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イリーガル・コール  作者: 山吹
Ver2.5
34/37

ちびっこ冒険隊的な、

投稿間隔が空き過ぎました><;

次は早めに上げます…

努力します…


公式HP(ホームページ)でアカウントを作成し運営規約に同意すると、運営本社ビルに設置された巨大なサーバー内に専用の光学積層型の仮想データ記録媒体が割り当てられる。その為、個人で用意する機材はインターネット接続環境と、VRヴァーチャルリアリティーに対応するハード媒体だけになっている。

この時代、家庭だけではなく公共施設にもVRヴァーチャルリアリティーが深く普及している為、老若男女問わず気軽に利用されている。


そんな環境下の中、イリーガル・コール・オンラインを始めて最初に降り立つ地は各種族それぞれに割り当てられたホームタウンと呼ばれる7つの街である。

各種族毎に得手不得手が存在し、実際の生活に根付くようにそれぞれのホームタウンである都市にも、その種族に適した施設や装備が設置されている。


勿論、遇えて不得手な分野を選びその中で切磋琢磨し頂点を極める事もできるが、各都市の周辺の環境はプレイヤーではなく、その都市が歩んできた歴史等に基づく設定な為、その道のりは茨の道になる事が多い。

森に住み狩猟を主とするエルフの弓使いが、スタート直後に竜人用のホームタウンに移動し街周辺に生息するスライム系の最弱魔獣と相対して、スライムが持つ物理攻撃無効属性にまったく歯が立たず蹂躙されまくって逃げ帰る等はよくある光景である。


そんな中、報われにくいスキル構成と度重なるPK(プレイヤーキル)に多くの者達が、志半ばで挫折していった茨の道をポテポテと歩ききった1人の少女が、幻想的に輝く森の中をポテポテと歩いていた。

かつてパチンコを主武装としていた時にはソロでの攻略を断念していた森であったが、呪印銃スペルガンを手に入れてからはフーレンスジルコニアスの主戦場とも言える場所になっていた。


経験値効率だけで言えば無限回廊の方が優れているのだが、『精霊の森』と呼ばれるこの森の敵からは精霊魔術の効力を一定時間アップさせる各種アイテムや、呪印銃スペルガンの艶出しにも使っている『精霊の霊糸』で編まれた布がドロップすることもあり足しげく通っているのだった。


「レアちゃん速いにゃぁ~」

「あ、ごめ~ん」


通い馴れた道ゆえに何時ものペースで進んでいたが、今回この森に赴いたのはニャンデストからの依頼であった事を思い出し、慌てて道を引き返し合流する。


「酷いにゃぁ~、怖かったにゃぁ」

「ウニャニャ、ニャウゥ」

「ごめんごめん、もう少し進めば休憩できる場所があるから、がんばって!」


今度はハグレてなるものかとニャンデストにスカートの裾を掴まれ、捲れる捲れる中身が見えると後ろ手にスカートを押さえながら歩き難そうに進んでいくフーレンスジルコニアス。因みにネコ精霊(タマキ)はニャンデストの尻尾を掴んで一列になって進んでいくという、微笑ましい光景が展開されていた。


小さな枝や生い茂る草木を掻き分けて進むと、ぽっかりと拓けた場所が現れる。中心に澄んだ水を湛える小さな池があるその場所には、地面から大きな草の葉が人が座るのに丁度良いソファーの様に生えていたが、そのフォルムはどこか食虫植物を連想させるものだった。

