解き放たれた野獣的な、
番外編のプロットを考えてるうちに、気づけば普通に1話になっていたw
今回はフーレンスジルコニアス成分が薄目かも?
20〇〇年 6月、後にイリーガルの悪夢と呼ばれるある事件が起きる。
多くの犠牲者を出し運営もその対応に追われたとされるその事件の中で、悲鳴と歓声が飛び交う中を1人の小さな少女が駆け抜けたという。
「ウニャ?」
「こうやって前に構えて撃つんだよ」
小さな身体を後ろから支えるように、少女が銃を持つ腕に沿うようにしてその照準を補正する。ゆっくりとトリガーを引くとその銃身から青い光を帯びた水が、ぴゅ~と発射され古代種の都の路地を濡らす。
「フニャ!」
ネコ科の性か飛び出した水に一瞬過剰に反応するも、数度繰り返すと早くも自主的に狙いを付けては辺りにぴゅ~ぴゅ~と水を撒き散らしていた。その姿に気に入ってもらえたかと安堵の視線を向けるフーレンスジルコニアス。
「いいのかにゃ、こんなレアそうなアイテムもらっちゃって?」
「あぁ気にしないで、鍛冶職人スキルで銃作成が出来るようになったんだけど、何故かできたのが水鉄砲というある意味会心の作が出来まして。私が持ってるとまた目立ちそうで嫌な予感が全開なのでタマキちゃんにあげようと閃いただけだから……」
「謹んでお返しするにゃ」
銃職人スキルのランクUPで銃自体の作成ができるようになったが作成の手順の中にミニゲーム要素があり、銃口と銃身の口径が2mmになり薬室の構造も有り得ないくらいに失敗した結果、弾倉内に水属性魔弾を装填すると魔弾射出が出来ない代わりに、その属性だけが出るようになったという説明を聞いたニャンデストが、フーレンスジルコニアスがゴニョゴニョと小さく呟いた後半の本音に頬をヒクツかせネコ精霊の手から失敗作という銃を取り上げて返そうとするが、ネコ精霊がササッと避けた事で思わずよろめく。
「フー!!」
「タマキ?って冷た!?」
よろめいた事で背後に回りこむ形になったネコ精霊から、威嚇と共に水鉄砲の一撃を背中に受けたニャンデストが悲鳴を上げる。涙目で口を尖らせたネコ精霊は大事そうに水鉄砲を胸に抱え込むと、タッタカと裏路地へと逃げていってしまった。
「駄目だよ~、折角気に入ってくれてたのに無理に取ろうとしたらぁ♪」
「くっ、最初からこうなることも計画の内だったにゃ!今日のレアちゃん腹黒いにゃ、まるで句朗斗君のようだにゃ!」
ガ---ンと背景に文字を背負いOrzと落ち込むフーレンスジルコニアスを引っ張り起こし、路地裏へと逃げたネコ精霊を追いかけるニャンデスト。しかし、その濡れた背中の装備が完全に透けて地肌が丸見えになっていることには気づいていなかった。
タッタカと走り続け路地裏から大通りへと飛び出すネコ精霊だったが、チラチラと後ろを気にしていた所為か角を曲がった所で何かにぶつかってしまう。その拍子に後ろに転びそうになるが背中に添えられた手によって優しく抱きとめられる、慌てて見上げるとそこには見知った顔があった。
「あれ、タマキちゃん1人でどうしたの?」
「イタタ、ちょっとユカ!急に立ち止まるな、鼻ぶつけちゃったじゃねぇか。って何でこんな所にタマキちゃんが1人でいるんだ?」
近々実装される新システムにそなえて露店巡りをしていたユカリアスとテンテアだったが、急に立ち止まったユカリアスの背中にぶつけて赤くなった鼻をさすりながら睨みつけるテンテア。しかしその視線の先にネコ精霊を見つけると極自然な動作で抱きかかえ、まるで当然とばかりに抱っこしていた。
「相変わらずだなオマエ……」
「可愛いものを愛でるのは当然の権利だからな、そして同時に権利は遂行する義務でもあるのだよ」
アッサリとネコ精霊を捕獲しナデナデするテンテアに呆れながらも、便乗して頭ナデナデをするユカリアス。一連の流れにキョトンとしていたネコ精霊だったが、鋭敏な聴覚が捕らえた足音に慌ててその腕から逃れササッとテンテアの背後に隠れる。
