。
「手紙?一体誰からだろう?」
中身を確認すると、驚愕的な事が記されていた。
『【刃器】を持つ貴殿に話がある。今晩、最寄の公の園で待つ。』
公の園って・・・。
「普通に公園って書けよっ!いやいやつっこむところはそこじゃない。【刃器】・・・。」
聞いたことが無い言葉・・・。っていう訳じゃない。
祖父が死ぬ間際に言った言葉に聞き覚えがある。
『いつかこの刃器がお前に武士の志を授ける。』
そう、あの布に包まれた物体こそがおそらくこの手紙に記されている【刃器】。
とりあえず行ってみるか・・・。
そして今に至る。
「【刃器】を持つ貴様には、我々に協力する義務がある。」
「姿も見せない連中に協力するもくそもないだろ?」
「・・・。ならこれから起こる事を知ってから、また来るとする。」
そう言って、声の主は消えた。
「ふぅ・・・。何なんだよ一体。」
翌日、いつものように登校していると、違和感を覚えた。
いつもならそろそろ統間が絡んでくるはずだ。しかし中々来ない。
それどころか周りには麗翔の生徒どころか人っ子一人見当たらない。
おかしい。嫌な空気がその場を流れる。
気づいたら、俺は走っていた。何かから逃げるように。
何も見えないが、何かに追いかけられているような感覚に駆られているのだ。見えない何かから逃げるなんて、自分でもどうかしている思う。
ただ伝えてくる、危険だと本能が察知しているのだ。
気が付けば河川敷まで走っていた。
「ハァハァ・・・。ここまで来れば・・・。」
そのとき、空間に穴が開いた。比喩ではない、空中に歪みができ、そこから何かの眼らしき物がこちらを覗いている。
「な、何なんだよ・・・。」
やがて歪みが広くなり、腕らしき物が飛び出してきた。
その腕は歪みをさらに広げ、大きな体、脚を順に現した。
ドス黒い体にオーラを纏った骨格のような物を顔に付けている。
その骨格は、顔を形作り、不気味な雰囲気を醸しだしている。
恐怖のあまり、声が出ない。
その怪物は腕を振り上げた。そのまま腕を地面に、もとい、こちらに向かって叩きつけた。
かろうじて回避をしたものの、足が震えてその場から逃げることができない。
再び怪物は腕を振り下ろした。今度こそ避けられない。俺は死ぬのか?
そのとき頭を祖父の遺言がよぎった。
『いつかこの刃器がお前に武士の志を授ける。』
俺は武士になんかなれないよ。でも・・・。
「ここで死ぬのは御免だ!」
無意識のうちに持っていた布から、【刃器】と呼ばれる物を取り出していた。それは日本刀のような刀だった。その刀を鞘から抜き去り、思いっきり斬りつける。まっすぐ伸びた刃は、少し長めの刀で、その刃は怪物の腕を軽々と切り落とした。
怪物が悲鳴にも似た叫び声を上げる。それでも怪物は残った逆の腕で攻撃してきた。対処できなかった俺は、そのまま後方にぶっ飛ばされた。
体を強く打ちつけ、一瞬息が詰まったかと思うと、口から血の混ざった吐しゃ物を吐き出した。
朦朧とする意識の中、怪物は少しずつ迫っていた。
すると、
「なんや。もう死に掛けてるやんけ。」
「まったく。こんな奴でさえ、刃器保持者だなんて。呆れるな。」
「まぁまぁそう言わないで。それに少しカワイイじゃない。」
「はぁ。皆さん少しは集中して下さい!」
「ごめんなさい・・・。」
「うるせー!大人しく俺に殺られろぉー!」
見知らぬ6つの影が怪物の前に立ちはだかった。
そのまま俺は意識を失った。
気が付けば俺は見知らぬベッドの上で目を覚ました。
「ん・・・。頭痛い・・・。夢・・・?」
な訳無いか・・・。あんなに激しい出来事、夢でも珍しい。
目を覚ました場所は、殺風景な真っ白な部屋だった。
「つか俺生きてる・・・。」
「あ。起きた?」
声の方向を見ると、大人っぽい(主に体が・・・。)女性がいた。
綺麗なお姉さん的な人だ。
「あの、ここは一体。」
「起きた?」
「だからあの・・・。」
「起きたの?」
「あの・・・。」
「ごめんごめん。言い直すわね。そっちも起きた?」