採集用の荷物が入ったカバンを地面に投げ出すように置くと、躊躇う様子も無くポスンとその葉に座り込み安心したように息を吐き出しリラックスするフーレンスジルコニアス。


「これ座っても大丈夫にゃ?」

「うん、精霊に悪い事とかしてない人なら大丈夫だよ~」

「悪い事……はしてないはずにゃ」


恐る恐ると葉っぱに近づくニャンデストの視界の先で、既に葉っぱの上にネコ特有の箱座りでくつろぎながら、ゴロゴロと喉を鳴らしているネコ精霊(タマキ)の姿が映る。

私はこの子(タマキ)を大事にしてる、うん大丈夫! と内心で確認し、えいっと葉っぱの上に腰を落とすニャンデスト。


「バン!」

「ひっ!?」


座るタイミングに合わせて響いた大声に、飛び上がって驚いたニャンデストが地面に這いながら涙目で振り返ると、葉っぱの上でお腹を抱えて笑い転げるフーレンスジルコニアスの姿が映る。その姿に状況を察したニャンデストが、うにょー! とか奇声を上げながら、未だ笑い転げるフーレンスジルコニアスが座る葉っぱを掴みグイッと一気に持ち上げる。


まだ心臓がドクドクしてると地面に座り込みながら胸を押さえるニャンデストの後ろで、転げ落ちて強打した後頭部を押さえながらフーレンスジルコニアスがゴロゴロと転がっている光景を、葉っぱの上でゴロゴロと喉を鳴らすネコ精霊(タマキ)が生暖かく見守っていた。





「まったく、酷い目にあった……」

「それはコッチの台詞にゃ……」


サスサスと後頭部を摩りながら呟くフーレンスジルコニアスに、未だどこか恐々と座るニャンデストが応える。お尻の下の葉っぱに動きがないのを確認して大きく息をついたニャンデストが、改めて周囲の風景を見回し幻想的なその光景に魅入る。


「入り口の方も綺麗だったけど、奥まで来るとまた別世界だにゃぁ~」

「でしょ、この風景見た時は精霊術やってて良かったって思ったもん」


常に星空に抱かれ、精霊から流れ出る魔力で育つ木々は外界とは違った独自の進化を歩んだのか、周囲にはパステルカラーのように色々な色があふれていた。イリーガル・コールの世界観の中でも屈指の風景なのだが、実際に見に来れる者は限られてしまっている。


それは『精霊の森』とも呼ばれるこの森は、精霊からの加護を受けない者にとっては『迷いの森』に他ならないからである。

エルフのホームタウンである深緑の都市『ディープ・プランタン』に隣接するように広がる広大な森は、入り口付近では似たような風景で迷うことはあってもしっかりマッピングさえしていれば支障にはならない。しかし、奥に進むにつれマップ表示がされなくなり、そのまま進んでいくと精霊の手により森の中をランダムでワープさせられてしまうようになる。


当初は森の民であるエルフにとっても難攻不落の森であったが、精霊魔術を習得し精霊からの加護を得られると状況は一変することになる。それまで『迷いの森』とMAPに表記されていたエリア名が『精霊の森』へと変化し、更に迷わないように精霊から正しい順路に光の道筋が表示されると言う親切極まりないエリアへと豹変するのだ。


「レアちゃんに案内頼んで正解だったにゃ」

「昔はよくお小遣い稼ぎで道案内したもん、私は道案内、皆が敵倒す。ご馳走様でした」

「今じゃ自力で来れるようになったのね、成長したにゃ」

「ここに来ると高確率で追っ手を撒けるからね、ビバ精霊の森」


有効活用しつつも、用法を間違っているフーレンスジルコニアスであった。





暫しの休息を堪能したフーレンスジルコニアス達は、ハグレないようにと手をつなぎながら森の奥へと進んで行く。

MMOの常というように奥へ行くほど出現する魔獣が強くなっていくのだが、何故か今回の探索では極端に魔獣との遭遇(エンカウント)率が低く、予定よりも大分奥へと進むことができていた。


「もっと怖い所かと思ってたけど、そうでもないにゃ?」

「おかしいなぁ、この前来た時は魔獣が多くて最高速で駆け抜けたんだけど…」


駆け抜けられるんだ…と内心で思いつつ、理由は解らないが遭遇(エンカウント)しないなら大助かりだと森を進んで行くニャンデスト。先ほどから単体で出てくる魔獣にどうにか勝利しているが、複数匹で出てきた場合には勝つどころか逃げ切れるかも自信が無い。


