種は割れません的な、
久々に戦闘描写を…。
ええ、私に書けるのはこの程度ですとも。
シクシク……
薄暗い探鉱の奥深くで、狭い坑道に反響した銃声が響き渡る。思わず耳を塞ぎたくなるような大音響の中に、ゴツンという音が小さく聞こえる。
「ったぁ~~~~~~T T」
後頭部を押さえてうずくまるフーレンスジルコニアスの前には、坑道を塞ぐように初級精霊魔術『氷の束縛』が展開されていた。氷の中にはヒューニックとドワーフの2人組みのPKが閉じ込められた状態で、涙目でうずくまるフーレンスジルコニアスを見つめている。
「おぉ、これは『チェックメイトです』動画で使用していた技ではないですか」
「拘束スキル×7とかいう女王様スキルですね、ご馳走様です!」
呪印銃を使った拘束スキルに変な技名を付けられていた事に凹みながらも、追い込まれて袋小路になっている突き当りの壁に寄りかかりながら立ち上がったフーレンスジルコニアス。
鼻歌を歌いながらツルハシでガッキンガッキンと鉱石を掘り返していると視界の隅で微かな光が瞬き、反射的に回避した眼前を炎の弾が通過していったことでPKの登場だと察知したフーレンスジルコニアスは一瞬で風を纏い、脱兎の如く逃げ出していた。
こういう時の対処はPKとの遭遇回数が突き抜けているだけあって、行動が素早いフーレンスジルコニアス。坑道の曲がり角を曲がった所で壁や天井、そして床に属性付加した魔弾を7発打ち込んで追いかけてきたPK達を『氷の束縛』で無力化したものの、反動で飛んだ先にあった壁に強かに後頭部を打ち付けて悶絶していたのだった。
「この状況はアレですね、『チェックメイトです』状態ですね!」
「さぁ、我々は無力化されました。THEレアちゃん、どうぞ決め台詞を!」
「言いません! 失礼します…」
無意識に呪印銃に持ち得る最高威力魔弾を装填していた手を押さえ込み、フンっと澄ました顔で背を向けるフーレンスジルコニアスだったが、その視界には壁に塞がれた行き止まりが映った。しばし固まりゆっくりと背後を振り向けば、満面の笑みを浮かべたPK達と目が合う。
壁壁壁壁壁壁
氷 レア 壁
壁壁壁壁壁壁
通れません……ショボンと呟いたフーレンスジルコニアスに、チェックメイトコールが繰り返されたのだった。
鬱蒼と生い茂る目の前の藪がガサガサと動き出した事を確認し、一人の少年がその素顔を隠すように般若の様な面を装備した。手に持った二刀の短剣の握りを確かめるようにその手に力を込めていく、フッと短く息を吐き出すと藪を掻き分けて現れた黒い人影に向けて地を這うかのように低い軌跡を描いて疾駆していく。
暗い森から這い出て来た相手が明るい拓けた場所へと移動した事で起きる、一時的な視界補正の隙を突いたセオリーともいえる見事なタイミングの不意打ち。一瞬で相手の死角である足元へと滑り込み、下から跳ね上げるように繰り出される短剣二刀による二段攻撃が黒い影へと吸い込まれる。
斬撃により切り裂かれたように見えた黒い影、しかし手に持つ短剣からは何の手応えも伝わってこなかった。
「凄いね、あのタイミングから『空蝉』スキルを使えるなんて…」
「いや、運が良かっただけだ。森から出た瞬間に一瞬だけその短刀が反射した陽光に偶然気がつけただけだからな」
切り裂かれた黒い影が霧散しその1歩手前で身構える黒い服装に身を包む剣士の姿が映し出される、黒いコートに黒い髪、そして顔には黒い仮面が付けられていた。その手に収められた二本の長剣も黒い光を放っていたが、全体を貫くように一筋の赤いラインが走っているのが妙に印象に残っていた。
お互いの仮面越しに無言で見詰め合っていたが、微かに笑いあったような間を挟んで飛び退いて距離を取り合う。
「PKか」
「悪いけど集めた素材を置いていってもらうよ」
「残念だが、コレは渡せないな」
「安心していいよ、ちゃんとボクがレアちゃんに届けてあげるから…」
その言葉に黒い剣士に初めて動揺の色が現れる、目の前のPKからフーレンスジルコニアスの名前が出たことに驚きが隠せないでいた。しかし、それを覆い隠すように黒の剣士が穏やかに話しかける。
「何故、君がそのことを知っている?」
「さぁ? なんでだろうね……」
口調とは裏腹に2人の間の緊張感がビリビリと張り詰めていく、円を書く様に移動しながら互いに踏み込むタイミングを探りあう。
そんな2人を間近に見ながら、1人の少女が呟いた。
「厨二にゃ、厨二病がおるにゃ……」
「ニャゥ!」
