振り回された出会い的な、
自分の不手際で貴重な感想を消してしまいました。
この場を借りてお詫びすると共に、真摯に受け止め反映させていきたいと思います。
投稿者の方には不快な思いをさせたと思います、申し訳ありませんでした。
それは1つの噂。
無限回廊525層にある古代種の都、転移ポータルの先にある時計塔の裏手の螺旋階段。
その階段を降りて綺麗に剪定された庭園の奥、人一人がやっと通れる程の建物の隙間。
路地とも呼べないようなその奥に、1つの小さな社があるという。
誰が最初に言い出したのか、その社にはある精霊が封印されているらしいと。そして選ばれた者がそこへ辿り着けば、封印は解かれ新たなる『力』が目覚めるだろうと。
しかし、何人もの腕に自信のある猛者がその場所を訪れようと、ただ何処からか鈴の音のような音が聞こえてくるだけだったという……。
どこか日本庭園を思わせる、侘び寂びの趣を醸し出す不思議な空間。
無限回廊345層の通称『おじゃるの間』。出てくる敵が全てお武家さまや公家風の麻呂という、運営どうした?と言いたくなるような階層である。
その中で階層名の由来ともなった麻呂タイプの敵に向かって、フーレンスジルコニアスがブルーメタルに輝く呪印銃を構える。
必要以上に力が入った背中、無駄に前に突き出された両腕、その反対に笑える位に引かれた腰、そして生まれたばかりの子馬のように震える足。
どこか遠い目で見守るコーネリアスと、笑いすぎて地面で横たわって震えるユカリアスの前で、その銃身からマズルフラッシュと共に魔弾が撃ち出される。近くにあった松のような木の幹が弾け飛ぶのに合わせるように、その反動でフーレンスジルコニアスも後方に転がっていく。
「きゅ~……」
「あはははははは!は、腹いたいw殺す気かぁwwww」
「やれやれ…」
『まだまだでおじゃるなぁ』
麻呂にまで突っ込まれながら、フーレンスジルコニアスがちょっと人様にはあまりお見せできない格好で転がっていると、吹き飛ばされた松の断面からバチバチと音が鳴り出す。バチリと一際大きく弾けると、そこから麻呂に向かって閃光が走り抜ける。轟音と共に落雷が収まると、クリスタル化した麻呂が砕け散った。
「多少反則的な効果で倒したとはいえ、根本的に当たらないと話しにならんな」
「御尤もでございます……ユカ姉しつこいよ!」
「ヒィヒィ……お腹いたいよぉw腹筋返せwww」
「あ~大丈夫だ、ユカの様子は録画しといたから後で送っといてやる」
わ~いありがとう♪、ちょダーリン何してくれてるの!、たまには自分の痴態でも晒して少しは大人しくなれ等と、一頻りじゃれあった後、破壊された松がシステムにより修復されたのを確認してその場を後にする。転移ポータルへと向かう途中でフーレンスジルコニアスが1人愚痴る。
「無属性の魔弾ならそこまで反動強くないんだけど、属性付与した魔弾だと、付与魔術の強さに比例して反動が強くなってくみたい」
「なるほどね、ところでさっきのは何の精霊魔術なの?」
「さっきのは中級魔術の『雷の咆哮』だよ」
「まぁなんにせよ、暫くは無属性弾だけ使うようにするんだな。そもそも、銃の撃ち方がなってない」
しょうがないじゃん生まれてから銃なんて撃った事も持ったことも無いんだから…と、ブチブチ文句を言うフーレンスジルコニアスだったが、コーネリアスの言う事が正論なのも理解してはいる。
どうしても感覚が掴めないようなら、FPS(ファースト-パーソン シューターの略)に一時的にアカウントを取得して、修行してくるのも手かもなと助言も受けたが、論理的観点から未成年者がVRのFPSのアカウントを得るには保護者の承諾が必要で、そもそもPKにも抵抗があるフーレンスジルコニアスにはそこまでする気はなかった。
