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イリーガル・コール  作者: 山吹
Ver2.01
18/37

対極者的な、

数話前に出てきた彼のお話で、新Verに移る際のプロローグ的なお話しです。


ある目的の為にひたすら強さを求めた。協力することを良しとせず、黙々とソロにこだわった。


いや違うな、自分にとってのパートナーは彼女だけだと自分に縛りを掛け、釣り合う存在になる為にあえて彼女から離れた。そんなイリーガル・コールの世界の中で、その目的を遂行する中で彼女以外の誰かとPT(パーティー)を組む事が酷く矛盾した行為に思えた所為だ。


しかしソロに拘った所為で酷く時間がかかってしまったものだ。無限回廊の階層ボスには到底ソロでは通用せず、かといってフィールドボス程度では注目を集めるには程遠い。精々ボスドロップのレアアイテムの売却で資産が潤う程度だ。


2年もの月日を掛けて試行錯誤をしてきたが袋小路に嵌って暗鬱としていた時、大きな転機が訪れた。

『古代種の都』開放とそれに付随した『古代種』への転生だ。掲示板を見る限り前線組の奴等でさえ、未だ古代種への転生条件を満たした者はいなかった。正直俺はそれを確認して歓喜したものだ、これで俺が古代種転生に成功すれば必ずや注目を浴びる、目的にしてきた『二つ名』を得る可能性が一気に跳ね上がる。


自分が条件を満たしている可能性がどれ位かなどはその時は綺麗サッパリ頭から抜けていた、意気揚々と転生神官(NPC)の元へと向かうと、階段の上には大勢の人だかりがあった。そしてその中心には目的の人物、無課金のクセに誰よりも可憐な容姿を得て、正式サービスで盛り上がった容姿変更ラッシュに合わせて開かれたミス・イリーガルコンテストでいきなり3位に入賞し、あっという間に二つ名を得てしまったフーレンスジルコニアスが立っていた。


久々に見た彼女は相変わらず綺麗だった。多くの群集の前、それも彼女の前で古代種に転生できるかもしれない状況に、今までの不遇もチャラに成る程の高揚を覚えているとポーンとシステム音が聞こえてくる。


『エルフ種における古代種転生条件がコンプリートされました。よって公式HP(ホームページ)上にて、その詳細ページが開放されました』


湧き上がる歓声に呆然とする、そして続けて起こるド派手な積層魔法陣に包まれその容姿が虹色を帯びたものへと変わっていくフーレンスジルコニアスの姿に、思わず笑いがこみ上げる。


「ははは……何処まで突き進んで行くんだジルちゃん」


目立つ事が嫌いなはずのフーレンスジルコニアスが何故この上なく目立つだろう古代種への転生を選んだのか、一瞬変わってしまったのかと心に暗い影が刺すがその後に起こった現象に杞憂だったと改める。

大きな音と共に巨大な時計塔とその周囲の歯車が動き出す、連動するように開いた尖塔の上部から光り輝く球体(オーブ)が現れる。そして球体(オーブ)が彼女の手へと移動すると、その光が呪印銃スペルガンへと変わり静かにその手の中へと収まる。


目立ってしまう事よりも呪印銃スペルガンを選んだ彼女に、βの頃から何も変わっていないと安堵し楽しそうに踊り始めた姿に、おめでとうと呟く。踊り終わり真っ赤になって逃げ去る彼女の後姿を見送りながら、ワイワイと盛り上がる転生神官(NPC)の場所へと進んでいく。


誰に注目されるでもなく1人ひっそりと開いたウインドウを見れば、やはりヒューニックの上位種である神子だけが表示されていた。フーレンスジルコニアスによりコンプリートされたエルフの古代種転生条件の過酷(マゾ)さに、いかに自分の考えが浅はかだったかを痛感しながら静かにウインドウを閉じその場を後にした。





武器にネタ武器のパチンコを使用する彼女はよく戦力的に過小評価されるが、攻撃に回避にと精霊魔法に精通したフーレンスジルコニアスが、PK(プレイヤーキラー)以外で死亡した所は見たことが無かった。現に転生条件にある『魔獣との戦闘時の死亡回数0回』すらも満たしているくらいだ、そんな彼女のパートナーになろうという自分が無様にも敵に倒されていい訳が無い。

少なくとも自分もその条件はクリアしているはずだ、しかしその他の条件が皆目見当(かいもくけんとう)も付かない。


正直生産系スキルが条件に入っているならお手上げ状態だ、素直に諦めて他の手段で目的達成を目指したほうが建設的だとはわかっている。しかしそれでも、何故か古代種転生を諦めきれない、いや諦めたらダメな気がするのだ。

