逆襲のニャァ的な、
この話しには活動報告の「キラービーの攻撃!」に関する作者の私情が含まれています。
また先日ちょっと悲しいことがあったので反動でこの話しは少しハッチャケタものになっています。
エルフのホームタウンからの転移に無事成功し『古代種の都』へと辿り着いたフーレンスジルコニアスだったが、銃職人工房へも向かわず転移ポータルから時計塔へと続く空中回廊の上でウキウキとした様子で足元に広がる街並みを見つめていた。
細部に渡り緻密に再現された街並みも、霞むほどに遠くまで広がるその規模にも、流石に馴れてきていたフーレンスジルコニアスだったが、そこにガヤガヤと喧騒と共に行き交う住人達が加わると、見馴れたと思っていた光景に驚くほどの生活感が現れていた。
現代日本とは全く違った石作りの街並みに、よく馴染む簡素だがしっかりとした作りの衣服を身に付け通りを歩く住人達。木の枝を握り締め楽しそうに走り回る子供達、野菜を売る露店で籠を片手に買い物をする女性は主婦だろうか、大きな荷物を背負い通りを歩く男性は商人か、馬車に乗り御者席で手綱を取る者など、ありとあらゆる生活感がごった返している。
「今度のアップデートって、もしかして一番楽しめるの生産職系なんじゃないの♥」
元々この特別サーバーで過ごせる3日間を、棚から牡丹餅的な余暇としてノンビリと過ごす気だったフーレンスジルコニアスだったが、思いもかけず楽しめそうだと満面の笑みを浮かべながら手摺へと身体を預ける。
普段コソコソと(自分的には)人目に付かない様に(無駄な努力をして)行動しているフーレンスジルコニアス。そんな彼女が人通りの多いこんな場所で、そよぐ風に髪を揺らしながら笑顔で今後の計画を指折り数えていると、前触れも無く背中にズシリとした重みが圧し掛かった。
「うわわ!?」
「ニャニャゥ~」
「こらタマキ! ダメにゃ、いきなり背中に飛びついたら!」
まったくアイツの所為でまた変な事覚えたにゃ…と、どこかドンヨリとした顔でニャンデストが背中からネコ精霊を引き剥がす。ナゥーと口を尖らせたネコ精霊を足元にポテっと置いたニャンデストとハイタッチで挨拶を交わしたフーレンスジルコニアスだったが、その背後に見えた人だかりに挙動不審になる。
「ななな何、ニャンちゃん何一杯人を引き連れてるでありますか? 近寄らないでください」
「にゃにゃ、人聞きの悪い言い方しないで欲しいにゃ、私が来た時にはレアちゃんは人に囲まれてたにゃ」
そこで初めて自分が周囲の人達に観察されていたのだと理解したフーレンスジルコニアスが、顔を真っ赤にして慌てて走り去る。そしてその後を嬉しそうにネコ精霊が追いかけて背中に飛びつき、万歳状態でバランスを崩し1人と1匹が転がっていく。
おもろいおもろいと、周囲の人達が一斉に動画で保存していく光景を眺めながら、ニャンデストがポツリと呟いた。
「雉も鳴かずば撃たれまい……にゃ」
「きゅ~……」
「ニャニャニャァ♪」
青く澄み渡る空に鐘の音が響き渡る、連なる家々の屋根から迷惑そうに白い鳥達が一斉に飛び立ち石畳の上にその影を踊らせていく。
数段の階段を降りながら転移ポータルが設置されている丸屋根の建物から広場へと足を進める、軽く右手を握り締め身体の感じを確認する黒尽くめの男。歩く感じも指の動きもいつもと違和感は無い、ちょっとだけ現実よりも思い通りに動く馴染みのある感覚に満足そうに頷く。
男の周囲にはザワザワと話しこむ多くのヒューニック達が視界を埋め尽くしている、見慣れた街の様子からここがヒューニックのホームタウン聖王都『パルフェ・ノワール』だと判断する大野さん。
「みんなホームタウンに飛ばされたのか…」
半ば強引にチュートリアルエリアから追い出された格好で移動してみれば、ジルちゃんとその他の姿は無くなっていた。実際にはすぐ背後にユカリアスとテンテアが居たのだが、互いに興味が薄かったので速攻ではぐれていた。
