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イリーガル・コール  作者: 山吹
Ver2.5
30/37

彼女の名は…的な、

イラストの解像度をかなり大きくしても大丈夫らしいということを先日知り、今回のイラストは「アニメ塗り」に挑戦してみました。

PCだとこっちの方が描きやすいですねぇ。


壁に掛かる時計の秒針がチクタクと音を立てる、何時もなら耳にさえ届かない微かな音であるが、今はいやに大きく聞こえてくる。シーンと静まり返った銃職人ガンスミス工房の喫茶スペースの椅子に座り、普段のように呪印銃スペルガンを取り出し手入れをする事も無くジッと扉を見つめ続けているフーレンスジルコニアス。


衝撃的な出会いに思わず工房スペースから出てきてしまったが、奥へと続く扉の前に陣取るようにして今も中に居るであろう目当ての人物を待ち構える。

時間の感覚があやふやになりかけ、何処からか抜け出し既に中に居ないのではとフーレンスジルコニアスが不安になりかけた頃、微かな音をさせながら僅かばかり扉が押し開けられていく。


扉の隙間からはイチゴのような甘い色合いの瞳が、強い光を宿しフーレンスジルコニアスを見つめてくる。その視線に負けじと同じ色合いの瞳で見つめ返していたが、やがて根負けしたかのように相手が瞳を伏せると観念したのか扉を開け姿をさらけ出してきた。


「ログインしないと油断させておいて、私の完璧な擬態が完成する前に不意を付くとは…」

「……?」

「まぁいいわ、遭遇戦は貴女に勝ちを譲りましょう。でも次は覚悟するのね」


着ている衣装の印象こそ違うが、顔や体格は瓜二つの「フーレンスジルコニアス」にソックリな少女が、静かに出口の扉へと歩いていく。


「待ちなさい」


まさに横を通り過ぎようとするその少女の前に手をかざし行く手を遮るフーレンスジルコニアスに、大人しく逃がしはしないかと呟いた少女が身構える。


「出て行くなら裏口からにしてください!」

「……は?」

「ここ数ヶ月、以前より輪をかけて目立って困ってるんです。いいですか、くれぐれも目立たないように!」

「は、はぁ……」


こんなに早くイベントクリアしたらまた注目されちゃうとか、ブツブツと呟き続けるフーレンスジルコニアスの横を、若干いいのかなぁ? と思いながら通り過ぎようとする少女。

そして丁度フーレンスジルコニアスの横を通り過ぎようとした時、バタンと大きな音を立てて外から扉が開かれる。


「レアちゃん! さっきの臨時サーバーで精霊呼び出した件なんだけど…」

「幾つか聞きたいことがあるんだ! けど…」


数時間前に臨時サーバー内で出会った廃人プレイヤーの中の2人が、喫茶スペースへと雪崩れ込んでくる。しかし、視界に飛び込んできたフーレンスジルコニアスが2人居る光景に、言葉の最後は小さくなっていく。

呆然とする廃人プレイヤー達と突然現れた者達に呆然とする少女の中で、その瞬間唯一動けたのはフーレンスジルコニアスだけであった。


ガッシャーンと大きな音を立ててガラスが割れる音に、ハッと正気に戻った廃人プレイヤー達の視界には大きく両手を突き出した姿のフーレンスジルコニアスと、何故か割れている窓ガラスだけが映っていた。


「あ、あれ…今もう1人レアちゃんが居なかった?」

「気のせいです」

「い、いや…俺も確かに見たような?」

「気・の・せ・い・で・す!」


ジト目で力説するその様子に思わず頷きかけた2人だったが、鳴り響いた銃声にまたもや正気をとりもどした。見れば割れた窓の外からパラパラとガラスの破片を落としながら、フーレンスジルコニアスに向けて黒い呪印銃スペルガンを構えているフーレンスジルコニアスが立っていた。


「またもや油断させておいて攻撃するとは、同位体のクセになんて腹黒いの!」

「ああああ危ないじゃない! てか目立つなっていったでしょ!」


幾度ものPK(プレイヤーキル)からの攻撃で鍛えられた勘で、寸での所で回避したフーレンスジルコニアスが腰のホルスターから呪印銃スペルガンを引き抜くと、ピタリと少女へと照準を合わせる。

