使い魔GETだぜ!的な、
エリア名 『巨大魚のいる湖畔』
上位種と古代種が実装されたバージョンにて各種族毎に専用イベントエリアが設置されていた、圧倒的なプレイヤー数が転生した上位種では幾つかの種族で既に専用エリアが発見され、そこで発生するイベントクエストもクリアされていた。
しかし、そこで発生するクエストは何故か物語りとしては若干中途半端的な終わり方をしており、特定の条件を満たす事で続きが発生するのではと攻略サイトなどで議論されていた。そしてその発生条件の最有力候補として最近取り上げられているのが『同位体』の存在であった。
まぁそれはさて置き、今現在フーレンスジルコニアスとニャンデストが迷い込んだエリアは、紛れも無く古代種獣人族の専用エリアだったが現状彼女達にそれを考えている余裕は無い。
「うにゃ~、あの攻撃怖いにゃ~」
「目が怖い、あの魚の目が怖いぃぃぃ」
対岸が霞むほどの巨大な湖に50メートル四方ほどの面積の浮島がポツンと浮かんでいる、その上を全力疾走で逃げるフーレンスジルコニアス達の後ろから、築地市場でも滅多に見れ無さそうな活き活きとした魚がビチビチと跳ねながら迫ってきていた。
これだけ活き活きとしていれば刺身にでもすれば大層美味しそうだが、如何せんその大きさに難があった。
人の大きさを軽々と超えるその巨体に押し潰されれば、間違いなく大ダメージを受けることは想像に難くない。全身をバネのように使う魚特有の動きはランダム性が強く、回避能力に自信があるフーレンスジルコニアスをしても呪印銃で攻撃をするタイミングが掴めない程であった。
「うにゃ!?」
「アディオス!」
そんな高度な回避を必要とする逃走が長く続く訳も無く、ニャンデストが躓き転倒してしまう。瞬く間に迫る巨大魚の姿に成す術も無く身を縮めるニャンデストをサラッと置き去りにし、シュタッと手を挙げて別れを告げるフーレンスジルコニアス。
薄情者~と内心で叫びながら固く目を瞑って襲い来る衝撃に備えていたが、何時までたってもダメージは伝わってこない。恐る恐る片目を開けてみると1メートル程手前で尾で立つような格好で巨大魚がプルプルと震えながら見下ろしていた。
ギョロリとした魚眼で見下ろされ反射的にズリ下がろうとしたニャンデストが、初めて自身の胸にしがみ付く様な格好で抱きついているネコ精霊に気が付く。
いつの間に…とか、どうしてココに…とか、ゴチャゴチャと考えていたニャンデストだったが、ネコ精霊の行動が巨大魚から身を呈して自分を守るものだと気が付いた瞬間、ガバッとその両の腕で包み込む。
クルリと巨大魚へと背を向け地面と胸の間へと隠すように抱き込み、襲い来る攻撃がネコ精霊に当たらないように四肢にありったけの力を込める。
その様子を無理な姿勢で立っている為かプルプルと震えて見下ろしていた巨大魚が、ゆっくりとニャンデストへと倒れこむ。しかしその巨体が当たる直前にビヨンと跳ねると、ニャンデストとネコ精霊を飛び越え距離を取り呪印銃を今まさに撃とうとしていたフーレンスジルコニアスへと襲い掛かった。
「ぎゃーこっちくんなー、てか目が怖いぃぃぃ」
ビッタンビッタンと跳ね回る魚から逃げるフーレンスジルコニアスの様子を、ポカンとした顔で見送ったニャンデストが首を傾げていると、モゾモゾと胸元からネコ精霊が這い出してくる。
『良くぞ来た、見知らぬ精霊とその召喚者よ』
「ひっ!」
未だ状況が掴みきれて居ないニャンデストの背後から、唐突に声が掛けられる。今日はよく驚く日だと心の片隅で思いながら振り向くと、そこにはネコ精霊にソックリなもう1人のネコ精霊が立っていた。
