演出過剰ですよ…的な、
「大いなる3柱の神に創られし新たなる主達よ、今は滅びしかつての主達の遺産を、この忘れられた都市まで辿り着いた貴方達に託しましょう」
左右に大きく広がる階段を登って行き、ローブに身を包みフードを目深に被った転生神官に話しかけると、両腕を広げた神官に大仰にそう告げられる。公式からの設定では、彼等は古代種によって作られた魔道生命体であり、現行種族を主人として認識しているらしい。
「さてっと、古代種の選択肢が出るメンバーがいるかどうかだね」
「今の所、掲示板のほうには古代種になれたって言う情報はでてないねぇ」
『アーカイヴミネルヴァ』のメンバーは、前線での戦闘を主眼に置いている為、殆どが戦闘特化型になっている。その為に期待はしているが今まで転生を済ませたであろう前線組から、古代種が出たという情報が無い事に、半ば諦めの気持ちも持っている。そしてそれは同じく前線組である舞姫とセバスちゃんにも共通しており、結果として自然にその視線はフーレンスジルコニアスに集中してしまうのだった。
「うぅ、私を見るなぁぁ~…」
ある種の縛りプレイ行動をまわりに周知されて有名なフーレンスジルコニアス、その為階段を登り転生神官の前に来た時から、知り合いだけでなくその周りにいる知らない人達からも注目を集めていることに気づいてしまっている。
やり難いことこの上ない……と内心で思いつつ、目の前に開いた転生神官との会話ウインドウの選択肢から転生をその指先でクリックすると、『ポーン』と周囲にシステム音が鳴り響く。
『エルフ種における古代種転生条件がコンプリートされました。よって公式HP上にて、その詳細ページが開放されました』
『『おおぉぉぉ~~!!!』』
ウインドウをクリックした格好で眉をしかめて固まるフーレンスジルコニアスの周囲で、どよめきが上がるのと同時に各々が忙々と公式を見に行く。
・エルフ種族における古代種への転生条件
・鍛冶スキルマスターランク
・狙撃マスタリーマスターランク
・タイトル『ある意味人気者』獲得
・PK数0回
・魔獣との戦闘時の死亡回数0回
・魔弾製造回数10000回以上
上記の条件の内4つ以上の条件をクリアしている
場合、古代種への転生が可能に成ります。
『『おおぉぉぉぉ↓↓↓↓』』
そしてその転生条件の鬼畜さに、また周囲から落胆の声が上がると、目立ちたくない目立ちたくないよぉと咽び泣くフーレンスジルコニアスを、よしよしとユカリアス達が慰める光景の横で、「さぁとっとと転生済ませるかぁ」と、光を発しながらいっそ清々しさと共にどんどんと転生を済ませていく周囲の者達。
「流石ですフーレンスジルコニアス様」
1人感涙に浸るセバスちゃんがそっとその涙をハンカチで拭うのだった。
「しかし、条件が鬼畜ってのもあるけど、なんでエルフで鍛冶スキルとか狙撃マスタリーが必須なんだ?」
「タイトル所持とPKの制限も関連性がみえませんわね」
「んと、多分それは古代種のロードエルフの種族設定文に関連してるのかも」
なんとかフーレンスジルコニアスが浮上したのを見計らって、ユカリアスが取得条件の疑問を口に出すと舞姫からも同じく疑問点が指摘される。舞姫にしてみれば同じエルフとして尚更気になるところだろう、それに多分と前置きしたうえで転生神官から提示された種族特性の詳細を読み上げた。
・ハイエルフ(上位種)
古代種が残した遺産を取り込み、より進化した種族。
精霊との交感率が上昇しスカウト系においてその姿を周囲と同化させることが
可能になった。
また、弓使用時に矢ではなく光の精霊を実体化させ打ち出すことが可能になり、
精霊術師もより強く精霊と交感することで多様性が増している。
ハイド習得、光弓習得、ダブル精霊術習得
・ロードエルフ(古代種)
原始の種族の中で唯一戦いを好まなかった種族。
穏やかな性質だった為、精霊との結びつきも強かった。
しかし種を守る為に造った呪印銃の威力を恐れたエストドワーフ
により、滅ぼされてしまう。
呪印銃取得、銃職人習得、再生の雫習得
フーレンスジルコニアスからの説明を聞いてふむふむと頷く舞姫。
「なるほど、おそらく魔獣との戦闘時の死亡が0回というのは全種族共通の可能性が高いですわね、そして穏やかな性質とエストドワーフにより滅ぼされたという設定から、『ある意味人気者』タイトルとPK回数0回の制限につながり」
「そして全滅の原因にもなった呪印銃の設定から鍛冶スキルと狙撃マスタリー、魔弾製造回数が出てくるってワケか」
舞姫の考えをユカリアスが補完して、おおよその予想が成立したところで、
「まぁなんにしても、私には古代種は無理ですし、無理になる利点もありませんわね」
「あんたは精霊術師だからねぇ、素直にハイエルフになったほうが利口ってもんだ」
「そうですわね。ということで、古代種になって皆様の注目を集めるお役目はお師匠様にお任せしますわw」
「くくっ、呪印銃目当てのレア子にしてみたら、ならないワケにはいかないもんなぁw」
「ま~レアちゃんったらますますモテモテね!」
クスクス、アハハ、ウフフと微笑み合う3人の美女の前で、Orzと崩折れるフーレンスジルコニアス。