どちらが先に引き金を引いたのか、立て続けに撃ち出された6発づつの魔弾だったが、そのどれもが相手に当たる事は無かった。


無作為に相手を狙って撃ち出された魔弾が、何故か6発とも空中で相手の弾丸とぶつかり合う。弾き合い跳弾となった魔弾は喫茶スペースを飛び交い周囲を破壊し尽くしていく。


「くっ、同位体同士の攻撃は無効化し合うか…」

「えい!」


撃ち合いの結果に苦渋の表情を浮かべる少女に向けて、最後の1発を撃ち出すフーレンスジルコニアス。最初に撃った分の差を失念していた少女だったが、ギリギリの所でうぉーと叫びながら回避していく。


「この卑怯者!」

「最初に撃ってきて何言うだ!」


窓を乗り越えて戻ってきたフーレンスジルコニアスと、フーレンスジルコニアスがポカポカと殴り合いを始める光景に、呆気に取られながらもしっかりと録画している廃人達であった。







「な、中々やるわね」

「そっちこそ」


ゼェゼェと肩で息をしながら、ガシッと握手をしあうフーレンスジルコニアス同士の姿に呆れつつ、廃人プレイヤーの1人がオズオズと手を挙げる。


「あの~、お取り込み中の所すいませんが、レアちゃんもう霊体に遭遇したの?」

「「レアっていうな!!」」


今まで何度も訴えかけてきた言葉をハモったことに、自分にソックリな少女に親近感を持ったフーレンスジルコニアスだったが、ニヤっと笑い自慢するかのように腰に両手を当てて踏ん反り返りながら少女が発した言葉にピシッと固まってしまう。


「私の名前はロアだ! 『ロア=ルー』それが私の名。レアなんて名前で呼ばないように」

「ななななな……」

「レアちゃんにロアちゃん、なんて分かりやすい…」

「ラリルレロ繋がりか?」


盛り上がる周囲とは対照的に、口をパクパクとさせて絶句しているフーレンスジルコニアスを指差し、ロアと名乗った少女が「ふふん」と満足気に宣言する。


「私は貴女が無くしたモノを持つ者、そして貴女は私が無くしたモノを持つ者。どちらが真の存在か次こそ決着をつけてみせるわ」


言うだけ言った事で満足したのかヨッコイショと言いながら窓枠を乗り越え去って行くロア、その光景を見送るフーレンスジルコニアスは真っ白な灰になっていた。








トコトコと歩く小さな少女と手を繋ぎ、石畳でできた街路を歩いていく。綺麗に整地された路面は小さな少女でも躓く事無く歩けるほどに作りこまれ、この『古代種の都』を造ったとされる当時の古代ドワーフ達の技術の高さが窺える。

乾いた砂が水を吸い込むようにドンドンと表情豊かになっていくネコ精霊(タマキ)の様子に、その内喋り出すのではないかと内心で期待しつつニャンデストが歩いていく。


周囲に居る事が多いフーレンスジルコニアスや『アーカイヴミネルヴァ』『黄金りんこ』のメンバーの顔が一瞬脳裏を過ぎると、何故か禄でもない台詞を言い出しそうな気がして若干不安が沸いてくる。

特にフーレンスジルコニアスの影響を強く受けると、変な方向に成長しそうだと考えた所で自分の考えに深く反省をしだす。


「にゃにゃ、レアちゃんは良い子にゃ。ちょっとズレてるけど根はとっても良い子にゃ、こんな事考えちゃ駄目にゃ!」


折角親しくなれた親友に一時とはいえ浮かんだ考えに強く自分を諌める、レアちゃんゴメンねと内心で謝っているとツンツンとネコ精霊(タマキ)に袖を引っ張られる。


「どうしたにゃ?」

ウニャ(レア)!」


隠しパラメーター的な親密度でもあるのか、何時の頃からか分かるようになっていたウニャ語翻訳で理解した言葉に、ネコ精霊(タマキ)が指差すほうへと視線を移してみると数人のプレイヤー達がNPC(住人)商店の横に設置されている伝言掲示板の前でザワザワと騒いでいた。