少し濃い目だが灰色をした毛並みを持つネコ精霊が、興味深げにニャンデストとネコ精霊を見つめている。その外見はネコ精霊より頭1つ分程大きいが、瞳の色や顔の造形は間違いなく何かしらの血縁を思わせるほどにソックリであった。
しかし、人語を話すネコ精霊もウニャ語を話すネコ精霊にも互いに面識があるような印象は無く、首を傾げるニャンデストの横で交わされている会話にも接点は感じられない。
『ナゼ貴女はその者を庇ったのです?』
「ニャニャ、ニャニャンニャ」
ドップラー効果中
『そうですか、信頼に足る者だと…』
「ウニャ」
ドップラー効果中
『ではナゼ貴女はこの者を庇ったのです?』
「にゃ、私? ……だってこの子は私の大事な友達だから…」
『そう………ですか………』
ドップラー効果中
後方から聞こえるフーレンスジルコニアスの悲鳴の所為で、イベントの雰囲気が台無しになっている気がしないでもないが、取り合えず何事か考え込んでいるネコ精霊にさっきから気になっていることを聞いてみる。
「つかぬ事をお聞きするにゃ、アナタはこの子のお母さんじゃ無い……にゃ?」
『え?』
「ニャ?」
キョトンとした顔で応えた両ネコ精霊、ググッと顔を近づけ合いマジマジと観察しあう。鏡写しのように互いに手の平を押し付け合い爪とぎのようにクイクイと動かす。
『あ!』
「ニャ!」
「気付いてなかったんかい!」
ドップラー効果中
色々台無しな再会を果たしたネコ精霊の親子だった。
間一髪で入り込むことができたイベント用と思われるエリア、湖畔に佇むフーレンスジルコニアスに気取られることなく草むらに隠れることができたのは僥倖だろう。
カサカサと小さな葉擦れの音をさせながら、状況を確認するべく接近を図る黒衣の剣士。未だ名前さえ明かされぬが、特に差し支えが無く大野と呼ばれる者の前方では目当ての少女が、たまに大鎌を持って襲ってくるネコ女を背負って湖に浮かぶ浮島へと華麗にジャンプしていった。
流石はジルちゃんと感心しながらも浮島との間の水中に、常時張っている索敵スキルに敵性反応を確認する。索敵スキルで表示されるアイコンは自身との戦力差を色で判別できる仕組みになっている、この森に入ってからずっと黄色のアイコン、即ち自身よりLVが下の魔獣ばかりだったがその敵性反応だけは緑色、同LV帯であることを示していた。
アンノウンであることからイベント用魔獣の可能性が高く、20以上もLVが下な彼女達には荷が重い相手だろうと予測される。
そこまで考えた大野さんは不測の事態にも対処できるように、草むらのなかでゴソゴソと装備を脱ぎ始めた…。
※)………どんな場面に対処するつもりだよとツッコミが入りそうだが、良いこのお友達が読んでる可能性もあるので詳しくは続きはWebで。
初期装備のインナーだけになった大野さんが脱いだ装備を綺麗にたたむ、そしてアイテムインベトリから取り出した紐で一纏めに縛るとポスンと頭の上に乗せ固定するように顎の下で紐を結わく。
するとシャツと簡素なレギンスだったインナーが輝き、光が収まるとそこにはフンドシ一丁を纏った大野さんが座り込んでいた。
これぞイリーガル・コール7大意味不明スキル、古式泳法スキル。
説明しよう、むしろさせて下さい。通常水中では装備中の武器は武装解除され、戦闘状態を維持することはできなくなっている。しかしこの古式泳法スキルを修練することにより、防具を脱ぎ防御力を捨てることで水中でも戦闘状態を継続することが可能になる。