こんな時だけ一致団結する3人の美女達に苦笑しつつ、コーネリアスがどう慰めたものかと思いつつも手を差し出すも、フーレンスジルコニアスはスルリとすり抜けるようにゆっくりと立ち上がる。
どこか千鳥足を思わせるようなユラリとした動きと、不気味に笑うフーレンスジルコニアスに何か黒いモノが漂い出す。
「うふふふ……今までがんばってきた結果だもの、呪印銃さえ手に入るんだったら他人に影でなに言われたって構わないわぁ~…、今だってどうせレア扱いされてるんだから何が変わるもんでもないしぃ~……」
「「「ヒィ~なにやら吹っ切ってるぅぅ」」」
後ろからではその表情までは見て取れないが、その先の3美女達が半笑いで怯えてる様子から、コーネリアスとアーカイヴミネルヴァのメンバー達はそっとその視線を逸らした。
ユラユラと転生神官の前まで進み、ウインドウの中のロードエルフ転生を選択するフーレンスジルコニアス。その先で神官はスッとその頭を垂れると。
「おかえりなさいませ、真なる主よ。お預かりせし神器、今こそお返しいたします」
その言葉と共にフーレンスジルコニアスの足元で魔方陣が展開する。転移ポータルの魔方陣とどこか似たそれは、しかしより複雑に多積層に折り重なり足元から頭上へとゆっくり移動していく。
全ての魔方陣が頭上へと登りきると、フーレンスジルコニアスの身体は熱く火照りだす。両肩を抱くように悶えるその姿は、どこか艶めいて見る者を魅了していくが、同時にフーレンスジルコニアスの身体に変化が現れ出す。
長く伸びたその耳は中程から分かれ大小の二股になっていき、左右の手の甲には何かの紋章のような物が浮かび上がっていく。完全に魔方陣の光が収まると、ブルーシルバーの髪には見る角度で不思議と色が変化する虹色の光沢が加わっていた。
ハァハァと吐息をつくフーレンスジルコニアスに見入っていた回りの者達だったが、更なる異変にその意識を強制的に持っていかれてしまった。
突如『ガコン』と何かが動き出す大音量の音に振り向けば、左右の白と黒の城から塔へと伸びる巨大な歯車がゆっくりと移動していた。
そしてそれに連動するように周囲にそそり立つ7つの尖塔も、ゆっくりとその形を変えてゆく。
それぞれその先端が開いて行き、その中から光の球体を抱える台座が現れる。歯車の移動が収まる頃には、尖塔の先には街を照らし出すかのように7つの球体が鎮座していた。
「さぁ、そのお手を…」
転生神官の言葉に促されるように、7つの球体の1つに自然と手を差し出すフーレンスジルコニアス。同時にその先の光の球体が消え去ると、その手の中に現れ出す。
しばし漂うように手の中で輝いていたそれは、弾ける様に光を散らすとどこか近代的なフォルムの銃へと姿を変えていた。ブルーシルバーに輝く銃身は鋭角的に長く伸び40センチ程の長さになっている。その銃身を支えるグリップ部分は、一転して手によくフィットするような流線的になり、静かにその主を待ちわびているかのように中空を漂う。
どこか慈しむようにゆっくりとそのグリップを掴むフーレンスジルコニアス。
同時に銃より溢れる光の波動がその身を駆け抜けると、萌黄色の森の民を思わせる衣服が一転、白を基調とした近代的なスタイルのスーツのように変化する。やさしい色合いのエメラルドのラインが走ったそれは、どこかガンナーを思わせるスタイリッシュなものだった。
全てが収まった先には、恍惚とした表情で手の中の呪印銃を見つめるフーレンスジルコニアスと、その姿を呆けたように見つめる周囲の者達。
ハァっと溜息を付いたフーレンスジルコニアスが、舞う様に動き出す。その動きはまさに公式HPに今も残る、イリーガル・コール・オンラインのβテスト紹介動画の呪印銃を手に舞うエルフの動き。
多くの者が魅了され、そしてその困難さに挫折していった中でたった1人それを成し遂げたものだけが許されたその舞いに、その場に居るものは1人残らず魅了されている。
3分にも満たないその舞いが終るまで、誰一人としてその場で動く者はおらず、ゆっくりとその舞いが終るとビリビリと大気を揺るがすように拍手と歓声が響き渡る。その歓声にビクッと肩を震わせて、初めて自分がしでかした行動に気づいたフーレンスジルコニアスは、カァ~とその頬を染めるとその身に風の精霊を纏わせ飛ぶようにその場から逃げ出していった。
脱兎の如く逃げている最中にも、ユカリアスや舞姫達からプライベートメールでお祝いの言葉が送られてくるが、返事を返す余裕もなく、ホームタウンの自分の家へと駆け込むと、あぅあぅ言いながらログアウトをしたフーレンスジルコニアスだった。
現実に戻った後も、ベットに潜りこみ恥ずかしさに悶える。
後日どこから撮られていたのか、公式HPに一連の動画がUPされていて閲覧数が既に1万を超えているのに絶叫し、怖くて掲示板も見れなかった1人の少女は、とうとうその日はログインせずに部屋で現実逃避しつつDVDを見ていたという。
この時はまだ運営以外は知らない。
フーレンスジルコニアス本人も気づいていない。
古代種達が持っていた本当の争いの原因、そのオリジナルスキルの存在。
その1つ『再生の雫』の存在に…。
ここから主人公の無双が始ま……らないw
大きな力は得ましたが彼女は後方攻撃職、撃たれ弱いのです。
いろいろとw