実は凄いんです的な、
いやはや、スランプです。
書きたい展開の半分しか進められませんでした。
今回の話しは、フーレンスジルコニアスが使っている精霊魔術での逃げ足の説明になります。
新しく手に入れたギルドホームの中央広間に、『アーカイヴミネルヴァ』の主要メンバーと未転生組を含めた十数人が転がっている。幾つかの椅子とテーブルに、お気に入りのソファだけが置かれた殺風景な光景に、早くも女性陣のお部屋飾りつけ精神に火が付き盛り上がっていたのは1時間程前だろうか。
親睦会と銘打った飲み会で出来た死屍累々が痛々しいが、どこか楽しそうな表情で逝っている事が救いか…。
深くソファへ身を沈めるように身体を預ける、現実とは違う竜人のがっしりとした身体の重みでギシっとソファが悲鳴を上げるが、酔いが回った身体を再び動かすのが億劫で牙が生え揃う口から酒臭い呼気を吐き出し天井を仰ぎ見るコーネリアス。
イリーガル・コールを辞められない理由の1つが、コレだと自覚はしている。酒の味は好きだが翌日に残りやすい体質の為、気ままに飲むことが出来ない現実とは違い、この仮想世界ではシステム的制限こそあるものの、二日酔いを気にする事無く楽しめる。
いい時代になったものだと感慨に耽っていると、扉を開けてユカリアスとテンテアが戻ってくる。自分より遥かに量を飲んでいる2人には自分や転がっているメンバーの頭上にある泥酔アイコン表記は浮かんでいない、内心でザルめと悪態を付きながらも表には出さずに手を挙げて迎える。
「レア子とネコは寝かしつけてきたよ」
「あぁ、ご苦労だったね。悪いがテンテア、皆の泥酔状態を治療してくれないか」
「あれしきの量で情けない奴等め、今度みっちりと鍛えてやる」
お前らがザルなだけだとジト目で睨みつけてやるが、それには気づかずウンウンと頷きダーリンは現実で鍛えてやろう等と言っているユカリアスに溜息を吐く。気付いた上でニヤニヤとしているテンテアには、泥酔状態からくる頭痛とは別の頭痛が来たような気がした。
「これ預かっていた隠し撮り用の撮影機器です」
「はい、ありがとう」
「そしてこっちが、レアさんとネコさんのソロ風景を撮ったビジュアルコアです」
テンテアの治療スキルで息を吹き返したメンバーが起き上がる中、『アーカイヴミネルヴァ』の未転生組の中でリーダー格のコーイッタンが、若干緊張した面持ちでソファに腰掛けるユカリアスへとアイテムを差し出す。
コクンと頷きながらビジュアルコアを受け取ったユカリアスが、目の前のテーブルに置かれた再生装置へとセットする。コアに紋様が浮かび上がり再生装置から独特な起動音がすると、光が照射され部屋の壁をスクリーンにして映像が浮かび上がる。
それは呪印銃を手に入れてからのフーレンスジルコニアスがソロで戦う映像…ではなく、静止画で構成されたスクリーンショットだった。
恥ずかしそうに軍服を着て顔を真っ赤にするフーレンスジルコニアスに、ミニマムな軍服を着てはしゃぐネコ精霊の姿。少し馴れ始めたのか頬を染めながらも真面目な顔をするフーレンスジルコニアスに、大鎌を手にニヘラと笑う軍服のニャンデスト。吹っ切れたのか小さな鞭を手に狩りの指導をするフーレンスジルコニアスに、飛んできた蝶に飛びついているネコ精霊、調子に乗ってきたのか口元に手を当て高笑いをするフーレンスジルコニアスに、木陰に隠れてネコ精霊を中心に戦隊風ポーズを決めているフーレンスジルコニアスとニャンデストが映し出されていった。
『………』
「失礼、コッチは自分用のでした。こちらがレアさんとネコさんのソロ風景を撮ったビジュアルコアでず……」
周囲に居るメンバー全員に沈黙が訪れる中、極自然な動作でテーブルの上にある再生装置からセットされているビジュアルコアを取り外そうとするコーイッタンだったが、後ろから頚動脈をキュッと締め上げられくぐもった声を漏らし動きを止められてしまった。
「中々いい仕事してるじゃないか」
「おほめにあずがり、ごうえいでずデンデアざま゛…」
褒めてねぇと言いながらテンテアがその手に力を加えると、「うっ」と言う声を最後に糸が切れた人形の様に力無くコーイッタンが床へと転がる、良い人でした。
倒れたコーイッタンの胸元から転がり出たビジュアルコアを拾い上げ、再生装置へとセットするテンテア。今度はちゃんとソロ風景が映し出されたことを確認し、取り外したスクリーンショットのコアを自分のアイテム欄に入れようとした所で、ユカリアスにガシッと手首を掴まれチッと舌打ちをする。
「何自分のアイテム欄に入れようとしてるのかしら?」
「何って後で処分するのに一時的に格納するだけだぞ」