「これなら何か手掛かりが見つかるかもしれないにゃ」

「そうだね~、見つかるといいねタマキちゃん」

「ニャ」


ネコ精霊(タマキ)の頭上に生えるネコ耳の間に手を置き、クリクリと撫でながら話しかけるフーレンスジルコニアスに、元気に手を挙げて返事をするネコ精霊(タマキ)。しかしこのネコ精霊、どうにも今回の探索の目的を良く理解していない節がある。


「タマキのお母さんを探してるんだから、もっとちゃんと周囲を見るにゃ…」

「ニャニャ!?」


ネコ精霊(タマキ)と出合った日に決心したはぐれた母親を探す為に、ニャンデストは事あるごとに精霊が関係していそうな場所を探索していた。お世辞にも戦闘が得意とは言えないニャンデストは、今までにも何度もフーレンスジルコニアスに同行を頼み、その度に彼女は採集カバンを手に各地の探索に付き合っていた。

そして今回、精霊の総本山的なこの森へと赴いたのだが、精霊王の加護を得ているとはいえフーレンスジルコニアスのキャラクター構成は後方からの攻撃を主としている為、前線タイプであるニャンデストが矢面に立つ機会が多くなってくる。


先ほどからHP(生命力)ゲージの大半を削り取る攻撃を紙一重で避けたり避けれ無かったりを繰り返し、生きてる事に感謝をし始めていたニャンデストに焦りが出始める。倒せなくともソロで森を駆け回れるフーレンスジルコニアスと、彼女には及ばないもののネコ科特有のすばしっこさを持つネコ精霊(タマキ)は緊急時には無事ココから脱出を果たすだろう。


だが自分は無理だ、間違いなく最初に死ぬのは自分であると断言できる。そしてその場合、彼女達は迷い無く自分を見捨てて逃げる。今まで幾度と無くクリスタル化(死亡エフェクト)しながら見た彼女達の後ろ姿を何としても今回は見ずに済ませたい。


というか自分の召喚した精霊に置いて行かれて死んでばかりでは、召喚者としての沽券に関わってくる。そんなニャンデストの気迫が伝わったのか、ネコ精霊(タマキ)が周囲をキョロキョロと見回した後、精霊からの道標を無視して森の奥へと走り出した。


「にゃにゃ、タマキどこ行くにゃ!?」

「何か見つけたのかも」


深い森の中ではぐれてしまっては再び合流することは容易くない、慌ててネコ精霊(タマキ)の後を追うフーレンスジルコニアスとニャンデストであった。しかし、一番慌てたのは少し前方で隠れるように息を潜めていた黒衣の剣士だったことを2人は知らない。






彼女をあの場所で見つけたのは幸運だったといえよう。

大小様々なギルドのメンバー達が慌しく街の中を走り回る光景を不思議に思いながら、日課になりつつある銃職人ガンスミス工房へとその歩を進めていると、カランと乾いた呼び鈴の音をさせながら目指す工房からフーレンスジルコニアスが出てくる。


「あ……」

「それじゃ今回もお願いするにゃ」

「ほいほ~い、何故かニャンちゃんに同行すると欲しいアイテム取れるから私も助かるわぁ」


彼女へと伸ばしかけた手の先で楽しそうにガールズトークをしながら転移ポータル方面へと歩き去るフーレンスジルコニアスとその他2名の姿に、話しかけるタイミングを逃してしまう黒衣の剣士こと大野さん。

過去にもたまによく、時々しょっちゅうあるこの話しかけるタイミングを逃す現象を改善しようとは思うのだが、主に現実サイドでのキャラクターステータス的な問題で中々思うようには上手くいっていなかった。


それでも自然とその足は彼女のスト……護衛の為に、転移ポータルへと進んでいるのだった。しかし目的地が『迷いの森』であると分かった時には、半ば諦めた気持ちへなっていた。何故なら精霊の加護を得ていない自分では、ある程度進むとランダム転移をさせられてしまうからだ。