これを諦めてしまった時点で彼女に追いつけない『確固たる差(超えられない壁)』が出来てしまう気がするのだ。


「古代種になりたい、古代種になりたい、古代種になりたい、古代種になりたい、古代種になりたい……」


すれ違う人々に奇異の目で見られても、溢れ出る想いが止まらない。双剣マスタリーをマスターに上げる修練の間も、1人ブツブツと呟く。


「俺の邪魔をするなぁー!!」


戦闘に明け暮れてきたため今更他にできる事がない俺は、近接職にとって天敵とされ今まで回避してきた種類のフィールドボス達にも単騎で挑んでいく。


「秘剣、双龍牙『閃光』!」


数ドットのHP(ヒットポイント)を残し、最強最悪の相性であり最期のフィールドボスを倒した時『ポーン』とシステム音が鳴り響いた。


『貴方は全てのフィールドボスを単騎で討伐しました、その結果レアタイトル「孤独な討伐者」を獲得しました。おめでとうございます』



高鳴る期待を抑えきれず『古代種の都』へと突き進む。いつもより閑散とした街の様子に疑問を抱くことも無く、転生神官(NPC)の元へと転がるように辿り着く。

震える手でウインドウから転生の項目をクリックすると同時に、『ポーン』とシステム音が辺りに響く。


『ヒューニック種における古代種転生条件がコンプリートされました。よって公式HP(ホームページ)上にて、その詳細ページが開放されました』


・ヒューニック種族における古代種への転生条件


 ・武器系統1種マスタリーマスターランク

 ・PT所属総時間5時間以下

 ・タイトル『孤独な討伐者』獲得

 ・ギルド所属回数0回

 ・魔獣との戦闘時の死亡回数0回

 ・欲望の発言10000回以上



 上記の条件の内4つ以上の条件をクリアしている

 場合、古代種への転生が可能に成ります。





………なにこのぼっち仕様(一人ぼっち)



いや、内容はどうでもいい、古代種になれるということが重要なのだ。喜び勇んだ俺は種族説明さえ見る事無く古代種を選択する、足元から浮かび上がる積層魔法陣により包み込まれ容姿に変化が現れる。


「あれ?虹色エフェクトかかるんじゃなかったのか?」


目立ってお気に入りだった金色の髪は黒くなり碧眼の瞳も同じく黒になる、続けて起こった歯車の起動と尖塔の上の球体オーブイベントを経て、新たな武器を手に入れる。


「……たま? それに防具まで真っ黒かよ」


荘厳華麗(キンキラキン)な装備は簡素で黒い装備になり、武器として手に入れた物もただの黒い塊であった。これどうすればいいんだ?と考えていると、メンテナンスのカウントダウンが始まり顔を上げた瞬間に強制ログアウトで落ちた。




     20〇〇年 5月20日 05:21


 タイトル ヒューニック古代種条件開放!


メンテ直前だがついにヒューニックの古代種の条件開放に成功した。

詳しくは公式の特設ページを見て欲しい。

古代種の詳しい説明は要望があれば後日UPする。


・なんだこのぼっちな条件はw

・ヒューニック古代種=ぼっち確定www

・オフラインVRMMOっすかw

・お前ら可哀想だろ、レスしないでそっとしといてやれよ……

・てことで〆




何故だ、この上なく注目を集める話題なのに二つ名が付くどころか、本当にこれ以降レスがピタリと止まってしまった、しかも新MAP開放の日と重なった事であっという間に流れていってしまった。

しばし呆然とするが直ぐに立ち直る、立てたスレッドが伸びないなどいつもの事(・・・・・)だ。こうなったら新MAPで話題性のあることをすればいい、幸い手に入れた黒い塊は望んだ種類の武器に変化するという便利な仕様だった。


古代種になった事で従来の長剣と短剣を組み合わせた二刀流から、長剣同士の二刀流が可能になっていた。さっそく黒い塊を長剣2本に変え、黒尽くめになって目立たなくなった外見にアクセントとして倉庫の奥に突っ込んで忘れ去っていた何時かのイベントの仮面を被る。


「流石に新MAPをソロでクリアすれば目立つだろう、そしたら会いに行くからなジルちゃん♪」




遠い日に彼女と交わした約束を胸に、1人(ぼっちで)新MAPへと潜っていくのだった。







「……と言うわけなんです」

「なるほど君が噂のぼっち君か」

「今までの説明の中に、レア子に抱きつこうとした事の理由が見当たらないんだけど?」


銃職人ガンスミス工房の喫茶スペース、只でさえ竜のような厳つい顔をしたコーネリアスが更に険しい表情で腕を組んでいる。その姿はまるで『娘が欲しければ俺を倒してみろ!』的な親父の様でもあった、そしてその横に立つユカリアスも目の前で正座している男を上から睨みつけるようにしている。