「あらそう、ならマスターたる私が責任を持って預かりましょう」
「いやいや、ギルドマスターの貴重なアイテム欄を使う必要も無い。私に任せたまえ」
口調とは裏腹に、超至近距離でガンを飛ばしあいながらコアを取り合う2人を無視しつつ、映し出された映像を見つめるメンバー達。
私の戦い方は参考にならないと思うにゃ…と呟きながら、大鎌を手に敵の正面から攻撃を始めるニャンデスト。2m程の大きさで鬣を持った獅子の顔に、熊の様な身体に簡素な防具をまとった魔獣が繰り出す攻撃を、ギリギリで回避をして大鎌を振り回して攻撃を当てていくニャンデストだが、段々と追い込まれていき防御で捌き切れなくなっていく。
すると魔獣の背後に突っ立ていたネコ精霊がピョンと飛び上がって後頭部にネコパンチをお見舞いする、背後からの攻撃に後ろを振り返る魔獣の隙を利用して距離を取り体勢を立て直すニャンデスト。魔獣の矢面に立たされたネコ精霊だったが、焦った様子も無く「んっ」と魔獣の背後に居るニャンデストを指差す。
その様子はまるで「アイツにやれって言われた」的な光景で、釣られて魔獣も向き直りニャンデストへと襲い掛かっていく。
繰り返されるその光景に、本当に参考にならないと呟きが漏れ出た。
続いて私の戦い方は普通だよ? と呟きながら同じく獅子の顔をした魔獣と対峙するフーレンスジルコニアス。
中距離から魔獣の背中に右手で構えた呪印銃で魔弾を撃ち出す、反動に逆らわず軽いステップを加えてクルリと空中で回転して遠距離まで下がっていく。着地する時には既に左手に緑色のエフェクトを纏う風の精霊魔術が発生しており、アンダースローで魔獣へと投げつけられる。
魔弾から発生したノックバックで怯む魔獣が、体勢を立て直す前にその身をカマイタチの様な風で切り裂かれていく。断末魔のように魔獣の口から咆哮が響き渡ると、魔獣の左右に魔法陣が展開され新たに同タイプの魔獣が2匹現れる。
「ありゃ、召喚されちゃった…」
一定量以上のダメージを受けると稀に発動するこの魔獣の『救援スキル』にも特に焦った様子も無く、敵が動き出す前に呪印銃の弾倉を交換しながら、一気に距離を詰めていくフーレンスジルコニアス。
自ら敵の包囲網へと飛び込み手負いの正面の敵へと左手で雷属性魔術を打ち込み、一時的に麻痺させる。その間にも距離を詰め襲い掛かってきた左右の敵の攻撃をその場でしゃがんでやり過ごすと、右手の呪印銃を右側の魔獣へと向け魔弾を叩き込む。
右足を軸として反動の力でその場で回転しそのまま左側の魔獣へ、呪印銃のグリップ部分で殴りつけると、風を纏い麻痺から回復した敵の頭上へと舞い上がり無情にも見上げた魔獣の顔面に魔弾を撃ち出すフーレンスジルコニアス。
「ごめんあそばせ♪」
顔面に魔弾を受けクリスタル化で砕け散る魔獣を尻目に、反動で更に舞い上がると何も無い虚空へと銃口を向け魔弾を撃ち出しヒラリと空を舞って距離を取っていく。
・レイン・ショット(ガンナースキル)
撃ちだされた魔弾が任意の座標で砕け
範囲内の敵に降り注ぐ。
その性質上、敵の上空に撃ち出さない
と効果が薄い。
威力は付加された属性に依存する。
砕け散る魔獣から生じた魔弾の雷撃を受けている左右の敵に、上空から更に雷属性の欠片が降り注ぐ。パリン、パリィンと砕ける音と共に残りの2体の魔獣も、キラキラと光るクリスタルになり風に消えてゆく。
「ね、普通でしょ」
映し出されたその映像に、全然普通じゃねぇと呟きが漏れ出た。
「古代種のガンナーって近接タイプなのか? とか色々ツッコミたい所もありますけど、アレを見せたくて引率を頼んだんでしょう?」
「レアさんのあの動きはどういうことなんですか?」
映像の再生終了と共にコーネリアスと、未だ揉み合うユカリアスとテンテアに詰め寄るメンバー達。
今回引率で狩りに行ったメンバーは全て精霊魔術を選択している者達だった、メインで戦う精霊魔術師はもちろん、補助として精霊魔術を使っている近接タイプも含めてPTに参加させていた。
「どういうことと言われてもな、以前から相談を受けていた精霊魔術の攻略サイトでは伝えきれない、極意的な部分だ」
「そうそう、百聞は一見にしかずって言うから実際に解り易い見本で実戦してもらったの」
「本人には内緒だけどな、ふふふふ…」
本来なら純血の精霊魔術師である舞姫に頼むのが一番なのだが、一応ライバルギルドの幹部である体面上、ギルドの戦力アップに繋がる今回の件は頼みにくい。というかアイツに頼みごとをするというのがそもそも嫌だ。
ならばと白羽の矢を立てたのがフーレンスジルコニアスだった。