「この状況はアレだな、フレンドリストからのプライベートチャットをしても可笑しくない状況だよな」
嬉嬉とウインドウを開き、メニューからフレンドリストを選んだ所でピタリと手が止まる。しまった、こういう時にどういう文面で切り出したらいいんだ!? 自慢ではないが今までプライベートチャットを送信したことがない。
もちろん紳士な嗜みとして来るべき時に備えてプライベートチャット送信時の手順は反復修練してある、そして同じ数だけ受信時に素早く気づき逸早く対応するする術もマスターしてある。(注:プライベートチャットの操作はメニューを選んでクリックするだけです。by運営)
しかしいざ送信する段階になってみると、その打ち込むべき文章の切り出しが思い浮かばない。何という事だこんな所に運営からの悪魔のような罠が仕掛けられているとは!! 呼吸を荒くしながら大野さんが額に流れる冷たい汗を拭う。甘く見ていたこれほど恐ろしい罠があるとは…。(注:言いがかりですby運営)
拝啓いかがお過ごしでしょうか、
…ダメだ、堅苦しすぎる。
やっほージルちゃん、
…ダメだ、軽率すぎる。
こんにちはボクは大野です、
…ダメだ、ただの自己紹介だ。
っていうか~ぶっちゃk
…ダメだ、意味が分からん。
愛するジルちゃんへ、
…ダメだ、色々終る気がする。
転移ポータルを背にしながらウ〇コ座りで腕を組み、目の前のウインドウを睨みつけウンウンと呻っている。多数の女性プレイヤーからのハラスメント通報を受けた運営から、GMが飛んでくるのはそれからしばらく後のことだった。(注:むしろ君は逃げてーby僅かな良心)
年季が感じられる少し黒ずんだ木目が浮かぶ木材で構成された銃職人工房の喫茶スペースで、テーブルに突っ伏すように不貞腐れるフーレンスジルコニアスを対面に座って眺めながらニャンデストがアイスレモンティーで喉を潤す。
「ニャンちゃんの所為で恥かいた、ニャンちゃんの所為で恥かいた、ニャンちゃんの所為で恥かいた…」
「酷い言いがかりにゃ。レアちゃんが目立つのは自業自得にゃ、むしろ摂理にゃ」
「ひど! 自然現象扱いですか。ニャンちゃんなんか最近タマキちゃんの方が本体とかユカ姉とかに言われてむぎゅ!?」
フーレンスジルコニアスの指摘に、取り出した巨大ネコじゃらしで顔面攻撃をするニャンデスト。影薄いとか言うにゃとか、天然系とか言うな等と言い合いながら、巨大ネコじゃらしをエルフパンチでモフモフと迎撃していると、巨大ネコじゃらしにじゃれ付こうとしたネコ精霊がフーレンスジルコニアスの背後から飛び付くのと同時に、カランと呼び鈴の音をさせながら扉が開いた。
「いやぁ酷い目にあった…」
街中を逃げ回った所為でゼェゼェと荒い息をつきながら銃職人工房の扉を潜る黒い剣士、その目の前には床の上に倒れ込んだニャンデストの上から抱きつくように倒れ込んだフーレンスジルコニアスと、2人の間に挟まれた巨大ネコじゃらしにじゃれ付こうともがくネコ精霊達の折り重なる姿が映った。
いい物見れた…と呟きながら鼻血を流しつつ倒れこむ黒い剣士、その視線の先には頬を紅潮させた艶めかしいフーレンスジルコニアスがクローズアップされていたのだが、女性陣の目に映ったのはワンピースのスカート部分がめくれて露わになったネコ精霊の太腿だった。
「ヘンタイにゃ、ヘンタイがいるにゃ!」
「ロリコンです、ロリコンさんが来ました!」
「ニャ?」
これ以降フーレンスジルコニアスの中で、黒い剣士の名称に大野さんと内心でルビが振られている事になるのだが、本人がそれを知るのはずっと先のことなのでした。
「レアちゃん、こんな所に階段無かったよね?」
「うん、無かったね」
