プロローグⅢ
同日 妖怪の山 午後9時
一人の天狗が帰宅していた。
「うい~、帰ったぞ~!」
姫海棠はたては、ふざけた台詞を吐き、酔いながら自分の部屋に転がり込む。最近まで地底で沢山遊び回り、久しぶりの自宅だ。
月刊新聞の発行締切は明後日に迫っているが、焦ることはない。記事に書くための写真は既に撮れているからだ。早苗から外の世界のカメラを条件付きで数十台でもらい、それらは幻想郷中に光学迷彩付きで配置されている。早苗の条件とは撮れた写真の一枚を無条件で渡すことだが、大したことではない
。
「さ~て、今回も頼むわよ。いい写真が撮れていますように♪」
配置されたカメラ達に写る景色を携帯カメラのボタン1つで念写し、部屋の隅に置いてあるコピー機で印刷するだけだ。慣れた手つきで、焼酎を飲みながら操作していく。
自分は全く動かず、1ヶ月分の写真の中から必要な写真だけを抜き出し、記事にする。どこぞの清く正しい(笑)の同僚がみたら憤慨するような作業だが、止めるつもりは毛頭ない。最小の労力で最大の効果を出せるのだから。
しかし、この方法には欠点が2つある。1つ目は、撮れた写真は印刷するまでわからないこと。念写で撮った画像は見ることが出来ず、私の携帯カメラに全てデータ化される。そのデータをコピー機に送信し、印刷されることで初めて何を撮ったのか確認できる。2つ目は量が多すぎることだ。「ボタン1つで」とは言ったが一度に全てのカメラで念写するため、撮れた写真の量は膨大であるから、何を記事にするか選抜しなければいけない。これらは自らが動かない方法の必要経費というヤツだと割りきっているので、そう苦にはならない。
ヴィー
撮った1日分の写真が敷き詰められるように1枚の用紙となって出てくる。
「お、やっと1日目か、って何これ、まさかスクープ…?」
コピーされた写真には命蓮寺の墓地に大量の霊が湧いていた。何か匂って仕方ない。あ、焼酎飲んだから匂うのか。
「これは記事の候補っと。」
すぐに記事にしないのにも理由がある。春に魔法の森で面白い写真が撮れたから速攻で記事にしたら、博麗の巫女にボコられた。あれは少し反省している。
ヴィー
「ん、これは見ない顔ね。新入りかしら?」
2日目には見慣れない青い髪の女性が墓地にいた。うーん、これは保留だな。
ヴィー
「3日めっ……!?」
3日目の写真には明らかな異常があった。
2日目に写っていた女性がカメラ目線でこちらを見ていたのだ。
あり得ない現象を目の当たりにしたせいか頭が痛い。
(なんで?光学迷彩があるのにこっちのカメラの位置が把握できてるの!?)
カタカタッ…、ピー。
4日目の分は出てこない。本来ならば合計で30枚印刷されなければおかしい。出ないということは…
光学迷彩付きの数十台のカメラが全て破壊された。しかも、かなり早い段階にだ。
(これはヤバい!早く本部に連絡を…、え?)
非常連絡用の陰陽玉を取りに壁に近寄ろうとするが、視界は霞み、足は思うように進まない。
(まさか、壊したヤツはもう居場所を特定しているんじゃ…。)
おぼつかない足取りで壁との距離を詰めていく。
(陰陽玉まではあと少し、これで助けを…)
『残念でした~』
グシャッ!
壁から生えた腕によって唯一の連絡手段が粉々に握り潰されていた。
「あ…?」
ドガッ!バキッ!メシャッ!
ドムッ!グチャッ!ベチャッ!
1時間後
「う…、え…。」
『ふぅ、邪魔者はこれで消えたわね。あまりにも久しぶりでやり過ぎたかな。両足を折り続けてみたけど妖怪は頑丈だし問題ないか。私自身が手を下すなんていつ以来かしら?』
虚ろな目をしているはたてを余所に、部屋の器材も全て破壊し尽くした襲撃者は世間話をするように話し出す。
『洩矢諏訪子との接触は成功したし、あとは彼が計画通りに動いてくれれば…。ウフフ。』
ようやくプロローグが終わりました。
長かった…。コメントはネタバレしない程度にお願いします。