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着物と私と恋愛心  作者: 茶とら
4/6

着ないわけじゃない

 ひとまず休憩ということでお茶タイム。

 と言ってもみんなお茶ではなくコーヒーだけれども。

 レンちゃんだけはパックのアップルジュースだが。


「では本題に入りましょうか」

「本題?」

「はい、本題です。重要課題です」


 そう言って愛君が徐に出したのは、先ほど神月君から手渡された大人用の着物カタログ一式。

 時同じくしてレンちゃんが飲んでいるアップルジュースをストローで飲む時のずこーという音が部屋によく響いた。


「同行者一同の着物選びです。特に義姉さんの着物選びに重点を――――」

「置かなくて良いからね」


 これか。父が予測していたのはこれか。

 何で同行者一同に当然のように自分が入っているのか物凄く疑問なんだけど。

 行きたくないわけじゃなくて、行けない可能性があるのでギリギリまでわからないので当日までスケジュールを開けられるかどうか粘る予定で居た私と違い、彼の場合は来るのが当然的な状態だ。

 本人に確認すら無い決定事項的なこの喋りぶり。どこまで自由なんだ彼は。

 そもそも何故自分の嫁より私なのかの事でこんなに反応するのかすごく疑問だ。何故だ。


「私、行けるかどうかまだわからないから、レンタル着物の予約とか要らないよ」


 その一言がまさに起爆剤。


「なっ!?」

「どうして!?」

「やーあー!!」

「ええ!?」


 愛君、妹、レンちゃん、そして何故だか神月君も一緒に順に悲鳴じみた声をあげた。

 何で神月君も混ざってんの? と疑問に思うも、そもそも出会い頭のことから含めて彼って結構謎だよね。深く追求しなかったからあれだけど、単に愛君の後輩ってだけならこんな反応しないもんね。

 うん、謎だ。

 可愛い姪っ子の悲鳴には流石に罪悪感を感じたけど、こればっかりは仕事に関係する所なので断言できなくてしかたがないと言うしかない。

 基本は土日休みの仕事だが、仕事によっては休日出勤しなければならない場合ももちろんあって、今請け負ってる仕事がまさにそれ。

 土日なんて気にしないお客さんが大体犯人なんですよ。マジで問題児。


「仕方がありませんね。即刻客先を焼き払ってしまいましょう」

「突然物騒だなおい」


 愛君は目をキラーンと輝かせたかと思うとおもむろに行動を起こそうとしようとするもんだから困り者。

 なかなかどうしてこうネジを何本もぶっとばしたような思考回路をしているんだろう。普段の生活で支障が出たりしないのだろうか?


「先輩。流石に焼き払ったりしたら警察沙汰になって迷惑ですよ!」


 フォローなんだろうが、神月君のそろフォローは歯止めをかける力は無さそうなものである。

 まあ、常識を外れて本当に行動を起こす事はしないだろうが、どうにも愛君を見ているとそのあたり非常に不安になる。

 やっぱあれかな。日頃の行いが私を不安にさせるんだよねきっと。


「そうだよー。警察沙汰になったら結局お姉ちゃんに迷惑かかるじゃなーい。それはダメー。ダメったらダメー」


 妹が腕を胸の前でクロスさせてダメーと言っているのを見たレンちゃんがそれを真似して「だめなのですー」と言った。

 妹の言葉だけならまだしも、愛する自分の娘に言われてしまえば諦めざる負えないのがこの義弟君の弱点かもしれない。

 あれ、もしかして最強はレンちゃんか?

 愛君は仕方がないと大人しくそのよくわからない意欲を拡散させたけど、でもちょっと拗ねている感じはそのまんま。

 どうしてそんなに拗ねるかな。

 だって私のことだよ? 嫁の姉だよ? さっきも思ったけどさ、何で嫁よりもその姉の言葉でそんなに感情を表にだすかね。

 そんな事を思っていると、全然関係無さそうなのに何故か声をあげていた神月君がしょんぼりとした表情を浮かべて肩を落としているのに気づき視線を向けたら目があった。

 こっちはこっちで何でこんなにしょんぼりしてるんだろう。


「……着物。着ないんですか?」


 なんて言うのかな。こうさ、ひょろっとしてるから男らしいって感じが少ないからかもしれないけど、眼鏡越しの上目遣いをされると結構効くんだね。

 しょんぼりした雰囲気をそのままに、それでも何か期待するような目をそうやって向けられるとちょっと、いや、凄い罪悪感がこうさあ……。

 やっぱり職業柄、着物人口が増えてほしいって願望はあるからなのかな。

 それでしょんぼりしてるのかもしれない。


「別に着物が嫌いとかではないからね? 稽古の時にはこんな綺麗な訪問着では無いにしろ着るしさ。……ね?」

「……稽古」

「え?」


 なんだかぼそっと小さく何か言ったみたいだけどよく聞こえなかった。でも、とりあえず神月君のしょんぼり感が多少は減ったのでいいかな。

 ホッとしたところで、狙ったかのような聞き覚えのあるバイブ音がした。

 おおう。これは私の携帯様の音だ。

 机の上に放置していた携帯電話をとって見ればメールが一通。それを開いてまたげんなり。


『リスケされたスケジュールが出たから見ました。そして見て思わず湧き上がってきたこの気持ちを誰かに伝えたくなりました。是非聞いて欲しい。

 ----おめでとう! 休日出勤がいっぱいなので残業代いっぱい。稼ぎどきです! ・・・・おかしいな、前がよく見えないよ』


 同期からのありがたいメールに私も思わずため息がもれた。

 この様子からするに、同じチームに入っている私もきっと同じ状況に違いないと推測。

 ああ、確かに前が良く見えなくなってきた気がしなくもないね。


「やっぱり行けそうにないや。ごめんねー」


 携帯電話を再び机に置いて皆のところに戻って言えば、妹と愛君が物凄く拗ねた。

 レンちゃんは寂しそうにしながら抱きついて来た。

 なんだろうね。子どもと大人が同レベルに見えるんだけど。


「お姉ちゃん、どこでも人気者ねー」

「場合によっては凄く嬉しくないけどねっ!」


 綺麗な着物を着れる機会を逃すことになるので多少残念ではあったんだけど、そんな本音を出したらまた暴れる人が居そうなので心の中に留めておくことにした。

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