「君達はレアの事をネタプレイヤーと思ってるんだろうが、前線で活躍している奴でレアの事を軽く見ている奴は居ないぞ」
「そうそう、なんたって精霊魔術の本質を見抜いたのはレア子が最初だからねぇ」
「その所為で未だに舞姫や上位精霊魔術師なんかは、レアちゃんのことを『師匠』と呼んでるくらいだしな」
まだβ時代、神聖魔法に比べ精霊魔術師はハッキリ言ってお荷物扱いをされていた。何しろ威力、範囲、種類どれを比べても神聖魔法の方が勝っていたからだ。
テンテアが回復職として使う神聖魔法だが、大きく分けて攻撃系と回復系に分けられている。攻撃系が杖やスタッフを魔法強化の触媒として使用するのに対して、回復系は小手や腕輪などの装身具を触媒とする。武器カテゴリーの修練に多大な時間を要するイリーガル・コールにおいて、攻撃と回復を両立させている神聖魔法使いはまだ存在していない。
それに対して精霊魔術は触媒となる武器を選ばない。杖を装備しながら水精霊で回復魔術を使う事もできるし、腕輪を装備したまま火や風精霊で攻撃する事もできる。
β時代、精霊魔術はあくまで神聖魔法や近接職の補助的なスキルと捕らえられていた。その為、精霊魔術をメインに使う精霊魔術師はネタとして扱われていた。
当時は舞姫もスキル選択を間違えたと後悔し通しだったのだが、フーレンスジルコニアスがその様子を見た時に言った一言が切欠で、精霊魔術師が一気に表舞台へと躍り出る事になったのだ。
「なんて言ったんです?」
「彼女はこう言ったんだ。『精霊魔術を使う時なんで詠唱してるの?』ってね」
「…は?」
神聖魔法にしろ精霊魔術にしろ詠唱をしてスキルを発動させるのは当たり前だった、公式にも攻略サイトにも各魔法、魔術の詠唱文が記載されている。だがフーレンスジルコニアスは精霊魔術を使う際に、一切の詠唱をしていなかったのだ。
それどころか同じ風の精霊魔術であっても、素早く動くために使ったり敵を弾き飛ばしたりとその効果を任意で変化させていた。
その説明を聞いた舞姫が興奮しながら詳細な説明を求めれば、『精霊さんにお願いしているだけだけど…』と若干ビビリ気味なフーレンスジルコニアスが答えた。
「なんでも、彼女は精霊魔術に詠唱があるとは知らなかったらしくてね。両手で扇いで風を起こしてみたり、口で息を思い切り吐き出したりして色々試していたらしい」
「そうそう、そしたらいきなり頭の中に声が聞こえてきたらしいよ」
「それが精霊からの呼びかけだったらしくてね、なんだか痛々しくて見ていられないから手を貸してやるって言われたらしい」
その話しを聞いた舞姫がちょっと可哀想な目でフーレンスジルコニアスを見た後、物は試しと精霊に語りかけてみたという。すると小さな火の精霊が応えてくれ、初期の精霊魔術が詠唱無しでも即時発動するようになったという。
興奮した舞姫は知り合いの精霊魔術師達に声をかけ、数日をかけて検証をし結果的に精霊魔術には隠しステータス的なものがあり、その属性の精霊魔術を使う事で精霊との親密度が増していき、呼びかけに応えが返ってくるとその精霊に準じた魔術が無詠唱で使用できるようになり、イメージを精霊に伝える事で魔術の効果にも影響を与えると結論付けられた。
今では舞姫は火の精霊だけでなく、その上位に当たる焔の精霊王とも意思を交わす程になっており恐れられている。
「な、なるほど…。精霊魔術の極意はわかりました、でも何故それが攻略サイトでは説明しきれないのですか?」
「いい質問だ。何故説明がしにくいかと言うと、使い続ければ必ずしも親密度が上がるとは言い切れないからだよ」
「え…?」
「思い出して欲しい、レアは精霊魔術を使おうと努力(笑)はしていたが、実際には使えていなかった」
「そうそう、それでも精霊の声を聴くことが出来た。しかも何気に風の精霊王(笑)」
「逆に1年以上精霊魔術を使っていても未だに応えて貰えない者もいる」
結論付けると、精霊からどうやって好かれるかは謎なのだという。その為、今もって全ての精霊魔術師を差し置いて、風の精霊から一番好かれていると言うフーレンスジルコニアスを間近で見てもらったというわけである。
がんばれ~という3人の明るい応援を聞きながら、謎過ぎると頭を抱えつつも『精霊さん』に語りかける『アーカイヴミネルヴァ』のメンバー達なのであった。
隣の部屋で「酔ってないでふ」と寝言を言っているフーレンスジルコニアスが、新たな弟子モドキが増えつつあることを知るのはまだ先のお話し。
フーレンスジルコニアスの直接の出番が最後の一文だけとか…。
しっかりするんだ主人公、次話では活躍させてあげるからねぇ!
それまでにスランプから抜け出したいです><;




