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TRUMP

TRUMP~Merry Xmas!!~

作者: 四季 華

TRUMPシリーズの番外編です。

クリスマス短編となっています。

他のシリーズを読んでいると話がより分かりやすいと思いますが、読んでいなくても差し支えはありません。

 十二月二十四日。世間では所謂「クリスマス・イブ」と呼ばれるこの日。日本の真ん中ほどにある県の西部地域、数珠市のとある文房具店では、この家の主人である四季春一しきはるいちがソファで転寝をしていた。

 妖万屋を名乗る彼は、妖怪にまつわる数々の事件を解決してきた。その敏腕は妖怪世界の中では言わずと知れた存在で、人間でありながら名を轟かせていた。

 春一の助手であり、また本業である文房具店を営む夏輝なつきは、そんな春一のサポートを全面的にしている。そのサポートの中には、掃除や洗濯と言った家事も含まれる。

 この家は二階建てで、一階が文房具店の店舗、二階が住居となっているため、一階の店舗と二階のダイニングをつなぐ階段がある。夏輝は今その階段を上り切り、自らの師である男を見た。

「ハル、風邪ひきますよ」

 春一は、暖房がついているとはいえ、ロングTシャツ一枚にジーパン姿だった。十二月下旬にこれは軽装すぎる。

「ん…ふが…。うぅん?ああ、夏か」

 目を覚まして夏輝を視認した彼は、ソファの上でもぞもぞと体を動かして目をこすった。

「ふわぁ…。ああ~眠ぃ。あれ、店は?」

「そのことで、呼びに来ました」

「…客か」

 夏輝は頷いて、春一が覚醒するのを待った。



 春一が下に降りると、そこにあったのは見知った顔だった。

「あっれー、佐伊じゃん」

「お久しぶりです、春一さん」

「福良も。元気だったか?」

「うん!」

 どこにでもいそうな優男。彼こそ呱々(ここ)と呼ばれる種族の妖怪である佐伊さいだ。以前春一が彼の持ち込んだ依頼を請け負ったことから、仲が続いている。そして、彼の横にちょこんと座っている、人間にして小学校一年生くらいの男の子が福良ふくらである。佐伊と福良は同居しており、時折顔を見せに二人でこうしてやってくる。

「それで、春一さん…」

「ん?」

「お願いがあるんです」

「何?」

 佐伊が春一を窺うように見る。春一はその視線で全てを察したらしい。参ったというようにため息を吐き出した。

「お願いしますっ。俺、明日出張で、他に福良の面倒を見てくれる人がいないんですよ」

 両手を合わせて懇願する佐伊に、春一はやれやれと三回頷いた。

「わかったよ。他ならぬ佐伊の頼みだ。聞こう」

「本当ですか!?」

「ああ」

 そして春一はジュースを飲んでいた福良に視線を移す。

「福良、明日はお兄ちゃんと遊びに行こうな」

「行くっ!」

 春一は福良の頭を撫ぜ、指切りげんまんをした。



「ねぇねぇ、ハル兄、どこ行くの?」

 次の日、福良が嬉々として四季文房具店にやってきた。佐伊は「よろしく頼みます」とだけ言って仕事に出かけて行った。福良は子供用のリュックサックを背負って、ネクタイを結んでいる春一を急かしている。当の春一はカーゴパンツに裾を出したYシャツ、ベストにネクタイというラフなのか締まっているのかよくわからない格好をして、財布をポケットにしまった。

「どこだと思う?」

「わかんないよ!」

「じゃあ、お楽しみだな」

「教えてよー」

「やだ」

 べ、と舌を出す春一の脛を蹴っ飛ばして、福良は夏輝の元へと駆けて行った。

「夏兄、どこ行くの?」

「さぁ。ごめんね、私も知らないから」

「ええー」

 福良は唸ったが、そうしているうちに春一に肩車をされて、きゃっきゃとはしゃいでいる。

「さ、出発だ」

「うんっ!」


 春一の愛車、白いFCの後部座席に座った福良と、その隣の夏輝、更に運転手の春一との間で、先程からしりとりが繰り広げられている。

「さかな!」

「なす」

「スクリュードライバー」

「…ハル…」

「ねぇ、夏兄、すくりゅーどらいばーって何?」

「…お酒の名前だよ。ウォッカというお酒と、オレンジジュースを混ぜて作るんだ」

「お酒にジュースを入れるの?」

「そう。カクテルと言ってね」

「へぇ~」

「福良も飲んでみるか?うまいぞ、あれ」

「ハル!」

「冗談だ。怒鳴るなよ、パパ」

 夏輝はミラー越しに春一を睨んだ。春一は福良の前だと夏輝のことを「パパ」と呼ぶ。確かに年齢的には十分あり得ることなのだが、いざ言われると胸に迫るものがある。

「さーて、着いたぜ」

「どこ?ここ」

 福良が窓の外を眺める。建物は大きく、それでいてどこか無骨だ。動物園や遊園地のようなデザインではない。

「博物館」

「はくぶつかん?何があるの?」

「見てのお楽しみ」

 三人は車から出て、入場口に向かった。

「パパ、よろしく」

 券売機を前に、春一が福良を連れてそそくさと列から外れる。まぁ、いいだろう。こんなの、予想の範疇だ。大人二枚と子供一枚を購入して、それを春一達に渡す。入場口で係員にそれを渡して、半券と館内のパンフレットをもらう。

