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イリーガル・コール  作者: 山吹
Ver2.5
29/37

ナゾの少女F的な、

遅くなりましたが、新年おめでとうございます。

今年も遅筆ですが、どうぞよろしくお願いします。

Ver変わりま~す。




社会人からすれば羨ましく感じる程の長い長い夏休み、しかし学生側から見れば意外と短く感じてしまう夏休みの初日、窓の外からは短い人生を謳歌しようとするセミの声が聞こえてくる。


郊外にある閑静な住宅地の中に建つ、木造で設えられた格子状の塀に囲まれた白い外壁の一軒家。小さいながらも綺麗に整理された庭には、ガーデニングを趣味にする夫婦が手塩にかけた緑が広がっている。

何処にでもあるありふれた家庭で育った少女は、両親の気質を受け継いだのか、どこかノンビリとした性格をしていた。


午前中の少しでも涼しい時間帯に済ませようと、膨大な量の宿題の片鱗を片付け昼食をとり終えた1人の少女が、電子の世界へと旅立っていく。


「ログイン、イリーガル・コール」


網膜判定や色々なセキュリティーをクリアし、彼女専用のIDに格納されている特徴的な虹彩を帯びたアバターへとその意識を移していく。

軽い浮遊感の後、何時もなら美しい光景が映し出されるその視界には、しかし無機質な扉がポツンとある壁が存在するだけだった。


クエスチョンマークを頭上に浮かべ周囲を見渡してみるが、灰色がかった空間が広がるだけで他には何も存在していなかった。不安になった少女はログアウトをしようかとも思ったが、好奇心から取り合えず目の前の扉だけ開けてみようかと、ゆっくりとノブを回し扉を開いていった。


「廃人さん1名追加~」

「いらっしゃ~い」

「うひぃ!」


拍手と共にかけられた言葉に思わず奇声をあげてしまう少女、フーレンスジルコニアスの姿を確認すると、クッションやソファーに座り少女を出迎えた男性アバターの集団に動揺が走る。


「…レアちゃんだ」

「こんな所に来るなんて珍しい。てか初めてじゃね?」

「流石は夏休みだ。ビバ夏休みヒャホー」

「貴重な女性ユーザー、しかもレアちゃんの降臨だ。お前ら粗相の無いように!」


応、という掛け声と共に立ち上がった男性ユーザー達が、扉の前でキョトンとしているフーレンスジルコニアスを、どうぞどうぞとソファーへといざなう。

状況が掴めず流されっぱなしのフーレンスジルコニアスがソファーへと座ると、湯気を立てる紅茶とクッキーが差し出される。漂う紅茶の香りを堪能し、クッキー美味しいと舌鼓をうつ姿を男性ユーザー達が密かにSS(スクリーンショット)に収めている事には気づいていない。


「余は満足じゃ……、って違~う。ココはどこですか? イリーガル・コールの中じゃないんですか?」

「イリーガル・コールの中で在るとも言えるし、外とも言えるね」

「まぁ、所詮はアップデート待機時間中の避難所だから、外なんじゃね?」

「でもココでの時間も中のログイン時間にカウントされるから、中なんじゃね?」


そういえばココの設定ってどっちなんだ…と考え込む男性ユーザーの面々。質問の答えが段々と脱線して行く事に、ポツンと取り残されたフーレンスジルコニアスだったが、先程場を仕切っていた男性ユーザーが逸早く気づき詳細を教えてもらうことができた。


曰く、ここはイリーガル・コールの定期メンテナンスや緊急のメンテナンス、イベントや新規アップデートでのダウンロードとインストールの時間を待ち切れないユーザーの為に設けられた、イリーガル・コールでのアバターを使用して談笑や新実装サービスへの対策などができる仮設サーバー、俗称『廃人の巣』と呼ばれる場所らしい。


本来はログイン時間等が関係するイベント開催時に、システム的な原因で意図せずログアウトしてしまった場合に備えて完全にログアウトする前に避難させる為にと仮設で設けられたサーバーだったが、運営が想像していたよりもユーザーから好評であり、イベント後も継続して欲しいとの要望があった為そのまま継続して設置されているらしい。


ただ、ログアウト後にココへと一時的に避難するかはイベント開催時以外はユーザーの任意設定が必要とされていた為、未だに仮設サーバーが存在するということを知るユーザーは少ない。


「あぁ…、あの時の…。でも何で今回、私はココへ飛ばされたんでしょうか?」

「何でって、今メンテナンス中だからじゃない?」

「新サービスの実装で今日は14時までメンテナンスだねぇ」


フーレンスジルコニアスの疑問に答えた周囲の言葉に、えっ…と呟き固まる様子から、あれだけ公式HP(ホームページ)で告知されていたのに、今回のアップデートに気づいていなかったのかと残念そうな視線が送られる。

道理で今では廃人に分類されるユーザー位しか利用しない臨時サーバーに、彼女のような女性の一般ユーザー…と言うには些か知名度が高いが、そんな彼女が訪れた事に疑問を持っていたがメンテナンスの時間を我慢できずログインしたのでは無く、単純にメンテナンス自体に気づいていなかったのねと納得したのだった。


