outside①
「ごめんください!阿求様はいらっしゃいますか!?」
稗田宅に声が響く。
「どちら様でしょうか?」
(折角、書庫の整理をしていたのに…仕方ない。あぁヤダヤダ)
稗田阿求は手を止め、玄関へ向かった。
「こんな所に足を運ぶなんて、失礼ですが余程暇なんですね?」
書庫の整理の邪魔をした報復として、彼女はちょっとした嫌味を加えて目の前の青年を見据えた。
「ここには今までの『異変の記録』しか残されていませんが、何か知りたいことでも?紅い霧で幻想郷全体を覆い尽くした紅霧異変ですか?夏になっても雪が降り止まなかった春雪異変ですか?」
「いいえ、先週に起きた流行り病について何か知っていることはありませんか!?人里はまだその病に苦しめられているんです!早くしないと…」
青年の訴えには、明らかな意志が込められていた。彼の勢いに負け、阿求は青年の話す情報に最も近い記録がある場所へ案内することにした
「それではこちらに来てください。そういえば、貴方は新月を見ましたか?」
「………?」
首を傾げる青年を余所に、先程までいた書庫に案内した。中は整理する途中だったせいか床に書物が散らばってしまっている。
10分後、阿求の手元には一冊の書物が握られていた。
「はい、どうぞ」
「この本はなんですか?」
「これは『東方祟り録』。先週の新月の日の裏側に起きた大きな異変の話です。規模は幻想郷の存続が危ぶまれるほどのものでした。人里の流行り病と言うものは、この異変の余波程度のものです。
貴方にはこの異変の真相を知る権利があるはずです。」