最強は誰だ的な、
フーレンスジルコニアスの隠された秘密が今明かされる!
そしてニャンデストの出番が大幅増量!
新キャラも出るが影が薄いぞ!
採掘自体は順調に進んで欲しい鉱石は集めきったフーレンスジルコニアスだったが、最後にPKの人達と追いかけっこをしたお陰で若干お疲れモードであった。
探鉱から鍛冶場を抜ける際に警備担当のエルフ達からまたもや敬礼され、流されて敬礼し返して通り過ぎ近くの倉庫へと荷物整理に来ていた。
「いらっしゃい、預かりかい? それとも引き出しかい?」
「預けにきました、フーレンスジルコニアス名義の倉庫に保管しておいてください」
良く使う馴染みの倉庫だったがカウンターに居る住人は初めて見る顔で、新顔さんかと思いながら名前を名乗り掘り出した鉱石40個程と、一緒に採掘で出た宝石を数個手渡すと倉庫管理をする住人が該当倉庫の引き出しを捜し始める。ハヒフ…フ、フ、フ…と呟きながら引き出しの列を眺めていくが中々見つからない様子に首を傾げている。
「すみませんがフーレンスジルコニアス名義の倉庫は確認できませんでした。新規登録ということでいいんでしょうか?」
「え…そんなはずは無いんですが、何度も此処で利用してますし…」
もう一度探してみますという言葉にお願いしますと頭を下げてから大人しく待っていると、カウンターの奥の扉が開き良く知った住人のおじさんが欠伸をしながら出てきたので、こんにちはと挨拶をする。
「おぉ、久しぶりだな。最近顔をみせないから心配していたんだぞ」
「お久しぶりです、最近は『古代種の都』の方で活動しているので…」
そうかそうか、立派になったなぁと髪をグシグシと掻き混ぜられ苦笑いをするフーレンスジルコニアス。しばらくそんな遣り取りをしていると、横から先程の新規住人がオズオズと話しかけてくる。
「すいません親方、どうしてもこちらの方の引き出しが見つからないんです…」
「やれやれ大分馴れてきたと思ってたのに、まだまだだな…」
「すいません…」
「ほら、これだ」
そういってアッサリと見つける親方に流石は古株住人と思いながらその指先を追うと、『THEレア』というプレートが付いた引き出しが目に飛び込んでくる。
ちょっと待てジジィ…と言いながらカウンターから半ば乗り出すようにして、住人の後頭部を鷲掴みにするフーレンスジルコニアス。
「何で登録名がTHEレアになってるんですか!?」
「何でって…かなり前からだぞ、知らなかったのか?」
「……知らなかった」
「一番最初に登録した倉庫番に決定権があるからなぁ、エルフだから深緑の都市『ディープ・プランタン』の倉庫番が知名度に合わせて登録し直したんだろう」
顔を見りゃわかるからな特に不都合は無いぞという言葉と、その横でふむふむとメモを取る新規住人の姿に疲れたようにヘロヘロと項垂れるするフーレンスジルコニアス。
アイツか、あの倉庫番か、いっそ殺るか…。ブツブツと呟きながらユラリと立ち上がる彼女の視界の隅に、ピコピコとプライベートチャット着信のマーカーが表示される。
人知れず貴重な住人の命が救われた瞬間であった。
ネコ精霊をその背に背負い何やら踏ん反り返って高笑いをしている句朗斗をジト目で見ていたニャンデストだったが、プライベートチャットの着信に気付き男の子達から興味を移し、システムウインドウから応答をクリックする。
「はいにゃ」
「フーレンスジルコニアス! フーレンスジルコニアスです! ユカ姉から『古代種の都』に来て欲しいって連絡があったんですけど、来れますか?」
「了解にゃ、転移ポータルの所で待ち合わせしようにゃ」
「転移…ポータルですか。わかりました、ポータルの裏側で待ってます!」
何で2回名乗ったんだろうとか、何で裏側なんだろうとか色々疑問に思ったニャンデストだったが、まぁレアちゃんだしと納得して深く追求しないでおく。
未だ得意げに力説している句朗斗の背中で退屈そうに欠伸をしているネコ精霊に声をかけて呼ぶと、珍しく素直に戻ってくる様子に苦笑する。飽きてきてたんだなと思いつつ、レアちゃんから呼ばれたから行くよと言うとニャと返事をして手を繋いでくる様子に、テイマーやってて良かったと改めて実感しながら近場の転移ポータルを目指して歩き出した。
軽い上昇感を味わいながら転移ポータルを潜ると、もう通いなれた『古代種の都』の風景が目に入ってくる。裏側だったっけと思いながらポータルの建物の裏へと回りこむと、その影の死角になる部分で膝を抱えて座り込むフーレンスジルコニアスがいた。