既に銃職人工房で出会っている目の前の2人、句朗斗と大野さん。本能的にライバル関係なのだと感じとった2人は、既に互いを『監視する為に』FL登録し合っている。
今更安っぽい仮面で顔を隠そうが目の前のPKが句朗斗なのだと大野さんは気付いている、そして句朗斗自身も変装が無意味だという事を自覚している。
それでも互いに『気付かない振り』をし、RPG世界を満喫している。イリーガル・コールというVRMMOを楽しむにあたってある意味正しい行動なのかもしれないが、端から見ているニャンデストからしてみれば、つい呆れたような視線で見てしまうのも仕方が無いことだろう。
本人達は楽しんでいるが第3者視点から見るとちょっとお寒い行動というのも、こういう世界ではよくあることだったりする。
「はははは! 不意打ちを防がれたらこんなものか! な、なに!? そのスキルからの連携だと!」
「く、長剣二刀相手だと撃ち負ける…、だが速度だけならコチラに分がある! これならどうだ!」
「恐ろしい連携だ、しかし隠し技があるのはお前だけじゃないぞ、喰らえ!!」
「これを回避するのか!? なんだその技は、グハ!!!」
厨二病全開で楽しそうに撃ち合う様子を眺めながら、素になったニャンデストが思わず『男の子』って楽しそう…と呟いた。
「羨ましくは無いけど…」
火花を散らす斬撃の打ち合いの末、圧し負けた句朗斗が草の上を転がっていく。反動を利用し大きく飛び退いて滑るように着地した句朗斗は、低い姿勢で構えなおし体勢を立て直す。
そんな句朗斗に追撃することなくスキル後硬直の構えのまま見つめていた黒い剣士が、ニヤリと笑いながら構えを解く。
「どうやら俺の方に若干の分があるようだな。どうする、このまま続けるか?」
逃げるなら追わないで見逃してもいいぞと言う言葉を聞きながら、句朗斗は視線だけで視界右上にあるステータスバーを確認する。直撃こそ受けていないもののHPの赤いバーは数ドットほど減っている、回避で受け流しきれなかった余波により削られた為だ。
見る間にHPバーは自動回復により全快に戻っていくが、その差が短剣と長剣を用いた二刀の決定的な差でもある。
回避を貫通して通るダメージ量は微々たるものだ、それこそフーレンスジルコニアスの放つ魔弾を回避した時の貫通数値の半分にも満たない。しかし最大7連射の呪印銃に対し、二刀流スキルには最大16連打ものスキルが存在する。
そして同じ短剣二刀流同士なら完全に回避しきることができる、この短時間でまざまざとその攻撃力の差を見せ付けられてしまった。
「正直その長剣での二刀流は羨ましいね。それはヒューニックの古代種固有スキルかい?」
「あぁ、そうだ。ただ収めている武器のカテゴリーでそれぞれ効果が異なるようでな、斧二刀流なんてチートはできないようだが…」
長剣二刀流もチートっぽいけど…とか思いながら、HPバーの下にある青いMPバー、そしてその下にある黄色いTPバーが満タンになっていることを確認し用意完了だとほくそ笑む句朗斗。
魔法系のスキルには青いMPを消費する、そして自動回復スキルによって時間でMPは回復していくが、物理系のスキルが消費するTPは時間では回復していかない。
むしろ時間がある程度経過すれば段々と減っていきやがて0になってしまう、ではどうやって回復させていくかと言えば答えは簡単、通常攻撃を当てただけドンドンと回復していくのだ。
二刀での手数の多さを生かした円滑なTPの回復と、打撃数の多いスキルの連発での手数の多さが二刀流の最大の利点。
それを最大限に有効活用したボクだけの隠し必殺技、今こそ受けてみるがいい。
「準備は整った、合体だ!」
「ニャゥ!」
地面に片膝を付きネコ精霊に背を向ける句朗斗の合図に合わせて、一声鳴いて元気に片手を挙げて答えたネコ精霊が走り出しその背中に飛びついた。
「行くぞ、作戦CTT発動!」
「ニャ!」
その背にネコ精霊を担いだまま句朗斗が疾駆する、呆気に取られていた黒い剣士だったが慌てて迎撃体制をとる。
・烈刃16攻破(二刀流スキル)
上下左右から4連撃を浴びせた後に
12連打で突きを放つ連続技。
放たれる16の軌跡は光輝き、近接
スキルの中でも1,2位を争う美し
さといわれる。
光の濁流のように黒い剣士に襲い掛かる16本の凶刃だったが、同じ二刀流を納めた黒い剣士にとって他のスキルに絡ませて撃たれた訳でもない状態なら防ぎきるのは決して不可能ではない。
