プロローグⅡ
同日 地底核融合センター 午後8時
灼熱地獄での夏の朝から夜まで続く暑苦しい死体運びの仕事を終え、一息ついたところで火焔猫燐は上を見上げ、同じさとりのペットに声をかけた。
「お~い、お空ぅ。さとり様の晩ごはんできたから、帰って一緒に食べよう。」
「うん、わかった~。あと妖工太陽の停止だけだからちょっと待ってて~。」
お空の前の仕事は灼熱地獄から出る熱を抑える係だった。頭が悪いが仕事の時だけはとても熱心だった。外の世界からやって来た神が力を与えてからお空の仕事のハードルが大幅に上がった。「やってることは変わらないから大丈夫だよ。」と言っていたが、本質は大きく変わってしまったことを後にお燐は思い知った。
今まで地底は太陽の光が射し込むことがなかったが、お空の作り出す妖工太陽で地底の妖怪は太陽を見ることができる。地底に落とされた妖怪達では到底見ることができなかったものが今、自分たちの遥か頭上で輝いているのだから、多くの妖怪達が喜び合っていた。しかし、お燐は太陽を創造する程の神の能力には恐怖を感じずにいられなかった。
そして、恐れていたことが起きた。お空が
「私の能力がどこまで通用するか見極めるんだ!」
とかバカなことを言い出して地上を灼熱地獄のようにしようと暴走したことだ。しかし、怨霊による合図で地上からやって来た人間によってお空はねじ伏せられた。
この異変の数日後、妖怪の賢者の八雲紫が地霊殿を訪れた。内容はもっと地底を明るくしないかという話だった。外の世界の「原子力発電」という方法で電気を作り、その電気とやらで地底を明るくするらしい。妖工太陽の光はあまりに浴び過ぎると身体に悪いみたいなので20時から次の日の13時までの間は停止している。電気で明るくなるなら妖工太陽の停止時間内でも明るい地底になるのだ。当時、地底に原子力発電と電気を導入する話に反対する者などいなかった。地底の生活はよくなるし、地上ではこの原子力発電と電気の導入が出来ないらしい。妖工太陽、電気は地底には、かけがえのない存在になっている。
「おーい、おりーん、帰るよ~。」
「はいよ~!早く帰ってさとり様のご飯を食べようか。ふふっ」
(お空って考えてみれば凄いヤツなんだよなぁ…)
「うにゅ?どうしたのお燐、さっきからにやけて?」
「いや、あんたがあたいの相棒でよかったなって思ってさ」
(頭があれなのがたまに傷だけどね…)
帰り道にお空の視線が上に移動する
「上にあるあれは何?」
上を見上げると洩矢諏訪子の帽子が穴から落ちて来るのが確認できた。
「なんでもいいや。お燐、帰ろっか。」
「あ、うん…」
気にせずお空が足を進めるが、お燐は疑問が浮上した。
(なんで帽子だけがこんなところに来てる?)
振り替えると先程まで帽子と思っていた物体からは黒い影のような腕が生えていた。しかも、落下ではなく間違いなく此方をめがけて飛来してくるのが確認できた。
その物体は落下しながら何かを告げている。
【…チ…ラ…、…ミ…ケ…!】
【…チカ……!】
【ヤタガラス、チカラ、ヨコセェェ…!!】
この一言でお燐は
「お空!危ない!」
帽子から生えた黒い腕からお燐はお空を庇うようにして立ち塞がり、腹に切り傷が走る。
「ぐっ!?」
目の前で相棒が傷つき倒れていく姿を視認した。
「え…?お…燐…?」
次の瞬間、お空は右腕の制御棒をフルスイングし、帽子の妖怪を殴り飛ばしていた。