「てか何て事聞いてんだ!あんた変態かっ!」
「冗談よ冗談。」
冗談に聞こえねぇ・・・。
「ここはね、私たちの基地みたいなところよ。」
「基地?」
「まぁついて来てちょうだい。」
案内されるがままについて行く。どうやら施設のような場所みたいだ。
建物もしっかりしてるし、何よりとてつもなく広い。
ここは一体・・・。
しばらくして、ある部屋に入った。中は尋常じゃなく広く、1つの部屋だとすると建物全体は、1つの都市くらいありそうだ。
中には、数人の人影が確認できた。
その中の1人が話しかけてきた。
「やぁ、目を覚ましたみたいだね。はじめまして。私はここの責任者である鬼能原。君が新しいメンバーだね。」
「あの・・・。まったく話が理解できないんですが・・・。」
「そうだね。じゃあ順に話そうか。・・・。」
こうして鬼能原と名乗る人は説明を始めた。
あまりに長かったので、まとめて説明すると。
この世界は3つの世界に分かれているらしい。俺たちの住む『現世』、俗に言う天使や神が住まう『天界』、俗に言う悪魔や魔王の住む『魔界』の3つだ。これらをまとめて『三天世界』と言うらしい。天界や魔界なんてふざけた話だと思ったが、あの怪物を見せられたら何も言えない。
そしてあの怪物は、『道化』と呼ばれる、三天世界外から現れる異怪な怪物。
そしてこの現世において、唯一異世界などの事柄を取り仕切る機関が、この組織。『リヴィアン』だ。
「俺は一般の高校生ですよ。そんな怪物と戦うなんて・・・。」
「君だけじゃない。君が戦わなければ、君の家族や友達が襲われるかもしれないよ。」
みんなが・・・。もし、もし俺に戦う力があって、それを必要としてくれる人たちがいるとしたら・・・。俺に守れるものがあったとしたら・・・。
それなら俺は・・・。
「分かりました。この組織に入ります。」
「よく言ってくれた。じゃあ今日は帰っていいよ。」
「へ?」
「だから今日は帰っていいよ。」
そんなこんなで適当に帰された。
翌日、登校していると、
「よう秀夜。」
統間だ。
そう、いつもの日常だ。だけど変わってしまった。俺は怪物を倒す人外の道を選んだんだ。
教室に着くと、担任が入ってきた。
「皆さん。編入生を紹介します。」
編入生か・・・。ん・・・?
入ってきた生徒を見ると、見たことのある姿が、1、2、3、4、5、6ってリヴィアンの人間じゃねーか!
ありえない・・・。嘘だろ。
こうして俺の理不尽学園生活のフラグが立った。
そんな中、放課後事件が起こった。
学園のアイドルであり、クラスメイトの織城 伽耶が廊下で俺を呼び止めた。
「あ、あの。鳳宮くん。」
「ん?何?」
「私・・・。覚えているんだよ。入学式の時のこと・・・。」
「えっ・・・。」
そしていきなり俺の胸に飛び込んできた。
頭が真っ白になりかけた。綺麗な髪からはいい香りが漂っている。
心臓がドキドキしている。何が起こっているんだ?
教室から大勢の生徒が身を乗り出し、こちらに注目している。
「うそだろ・・・。伽耶ちゃんが・・・。」
「あの鳳宮に・・・。」
ざわざわとどよめきはじめた。
「織城・・・。」
「鳳宮くん。・・・好き・・・。」
突然の告白。正直てんパッているのに、何故か頭は冷静だった。
今までの俺だったら嬉し過ぎて気絶していたかもしれない・・・。
でも今は違う。色々あって覚悟したんだ。自分の意思で決意したんだ。
俺は・・・。
「織城・・・。俺は・・・。」
必死に振り絞った言葉を口にした。
その言葉は、その空間に響き渡ったが、俺には聞こえなかった。
それが俺の返事であり、俺の・・・。
決意なのだから・・・。
どうも結月 鷹です。
今回は1話なのにはりきりすぎちゃいました。
自分で言うのもなんですが、良作の予感?みたいなのを感じてます。(完全にフラグ)(笑)。
何はともあれ第1話です。
できれば感想を頂けるとうれしいです。
次回もよろしくお願いします。
あとお気に入りもよろしくお願いします。