「…何やってるにゃ?」
「…隠密行動?」
疑問符に疑問符で返されたが何となく意図はわかったのでスルーしておく、歩きながら大野さんにもプライベートチャットを送ったけど応答がなかったと告げられたが、男の子特有の病気中だから放っておいて問題無いと告げておいた。
「あれ? 銃職人工房じゃないにゃ?」
「うん、まだギルドホームで揉めてるらしくて白亜城の方に来て欲しいんだって」
「お城の方かぁ、ギルド関係の施設はあっちなんだっけ。何気にあそこ行くのはじめてかもにゃ」
「そうだね、黒曜城の方は職人関係の施設があるからよく行くけど、私も白亜城は行ったこと無いんだよねぇ」
私は黒い方の城にも行ったこと無いないにゃなどと話をしながら歩いて行くと、やがてキラキラと輝くような純白の城へと辿り着いた。
白亜城と呼ばれる純白の巨城、正式名称は『白き冬の甘美なる巨城』となっているが、その名称で呼ぶものは運営も含めて誰も居ない。今後もその名称で呼ばれる事は無く、何故その名称を付けたのかまったくもって謎である。
そしてその入り口である城門には新サーバー実装に伴い新規住人として、白い王子服に身を包んだ褐色の肌をした眉目秀麗な王子が訪れる女性プレイヤーを出迎えるのだが、プレイヤーが近づくと何故か上着の前ボタンを外し男性フェロモン全開状態になり連続でナルシーポーズをとり続ける。
極一部のプレイヤー以外には絶賛大不評であり、幾多の女性プレイヤーから必殺の攻撃を受け瀕死状態で転がるのだが、ちょっと目を離すと全快状態で元の場所に立っているという。
女性型GMが苦情を受け訪れた際に条件反射的に王子を攻撃したらしく、その時に「こんな子を配置した覚え無いのに…」と呟いていたらしい。
ちなみに後日この王子は消去されたのだが消しても消しても何故かまた現れ、諦めたGMが何処とも知れない別の場所に配置したらしいが、それは全く今後のストーリーに関係しないので忘れてもらってかまわない。
トリハダが出来た自分の腕を抱きかかえる様にしながら、白亜の床に一際映える赤い絨毯の上を歩いていくフーレンスジルコニアス。腰の後ろに付けたホルスターの中で、全弾射撃で熱を持った呪印銃の温もりが心地いい。
本当なら荘厳なお城の雰囲気に酔いしれる場面だったのに、濃ゆい住人の所為で感想が吹き飛んでしまった、既に黒曜城の白いバージョンくらいにしか印象に残っていない。
アレだけは絶対に真似しちゃダメにゃと言い聞かすニャンデストに、いつに無く真剣な顔で何度も頷くネコ精霊に本当に賢くなっていくなぁと思いつつ進んでいくと、通路の突き当たりの部屋へと行き当たった。
「お、レア子達が来たね。一先ず休戦だ」
「しょうがありませんわね、マスター休戦入ります」
「許可する~」
フーレンスジルコニアスに気が付いたユカリアスが一時休戦の提案をすると、頭上にかざした手に巨大な炎の塊を作っていた舞姫が同意し、所属するギルドマスターもその意見に追随する。休憩休憩と『アーカイヴミネルヴァ』と舞姫達が属するギルドのメンバー達が各々寛ぎ出す。
何処か呑気なやりとりだが、その周囲には焦げ付いたりヒビ割れたオブジェクトが急速にシステムから修復を受けていた。
「…何やってるんです?」
「ん? ギルドホームを賭けた戦争」
「…ここで?」
「そだよ?」
小さめな体育館程の広さがあるとはいえ、室内で前線組同士が戦争なんてすれば被害は甚大である。理由を聞けば他所で戦争していると、その隙に他のギルドに掻っ攫われてしまうので牽制も兼ねて此処で戦っているんだという。
中々決着が付かなくてね~参った参ったと笑うユカリアスの前で、フーレンスジルコニアスがニッコリと極上の笑みを浮かべた。今までに見たことも無いような妖艶な笑みだったが、それを見たニャンデストの背中にゾクリと悪寒が走りネコ精霊がガタガタと震えて背中に隠れてゆく。
「貴方達は他の人に迷惑をかけて何をやっているんですか? 前線組ともなれば全てのプレイヤー達の指針になるべき存在でしょう、しかも本来ならメンバーを抑える立場であるギルドマスターが率先して暴れるとはどぉいぅことなんでしょぉねぇ…?」
「レ、レアk…いやフーレンスジルコニアスさん、これには深~い訳がですね…」
「だ・ま・れ」
普段からは想像も付かないフーレンスジルコニアスの豹変振りに目を丸くして驚くニャンデスト、いつの間にかその背後にはコーネリアスやテンテア、舞姫やセバスちゃん等の主要メンバー達がニャンデストを盾にするように隠れている。