それでも出来る範囲でフーレンスジルコニアスのスト……護衛をと思い、気配を消して彼女達の前方へと移動し遭遇(エンカウント)しそうな魔獣を片っ端から排除していった。そのままある程度進みそろそろランダム転移エリアになると言う時、大野さんの本能が背後からの視線を捉えた。

スト……護衛の為に隠れている後ろめたさからか過剰に反応して振り向くと、そこにはネコ科特有の瞳で大野さんを凝視するネコ精霊(タマキ)が樹の幹の影から覗いていた。


挿絵(By みてみん)


スススス……と音も無く戻っていくネコ精霊(タマキ)を固まったまま見送る大野さんだったが、ハッと我に返り来た道を引き返す。フーレンスジルコニアスや召喚者のネコに自分のことを報告するのではないかと藪の中から窺っていると、何故かネコ精霊(タマキ)はフーレンスジルコニアスが呼び出して漂っている風の精霊にゴニョゴニョと耳打ちをしている。


何を話しているのだろうかと汗をダラダラと流している大野さんだったが、再び感じたネコ精霊(タマキ)と風の精霊からの視線に晒される。風の精霊には表情などはないはずなのだが何故かニヤリと微笑まれた気がして背筋がゾクリとした。


「なんか昔からアイツラ(精霊)って苦手なんだよなぁ。妙に人間くさいというか……」


ファンタジーのMMOと言えば魔法や精霊なのだが、このイリーガル・コールに限っては何故か大野さんは精霊が苦手だった。何となく見透かされているような気がして、自然と物理攻撃特化へと育成するようになっていった。


「はぁ……、ホント見透かされてるわ」


溜息を尽きながら前髪をかき上げる大野さんの視界には、正しい道順を示す精霊の道標が表示されていた。






ネコ精霊(タマキ)の後を追い森の中を進んでいくと、気圧の変化で起こるような感覚を伴ってキンッとエリアが切り替わり、生い茂る草木は消え失せ周囲は海と見紛うばかりの広大な湖になっている。


「あれ、ココどこ?」

「イベントエリアみたいにゃ、レアちゃんあそこ!」


いきなり湖畔へと転移した事に戸惑うフーレンスジルコニアスだったが、ニャンデストが指差す方向に視線を向けると湖畔から10メートルほど離れた水面に、ポツンとネコ精霊(タマキ)が佇んでいた。一瞬水面に立っているのかと思ったが、良く観察してみれば小さな浮島のような場所に居るのだと解った。

どうやってあの場所へと移動したのかと思案していると、ズシッと背に重みが圧し掛かる。


「……何をしてるのかな?」

「さぁ、飛ぶにゃレアちゃん!」


早々に自力での移動を諦めたニャンデストが、その背に胸を押し付けるように抱きついてくる。これが大野さんや句朗斗ならあるベクトルの方向でやる気が出てきそうだが、フーレンスジルコニアスにはジト目と溜息で返される程度の効果しかなかった。


やれやれと肩を竦めながらも背に大き目のネコを背負いながら風を纏い助走をつけて湖畔を蹴る、しかし10メートル近い距離を踏破することはできず、放物線を描きながら水面へと落下しだす。

耳元で小さなニャンデストの悲鳴を聞きながら、クルリと空中で回転したフーレンスジルコニアスが水面に向かって呪印銃スペルガンを数発撃ち出すと、反動に押し出されるようにポーンと浮島へと跳ね上がる。


「ももももっと平和的な移動を希望するにゃ……」

「え……」


またもや心臓がドクドクしてると地面に座り込みながら胸を押さえるニャンデストの後ろで、普段普通にやってる移動法なんだけどと頬をポリポリと掻くフーレンスジルコニアス。後で話し合う必要がありそうだと両者が内心で思っていると、フッと大きな影が2人を包み込む。





ギギギ…と音がしそうな動きで振り向けば、2人を覆う程の影を生み出す巨大な魚が、水面からせり上がってきていたのだった。







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