イリーガル・コールの事はイリーガル・コールの中でやるのがスジだろうと、付き合ってもらった2人にお礼を言って分かれた後、無限回廊内の『古代種の都』へとその足を向けたフーレンスジルコニアス。
鍛冶スキルはマスターランクになっているとはいえ、そこから派生した銃職人スキルはまだまだランクが低いのだ。小マメに呪印銃のメンテナンスをしないと、直ぐに照準がズレてしまったりする。
「もう、手のかかる子なんだから~♪。でも魔弾製造が銃職人スキルの修練にも適用されるのは助かるわぁ」
呪印銃が実装されたことで、『古代種の都』内に銃職人用の工房も実装されており、実質フーレンスジルコニアス専用施設として半ば住み込んで使用しまくっていた。どこか撃っている時より楽しげに、呪印銃のメンテナンスをしているフーレンスジルコニアス、暇さえあればメンテナンスをするか艶出し用の布で磨いていた。根っからの生産系な人なのであった。
試射での醜態の鬱憤を、呪印銃をピカピカにすることで晴らしたフーレンスジルコニアスが、工房を後にして街角を歩いていく。最近ではここをホームタウン設定にして活動するプレイヤーが増えていて、街を歩く人もそれらを目当てに出される露店も王都に引けを取らない物になっている。
転生を済ませた者はここに、未転生の者は王都を中心にと上手く住み分けがなされていた。
転生時の動画が公式で正式に採用されてしまった事で、その動画を見て始めました!ファンなんです!と言って追いかけてくる新規参入者に、家を出たところで捕まりそうになり必死になって逃げ回って、『古代種の都』の工房へと逃げ込んだのは記憶に新しい。今もエルフの街の自宅には、誰かしら見張りのように追跡者が監視してるらしく帰れないでいる。
ちょっとした心の傷を思い出し、外壁に手を付いて黄昏てるフーレンスジルコニアスに、人混みの中から飛び出してきた影がぶつかって来た。
「ひょー!」
「うにゃー!」
同じような奇声を発しながら共に倒れこむ、フーレンスジルコニアスともう1人。
いたたたと、腰をさすりながら視線を向ければピョコンと目の前にフワフワしたものが写る。ピコピコと視界で揺れるその物体に、自然に手が伸びるフーレンスジルコニアス。
「うにゃぁ~!」
途端に手の中から逃れるその物体を、名残惜しそうにワキワキと指を動かし見つめる先で、涙目になってコチラを睨みつけるネコミミの少女。
真っ白な毛に左耳の周辺だけ黒に染まった2色の毛。薄緑の色彩を持つ瞳孔が縦に割れた瞳は、ネコ科を彷彿とさせる大きなモノだ。しなやかなその身体には中級LV帯の獣人が好む、柔らかな皮で造られた防具が装備されて、その影からは先っぽだけが黒に染まった長い尻尾がピンと立っていた。
「いきなり何するにゃ!」
「あ、ごめんつい……」
ついで人の耳を掴むにゃ、と文句を言う少女だったが、フーレンスジルコニアスの顔を確認するとネコ科特有のωな口をアングリとする。レレレレレアちゃん!とそのままズリズリと後ずさる、何かレレレのお〇さんみたいな言われ方だなとか思いつつ、記憶を探っていくが結局誰だったかHITせず、多少気まずくも誰でしたっけ?と尋ねると、
「にゃ、初めまして!動画とか掲示板でよく拝見してるにゃ。あとこっそり後ろから観察とかさせて頂いてます、ごちそうさまですにゃ」
やばいストーカーな人だと、今度はフーレンスジルコニアスがズリズリと後ずさる、それを見て自分の失言に気づいたのか慌てて擦り寄りながら訂正してくる少女。
「ちちち、違うにゃ、その類の人じゃ無いにゃ。純粋にイリーガル・コールを楽しんでる同士として親近感を持ってただけにゃ」
「同士?親近感?」
