焼き豚切断…的な、
間隔空いてすいません。
次も空きます><;
用事があると欠席したユカリアスと時間的にログイン時間の合わなかった句朗斗を抜いた『アーカイヴミネルヴァ』の主要メンバー、コーネリアスとテンテア、オスマの3人を主戦力とし未だ最前線に突入するには些か力不足感のある中級層のメンバー達のレベリングで、最前線から数階層落とした場所で狩りをしていたコーネリアスの元に、句朗斗からのギルド資金浪費の知らせが入ったのは現実時間での20時を過ぎた頃であった。
その日は日曜日だった為、頃合を見て特別サーバーへ移動しようと話してあったことから、合流するのはサーバー移動をした特別サーバー内専用ギルドホームにしようという事になっていた。
会社では元上司であり、今は夫となっているコーネリアスからすると、ユカリアスがギルドマスターという立場を利用して資金を無下に浪費するとは思えない。正直にメンバーに事情を話しても他のメンバー達も何か事情があったんだろうと、ユカリアスの人柄的に大事にはなっていない。
とはいえかなりの金額を浪費している事からコーネリアスは悶々と考え込んでおり、テンテアを筆頭に女性陣のメンバーの様子が若干ソワソワしている事には気が付いてはいなかった。
サーバー移動の際、逃亡の前科があるユカリアスが句朗斗により手首を拘束用のロープで縛られ容疑者確保ー! 状態で連行されている姿に、アイテムインベトリから上着を取り出したフーレンスジルコニアスが手首のロープを隠すようにそっと掛け、優しく肩を叩いた事は勿論コーネリアス達は知らない。
場所は移り特別サーバー内にある新ギルドホーム。本サーバーにある大理石作りの豪華なギルドホームとは違い、木造建築特有の温もりを感じさせる建物である。広さ的には本サーバーのホームと比べても遜色ない一番広い部屋は、メンバー達の共有スペースとして使われている。
コーネリアスを先頭に扉を開けて室内に入れば、メンバー全員が座れるだけの大きなテーブルの上座に不貞腐れたように座るユカリアスが出迎える。
マスターとして上座に座るユカリアスから一席開けて椅子に腰掛けていた句朗斗が、テーブルに肘をつき顎を乗せたリラックスした格好のまま一堂を迎える。句朗斗のどこか諦めたような様子に若干首を傾げながら室内を進むと、ユカリアスと句朗斗の間の空いた席へと腰を落とす。対面のユカリアスの隣の席にはテンテアが座り向かい合うように左右で男女が分かれて着席していく。
その様子を席に座る事無く、室内の調度品を眺めていたフーレンスジルコニアスがカッコイイとか言いながら眺めていたが、直ぐに興味は部屋の壁側を飾る色々な家具や小物へと移っていく。
そのどれもが攻略サイトや個人のサイトで紹介されては、自分のマイホームや銃職人工房に飾りたいと思ったことのある物ばかりだった。
自由度が高いイリーガル・コールにおいて型紙を用いたオリジナルデザインの服や装備以外にも、当然のようにオリジナルデザインで製作される調度品などが存在していた。
しかしそのどれもが地道な修練の末に獲得できるスキルを必要とされ、戦闘には全く関係ないアイテムとは思えないほど高額で取引されていたりする。
なにしろイリーガル・コール内での高所得者ランキングは、まったく戦闘ができない完全生産者が上位のほとんどを占めているくらいである。
キョロキョロと忙しなく室内を見て歩くフーレンスジルコニアスを尻目に、相変わらずの不貞腐れたようなユカリアスへと視線を移したコーネリアスが真剣な表情で話し出した。
「それでユカ、ギルド資金を何に使ったんだ?」
「…………は?」
真剣な、それでいて何処か優しさも兼ね備えたような表情でコーネリアスが静かに問う、それは怒らないから言ってごらんと語りかける母のような表情であったが、それを聞いたユカリアスは一瞬何を言われているか解らないといった表情で受けた後、不思議な物でも見るような顔で見つめてくる。
余りのユカリアスの何言ってんだコイツ…的な表情に、自分が何か可笑しい事を言ったかと不安になるが、間違いなく此処にはユカリアスのギルド資金浪費問題で集っている筈だ。
俺間違ってないよな的に周囲を見渡せば、何故か他のメンバー達もコーネリアスを不思議な物をみるように見つめている。そして視界の隅では小物を持ったままのフーレンスジルコニアスまでが、口をあんぐりと開けてコーネリアスを見ていた。
「何故だ………」