メリットとデメリットの比率的には習得する価値はあるがフンドシ一丁、女性はこれに胸にサラシが追加されるが、この見た目により忌避されることが多い。
ネタとして習得し街中でフンドシになって集まっていた集団が、通報で駆けつけた運営に職質を受けたと言う報告もある。インナーのデザイン変更を無くす要望もあったらしいが、運営からの返信には『月子さんの趣味だから…』という意味不明な言葉があり、7大意味不明スキルへの登録となった。
ソロだったから誰かの視線を気にする事無く修練できたとかそう言うことはさて置き、襲い来る魔獣に備え静かに水面へとその身を沈め、裸体の剣士が2本の剣を構えた。
母ネコ精霊がそっとネコ精霊を引き寄せ、優しくその胸で抱きしめる。愛おしそうに抱きしめる母ネコ精霊の胸の中で、ゴロゴロと咽を鳴らし甘えるネコ精霊の姿に、アンタラ気付いて無かったやんというツッコミは心の奥にしまい込み、そっと目尻の涙を拭うニャンデスト。
もしかして母ネコ精霊もGETできるのではという考えに、ジュルリと口元を手で拭いつつも未だに巨大魚から逃げ惑うフーレンスジルコニアスを思い出す。
「そ、そうにゃ、レアちゃん助けなきゃ!」
『あぁ、それには及びません。アレは私の使い魔です』
「にゃ?」
『止めて差し上げましょう』
ネコ精霊の頭をクリクリと撫でながら、未だ活き活きとフーレンスジルコニアスを追い回す巨大魚へと母ネコ精霊が右手を差し出す。
しかしそれより一瞬早く、痺れを切らしたフーレンスジルコニアスが回避行動から攻撃モードへと移行していた。
振り向いて狙いを付ける時間が無いなら振り向かないと決めたフーレンスジルコニアスが、装填されている弾倉から目当ての弾丸の入った弾倉へと入れ替える。できるだけ距離の長い浮島の対角線上の端へと巨大魚を誘導すると、走りながら倒れこむように空中で前転をする。
上下逆さまになった状態で地面へと呪印銃を発射すると反動で逆立ちのまま空中を滑空する、そのまま弾倉に残った6発の魔弾を撃ち込みながら更に反動で滑空していったがもう少しで水面という所で、地面に後頭部を強打してから盛大に水飛沫を上げて湖面へと突っ込んでいった。
巨大魚へと撃ち込まれた6発の魔弾から眩いばかりの雷光が膨れ上がり、その身を焼き焦がすも巨大魚の勢いは止まらない。ブスブスと香ばしい香りをさせながら尚も進むその巨体に地面から伸びた氷柱が襲い掛かる。最初に地面に撃ち込んだ魔弾から初級魔術『氷の束縛』が発生するが、その巨体を拘束できたのはほんの一瞬でしかなかった。
しかし、その一瞬が巨大魚の命取りとなる、突如水面から飛び出してきた不審者が煌めく水飛沫で螺旋の渦を作りながら、その巨体を貫く。
「必殺! 双剣ドリルクラッシャーァァァァ」
2本の剣を頭上にかざし身体ごとドリルのように回転し巨大魚の横腹に風穴を空けていく、その勢いのまま止まる事無く対岸の水面へと盛大な水飛沫を上げて突っ込んでいく裸体の不審者。
一連の出来事を上手く消化できずに呆然と佇むニャンデストと2人のネコ精霊の視線の先では、プカリと水面に浮かんだフーレンスジルコニアスから綺麗な虹が弧を描いて空を彩っていた。
「まったく、酷い目にあった……」
「そ、そうね……」
サスサスと後頭部を摩りながら呟くフーレンスジルコニアスに、遠い目をしながら頷くニャンデスト。その視線の先では遠くの湖面から顔だけを出し、必死に口の前に人差し指を立てている不審者がいたが見なかったことにしてソッと視線を反らした。