プレイヤーの個人能力によるプレイヤースキル『理不尽な回避』を駆使し、全弾とはいかなかったが14発までは受け流す事ができた。そして此処からは自分のターンだと手に持つ長剣に力を込める、このスキルの最大の弱点はその圧倒的な攻撃回数に比例したような、6秒ものスキル後硬直なのだから。
お返しに同じ技を打ち込んでやろうかとスキルを発動させようとする黒の剣士に合わせるかのように、句朗斗の背にしがみついたネコ精霊がニャオォォォン!と鳴くと凛と澄んだ鈴の音が響き渡る。
「喰らえ! テイマーズテイマー版『烈刃16攻破』!」
「なにぃ!?」
空中で掻き消しあう16の凶刃同士が辺りに眩しいばかりの火花を撒き散らす、攻撃力の差から句朗斗にダメージが貫通してくるが、大きくHPを減らす程ではない。
光の激突が収まると向き合う2人に一瞬の静寂が訪れるが、それを破るように句朗斗の口から吐き出される言葉が、黒い剣士に死の宣告のように突き刺さる。
「まだだ! テイマーズキャンセル、合わせて再度『烈刃16攻破』発動!」
再び響き渡る鈴の音と同時に動き出す句朗斗の短剣、硬直したままの黒の剣士に16の軌跡が吸い込まれていった。
「どういう…ことだ……?」
「ネコ精霊が持つテイマー限定効果のスキル、テイマーズテイマーにはある特徴があるのさ。それはテイムの効果が発動する時と解除される時に、対象者のスキル後硬直時間とCTが無効化されるという効果だ」
「なんだそのトンデモ効果は!?」
微かに残る点滅するHPバーを確認しながら、倒れた状態からフラフラと起き上がる黒の剣士に、まだ生きているのかと呆れたように句朗斗が答えていく。
腕を組み踏ん反り返って高笑いをする句朗斗の背中から、チョコンとネコ精霊が降りるとトテトテと走り出す。見れば背後でニャンデストが呼んでおり、二言三言話した後に手を繋いで仲良く去って行ったのだが、話しに夢中になっている句朗斗はまったく気付いていない。
「これぞ土下座とお馬さんゴッコを極めたボクが編み出したオリジナルスキル『CTT』から繰り出す48連撃、『烈刃48攻破』だ!」
TPの消費量とテイマーズテイマーのCTから3連続までしか繋げられないが、それでも現状これを超える連撃数と回避しきる手は無いと断言できる、立場逆転だなとほくそ笑む句朗斗だった。
「だがそれでも俺を倒すまでは出来なかったようだな、この代償は大きいぞ!」
「CTTのバリエーションがこれだけだと思わないで欲しいなぁ、まだこれからさ」
「いや、ネコ精霊もう居ないし…」
「…え?」
慌てて背中を確認するも既にネコ精霊の姿は無い、そして周囲を見回しても何処にもその姿は見当たらなかった。微妙な空気が流れた後、唐突に2人は激突するかのように戦い出した。
「死に掛けの状態で粋がるな、ボク1人だって勝ってみせる!」
「舐めるなよ、削り倒してやる!」
そして泥沼の削り合いへと突入していった。
何処かでホーホーと梟が鳴いている。
明かりの消えた銃職人工房の扉を見つめながら、大野さんは溜息を付いた。結局あれから数時間もの間、句朗斗との対人戦は続いてしまった。
回避に特化した者同士の対戦はPVPの組み合わせの中でも決着が付きにくく、かつ長期戦になりやすいことから最も人気の無い組み合わせでもあった。
今回も最終的に両者のHPが尽きるよりも先に、精神力が枯れ果て引き分けという結果になっていた。
2階の窓を見ても明かりが付いている気配は無い、時間を確認しようとウインドウを開いて初めてフーレンスジルコニアスから数件のメッセージが届いていた事に気付き、慌てて開封して内容を読む。
フーレンスジルコニアスより5件のメッセージが届いています。
1件目
大野さんユカ姉から連絡があったので戻ってきてくださ~い。
2件目
忙しいみたいなので先に行ってますね、連絡待ってます。
3件目
未転生組の人達と狩りに行ってきます、合流できるようなら連絡ください。
4件目
狩り終りました、これから親睦会やるそうなのでよかったら来て下さい。
5件目
酔ってない私は酔ってないれしょwgぢお^
親睦会…と呟いた大野さんが、電池が切れたようにその場にパタリと倒れこんだ。数時間の対人戦で疲労困憊だった大野さんは、スヤスヤと寝息を立て始めたのだった。
作中で飲酒の表現がありますが、仮想世界の中ということで人体への影響などは無いのでOKということでお願いします。
最近フーレンスジルコニアスが活躍?してませんねぇ。
次話からはもうちょっとちゃんと動かそうと思っていますが、サブキャラさん達が出せ出せって五月蠅いんです…、困ったものです;;




