冒険の再開的な、
病み(闇?)あがりなので、短いですが勘弁してください。
毎水曜日コレかあっちを更新する形で再開します。
現実世界では到底ありえない色彩に彩られた幻想的な森の中を、その体躯に似合わない大きな鎌を持った少女が進んで行く。周囲の僅かな変化にも大げさなくらい反応する少女とは対象的に、数歩先を歩くもう1人の少女はホクホクとした顔で足取りも軽い。
「レアちゃん…」
「ん?」
「幸せそうだにゃ…」
クルリと振り返り真顔でうんと頷く少女、フーレンスジルコニアスに一寸の迷いも無い。
保有魔力の最大値を超えて召喚したために、魔力枯渇を起こし気絶したネコ精霊を背に担いで立ち上がったニャンデストだったが、何故かその背に重みを感じない。不思議に思い振り返れば、何時の間に奪い去ったのかネコ精霊はフーレンスジルコニアスの胸に抱かれ、スヤスヤと寝息をたてていた。
フンフンと鼻息をたてながらホクホク顔で専用イベントエリアを後にするその背には、召喚された使い間の剛毛魔獣が張り付いていたが、そっちはどうでも良さそうなので置いておく。
ログインしている間中はいつも一緒に居られる為、そこまで独占欲に駆られることもないニャンデストにすれば、熟睡するネコ精霊を取られた事もそれほど嫉妬することでもない、様な気がする。
なのでそれ自体は良いのだが、フーレンスジルコニアスがネコ精霊を抱きかかえているという状態は、必然的に戦闘を担当するのがニャンデストということになる。
これはマズイ、非常にマズイ。正直1匹エンカウントしただけで全滅する自信がある。嫌な自信に満ち溢れているニャンデストは必要以上に周囲を警戒し、己の欲望に忠実に行動し満たされたフーレンスジルコニアスは周囲の警戒をスッパリと切り捨てている。
比較的短時間で安全地帯である食虫植物のような椅子のある場所に戻れたのは、ニャンデストにとって僥倖であった。更に道中でなんとか大野さんに連絡を取り、出口までの護衛を頼もうと考えていたところ、食虫植物のような椅子に食べられかけている大野さんに出会えたのも、うん…まぁ僥倖なのだろう。
偶然をいやに強調して合流した大野さんに特段突っ込むこともなく、精霊に何か悪さしたの? と食虫植物から助け出しながら問うフーレンスジルコニアス。むしろ精霊に悪さされてる気がすると答える大野さんに、ふ~んと返しながらも好かれてるんだねぇと1人ウンウンと納得するフーレンスジルコニアス、そういえば彼女も色々と精霊と戯れてるなと納得する。
「帰りはいっぱい敵とエンカウントするねぇ」
「そ、そうだにゃ、でも大野さん居るから安全だにゃ」
1人で盛大に敵と渡り合っている大野さんを、ネコ精霊を胸に抱えながら応援するフーレンスジルコニアス。身の安全と引き換えに汗々とフォローをするニャンデストだったが、以外に腹黒い一面を持つ彼女が本当に大野さんが後を着けていた事に気が付いていなかったのかと疑問に思う。
「レ、レアちゃんさ…」
「なに?」
「大野さんが…」
「なぁに?」
なんとなく一瞬、黒レアさまの存在が脳裏に浮かんだので、大野さんと会えて助かったねと誤魔化した。そうですねと同意した彼女のセリフの後に、最後まで隠れたままだったら…と微かに聞こえた事に、ギリギリセーフだったよ大野さん! と、内心で冷や冷やしたニャンデストであった。
本人が知らない所で綱渡り状態の危機を回避していた大野さんの活躍で、無事に『古代種の都』への転移ポータルへ辿り着く。死なずに帰ってこれたと安堵したニャンデストが、ホッとした顔でポータルへと帰還の意思を伝えると、ポーンとシステム音が鳴り響く。
『現在、古代種の都にてプレイヤーと同位体との大規模戦闘が行われています。転移しますか?』
システムからの告知に3人は顔を見合す、そしてヤレヤレまたかと溜息を付いた後に転移に同意をした。
攻撃が飛び交う前線において敵からの攻撃にその身を晒し、尚その足を止めない者は自分の力に絶対の自信がある者か、共に並び立つ友を信頼しているかだろうか。
「おぉぃテンテア、もぉ無理下がれって!」
「斧持ちが泣き言か、無駄口叩いてる暇があるなら手ぇ動かしな!」
泣き言どころか実際涙目なユカリアスが、両手で持った真紅の大斧を身体の左右で交差するように回転させステップを踏む。雨のように降り注ぐ魔法の矢を少しの被弾だけで凌ぐ様は、常に前線にその身を置くPSがなせる業だろう。
それでも重装備を貫通して浮けたダメージは、後ろで退路を断つテンテアの神聖魔法によりたちどころに癒される。
回復職特有の紙装甲のテンテアを囲むように展開する『アーカイヴミネルヴァ』のメンバー達、ここに居る主力以外のメンバーはもっと後方の、比較的安全な場所で今も健闘しているのがせめてもの救いだろうか。
正直ここに前線組以外が居ても、フォローに回れるだけの余裕が今の自分達にはまったく無い。ガブガブと湯水のように高価なポーションを飲み干し意地だけでこの戦場を支えるテンテアに、疲労でクラクラとしてきたコーネリアスが決断する。
「撤退するぞ!」
「ドラゴンの血が泣くぞ、ムッツリスケベ!」
人聞きの悪い事を言うなぁと叫びながら、足止めと目暗ましにと氷結と雷撃のブレスを連続で吐き、ペナルティの喉の痛みに咳き込む。動きの止まったコーネリアスに、ダーリィーンと叫びながらユカリアスがブチ噛ましするように腰を抱えて逃走する。
抵抗するテンテアを両脇から抱え、句朗斗とオスマがスタコラサッサと唱えながら尚も降り注いできた魔法の矢を、まるで背中に目が付いてるかのように器用に避けていくのだった。