その後改めて工房内を探索してみると、喫茶スペースの観葉植物の陰になった場所にひっそりと階段が設置されている事に気が付いたフーレンスジルコニアス。階段を上がり2階部分へと行ってみれば簡素な部屋だったが、数日泊まるには問題無さそうなベットと机が置かれた小部屋が3つ用意されていた。
「あぁ、そっか…、3日間過ごすからこういう設備も必要になるんだよね。宿屋みたいなのもあるのかなぁ」
「あると思うにゃ、それじゃ私とタマキは隣の部屋を使わせてもらうにゃ♪」
当然の様に宣言してフーレンスジルコニアスの返事も待たずに、いそいそとネコ精霊と共に隣の部屋へと移動していくニャンデストだったが、廊下で自分もと言いたそうにしている黒の剣士と目が合った。俺は? と自分を指差す黒の剣士に無言で階段を指差すニャンデスト、ガックリと肩を落として階段を下りて行く後姿を見送りながら、宿代が浮いたにゃぁ~と嬉しそうに呟く声だけが1人部屋に残されたフーレンスジルコニアスに届く。
「タマキちゃんこっちの部屋でいいのになぁ…」
ポツリと呟くフーレンスジルコニアスだった。
当面の寝床も確保できたフーレンスジルコニアス達が『アーカイヴミネルヴァ』のメンバーと合流しようと連絡を入れてみるが、どうやら特別サーバーでのギルドハウス調達に時間がかかりそうだという事で各自でしばらく自由行動をしようということになった。
「私は銃職人スキルで新しい銃を作る準備をしてるね」
「にゃにゃ、私はちょっと呼ばれたから出かけてくるにゃ。連絡くれればコッチに合流するにゃ」
「俺はジルちゃんの修練を手伝うよ、俺にできることなら何でも言ってくれ!」
また後でにゃ~と手を繋いで去って行くニャンデストとネコ精霊を見送り、じゃぁお言葉に甘えてと黒の剣士に向き直るフーレンスジルコニアス。
「私は探鉱に行って足りなくなった鉱石を掘り出してくるので、その間でいいので必要な材料を調達してきてもらっていいですか?」
「わかった、でも俺は採集系のスキルを取っていないんだ。できれば敵からのドロップ収集がいいんだが…」
「そうですか…では殺人蜂の毒針5個と殺人蜘蛛の糸10個と殺人クラゲの触手5個をお願いします」
「………」
見事に3種共ソロで狩るにはリスクの大きい状態異常系攻撃の代名詞である、殺人の名を冠していることに内心動揺する黒い剣士。
思わず俺は試されているのかとフーレンスジルコニアスの顔を窺うが、キョトンと小首を傾げている様子に他意は無いのかと思いなおす。殺人蜂単体ならさして脅威ではないのだが、巣から離れて1匹だけでいる個体を見つけるのは至難の業だ。どうしても巣に近づいて倒すしかないのだが、集団で襲われると一気に危険度が跳ね上がる。受けるダメージ量も危険なのだが、状態異常の毒ダメージが受けた回数だけ累積してUPしていく為だ。
そして殺人蜘蛛の糸で拘束されると移動が出来なくなる、これは回避職には相当キツイ。更に殺人クラゲはクラゲと言いつつも空中を漂っている為、海中での戦闘でこそ無いがその触手に触れるとかなりの確率で麻痺状態で完全に行動不能になってしまう。
相当なリスクを覚悟しなければと、ダラダラと汗を流していると衝撃的な発言が聞こえてきた。
「えっと、無理なら自分で取りに行くからいいですよ特に問題無い敵ですし。大野さんは自分の予定を優先してください」
「だだ大丈夫だ、何処で狩れば効率がいいか考えてただけさ。問題無い、俺に任せておいてくれ」
じゃぁお願いしますと工房を出て行くフーレンスジルコニアスを、あはははと笑いながら見送る大野さんだったが、何故か名前を呼ばれた時にチクンと心が痛むのだった。
相変わらず多くの人が集いガヤガヤと賑わうヒューニックのホームタウン聖王都に転移し、更に多くの住人達が加わってお祭り状態になりつつある街中を、悪戦苦闘しながらどうにか早馬を借りて一路ドワーフのホームタウン鉱山都市『ファティ・マール』へと向かうフーレンスジルコニアス。