「いや兄さん、マジで解ってないの?」
「あ~そうだった、こういう人だったよ。私が一生懸命部屋の模様替えしても全然気づかないんだよ」
訳がわからないというコーネリアスに句朗斗が本当に解っていないのかと問いかける横で、やさぐれたユカリアスが愚痴り出す。信じられるかテレビの位置が変わってても気づかないんだぜという発言に、女性陣から非難が溢れ出す。
「あ、家具か!」
「「「今頃かい!!」」」
扉を開けた瞬間に部屋の様子で察していた他のメンバー達からしてみれば、数脚の椅子しかなかった部屋にそれまで無かった大きなテーブルと椅子に座ってもその変化に気づかないコーネリアスが理解できない。
問いただすまでも無く、今回の資金の使い道はこのギルドホームを飾る家具や小物の数々に違いない。既に今回の件において存在価値無しと判断され壁際で膝を抱えるコーネリアスの頭を、慰めるように撫でるフーレンスジルコニアス達を置き去りに話は進んでいく。
「家具を買うことには問題ないのですが、できればみんなで相談して購入するべきだったのでは?」
「そうだねぇ、何かファンシー過ぎないこの部屋」
「お前たち男の意見を入れたら単色になるんだよ」
「テンテア姉さん?」
男達が口々に何故相談が無かったのかと言い出すと、ユカリアスではなくテンテアがそれに応える。向けられる男達の視線に自分の失言に気づいたテンテアが、コホンと1つ咳払いをすると突然話しの方向を変える。
「まぁなんだ、済んでしまったことはもうしょうがない。それよりも今はレアちゃんの同位体捕獲の案件を話し合うべきだろう、行く行くは我々の同位体との遭遇時にも対応できるようにしなくてはいけないのだ。身近にあるレアケースは有効利用するべきだろう」
「そうですね、それが良いと思いますわ!」
「うんうん、レアさんには精霊契約でもお世話になってますし協力するべきです」
「そうだそうだー!」
あからさまなテンテアの話題変換に女性陣が追随する、小さくユカリアスまでもが混ざってエールを送っている。普段ギルドの経費管理をシビアに管理しているテンテアだけでなく、女性陣全員が責任追及をすることも無く話題を変えようとする様子に、流石に男性陣達も今回の資金浪費のカラクリに気付きだす。
「なんだよ、お前らみんなグルか!」
「ちょ待て、部屋一式の調度品を内緒で買い揃えるとか大胆すぎだろ」
「てかバレないと思ってたのか!?」
流石にそれはどうなのよと逆に動揺する男性陣が詰め寄れば、チッと揃って舌打ちした女性陣が開き直る。
何でも先週の特別サーバー開催時の女性だけのパジャマパーティーの時に、誰かが持ち込んだ調度品カタログを見てみんなでコレいいよね~とか、コレ可愛いよね~などと盛り上がっているうちにブレーキが壊れ出し、テーブルと椅子は無いと不便だよね~コレならメンバー全員が座れるしコレだけ先に買っちゃおうか~と続き、だったらそれに合うテーブルクロスも必要じゃない? と続き、それならこの家具が合うからコレもついでに~と続く連鎖崩壊を引き起こし、気付けば一式注文が完了していたという。
「ダメな人達だ…」
「…否定はしない」
事の経緯を説明しているうちに、自分達でも情けなくなってきた女性陣が素直に非を認める。シュンと小さくなっている彼女達を見て、強く言えなくなってしまった男性陣がしょうがないな…と済し崩し的に容認してしまっていた。
テーブルの下で彼女達がヨシッと握り拳をしていたことには気付いていない。
コーネリアスの頭を撫でる事に飽きて調度品鑑賞に戻っていたフーレンスジルコニアスが、ダメダメですねぇ~と呟きながらフラフラと彷徨う。
「あ、レア子。これレア子があの時に注文したソファーね、(遭えて)今渡しておくね」
「わーい、ありがとう~」
「「「お前もか!!」」」
ちゃっかりパジャマパーティーに参加して今回の一件に絡んでいた身でありながら、シレっと無関係を装っていたフーレンスジルコニアスに男性陣の総ツッコミが入る。うひっとビックリしたフーレンスジルコニアスが背後にあった腰高のオープンラックにぶつかると、振動で1冊の本がバサリと床に落ちる。
背表紙に20〇〇年度最新家具カタログ(イリーガル編)と書かれたその本には、フーレンスジルコニアスとしっかり名前が記されていた。
静まり返った室内で、皆の視線が1冊の本に集約する。そこに書かれている名前が誰なのかを反芻する為に、時が止まったかのような沈黙がその場を支配する。
