動き出す山Ⅱ
守矢神社道中 10:00 (新月まであと2日と10時間)
「…暑いね、お姉ちゃん。」
「…そうね、穣子。」
私達は暑さに苦しめられながら守矢神社に足を進めていた。暑苦しい夏でありながらも私達が守矢神社に向かうのには理由がある。
今朝、目が覚めて玄関に出たら、私達の畑が何者かに踏み潰されていたからだ。踏み荒らされたわけではなく、文字通り馬鹿デカイ4つの足跡だけ残して私達の畑などをぺしゃんこにしていた。それで、犯人を取っ捕まえるために守矢神社に協力を頼みに来たわけだ。
守矢神社の階段が見えてきたところで、ちょっと近寄り難い神に声をかけられた。
「あら、秋静葉様に秋穣子様ではありませんか」
「鍵山雛様、あなたも守矢神社に用事が?」
お姉ちゃんが返事をする。雛は厄神として周りから遠ざけられがちだ。正直、雛と関わってもそこまで災難に降りかからないと思う。雛と一時間立ち話した日、守矢神社に贈った野菜全てが偶々虫に食われていて、翌日私の畑に沢山のオンバシラが生えていたが、多分何かのご利益があるだろう。…うん。これは災難じゃないね。
「そうなのよ。あなた達の用事は何?」
「私達の畑が何者かに踏み潰されていたんだよ!しかもお姉ちゃんのモミマ「ブンッ!」ごは!!」
私が禁じられた言葉を言った瞬間、お姉ちゃんのボディブローによって肺の中にある空気が外に吐き出され、ノーバウンドで3メートル先の木にぶち当たった。朦朧とする意識のなかで、私は先程言った自分の軽率な発言を呪った。
実は最近、お姉ちゃんの信仰の集まりが悪い。理由を挙げるとすれば人里のみんなは「食欲の秋派」だったということだ。昔は山の紅葉を見て感動してくれる人もいて、その人達のお陰でお姉ちゃんは信仰を得ることができた。しかし、今となっては紅葉を見るよりも腹を満たすほうが秋らしいと思う人が増えてきた。そこでお姉ちゃんが考えた打開策が、紅葉をモチーフにした饅頭(略してモミマン)を作ることだった。よくわからないがお姉ちゃんが「モミマン」というフレーズを毛嫌いしている。いいと思うんだけどなぁ、モミマン。
遥か遠くから声がする。
『穣子様~。こっちに来ましょうよ~。』
あれは!お姉ちゃんの目の前で「モミマン下さい!」と懇願してラリアットを受けたした男の子じゃないか。他にも沢山の男性が向こう岸で手を振っている。誘われているみたいだし、私も行こうかな。
トントンッ
「おや、見ない顔だね。なんならあっちまで送ってやろうか?」
突然肩を叩かれ、横を振り向くと
赤い、ツインテールの、大鎌を持った、死神が…
「全力で遠慮させていただきますぅぅぅぅ!!」
私は回れ右をして全力でその場から逃げ出した。
バッ!
(あっぶね!今回は三途の川横断するところだった。あれ、絶対死神だった!本っ当にヤバかった~!!)
「穣子起きたのね良かったわー。」
お姉ちゃんが平淡な声で死んだような目で何か言っているが、これには理由がある。先程言いそびれたが、私達の畑を踏み潰した足跡はお姉ちゃんの紅葉饅頭生産工場まで踏み潰していて、初めてお姉ちゃんが工場だった残骸を見たときは正気を保つのもやっとの状態だった。周りに生えている木を殴り続けてをようやく落ち着いたのだ。それでも今、お姉ちゃんは言葉では言い表せないぐらいにご立腹なのだ。
「あの…。穣子様は無事な様ですし」
「それもそうね。さぁ行きましょ。」
「う、うん。」
守矢神社の神にさっさと犯人を見つけてもらおう。私がお姉ちゃんのパンチを食らわないで済むために。
階段を登り切ると神社の鳥居の前に河城にとりがいた。
「あんた達も山の神様に相談かい?」
「そうよ。今朝、私達畑が踏み潰されたのよ。」
「お姉ちゃんのモ…、最近は物騒だよね~。」
「私は相談というよりも質問なんだけどね。」
危うくまた地雷を踏むところだった。あれ、雛は目的が違うのか。
神社の本殿に着いたが、外には神様がいないみたいだ。
「ごめんくださ~い。早苗様、神奈子様、諏訪子様いませんか~?」
返事がない、只の留守のようだ。
しかし、ここで引き下がったらこんな暑い日に神社まで足を運んだ意味がなくなってしまう。せめて戸が軋むぐらいまで叩いてから帰ろう。
ドン!ドン!ドンッ!「ごめんくださ~い」
これは確認。本当に神様が不在か確認しているだけだ。
ドン!ドン!ドン!ドンッ!「早苗さ…」
ったく、こっちが汗水垂らして来たってのに。戸の1枚ぐらい引き剥がしてやろ
ガラッ「ズビッ…何してるんですか?ミノリコサン?」
あ…ヤベ。
バキッ!「マッ!!」
早苗の右ストレートが飛んできた!