その後ろ少し離れた場所には、椅子に座るフーレンスジルコニアスを守るように胸に抱くテンテアと、その後方で大鎌をユラユラと揺らして威嚇するニャンデストがいた。その横で何故か土下座して背にネコ精霊(タマキ)を乗せてお馬さんゴッコをしている句朗斗が居たが、それ以上は触れないでおく。



どうしてこうなった?と思いつつ、少し前を思い返す。

新MAPでのソロ動画が運営にUPされたことで、やっと自分にも二つ名が付いた。『ぼっち君』等と言う情けない物だったが、同時に前線組ギルドから幾つかのオファーまで来るようになった。


実力的にも名声的にも認められたと自負した俺は、新システム『イリーガル・コール・システム』が実装された今日、満を持してこの銃職人ガンスミス工房を訪れた。戦闘用の装備を外し高い金を出して買ったタキシードへと着替えた俺は、どこから見ても立派な紳士に見えるだろう。


薔薇の花束を持ち工房の扉を開けるとカランという音と共に店内の様子が映しだされ、そしてテーブルの上で黙々と作業をするフーレンスジルコニアスの姿が……。


「ジルちゃん!」

「ほえ?」


長年の間離れていたせいか、感極まった俺は思わず彼女に抱きついてしまった。しかし抱きつく寸前にシステム側からハラスメント行為への電撃の制裁が下され硬直してしまう、しまったと思う間もなく視界が一瞬ブラックアウトする。


白いローブを着た華奢な印象の少女から頚椎の辺りに飛び蹴りを喰らって吹っ飛んだのだと理解したのは、床の上を転がっている時だった。工房の中程まで転がってやっと止まった俺が顔を上げると、今度は頭上から黒い刃が振ってきた。


ザックザックとくわの様に繰り下ろされる見たことも無い大鎌を、転がるようにして回避していくと視界の端に赤い閃光が煌いた。横腹に凄まじい衝撃を受けHP(ヒットポイント)が弾け飛ぶ、その閃光が赤い大斧だったのだと理解した時には、身体がクリスタル化(死亡エフェクト)して砕け散る寸前だった。


古代種の都にセットしておいた死に戻りポイントから戻ってみると、フーレンスジルコニアスとの間には『アーカイヴミネルヴァ』によって人の壁が築かれていた。


「2年ぶりの再開だったので感極まって思わず抱きついてしまいました」

「ふむ……ということなんだが、レアちゃん彼を知っているのかい?」

「え……知りません」


一気に寄せられる周囲の視線、多大な疑惑の意思が篭ったそれらに背中に冷たい汗が流れていく。


「ほ、ほら、βの時から何度か一緒に遊んだじゃないか。それに正式になった時にいつか一緒にギルドを創ろうって約束したし、そもそも君にこのVRMMOを紹介したのは俺じゃないか!」


キョトンとしたまま俺を見つめていた彼女だったが、ポンと思い出したのか1つ手を打ち合わせながらハイハイと納得する。


「あぁ、大野さんでしたか、その節はお世話になりました。あれ? でも大野さんこのゲーム辞めたんじゃなかったんですか?」

「いやいやいや大野はリアル苗字だから、それに辞めてないよ!」


でも当時から大野さんと呼んでましたし、それにキャラ名覚えてないし……と目を逸らしながら呟く。確かにMMO初心者の彼女に最初は大野で呼んでも構わないとは言ったが、まさかキャラ名を忘れられているとは思いもしなかった。


その後、小学生の頃に同級生だったリアル知り合いだった事を彼女から説明してもらい、一応の疑惑の目は晴らされたのだが、同時に周囲にも大野さんで認知されてしまった。


「それで今日はどういったご用件で?」

「え……」


流石にこの状況下でパートナーとして迎えに来ましたとか一緒にギルドを創ろうとか、小学生の頃からスキでしたとかは言えるはずも無い。

疑惑の目から同情の目に変わった周囲の視線を受けながら、相変わらずキョトンと小首を傾げる彼女を見上げる。


「また友達になってください」

「は~い、ではFL(フレンドリスト)登録送りますねぇ」




『大野さんがんばれにゃ』

『がんばりな大野さん』

『苦労するなアンタも』

『レアちゃんはわたさねぇ!』






送られて来るプライベートチャット(内緒話し)に思わず苦笑する。

うん、がんばるよ……






実際のオンラインでの実名ばらしはNGです。

今回は二つ名に拘る彼のキャラ名を出さない方向で取った、「ネタ」としてお考えください。


目立ちたくないのに注目される主人公と、目立ちたいのに注目されない新キャラの絡みが上手く表現できていくといいなぁ。



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