鍛冶職人的な、
地味に各話の修正をしてますが、内容等には大きな変更はありません。……←の修正が主です。
フーレンスジルコニアスの1日は慌しく始まる。
現実世界での彼女はまだ高校生であり、夜0時までと決めているとはいえVRMMOにのめり込んでいる為に朝がキツイ。目覚ましだけで起きられず母親に急かされて慌てて洗顔と歯磨きだけを済まし、牛乳だけ飲んで登校なんてこともたまにあるほどだ。
中学卒業と高校進学までのちょっとした休みの間で始めたVRの世界の為に、中学でずっと続けていた陸上部も高校では入る事無く帰宅部として過ごしている。中高大とエスカレーター式のお嬢様学校である為、進学に関してはそれ程焦っては居ないこともあって高校2年後半の時期になってもVRに時間を裂けるいいご身分であったりもする。
さてそんな彼女が貴重な青春の時間を割いてVRMMOの世界でやっていることといえば、
「は~どっこいしょ、どっこいしょ!」
ツルハシを手に探鉱の奥深くでガッキンガッキンと鉱石を掘り出している、いろいろとガッカリな生活であった。
「ほっとけ! …………はっ、幻聴か?!」
週初めの恒例となりつつある探鉱引きこもりでの1週間分の鉱石確保にもある程度目星が付いた頃、スタミナ切れの為ドサリとその場に腰を下ろす。
カバンから引っ張り出した愛用の御座をひき、もそもそとスタミナ回復用のアイテムのサンドイッチを食べる。鍛冶にしろ鉱石採取にしろステータスのスタミナを消費する為、彼女のスタミナ値はかなり高く成長している。
向こうでこんなにツルハシなんて振り回したらすぐバテちゃうだろうなぁ、なんて考えながら紅茶で喉を潤しているとプライベートコールの着信音が響いた。
ユカリアスからプライベートコールが届いています許可しますか?のシステムからの問いに迷う事無く許可を選ぶ
「こんばんはユカ姉~」
「こんばんはレア子~、今暇してる~?」
「レア子じゃなくてフーレンスジルコニアスね、鉱石採取してたけど一段落したところだよ~」
「良かった、ちょっとレア子に頼みたい事があるんだけど探鉱に居るならちょうどいいわ。ちょっと鍛冶場に来てもらってもいいかな?」
「はいは~い、んじゃ今から向かうね」
ありがとうの返事と共にプライベートコールが切れる。よいしょっと腰を上げ御座を片付けながら、毎度華麗にスルーされる名前の訂正にちょっと凹みながら出口へと向かう。
ユカ姉ことユカリアスはβ時代からの古い付き合いで、同性ということもありVRMMOの初心者だったフーレンスジルコニアスはいろいろと教えてもらったりとお世話になった人だ。
最前線維持に参加する古参のギルド『アーカイヴミネルヴァ』のギルドマスターでもある彼女は、今やフーレンスジルコニアスとはLVも大きく開き、一緒に狩りにいくことも少なくなったが週1回くらいはこうして連絡を取り合ったりしている。
途中倉庫に寄ってアイテム整理をしてから鍛冶場へとつくと既に入り口にはユカリアスが立っていた。
落ち着いたダークレッドのショートヘアに少しきつめな目をしているが、口元に浮かぶ笑みがそれでも優しげな印象を与える美女である。右手はナックルガードと肘当て位の軽装なのに対し左手は全体を覆う重装甲という左右非対称の装備と、背中に背負っている身の丈を超える巨大な真紅の斧が一際目を引く。
「ごめんお待たせ」
「私も今来たとこ、悪いね呼び出しちゃって」
軽く挨拶をかわしながら、鍛冶場の奥へと進んでいくとむせ返るような熱気にユカリアスが唸る
「相変わらずここは暑いねぇ、よくこの環境下で鍛冶を続けられると毎回感心するよホント」
「ははは……まぁ慣れれば我慢できる程度には不快だよ」
不快なのかよw とツッコミを受けつつ、半ば定位置になりつつある一番風通しの悪い看板横の金床に辿り着く。
「んで私に用ってなに? わざわざ鍛冶場を指定するってことは、それ系なんでしょ?」
「うん、実はこれなんだけどさ」
そう言うとゴソゴソとカバンからアイテムを取り出してくる、見ればそれは淡く輝く青い鉱石だった。
その鉱石を軽くクリックするとウインドウが開き詳細が見て取れる。
・ゴルテアの魔石
製造アイテム
魔獣ゴルテアの魔力が結晶化した鉱石。
鍛冶で装備品に加工することができるが、その外観は製造者に起因する物になる。
「…………なにこれ?」
「無限回廊の前線のボスからドロップしたの」
「いや、そうじゃなく製造者に起因ってどういうこと?」
無限回廊とはイリーガル・コール最大のダンジョンで現在地下500層にまで達しているが、未だ最下層が何層なのかも分かっていない、更に各階層のボスを倒さないと次層階への門が開通しない為ギルド単位で攻略に臨む者がイリーガル・コールのユーザーの大部分を占めている。