なんだ?とその様子を見ていたユカリアスだったが、またもやドンっと胸に当たる衝撃に視線を戻すと目の前には当たった衝撃で尻餅をついているニャンデストと、その下敷きになっているフーレンスジルコニアスが居た。
「きゅ~……」
「痛いにゃぁ~」
「何やってんの?」
前線組のしかも最前線で敵の攻撃を真っ向から受け止める大斧使いのユカリアスだけあって、ニャンデストとフーレンスジルコニアスが当たったくらいではビクともしないその様子に、ぶつけて赤くなった額を押さえながら涙目で見上げるニャンデスト、若干の理不尽さを感じながらも今はそれどころではないと思い出し慌てて立ち上がる。
「今ちょっと急いでてぶつかってゴメンにゃ。実はタマキを探してるにゃ、こっちに来たはずなんだけど見なかったにゃ?」
「いいや、見て無いねぇ」
タマキちゃんならソコにと言おうとしたユカリアスを制して、テンテアがサラッと嘘をつく。ニタリという表現がよく似合う三日月のような笑みを口元に受かべるテンテアに、長年の付き合いから下手に逆らわないほうがいいと判断したユカリアスがススッと距離を取る。
召喚主から逃げて更に隠れるという状態のネコ精霊に何かを感じ取り咄嗟に庇ってはみたものの、さてこれからどうしようかしら?と悩むテンテアの前で、おかしいなぁアッチに行ったのかにゃ?と呟きながら振り返るニャンデスト、必然的に見えたその背中を見てテンテアとユカリアスが同時に噴出した。
「ぶっ!?あんたなんて格好してるんだ!」
「ちょ、隠せ隠せ!」
「にゃにゃ?」
首筋の辺りから背中の下お尻の少し上位まで、水で濡れたようになっている衣服が完全に透けてその肌色の柔肌が見えてしまっている。デザイン変更は出来ても決して装備解除ができない初期装備のインナーさえも透けて見えていることに驚愕しつつ、慌てて出したマントでニャンデストの背中を隠しながら現状を説明すれば顔を真っ赤に染めてマントで身体を包むニャンデスト。
「なななななんにゃ???」
「何か水で濡れてるみたいだけど、濡れたくらいでインナーまで透けるなんて聞いたことがないぞ」
「あぁ、何か心当たりとかないのか?」
「心当たりというか、タマキが持ってる水鉄砲で背中を撃たれたにゃ……」
水鉄砲…と呟きながらゆっくりと振り返るユカリアスとテンテア。その視線を追いテンテアの背後を覗き込めば、駄々っ子のような顔をして銃を身構えるネコ精霊と目が合った。
ヒクッと頬を引き攣らせたニャンデストだったが反射的に右へと避け初弾を回避する、しかし避けた事で銃身がそれを追いぴゅ~と撃ち出された2発目はユカリアスへとまともにかかることになってしまった。
ばしゃっと胸元からお腹の辺りへと勢い良く水がかかるとスゥッと濡れた箇所が透けていく、うぎゃーと悲鳴を上げつつ胸元を隠すユカリアスに、騒ぎを聞きつけて見ていた見物人からおぉ~と歓声が上がる。
「やめろ!こっちくんな!!」
「助けてにゃー!」
転がるようにテンテアの背後へと逃げ込むニャンデストを追って撃ち出される、ある意味凶弾と化した水がテンテアへと降りかかる。クッと左肩を盾にするように身体にかかるのを防ごうとするが、染み込んだ水がその胸元の半分まで染み渡り透けていく。尚も襲い来る凶弾に左腕で胸元を隠しつつ、背後に隠れるニャンデストを右腕で引っ張り出し盾にするテンテア。
矢面に立たされたニャンデストが反射的に身体に巻きつけていたマントを広げ、盾にするように眼前で広げると水が染み渡り透けていくマントの向こうで、ニヤ~~リと笑うネコ精霊と目が合い思わずゾクリと背筋を震わせる間に、周囲を取り囲む人の中へと逃げ込んで行ってしまった。
にゃ~にゃ~と騒ぐニャンデストとしゃがみこんだまま真っ赤になっているユカリアスの頭を小突き、とっとと装備を付け替えなと促すテンテアの言葉に、慌ててステータス画面の装備変更ウインドウから装備を換装する2人。すると周囲から落胆の声が聞こえてくるが、テンテアの「あ゛?」という威圧にスゴスゴと散っていく群集達を溜息とともに見送る。