そうにゃと頷きながら、改めて自己紹介をしてくる少女。
「私の名前は『ニャンデスト』にゃ、エルフの鍛冶と同じようにマゾ扱いされてる獣人のテイマーにゃ」
「にゃんですと!」
ガッシと握手を交わし、見詰め合う2人だったが、はたと周囲からの喰い入るような視線に気づき、コホンと一息入れて示し合わせたようにその場から逃げ出した2人。逃げ足スキルがあったら、間違いなくマスターになってそうな逃げっぷりだったそうな。
ヒョコヒョコと揺れる尻尾を、興味津々で眺めるフーレンスジルコニアスと、その様子をジーっと観察するニャンデストが居るのは、先ほどまで居た銃職人工房の中にある喫茶スペース。
まるで自室のように振舞うそのスペースにも当然他の人影は見当たらない、ワザと左右に大きく尻尾を揺らすニャンデストと、どちらがネコか分からない様子で視線でそれを追うフーレンスジルコニアス。動画に撮ってUPすればまた閲覧数が伸びそうな光景だが、残念ながらココにはユカリアスもテンテアも居なかった。
「ここはレアちゃん専用スペースなのかにゃ?」
「え、ううん。公共スペースだけど私以外に利用する人いないから、半ば占有しちゃってるだけ」
エヘヘと照れるフーレンスジルコニアスだが、それって何気に凄い事じゃ……と内心で呆れるニャンデスト、さすが唯一の古代種転生者かと1人納得したりする。
「それで、ニャンちゃんは獣人なのにテイマーなの?」
「うん、調教スキルはマスターなんだけど未だにテイム出来たことはないんだけどね……」
部屋の中なのにどこからかヒュルリラと寒々しい風がその髪を揺らす。初対面でレアちゃんと呼ばれた勢いで、既にニャンちゃんと呼び合う仲になっていたりする。
『テイマー』とは調教スキルを上げる事で、獣系の魔獣を飼い慣らす職業のようなものだ。獣人といえばテイマーに適してそうな種族なのだが、何故かイリーガル・コールにおいてはまったく適してはいなかった。テイマーに適した種族として有名なのが、ヒューニックと半妖精に近いハーフリングが認知されている。
ナゼ獣人がテイマーに適していないのか、β当時獣人の1人が運営にメールした所、「だって猫と犬が道端で出会ったら普通は仲良くなれないでしょ?」というような運営からの回答が来たそうだ。じゃぁ同族系の魔獣は?との疑問には、縄張り争い的にという回答で中々にトホホな結果に終わったそうな。現在ではエルフ鍛冶師と同じく、獣人テイマーは無用扱いされている。
「なんで獣人でテイマーに?」
「だって!ネコミミとネコミミのWだよ!諦めるなんてできるわけないじゃん!」
思わず素になって力説するニャンデスト、端から見ると呪印銃について熱く語る自分もこうなのかと、ちょっと悲しくなるフーレンスジルコニアス。
しかし、流石に調教スキルが失敗修練だけでマスターになり、しかもマスタータイトルまで得たにも関わらず未だに初級の魔獣すらテイムできないことに危機感を覚え、藁にも縋る思いである噂に飛びついたニャンデストが、善は急げとその場所に向かって街中を走っているときに黄昏ていたフーレンスジルコニアスにぶつかってしまったそうだ。
「噂?」
「にゃ、なんでもそこに行って選ばれると何か力が得られるらしいにゃ」
「力?」
「にゃ!」
「どんな?」
「さぁ?」
「………」
「………」
しばし流れる沈黙の後、もうそんな噂に縋る位に後が無いにゃぁぁ~T Tと泣きつくニャンデスト。
よしよしと慰めつつ、好奇心から同行を申し出ると助かるにゃぁと今後の方針が軽く決まってしまった。
すっかり冷えてしまった紅茶を飲み干し、ガールズトークをしつつ2人で喫茶スペースを後にするのだった。
ネコミミは正義だと思うんです。