「ん~ユニークアイテムだから詳細は解らないけど、おそらくは製作者によってアイテムの外観が変わるんじゃないかっていわれてるね」
「なるほど……でもいいの? 私なんかにそんなユニークアイテムの製造なんか任せちゃって」
「レア子は鍛冶スキルのランクは?」
「一応マスターだけど……」
「じゃぁまったく問題ないじゃん、むしろユニークアイテムなんてレアな物はレア子にこそ相応しいくらさ♪」
にししし、と笑うユカリアスに女の子としてその笑い方はどうよ? と自分のことは棚に上げつつ、ウインドウを開き鍛冶スキルを選択してゴルテアの魔石を選択してみる。
「んと、作れるものは指輪かイヤリングのアクセサリー系だね、あとは武器に魔力系のOP付与かな」
「あら残念、武器か防具にはならないか」
「どうする、やめとく?」
「ん~いや、そうだなイヤリングで作ってもらおうかな」
その後、ゴルテアの魔石以外の必要アイテムなどの値段の交渉をへて鍛冶作業に入る。
まずはミスリル銀を熱し溶けた所にゴルテアの魔石とブルーダイアを加え融解させる、本来の製鉄や鍛冶では有り得ない工程だがそこはMMOである、あっさりと融合した真っ赤な塊を取り出し金床の上で槌で叩き始める。何度か熱しては叩きを繰り返すと数分で段々と形作られていき、淡い光とともに整形されたイヤリングが出来上がっていた。
そして出来上がったイヤリングを見て、フーレンスジルコニアスとユカリアスはそろって固まった。
・フーレンスジルコニアスのイヤリング
力 +5
敏捷 +8
魔力 +5
10%の確率で魔法攻撃の30%を反射
鏡面の魔獣ゴルテアの魔石の作用で製作者フーレンスジルコニアスの
姿を写し取ったイヤリング、一品物。
「ちょ! なにこれー!!」
「うは、すげぇチート性能、そしてすげぇカワユスwww」
通常ステータス補正+3~5が付くのが普通であり、2種類付けばOPの性能次第でM単位の値が付く事もあるアクセサリー系にこの補正はかなり反則物である。
しかしフーレンスジルコニアスが驚いたのはその性能にではない、見事にデフォルメされているとはいえ、そのイヤリングは誰がどう見ても2頭身になってポーズを決めて恥らうフーレンスジルコニアスの姿以外には見えないのだから。
「ちょ、え、なに、どうなってるの……」
「あはははは、鏡面魔獣で製作者に起因とかなってるからもしやとか思ったけど、流石にここまでとは思わなかったわw」
「嵌めたなユカ姉!!」
サッと金床の上にあるイヤリングに手を伸ばすフーレンスジルコニアスだったが、委託製作で作ったものは製作者ではなく委託者、即ち今回はユカリアスに所有権があるためシステム的に取得が不可だった。
うぬぬと唸るフーレンスジルコニアスの横から、悠々とした手つきでイヤリングを取るユカリアスを下からねめつける。
「そんな顔したら可愛い顔が台無しよぉ?」
「ぬー、それどうするんですか?」
「勿論こんなに可愛くて性能も折り紙付きなんだから大事に私が使うわよ」
「ユカ姉、髪伸ばしましょうよ……」
「嫌よ、この外見気に入ってるし。また気に入る外見にするのに一体いくらかかるか分かったもんじゃないし」
「う~」
現実のお金がかかることなので強くは言えないし、元々の素材もユカリアスのものの為その所有権を主張することもできない。買い取るにしてもその性能から一体いくらになるかも想像がつかない。
「私の名前と外観を使われてるのに理不尽だ!」
「うふふ、世の中ってそういうものよ~」
「大人ってきたない……」
その後ユカリアスになだめられ、渋々だが納得して(丸め込まれて?)ホクホクとして去って行くユカリアスの背中を見つめながら溜息を吐いた。
気分転換がてら軽くソロで狩りをした後、日課の鍛冶作業をしてからその日は就寝した。
翌日帰宅した後、何の気なしにイリーガル・オンラインの掲示板を見て椅子から転げ落ちた。
20〇〇年 4月〇〇日 23:21
タイトル またTHEレアがやらかしてた。
昨日鍛冶場で修練してたらTHEレアがチート装備作ってたw
しかも自分の名前入りで見た目が2頭身レアタソwww
けしからん!俺によこせ!!!!111
・まじかおれによこせw
・見た目変えられるってTHEレアってヤツまじチートなの?
・2頭身ハァハァ
・ソース→ttp://illegal-call/%E3%BC6
だがこれは私のだ!だれにもやらんw
・ちょ、まじ鬼性能wそしてカワユスw
・鏡面魔獣ゴルテアのドロップアイテムで見た目変えられるのか!
・100M出す売ってくれ!
・なに!なら俺は50Mだ
・下げてどうするw
・
・
・
「ユカ姉ーーーーーー!!!!」
ログインと当時に叫ぶフーレンスジルコニアスであった。