またレアちゃんが何かやらかしたのかと人混みの中に入り掲示板を見ると、SS(スクリーンショット)を使った写真入りの伝言が貼られていた。


指を口に当て内緒ポーズを取ったフーレンスジルコニアスの姿の横には、意味不明の言葉が書かれニャンデストは首を傾げた。


『私を見てもレアには内緒 BYロア』


レアちゃんを見つけてもレアちゃんには内緒ってどういうことだろう、目立つことが嫌いなくせにこんな書き込みを写真入りでやるとは、また何かに巻き込まれたのかと銃職人ガンスミス工房へと足早に向かうニャンデスト。その後ろで手を引かれながら、ウニャニャニャ(何か違う)? と不思議そうに呟いたネコ精霊(タマキ)の言葉は小さすぎてニャンデストまでは届かなかった。



銃職人ガンスミス工房へと向かう途中にも何箇所かに例の写真入り伝言が貼られており、道行くプレイヤー達の口々からも「レアちゃん」「霊体」「最速」などが聞こえてくる。

断片的な情報を仕入れつつもバラけたパズルのような状態では真相には辿り着けない、掲示板に書き込まなきゃと興奮気味に走る高LVプレイヤーの2人とすれ違ったが、これは関係ないだろう。


慌てて扉を開けカラカラと鳴る鳴子の音を無視しつつ喫茶スペースへと駆け込むと、中央付近に佇むフーレンスジルコニアスの姿が映る。

無事に会えた事にホッとしたのも束の間、その呆けたように虚空を見つめる様子に、やはり何かあったのかと駆け寄り呼びかけながら肩を揺する。


「レアちゃんレアちゃん、しっかりするにゃ! 何があったにゃ?」

「あぅぅ、ニャンちゃん。ロア怖いロア怖い……」


数度の呼びかけでやっと反応を見せたフーレンスジルコニアスに、ホッと胸を撫で下ろすニャンデストだったが聞きなれない単語に眉を顰める。


「ロア? そういえばさっきの伝言メッセージにもロアって書いてあったようにゃ?」

「伝言メッセージ? なにそれ!」


てっきりレアとロアを書き間違えたのかと気にしていなかったニャンデストだったが、フーレンスジルコニアスの口からも『ロア』の単語が出たことで、ここに来るまでのプレイヤー達も『ロア』と言っていたなと思い至る。

『ロア』って何だろうと小首を傾げるニャンデストだったが、伝言メッセージという言葉に過剰反応したフーレンスジルコニアスに肩を掴まれ激しく揺さぶられてしまう。


「にゃにゃ、レアちゃん落ち着くにゃ~」

「何、伝言メッセージって、ロアが何かやったの?」

「伝言掲示板に写真入りでメッセージが貼ってあったにゃ、それよりロアってなんにゃぁ?」


ガックンガックンと揺さぶるフーレンスジルコニアスの手を掴もうとニャンデストが手を伸ばすが、しかしその手は虚しく空を切る。ピタリと止まった振動に正面を見れば、微かな風の余韻を残し既にフーレンスジルコニアスの姿は掻き消えていたのだった。


「にゃにゃ?」

ウニャ(あっち)


残されたニャンデストが首を傾げていると、ネコ精霊(タマキ)が扉を指差しポツリと呟いた。








古代種の都を1つの突風が駆け抜ける、普段は目立たぬように隠れる為に使われる精霊魔術を、今はただひたすらに駆け抜ける事に使われている。

その回避術だけなら前線プレイヤー達にも一目置かれるフーレンスジルコニアスの全力移動は、同じPT(パーティー)で狩りをしたことが無い一般プレイヤー達からは普段の彼女の印象とのギャップもあり度肝を抜かれるものだった。


しかし今はそんな視線にも構う事無く、街中の掲示板をまわり貼られている写真を剥がしていく事だけに集中していた。

自分とソックリな外見で、カメラ目線で映る姿はフーレンスジルコニアスの羞恥心の許容範囲を超えていた。逆に普段から隠れずにこの写真くらい堂々としていれば、今ほど目立たないという事には気付いていないフーレンスジルコニアス。


幾枚も掻き集めた写真の束を握りしめながら力の限り叫ぶのだった。


「ムキー、ロア~! 絶対絶対、捕まえてやるんだから~~!!」


茜色に染まった空に向けて高らかに宣言するフーレンスジルコニアスだったが、その手で握り締められたSS(スクリーンショット)の中で、歪んだ事でまるで笑っているかのようなロアが楽しそうに見つめているのだった。




挿絵(By みてみん)







折角苦労して描いたロアなのに、フーレンスジルコニアスに隠されました。

おにょれ……

まだまだ練習段階なのでイラストが大きくイメージ変わってしまったかも。

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