すぅ~っと静かに息を吸い込んだフーレンスジルコニアスが、一瞬でその身に風を纏うと瞬間移動のように扉の前へと逃げる。しかし、勝ったと呟きながら扉のノブへと伸ばされた腕は、ノブへと触れる数センチ手前でピタリとその動きを止める。
「なんかデジャヴ…」
背後で呟く句朗斗の台詞を聞きながら、放たれた短剣にその影を縫いつけられたフーレンスジルコニアスがショボーンとした。
逃走防止用に手足を縛られたフーレンスジルコニアスが、大き目のクッションの上に座らされている。壁を背もたれに寛ぎながら、コーネリアスの手に持たれたグラスからストローでジュースをチルチルと吸っていた。
カタログを持って来ていたのがフーレンスジルコニアスだったとしても、別に逃げる必要は無かったのにと言われると、ハッとした後つい癖でと呟いていた。
嬉々としてフーレンスジルコニアスの手足を縛ったユカリアスとテンテアが席に戻ると、話しは何故ユカリアスが逃亡を図ったかに移っていった。女性陣全員での使い込みだったのだから、バレタからと言って逃げる必要があったとは思えなかったからだ。
「……実は何度計算してみても今回買ったアイテムの値段と、ギルドの倉庫から出された金額が合わないんだ」
「誰が引き出したかの利用履歴が残ってるだろう?」
「いや、履歴はアタシが2回引き出したことになっているんだが、1回しか出した覚えが無いんだよ」
おかしいなと呟きながらステータス画面から倉庫の利用履歴を見て頭を傾げるユカリアス、テンテアも利用履歴を表示させ確認してみるが、確かにユカリアスが2回引き出した記録が残っている。しかし、その記録の引き出した日時を見たテンテアの顔色がスッと変わる。
「なるほど、確かにおかしいね。2日前の12時過ぎに引き出した事になっているが、その時間には現実世界で私と舞姫の3人で一日限定20食のランチを食べに行っていた筈だ。到底VRにログインしてる時間なんて無かったはずだ」
「あ、そういえば!」
「……いやちょっと待て。お前、人が働いてる時にそんな高そうなランチとか食いに行ってるのか! てかテンテアと舞姫も仕事中に何やってんだ!」
ユカリアスのアリバイが証明されたが、その過程でユカリアスとテンテア、そして舞姫の新たな問題が発覚したのだが、コーネリアスの訴えも虚しく完全スルーされる。苦笑いを浮かべるメンバー達と、シレっとした顔のユカリアスとテンテアがシステム的な問題かもと話し合う横で、壁に額を付けブツブツと呟くコーネリアスを気遣いながらも、あ、クッキー取って食べさせてくださいとちゃっかり注文を出すフーレンスジルコニアス。
「一度運営の方に問い合わせをした方が良いかもしれないね」
「金額が金額だからねぇ、家具どころかもう一軒ギルドハウスが買えそうな金額だよ」
「あ、そっちのチョコクッキーをお願いします。案外いつの間にか実体化してたユカ姉の同位体の仕業だったりして、しかも皆の同位体も実体化しててギルドハウス買ってたりしてねぇ」
ここで話し合ってても埒が明かないと一先ず運営からの返事待ちで落ち着きかけた時、親に餌を強請る雛鳥のように口を開けながらボソリとフーレンスジルコニアスが冗談を言う。大きな手で器用にクッキーを摘まんで甲斐甲斐しく口へと運んでいたコーネリアスの動きが凍りつく。目の前でオアズケ状態になったフーレンスジルコニアスがピヨピヨと強請っていたが、自分に向けられる幾つもの視線に気が付き周囲を見渡す。
「レアちゃん……今なんて言った?」
「………チョコ……クッキー?」
「その後!」
「え………、同位体の仕業?」
ガタンと同時に席から立ち上がった『アーカイヴミネルヴァ』のメンバー達が、アイテムインベトリから装備を取り出し完全武装をしていく。何か色々と疲れたオーラを出していたコーネリアスまでもが別人の様に覇気を含んだオーラを纏い立ち上がる。
扉の前に立ちメンバーに背を向けた姿勢のユカリアスが、その手に持つ真紅の大斧の石突を床へと叩きつける。ガンと建物が揺れるような音を響かせた残響に続き、テンテアが野郎共行くぞと声を出しメンバー達が応と答え一気に走り出す。
遠くから聞こえる戦争だ~~~♪ という楽しそうな声を聞きながら、手足を縛られたまま放置されたフーレンスジルコニアスが呟いた。
「私のクッキーは?」
焼き豚切断…
ひぶたきる…
火蓋が切って落とされた…
よろしい、ならば(ry