「今のお姉さん可愛かったな」

「福良、行くよ」

「無視かコラ」

 夏輝が福良の手を引いて先に歩き出す。春一はそんな夏輝の腰にパンチをして、代わりに福良の手を取った。

「ハル」

「行こーぜ、福良」

「…っ!」

 夏輝はそれ以上言うことをやめて、二人の後についていった。


「ハル兄、博物館って何があるの?」

「色々あるぞ。化石とか、恐竜の骨もあるんだぜ」

「恐竜!?」

「でっかくて迫力あるぞ。きっと見たらびっくりする」

「ハル兄、早く行こう!」

 春一の手を引っ張って先を急ぐ福良を先頭にして、三人はエントランスから中へと入った。

「すっげー!」

 福良が叫びながら目を輝かせている。まず入った部屋にあったものは、復元された骨だった。

「ハル兄、これ何て恐竜?」

「こりゃマンモスだよ。むかーしむかしにいた大きい象みたいな動物さ」

「へぇ~。今はいないの?」

「残念ながら、絶滅したんだ」

「ふ~ん…」

「だが、こいつらが生きてた頃にはここにもいたんだぜ?福良が立ってる所にな」

「ここにもいたの?」

「そうだ。この骨はこの辺から出土したやつだからな」

「へえ~…。すごいね」

「博物館はすごいものがたくさんあるぞ」

「ハル兄、パパ、早く行こう!」

 福良が元気よく言うと、春一は爆笑して夏輝を見た。福良はすっかり春一に染まってしまったらしい。

「パパ、行こーぜ」

 笑いを堪えきれずにクツクツと笑いながら、春一は夏輝に言った。夏輝はそんな春一を睨みながら、彼の後に続いた。

「ハル兄、これ何?」

 次の部屋に入った時、福良が指差して言った。そこには石のような塊。

「ストロマトライトだよ」

「スト…なに?」

「ストロマトライト。コイツがいなけりゃ俺達人間は誕生しなかった」

「本当?すごい」

「さ、福良、次はお待ちかねだぞ」

「恐竜だ!」

 走り出した福良を春一が止めて、そのまま自分の肩に乗せる。肩車をしてもらった福良はそれにもはしゃぎながら、次なる部屋に入った。するとそこには、高い天井に届こうかという大きさの恐竜の化石が展示されていた。

「ユアンモウサウルスだな。こっちはアロサウルス。上にはプテラノドンもいるしな」

「すごいすごい!」


「すっかり疲れて寝てしまいましたね…」

「子供らしい」

 あのあと、遅めの昼食を取っていたら、福良がうとうとと舟をこぎ出した。それから間もなく、福良は夢の世界にいた。そんな福良をおんぶしながら、春一は車の鍵を開けた。福良は夏輝に預ける。

「さて、帰るか」

「そうですね」

「今日はクリスマスだから、とびっきりの料理を頼むぜ、パパ?」

「任せてください。ただハル、パパという呼び方は…」

「はっしーん」

「…」


 福良は夢を見ていた。まだ仲間と暮らしていた時のこと。

 福良は、周囲の妖怪達から虐げられてきた。体が他の妖怪達も小さかったから、余計に標的にされたのかもしれない。それに加えて行動も遅かった。典型的ないじめられっこだった。

 仲間達についていくことができずに、いつの頃からか追いつけなくなっていた。そして気が付いたら、自分だけ置いていかれていた。

 周囲にいたはずの仲間たちは、一人残らずいなくなっていた。自分だけ、取り残された。

 涙が、溢れてきていた。止まれと念じても、声に出しても、涙は一向に止まる気配を見せない。次から次へと溢れ出しては、流れる。

 もう、自分などいらないのではないか。いや、そもそも一人になってしまったのだから生きながらえることすらできない。自分はここで終わりだ。そう、思った時だった。

「おや、君、呱々じゃないか?」

 不意にかけられた声。今までに聞いたことのない、仲間達とは違う優しい声だった。

 福良が上を見えると、そこには優男が立っていた。不思議そうな顔をして、福良のことを覗いている。

 妖怪には様々な種族があるが、その種族ごとに纏っている妖気は若干の違いがある。それは春一達のような感覚が鋭い人間でもわからない、妖怪にしかわからない差だ。きっと、それを察して福良のことを呱々だと言ったのだろう。そして福良も、目の前の男を呱々だと察した。