「久しぶりに黒レア様が降臨したな…」
「背筋がゾクゾクする…」
「いや~んお師匠さまぁ♥」
イイゾォイイゾォォ~と呟きながら一心不乱にSSを撮るセバスちゃんを、極力視界に入れないようにしてニャンデストが問いかける。
「あれは何にゃ??」
「あれは黒レア様だ」
要領を得ないコーネリアスの説明に更に問いただすと、余りに節操を欠いた行動を取ったり多勢に無勢で1人に対して理不尽な対応を取っている場面に直面すると、極上の笑顔と共に降臨するフーレンスジルコニアスのもう1つの面だとの答えが返ってくる。
そんな裏設定があったのかと驚愕の視線をフーレンスジルコニアスとユカリアスへと向けると、少し外れたテーブルの影にコチラへと匍匐前進をしてくる者が映った。
「あ、マスター逃げ遅れてたんですのね…」
ボソリと呟く舞姫の言葉から、敵対ギルドのギルドマスターなのだと理解する。慎重にゆっくりと、だが出来る限り素早く匍匐前進を繰り返すその表情には鬼気迫るものがある。
思わずニャンデストも固唾を飲んで見守る中、あと数メートルまで近づいたマスターの顔にパァァと安堵の表情が浮かんだ瞬間、その鼻の先数センチの場所に轟音と共に数発の銃弾が撃ちこまれた。
視線は目の前で正座をするユカリアスに向けたまま、銃口だけをコチラに向けていたフーレンスジルコニアスが笑顔で振り返る。
「あら、龍仙さん、そんな所に居たんですか。貴方にも大事な御話があるのでコチラへどうぞ…」
「い、いや、俺……僕なんかお腹が痛くなってきちゃって……」
「あらそれは大変。私が診てあげましょう」
「あ、なんか治ったみたい…」
一瞬のような数分のような時間の後、クイクイと人差し指を曲げるフーレンスジルコニアス。
その後30分程、正座する2人に懇々とお説教が繰り返された。その目には既に生気は無く、死んだ魚の目みたいだった。
「ニャンデストさんだったね、お初にお目にかかる龍仙と言う。舞姫君とセバスちゃん君が所属しているギルド『黄金りんこ』のマスターをしている」
「よろしくお願いします。……あの、お疲れ様です」
「やってしまったやってしまったまたやってしまった」
力なく椅子の背もたれに凭れ掛かりながら蒼い顔をしている龍仙の様子に、思わず労いの言葉をかけてしまうニャンデストに苦笑を返す龍仙。ユカリアスに至ってはテーブルに突っ伏して微動だにしていない、既に魂が抜けているようだ。
少し薄めの蒼い肌をした巨漢のギガスである龍仙がヨロヨロと立ち上がると、舞姫とセバスちゃんに支えられるようにこの場から去っていった。
その後姿を見送った後、コーネリアスが1つ溜息をつくとダウンしているユカリアスに代わり場を仕切っていく。
「さて無駄に時間を浪費してしまったな。今後なんだが、とりあえず『無限回廊』の最前線がどういう状態になっているのか確認だけしておきたい。そこで大変申し訳ないんだがレアとニャンデストさんには未転生メンバーの引率を頼みたいんだが…どうだろうか?」
「私はかまわないにゃ」
「やってしまったやってしまったまたやってしまった」
公式HPに記載されていない仕様変更点がいくつか確認されているために、安全の為に最初は引率を付けた方が良いだろうという事になった。しかしコーネリアス達が付いていったのでは明らかに過剰戦力状態になってしまう為に、フーレンスジルコニアスとニャンデストに白羽の矢が立ったのだった。
「本来ならギルド内でやるべき事なんだが申し訳ない」
「気にしなくていいにゃ~」
「やってしまったやってしまったまたやってしまった」
「レアちゃん五月蠅い!」
隅っこでうずくまり頭を抱えてブツブツと言っているフーレンスジルコニアスに、飛びネコじゃらしアタックをして黙らせる。今度はシクシクシクシクというすすり泣きが聞こえてくるがスルーをしておく。
そんなフーレンスジルコニアスに凄~~く嬉しそうな顔のテンテアが近寄り、ハイっと1つの紙袋を差し出す。グスグスと愚図りながらその紙袋を受け取る彼女にテンテアが優しく語り掛ける。
「引率の間はその服を着てね♪」
ガサガサと紙袋から取り出された服は、水鉄砲事件の際にテンテアが着ていた軍服であった。
黒レアちゃんにピッタリというテンテアの言葉に、土下座して交渉しているフーレンスジルコニアスであった。
書いた後いろいろと不安になる話しになってしまいました…。
ギルドの名前は
『黄金りんご』×
『黄金りんこ』〇
です。