「なんなんだ、あの水鉄砲は?」
「にゃにゃ、レアちゃんが作った物にゃ」
「またレア子が原因か……」
未だ地面に転がりノビタままのフーレンスジルコニアスを見て頭を抱えて深々と溜息をつく3人。しばらく話し合いニヤリと笑いあった後にユカリアスがフーレンスジルコニアスを肩に担ぎ上げると、人垣の向こうへと逃げていったネコ精霊を追って走り出すのであった。
「どうしたのタマキちゃん、1人でお買い物なのかしら?」
「ニャニャウ」
露店が並ぶ大通りの一角でゴスロリ服に身を包みピンクの日傘を差す舞姫が、前から走ってきたネコ精霊に気づき話しかけると、興奮した様子で手をブンブンと振るネコ精霊の姿にホンワカと笑顔を浮かべる。
癒されますわぁ~と和む舞姫の後ろで、執事のように控えるセバスちゃんがネコ精霊が手に持つ銃に気づく。何か嫌な予感を覚えたセバスちゃんだったが、それが何かわからず行動を起こす前にニヤリと笑ったネコ精霊が舞姫に銃口を向け凶弾を撃ち出す。
「きゃ!?」
「おおおおぉぉぉぉぉ!!」
真正面の近距離から浴びた事により広範囲に渡って一気に透けていく舞姫の衣装に、普段から目立つ為周囲から注目を集めていた群集から大きな歓声があがり、ハッと自分の状態に気付いた舞姫が四肢で身体を覆い隠すとバサリとその上からセバスちゃんの上着がかけられる。
しかし尚も向けられた銃口からは無常にも更に凶弾が放たれる、しかしフンッ!と蹴り上げたセバスちゃんの足が起こした突風により大きく横へとそれていった。バシャという音と共にうわっという声が聞こえたが、そちらを確認する間もなく事態は更に動き出す。
「いた!」
「観念しろや!」
「大人しくするにゃぁ」
野次馬を掻き分けて現れたユカリアスとテンテア、ニャンデストの3人が口々にネコ精霊にむかい話しかけるが、フフンと鼻で笑ったネコ精霊がその銃口を向けると思わず後ずさる。
「ユカ!盾装備」
「おう」
テンテアの指示にユカリアスが肩に担ぐフーレンスジルコニアスを全面に押し出し、盾のように構えてジリジリと前進しはじめる。その光景に野次馬達から更に大きな歓声が上がると、その大音量にパチッと目を覚ますフーレンスジルコニアス。
「え……、なに?」
「目が覚めたか、しばらくジッとしてろ」
状況が飲み込めず頭上に大量の?マークを浮かべたフーレンスジルコニアスに向けて、ネコ精霊が狙いをつけてトリガーを引く。同時に上がる歓声だったが1秒もしない内にそれが落胆へと変わっていく。放たれた凶弾はわずか数センチ飛んだだけで力無く、ちょろろと地面へと落ちていった。
「弾切れか」
「今だ!」
ポイッとフーレンスジルコニアスを投げ捨てたユカリアスとニャンデストが、無力化された野獣に向かって襲い掛かる。慌てて逃げ出したネコ精霊だったが、数歩進んだ所でピタリと止まる。
「冷たいなぁ~、股間のところがびっしょりだよ。あれ?タマキちゃんどうしたの、それに皆までどうしたのさ?」
すぐ目の前で固まるネコ精霊に首を傾げながら句朗斗がポリポリと頭を掻く。
身長的に目の前に問題の箇所がくる事になったネコ精霊が、ポテンと座り込むとミャァミャァと泣き出した。慌ててネコ精霊を抱きかかえるようにして句朗斗から離れるニャンデスト、顔を真っ赤にして一点を見つめて固まるフーレンスジルコニアス、ニヤニヤと意地が悪そうな笑みを浮かべるテンテア、やれやれと溜息をつく舞姫、指で四角い枠を作るセバスちゃん。
状況が飲み込めてない句朗斗の肩に優しく手を置き、とりあえずその可愛いモノをしまいなwと諭すユカリアスの言葉に、只一点を見つめるフーレンスジルコニアスの視線を追い顔を下げていく句朗斗。
いいいぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁ……という哀れな男の子の叫びが木霊したという。
薄暗い部屋にテーブルと椅子が置かれている。