「大丈夫?迷子にでもなった?」

 心配そうに顔を覗き込む男の顔が涙で歪む。福良は必死に涙を擦って、ふるふると首を振った。

「じゃあ、どうした?」

「捨てられた…」

「捨てられた?」

「仲間から、見放されて…それで…」

 嗚咽でその先が言えない。男はしゃがみこんで、そっと福良の頭を撫ぜた。

「そうか。じゃあ、俺のとこに来るか?」

 まるで友達に「家に遊びに来ないか?」というような気軽さで、男は言った。福良は驚きでその男を見上げた。

「安いアパートだけどさ、楽しいぜ?一人より二人。二人より三人ってな」

 それが、佐伊との出会いだった。

 そう、一年前のクリスマス…。


 一年前の今日、佐伊と出会ったのだ。

 本当は、今日はクリスマスパーティーをする予定だった。だけど、佐伊に急な出張の予定が入って、それはなしになった。せっかくパーティーをする予定だったのに。

「福良、起きたか?」

 ぼんやりとした視界の中に、春一の顔が浮かび上がる。自分が今まで寝ていたのだと気付くのに少しの時間を要したが、段々と意識ははっきりしてきた。

「ハル兄…」

「家に着いたぞ。一人で歩けるか?」

「うん」

 福良は春一と夏輝の後について、階段を上った。春一がドアを開け、福良を先に入れる。そして福良がダイニングへのドアを開いた。その瞬間。


パンパァン!


 けたたましい音が響いて、福良は目を白黒させた。見ると、自分には何本ものテープがかかっている。

「丈兄ちゃん…琉妃香お姉ちゃん…?」

 丈と琉妃香が、クラッカーを持って笑顔で自分を見ている。これは…。

「前に遊んだの、覚えてくれてて嬉しーゼ」

「相変わらず福良ってかわいいね~」

 琉妃香に頭を撫でられながら、福良は後ろを振り返った。すると、そこには悪戯が成功したときの笑みを浮かべている春一と、困ったように、しかし微笑ましく見守っている夏輝がいた。

「メリークリスマス、福良」

 春一が言うと、三人も後に続いた。福良は破顔して、大きい声で「メリークリスマス!」と返した。


 夏輝が作った料理はどれも美味だった。ローストチキンにかぶりついた福良は、春一にティッシュで口の周りを拭ってもらった。

 他にも新鮮な野菜のサラダ、よく煮込んだオニオンスープに、クラッカー、フライドポテトにラザニアもあった。

「パパ、おいしい!」

 福良が最大限の称賛のつもりで言うと、夏輝は何故か肩を落として三人は大爆笑している。

「ありがとう、福良」

 持ち直した夏輝は何とか礼を言っている状態である。

「ケーキを、出しましょう。苺のショートケーキですよ」

「ケーキっ!」


「おいハル!俺のがケーキ小っちゃいじゃんヨ!」

「ハル、チョコプレートはあたしだろ!」

「うっせーよお前ら!ガキか!」

「そういうお前が一番デカいしチョコプレートも持ってってんだロ!」

「うるせー!俺はこの家の主人だぞ!」

「ケーキ買ってきたの誰だと思ってんの馬鹿ハル!」

 先程から幼馴染三人の間ではケーキを巡る争いが繰り広げられている。春一が切ったホールケーキは見事なまでに不均一で、その大きさにかなりのばらつきがある。

「一番大きいのは福良にあげましょう」

 夏輝が妥協案を提示すると、三人は一斉に夏輝を睨んだ。

「そんなん譲れるかよ!」

「そーだよナッちゃン!クリスマスになにシケたこと言ってんだヨ!」

「夏兄信じらんない!」

 総攻撃が夏輝に浴びせられる。夏輝はもう何も言わずに、一番小さいケーキを自分の取り皿に載せた。

「公平にジャンケンで決めるぞ!」

「望むところダ!」

「いざ尋常にしょーぶっ!」

「「「最初はグー!ジャンケンポン!」」」

 そんな三人を尻目に、福良は夏輝に次いで二番目に小さいケーキを黙って取る。夏輝はそんな福良の頭を撫でて、歓喜と絶望が渦巻いている三人に目をやった。

「やったー!正義は勝つんだよ、わかったかね?馬鹿二人」

「嘘だロ!?」

「何で琉妃香の一人勝ちなんだよ!」

「日ごろの行いが良いから」

「「嘘つけ!」」

「お前ら二人とも正座!」


ピンポーン


「福良、出てあげな」

「…うん」

 福良がどたばたと足音を響かせて玄関に走る。するとそこには―

「佐伊!」

「ただいま、福良。遅れてゴメンな」

「ううん」

「福良、ほら、プレゼントだ」

「わ!欲しかったゲーム!いいの?」

「勿論。今日は大切な日だ。なんてったって、俺と福良が家族になった日だからな!」

 笑顔で言う佐伊の顔が歪んで見える。まるで、出会った時のようだ。だが、出会った時とは違うところがある。それは、悲しくて流した涙が、嬉し涙に変わったということだ。

「福良、メリークリスマス」

「メリークリスマス!佐伊!」


 Merry Xmas!!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 博物館のいろんなことと家族の温かさが伝わった。 [気になる点] 元の話読んでいないので、主人公はよくわからなかったです。前書きに書いてくれるのを願います。
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