何となく馬に鞭を入れるのが可哀想だと最高速に達していないフーレンスジルコニアスが乗る馬を、幾人かの駆る馬が抜かしていく。すれ違い様に凝視されその後にウインドウを開いて何処かへと連絡を入れている彼らに、一抹の不安を感じながらも最近自意識過剰だと首を振り通い慣れた、でも少しだけ懐かしくもある街の門を潜っていく。
街の入り口で馬を降りお礼を言いながら首筋を撫でると、一声鳴いた後に勝手に街の馬屋へと移動していく馬を賢い奴めと見送り、鍛冶場の奥にある探鉱を目指し進んでいくと鍛冶場の入り口には見慣れぬ光景が広がっていた。十数人のエルフ達が整列し皆一様にフーレンスジルコニアスを見つめてくる光景に、先程感じた一抹の不安が蘇る。
呆然としていると一斉に敬礼の姿勢を取るエルフ達にビクリとし、思わず背後を確認するが自分の後ろには誰も居ない、つつつ……と通路の端へと避けてみるがエルフ達の視線は自分を追いかけてくる。恐る恐る自分を指差してみれば一様に皆が頷く、ダラダラと汗を流しながらも早くコッチ来いよ的な空気に半泣き状態で近づいていく。
「隊長ようこそお越しくださいました。予めご連絡くだされば入り口まで護衛を出せたのですが、何分急な知らせだった為間に合いませんでした、申し訳ない」
「は、はい???」
「それで今日はどういったご用件で?」
「え…今日はちょっと探鉱で鉱石をと……」
「そうでしたか、いや最近は鉱石収集をするエルフも増えたので探鉱でのPKも出てきています。1人護衛をつけましょう、むしろ俺が同行しましょう」
いや俺が、いやいやココは俺がと名乗り出る数人が言い合う事態に、1人で大丈夫です堪忍してくださいと探鉱へと逃げ込むフーレンスジルコニアス。その姿に流石鍛冶エルフ第一人者などと思わぬ評価が付いた事やこの事態が過去に自分が提案したことが発端だということにも最後まで気づく事無く、何かのドッキリだろう騙されないぞと固く心に誓ったりしているのフーレンスジルコニアスだった。
『無限回廊』382層、樹海を思わせるような深い森が延々と広がるエリアの一角で、黒い仮面をかぶり双剣を握り締める1人の黒い剣士の姿があった。
10m程先には現実で見つけたら迷わず逃げたくなる大きさの蜂の巣が木の枝にぶら下がっている、そしてその周囲には10cm近い大きさの殺人蜂達が不気味な羽音をさせながら周回していた。
「何と言うか精神的圧迫感も半端ないものがあるな…」
ブ--ンと響く音に思わず背筋が粟立つが足元にあった小石を飛礫の代わりに投げつけると、アクティブ化して10数匹の蜂達が襲い掛かってきた。巣に残る他の蜂達を釣ってしまわないように10m程距離を取り、本気モードと意識を切り替えると不思議な事にいつもよりも遥かに意識の体感速度が跳ね上がる。
襲い来る蜂達の動きがはっきりと見える、まるでスローモーションの敵を避けるように乱舞する蜂達を避けていく。身体に力が漲っていき意識が冴え渡る、今なら何でもできる気さえする。
「何だこれは、これが俺の真の力か! いや、ジルちゃんへの愛が成せる業か!」
高笑いをするほどの余裕を見せながら黒の剣士が次々と蜂達を屠っていく、殆どノーダメージで殺人蜂の毒針を集めきり、意気揚々と次の獲物へと向かっていく。
10分程移動して殺人蜘蛛のエリアへと移動した黒の剣士が、先程の様に意識を加速させていくが今度は逆にいつもよりその加速度が少ないようにさえ感じる。
「何だこれは? さっきの力は何処へ行った! むしろ何か気が抜けた感じさえするぞ!」
なんかもう蜂退治済んだから蜘蛛の方はいいかと言う気がするのでサクッと割愛、大野さんは1回死んだようです。
次に殺人クラゲ退治ですが、更に力が抜けたとか、悪意を感じるとか言っていた大野さんは麻痺を盛大に喰らって数回逝ってましたが(ry
まだこの話しは続きますが長くなりそうなので1回区切ります。