目の前で起こった出来事に眉間を押さえていた母ネコ精霊が小さく溜息をつくと、自分を納得させるように『まぁいいわ…』と呟きニャンデストに向き直る。
『よくぞ私の使い魔を倒しました、敬意を評し貴女が連れている精霊の使い魔召喚能力を開放してさしあげましょう』
「にゃにゃ!」
『この能力は過去に精霊が倒した魔獣を、使い魔として使役する力です』
召喚した精霊が更に使い魔を召喚するという設定に、テイマーというより召喚師じみてきたなと思いつつも、思いもかけずネコ精霊がパワーアップすることにクフクフとほくそ笑むニャンデスト。しかし後頭部を摩りながら、ん~? と考え込んでいたフーレンスジルコニアスがボソリと呟いた。
「タマキちゃんて魔獣を倒したことあったっけ?」
「にゃ………」
言われてみればネコ精霊はいつも魔獣の後ろから少し手を出して、一時的に魔獣からの注意を引き付ける位しか戦っていない。いくらなんでも偶然ラストアタックで倒した事くらいは有るだろうと記憶を辿ってみるが、ネコ精霊初魔獣討伐を祝った記憶が無い。
ダメじゃ~~んと頭を抱えるニャンデストの隣で、ネコ精霊の前髪に愛おしそうに手を添えると、その額にキスをする母ネコ精霊。
『さぁ、これで能力は開放されました、今まで自分が倒した魔獣の中で使い魔に相応しいモノを召喚しなさい』
「ニャニャ」
元気に手を挙げて返事をしたネコ精霊が、いつぞやフーレンスジルコニアスが披露した「不思議な踊り(タマキアレンジショートカット版)」を踊ると、ブッと吹き出すフーレンスジルコニアス達の前方に巨大な魔法陣が浮かび上がる。
地震のような轟音と地響きをさせながら、魔法陣から巨大な腕が生えてくる。その指1つが軽く人の背丈を超える程の質量を持った腕にはびっしりと剛毛が生え硬質な光を反射し、浮島を覆う程の魔法陣ですら窮屈そうにその全身を露わにしていく。
グルルルと咽を鳴らす見上げるほどの巨体は、過去に『アーカイヴミネルヴァ』のメンバーを苦しめた巨大剛毛魔獣であった。
「そういえば、コレにトドメさしたのってタマキちゃんだったね…」
「あは、あはは……流石にコレはゲームバランス崩れるんじゃにゃいかなぁ?」
タマキちゃんてこういうの手に入れると碌な事しないよね~と他人事のように呟くフーレンスジルコニアスに、内心でレアちゃんにだけは言われたくないにゃとツッコミつつも、確かに否定できないと頭を抱えるニャンデスト。
今日はよく怯えたり悩んだりする日だと現実逃避していると、ポスンと頭に何かが当たる。何が当たったのかと顔を上げてみれば、キュウ~と気絶したネコ精霊が力なく凭れ掛かっていた。
「ちょちょ、タマキどうしたにゃ!」
『自分の魔力総量を超えるモノを召喚した所為でしょう、その証拠に……』
気絶したネコ精霊を抱えながら母ネコ精霊が示す先を見てみれば、浮島からはみ出すほどの巨体だった剛毛魔獣が風船から空気が抜けていくようにシュルシュルと縮んでいき、ネコ精霊より更に頭1つ分小さくなるまで萎んでいった。
犀のような頭部以外、ゴリラのような身体全体を剛毛で覆う小さな魔獣。召喚者を心配しているのか、ネコ精霊に甘えるようにその身を寄せて来る。
「仕草は可愛いのだろうけど、なんというか可愛くない…」
「同意にゃ…」
『我が娘ながら面白い趣味ね…』
趣味というかこれ以外呼び出せる魔獣が居なかっただけなのだが、取り合えず巨大魚を使い魔にしている人には言われたくないなぁと思うフーレンスジルコニアスとニャンデストであった。
予定していた新しい同位体は字数の都合で次話以降に変更させていただきました><;