「これより尋問を開始する、貴方には弁護士を雇う権利も黙秘する権利も与えられない。では被告人レアちゃん、語りなさい」
その言葉が合図だったのかカッとスポットライトが、椅子に縛り付けられたフーレンスジルコニアスを照らし出す。カチカチと歯を鳴らし怯えた彼女の視線の先には、何故か軍服をカチッと着こなしたユカリアスとテンテアそして舞姫の3人が、小さな鞭の様な物を手にし妖艶な笑みを浮かべて見下ろしていた。
「わわわわたしは良かれと思ってあげただけで、ほら最近暑かったし元気なかったから少しは涼めて元気になるかなぁ~って、だってだってあんな事になるなんて私だって想像できなかったもん!」
「言いたい事はそれで全てのようだねぇ」
「そのようですわね」
「情状酌量の余地は無い……か」
左右にユカリアスと舞姫を従える様にしたテンテアが、静かに椅子へと座り優雅に足を組む。パチリと指を鳴らすと新たに部屋の一角へスポットライトの光が落ちる、そこには沈痛な面持ちをしたニャンデストとネコ精霊の姿があった。
「レアちゃん残念にゃ、素直に罪を認めて欲しかったにゃ…」
「ウニャゥ…」
「いやいやいや、どっちかと言えば暴走したタマキちゃんが主な原因だし!何その超被害者ですって顔はぁ!?」
「小さい子にあんなモノを見せる事になるなんて、トラウマものよね……」
「ニャァ~~~~」
誰かさんは凝視してたけどねwというユカリアスの言葉に、ボッと顔を赤くするフーレンスジルコニアス。あらあらオマセさんねぇとテンテアが続ければアウアウと俯いてしまう様子に、女子高生の割には初心なのねと苦笑するオネェサマ方達。
「まぁオトシマエくらいはつけて貰わないとねぇ」
「お師匠様、残念ですが諦めてくださいませ」
「タマキちゃ~ん、出番よぉ」
「ニャウ!」
ピョンピョンと楽しそうに近寄ってきた野獣が、新たに魔弾を装填した銃を構えイヤイヤをするフーレンスジルコニアスに向かってニヤリと笑って凶弾を解き放った。
あの事件から2時間後1つの動画が掲示板へと上げられた。
20〇〇年 6月10日
タイトル 運営さんへ♪
その動画には『うんえい』と書かれた紙を顔の部分に貼り付けた案山子が4体映っていたという。
そして聖職者が好む白いローブを纏った少女の蹴りで首が千切れ飛び、赤い大斧で真っ二つに両断され、巨大な鎌により串刺しにされ、視界を白に染め上げる巨大な落雷により跡形も無く吹き飛ぶ映像が映っていたという。
フェードアウトして画面から去って行く少女達の中で、白いローブの少女が画面の端でピタリと止まった。ただ無言で背中を向けていただけだったが、その少女が再び歩き出して去っていくまで異様な緊張感が漂っていたそうだ。
・噂でしか知らんが何やらケシカラン事件があったらしいな、詳細よろ
・SS撮ってあったんだがUPできんな
・UPどころかファイルも開けないぞw
・ホントだ開けなくなってる
・俺もだ
・ブロックかかってるwww
・運営に聞いてみた、笑える回答が帰ってきたからそのまま貼るw
イリーガル・コール運営チームです。
質問にあったSS及び動画はプライバシー等に抵触する恐れがあるため、システム側からブロックがかかっております。後日公式HPで報告の後、永久ブロック対象になると思われます。
決してある動画により運営チームが身の危険を感じたからの処置ではありません。
・感じたのかww
・うwwwんwwwえwwwwいwwww
・何だこの運営ww
・やべぇ好感度あがっちゃったw
翌日、水鉄砲に修正が入り濡れても服が透ける事は無くなった。
修正前にフーレンスジルコニアスに入った水鉄砲の作成依頼数
5,028件
修正後にフーレンスジルコニアスに入った水鉄砲の作成キャンセル数
5,025件
「何だろう、ボクって一番の被害者なのに何故か加害者扱いだよね……」
「…悪い、慰めの言葉が浮かんでこない」
「だからいつか痛い目にあうぞと忠告しただろうに」
「シクシクシクシクシク」