「違いますぅ、知ってましたぁ、ちょっと精霊さんとの定時連絡の為に来ただけですぅ」


懲りずに見え見えの言い訳をしながら精霊を呼び出し始めるフーレンスジルコニアスの姿に、ココじゃ精霊魔術だけじゃなくて全てのスキルは使用できないのにと、生暖かく見つめていると差し出していた手の平の上にポッと青白い光が現れる。

微かに放電しながら浮かぶ丸い光は確かに雷の精霊が生じさせる現象で、その在り得ない現象に周囲に居る廃人ユーザーの目が丸くなる。


「雷の精霊さん、今日も元気ですか? そうですか、それは良かったです」


それではまた後でと言い残し、ソソクサとログアウトしていくフーレンスジルコニアス、ポツンと残された雷の精霊の上には ? (クエスチョンマーク)が浮かんでいる。

ちょうど精霊の背後からその様子を見る格好になっていた廃人ユーザーから、逆文字になっていた ? (クエスチョンマーク)がクルリと向きを変えたことで、自分たちの方へと振り向いたことに気づいた両者に微妙な間が生まれる。


丸い形がヘニョっと歪んだ様子に、雷の精霊が脱力したのを感じ取った廃人ユーザー達が愛想笑いを浮かべると、ピカピカと数度点滅した後に精霊はスッと消えていった。


「色々と興味深いな…」

「あぁ、色々とな…」

「要検証だな…」

「うむ、観察が必要だな…」


ウへへへと楽しそうに笑う廃人達、検証大好きっ子達の興味を引いてしまったことに、まだ気づいていないフーレンスジルコニアスだった。





NEWS 2〇〇〇年 7月27日 8:06


イリーガル・コール運営チーム


いつも弊社の運営するイリーガル・コール・オンラインをご利用いただきありがとうございます。


以前よりお知らせしていた新アップデート『Wスピリチュアル』を本日より実装いたします。

(詳細は『Wスピリチュアル』特設ページを参照ください)

それに伴いまして 7月27日 8:15より、アップデートに合わせてサーバーメンテナンスを行ないます。終了時刻は 14:00を予定しており、その間はイリーガル・コール・オンラインにはログインすることができません。




『Wスピリチュアル』特設ページ


剣と魔法、そして精霊達が暮らす世界イリーガル・コール。3柱の神達に創られた世界には、彼等の眷属たる7つの種族がいた。

しかし神の眷属たる彼等は、世界を巻き込む戦いの末に傷つき倒れていった。悲しんだ3人の神達は彼等の魂に刻まれた傷を癒す為に、新たに創造していた世界へと避難させていた。

その際、元の世界へと帰還させる時に道標となるように、その魂をコピーし霊体(アストラル)として無限回廊の奥深くへ封印していた。


しかし無限回廊に封印されていた『古代種の都』が開放されたことで、霊体(アストラル)達の封印が弱まり、その多くが外界へと解き放たれてしまった。

霊体(アストラル)達は元の姿になった者もいれば、全く違う姿へと擬態した者もいる。自分の対となる魂を見つけ出し霊体(アストラル)から認められた時、新たな力『Wスピリチュアル』が目覚めるだろう。



「ホントだ、メンテナンスって書いてある。それにアップデートがあるのか…」


ボソリと呟いた少女が時計を見ると、14時までにはまだ1時間近くある。出かけるには短すぎるし、ただ待つには長すぎる。

どうしようかと考えた末に、先日お土産で貰った毬藻マリモを観賞することにした少女は、小さな瓶の中で漂う毬藻をジ~と見つめ結構可愛いと呟いたのだった。








白い壁を四角く切り取ったような窓からは、地中深くとは思えない入道雲を抱いた青い空が広がっている。窓に近寄り見下ろせば、遥か彼方まで続く古代種の都の街並みが見渡せる。

ここは古代種の都にある白亜城の中、古代種の都開放の際に報奨として与えられた『アーカイヴミネルヴァ』のギルドハウスの中である。


城の中に設えられた部屋だけあって内装1つを取って見ても瀟洒な雰囲気を醸し出しているが、残念なことに今その部屋の中に居る主であるユカリアスが全力でダラケきっていた。


「数週間たってもまだ要請が来るとは…廃人共を甘く見ていたわ」


これも全てテンテアと舞姫の所為だとブチブチ言いながら、フカフカの絨毯の上で寝そべりながら耳に付けているイヤリングを弄ぶ。

ユニークアイテムである『ゴルテアの魔石』の効果で、妹のように可愛がっているフーレンスジルコニアスの外観を写し取ったお気に入りである。本来ならユニークアイテムの希少価値でサーバーに1つしかない筈だが、複製石が発見されてからというもの、その希少価値が逆に仇となってしまっている。


本人達曰く、平和的大人な対応でフーレンスジルコニアスから複製石を手に入れたと言っていたが、どうせ禄でも無い方法を執ったに違いない。しかも、猫耳や尻尾まで備えた彼女の外観で指輪まで作ってきた。

普段はいがみ合っているくせに、仲良く連れ立ってわざわざ自慢気に見せびらかしにまで来た。


「まったく大人気ない奴等だ!」


その時の様子を思い出したのか眉間に皺を寄せて呟いたユカリアスだったが、自分がイヤリングを手に入れた時も2人に自慢していたのは棚に上げている。

その事だけでも癪に障るというのに、その後2人が掲示板にまで書き込んだことで思わぬ事態へと発展してしまったのだ。




   20〇〇年 6月21日 21:11


タイトル  欲しいの?だが断る!