かなりの痛い!早苗は鼻水をすすりながら何か言っている。
スビッ「こっちにも事情が」
スビッ「あるんですよ~。」
「事情もこうもないだろ!なに訪問者殴ってんだ!」
あ、神奈子様も出てきた。戸を叩きまくったことは気にしてないんだ。私、助かった!
「用があるなら私が聞こう。順番に話せ。あと穣子、あとでO・HA・NA・SHIしようか?」
訂正、助かりませんでした。
「私からでいいかい?」
にとりが話し始めようとしたとき、
「あや!これはちょうど良いところに。ちょっと神奈子様、私の話を聞いてくれませんか?」
あー、来ちゃたよ~。幻想郷一(速い)嫌な天狗・射名丸文が来ちゃったよ~。ていうか、殴られた私を全員がスルーしてるよね?
「待ってくれよ文、私が先だからな?」
「はい、どうぞどうぞ。」
私達はここまで来た理由をそれぞれ話始めた。(畑の件はお姉ちゃんが話してくれるみたい)
「私達の川辺の工じょ
「私の同僚の白狼天狗が30名行方不明なんですよ犯人の捜索ご協力お願いします。」
「朝、目が覚めたら私の工場が握り潰されていたんだ!早く犯人を取っ捕まえてくれよう!」
「私達は畑が何者かに踏み潰されていましたわ。」
「諏訪子様に似た厄が妖怪の山を動き回っているわ。この事態はあなた達の諏訪子
雛の言葉が途切れた。
「これ以上諏訪子様の悪口を言わないでください。」
気がついた時には早苗が御払い棒を雛の喉元に突き付けていた。さっきまで鼻水垂らしてたのがまるで嘘のようだ。雛、いくらなんでもその言葉いけない。
「こらこら早苗。客に乱暴しちゃいけないよ、ゴホッゴホ…」
本殿から話題の諏訪子様が出てきた。早苗も神奈子様もいたんだからやっぱりいたんだ。
「諏訪子!」
「諏訪子様はゆっくり寝ていてください!」
神奈子様と早苗が駆け寄る。なんか、家族みたいだなぁ。
「いや、誤解は解いとかないと。まさかとは思っていたがここまでとはね…。私は自分の帽子に力を吸い取られちゃってね。あんた達には悪いけど、その帽子を倒してくれないか?その代わりお礼はちゃんとするからさ。神奈子が…。」
「私がかよ!」
…なんか楽しそうでなりだ。だが、居場所がわからない相手とどうやって戦うのだろうか?今まで黙っていた雛が
口を開いた。
「その帽子とやらは毎回同じ場所で20:00に決まって出現してるわ。」
「ゴホッゴホ、あー頭痛い。祟りをするには夜が一番だからね。明後日は新月だし、最高の祟り日和だ。それと、帽子だからって侮らないことだね。なんたって、私の力と複数の白狼天狗を吸い取ってるんだから。それじゃ、寝床に戻るとするよ。」
諏訪子様はそそくさと寝床に戻って行った。これで場所も出現時間わかったがどう対策したものか…。
「私にいい作戦がある。」
「流石神奈子様!私達に出来ないことを平然とやってのけます!!」
なんか、勝手に守矢の2人だけで盛り上がってる。
「それじゃあ。こほん、作戦の内容は……」
作戦を聞いたあと、にとりも文が準備するために急いで神社を抜けて、残った雛と私達は帰宅した。
そして私の背中には神奈子様の紅葉が出来ていた。
ここからにとり視点
「ほらよ、陰陽玉。この作戦はタイミングが合わないと話にならない。全員、明後日こいつを忘れるなよ?」
「………。」
絶句していた。神奈子様の話した作戦は私の想像を超える作戦だった。神奈子様の説明が全て冗談であって欲しかった。作戦を聞いていく内にこの作戦じゃないと倒せないような気がしてきた。しかも、この作戦で私と文が機材(兵器)、守矢の二人は人材の確保だ。とてつもなく準備のハードルが高いのだが、秋姉妹と雛は待機みたいで、なんか釈然としない。私と文はその場で呆然としていたが、神奈子様が睨み付けてきたので私達は全速力でそれぞれのノルマをこなしにいく。
今の状態だとノルマ達成に何もかも足りてない。時間、機材、人材。
このことを河童達に知らせて、機材も沢山持って…
永遠亭に行こう。