ゴルテアの魔石を複製してコレを作った。

ttp://illegal-call/%A06%BC11B6

可愛かろう? だが誰にもやらんのだよ!



・大人気ない…

 ttp://illegal-call/%D22KL%YS31K

 まぁ私もありますけど、ホホホ!

・ネコレア……だと?

・ちょ、まて、なんだ複製って??

・あそこで出る石か! てかゴルテアもコピれたのか

・kwsk

・よし俺もレアちゃんに依頼するぜ!

・依頼以前にゴルテアをコピらんと…

・私は彼の容姿をコピって色々…グヘヘ

・喪女こわすw

・まずはゴルテアを複製しないとか…

・勝手にコピるからなぁ

・赤斧を拉致するしか

・赤斧だな

・俺これを手に入れたら彼女に告白するんだ…

  ・

  ・

  ・

  ・



高LVの採掘スキルが必要とはいえ、複製石自体は運次第で何度でも採掘でき、手に入れること自体はそこまで難しくは無い。ただ、採掘した瞬間に近くにあるユニークアイテムを自動的に複製するか、有効範囲内にユニークアイテムが無い場合はランダムに近くにあるアイテムを複製してしまう。その為、目当てのユニークアイテムを複製する為には、同じPT(パーティー)内にその所持者が同伴していないと不可能といっていい。


結果としてユカリアスへのPT(パーティ)申請が殺到したのだが、しかし妹の様に可愛がっているフーレンスジルコニアスに害が及ぶような不埒な輩に簡単に複製させるつもりは無かったし、これ以上複製させてやっと手に入れたユニークアイテムの価値を下げるような事はしたくなかった。

現に他のユニークアイテム所持者が仲間と組んで複製したアイテムを売ってボロ儲けしていたが、限度を弁えなかった所為で複製品が市場に溢れ返り、ユニークアイテム自体の価値も下がってしまっていた。


「珍しいからこそ価値があり、手に入らないからこそ注目されるのだよ…」


かつて同じ職場で凌ぎを削りあった元同僚のテンテアと舞姫に、ある企画で出し抜いた際に言った言葉を思い出し、懐かしさと共に音にする。

結婚を機に退職したが、今頃は自分の代わりにダーリンが彼女達と渡り合っている頃だろう。課の責任者として彼女達をまとめているだろうコーネリアスの姿を思い浮かべ、昼間から仮想世界でくつろぐ事に若干の罪悪感が浮かんでくる。


「しょうがない、今日は気合を入れてご馳走でも作っといてやるか!」


アップデートで追加された内容も気になるがGM(ゲームマスター)の1人が書いているブログの中で、数日で見つけ出せる者はまず居ないだろうとコメントされており中長期的な視野での攻略になるだろう予想がされていた。

みんなで楽しくがモットーの『アーカイヴミネルヴァ』である、夜になってからみんなでジックリ攻略すればいいかと、材料調達の為にログアウトしていくユカリアスであった。






無人の銃職人ガンスミス工房に、小さな魔法陣が輝き出す。魔法陣からは白い光が立ち上がり次第に人の姿を形作り、それは1人の少女の姿へとなっていく。今度は無事にイリーガル・コールへとログインしたフーレンスジルコニアスがホッと息をつき、壁にかけられた時計を確認すると時刻は16時近くになっていた。


毬藻鑑賞を楽しんでいた少女だったが、ソヨソヨと流れる扇風機の風にいつの間にかうたた寝してしまい、気づけばメンテナンス終了から1時間以上が経ってしまっていた。FL(フレンドリスト)を確認してみれば数分の差でユカリアスがログアウトした記録があり、今は誰もログインしている様子は無かった。


とりあえず日課にしている呪印銃スペルガンの手入れをしてしまおうと、奥の工房へと続く扉を開けると中には先客がおりビックリしたフーレンスジルコニアスは思わず固まってしまった。

視線の先では、同じく固まった状態でフーレンスジルコニアスを見つめ返すフーレンス(・・・・・)ジルコニアス(・・・・・・)が、手に持った仮面を顔に装着する直前で立っていた。


挿絵(By みてみん)



「……入ってます」

「……失礼しました」





静かに扉を閉め、フーレンスジルコニアスが退出していった。









ゲームの外の事も少しだけ書いてみました。

3女帝の日常を書いてみたい気もしますが、無事完結した後の(作者の)お楽しみに取っておくことにします。



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