新システムに触れようよ的な、
前書きと冒頭の一文を削除しました。
内容の変更はありません。
NEWS 20〇〇年 5月27日 10:05
イリーガル・コール運営チーム
いつも弊社の運営するイリーガル・コール・オンラインをご利用いただきありがとうございます。
先日の新MAP最下層『神の間』の開放により、新システム『イリーガル・コール・システム』の実装をお知らせいたします。
これに伴い、新MAP入場時の選択に新たに『神の間』への入場選択肢が追加されます。
直接選択での入場時には新MAPクリア時の報酬並びに経験値は入りませんが、ダイジェスト版のムービーにてストーリー展開のフォローが入ります。また後日クエスト受注後正規ルートでのクリア時には、ペナルティ無しの報酬と経験値を受けることが出来ます。
6月18日 Ver2.01 イリーガル・コール・システム実装
実装内容の詳細説明
イリーガル・コール・システム
3柱の神の中の1人、女神フローティアが残した遺産。
この世界で滅んだ古代種達の魂は、3柱の神が新たに作り出した次の世界にて魂が受けた傷を癒していた。永い刻を使い徐々に癒えてきた魂達を、元の世界へと安全に転生させる為に作り出したシステム。
イリーガル・コール・システムはプレイヤーが上位種または古代種となって、特別サーバー内にて活動するシステムになります。
・特別サーバーは毎週日曜日PM21:00からPM21:10までの開放となります。
・特別サーバー内は現実時間とは独立した時間軸の設定の為、10分間のプレイでゲーム内で3日間が経過します。
・特別サーバー進入後、ご自由にログアウト可能ですが、時間軸の乖離によりその日に再ログインすることはできません。通常サーバーにはログインすることはできます。
・LV60以下のプレイヤーは通常の経験値やお金が取得できますが、LV60以上のプレイヤーは取得経験値とお金が5%に規制されます。これは、新規参入者と既存プレイヤーとの格差を埋めるための処置になります。
・通常サーバーにて購入したマイホームは適応されません、また特別サーバー内にて購入したマイホームも通常サーバー内には反映されません。
・通常サーバーには存在しない各種NPCが多く配置されます。
・一部のアイテム等は通常サーバーに持ち帰る事ができません。
入場方法
新MAP最深部『神の間』にある装置より進入ができます。
進入時PT作成状態の時には特別サーバー内でも維持されます。
週末の夜に送るちょっとした擬似異世界ライフをお楽しみください。
むせ返るような熱気の中、金床の上に置いた鉱石に向かって槌を振り下ろす。
部屋の中心に据えられた巨大な溶鉱炉からは、少し前まで慣れ親しんでいた鉄の臭いが流れてくる。周囲には何十人ものドワーフ達が、鉄を打つ音を響かせながら鍛冶作業へと没頭しているが、ほんの少し前までの光景と若干の違和感があった。
つなぎに身を包み樽のような身体と丸太のような腕で槌を振るう集団の中で、細い体躯で槌に振り回されるように鍛冶作業に励むエルフ達の姿を、久々の鍛冶作業に汗を流しながらフーレンスジルコニアスは感慨深げに見つめていた。
エルフの古代種への転生条件が公開されたことにより、それまでエルフの呪印銃取得を諦めていた者、また新たに古代種転生動画などを見て新規参入してきた者が古代種転生を目指して今日もがんばっているのだ。
攻略サイトでのエルフ古代種転生の条件において、PKを受ける条件をクリアしなくても、鍛冶スキル関連と自分からのPK行為、魔獣との戦闘での死亡にさえ気をつければ十分転生条件のクリアが可能だという結論が出たことが大きかった。そして幾つかのフーレンスジルコニアスの動画で呪印銃の汎用性の高さが評価されたことも大きかったといえるだろう。
かつて多くの同士達と呪印銃の夢を追って、鍛冶に明け暮れていた時の思い出が蘇り懐かしさを覚えていたフーレンスジルコニアスだったが、すぐ隣で作業をするドワーフの声に現実へと戻された。
「あ~ダメだなこりゃ…」
「え…、どうかしたんですか?コダックスさん」
汗で濡れた前髪を整えながら、横から手元を覗き込むようにコダックスの顔へ自身の顔を近づける。日に焼けたコダックスの顔がボッと赤くなった事も、周囲のドワーフ達からコダックスに殺気が送られている事にもフーレンスジルコニアスは全く気づいていない。
「ん、ん~、嬢ちゃんから頼まれた呪印銃の修理なんだがな、こりゃぁドワーフには手が出せんわ」
「そんな……」
今まで呪印銃の修理は自分でやってきたフーレンスジルコニアスだったが、それは耐久値の消費が極少ない状態でのことであった。修理する数値が少なければエルフでの修理失敗時に発生する最大耐久値の減少、消耗の発生も極少ない数値で済むからである。
しかし、先日の戦闘にてテンテアの神聖魔法を魔弾に付加して放ったところ、呪印銃にかかる負荷が大きかったのか一気に耐久値が減少してしまっていた。その為、リスク回避で旧知の仲のコダックスに頼んで修理を依頼していたのだが、ドワーフでは呪印銃の修理自体がシステム的に不可能だと言われてしまったのだ。
「確か古代エルフは古代ドワーフに滅ぼされたって事になってるんだよな?そして今もエルフとドワーフは敵対関係にある、その辺が関係してるんじゃないか?」
「そう……ですね」
その後、コダックスの知り合いに頼みエルフ支持のヒューニックと獣人の鍛冶師にも依頼してみたが、何故かどちらも修理は不可能だった。
「こりゃかなりリスキーだが、エルフ自身で修理するしかなさそうだなぁ」
「そう……なりますね」
「今すぐ修理しなくたっていいんだ、ゆっくり落ち着いてから修理した方がいい」
「……はい」
ここでは気が散るだろうからと銃職人工房での修理を薦められ、コダックスに背中から両の肩に手を置かれ優しく送り出されたフーレンスジルコニアスが、お礼を言いながら鍛冶場を後にする。
笑顔で送り出したコダックスだったが、フーレンスジルコニアスの姿が見えなくなると同時に振り返りながらバトルハンマーを取り出し身構える。鍛冶場にはユラリ、ユラリを立ち上がるドワーフ達の姿があった。
「『THEレアを生暖かく見守る会』規約違反により、コダックスの処刑を行なう。会員諸兄に反対の意見の者はいるか?」
「「「異議なし!」」」
呆気に取られるエルフ達の前で、勝ち目の無いコダックスの戦いが始まった。後にエルフ達は語る、死の間際のコダックス氏の顔は何処か満足気であったと。
場所は移り『古代種の都』にある銃職人工房、その奥にある小さな部屋の工房室。
いくつかの工具に囲まれたフーレンスジルコニアスの前には、鍛冶場にある金床より一回り小さな金床。その上に置かれた呪印銃を見つめてどれ位の時間が経っただろうか、眉間に皺を寄せてジッと見つめていたフーレンスジルコニアスだったが、ふ~と溜息をつくとゆっくりと槌を持ち上げる。
「悩んでたって修理しなきゃどうにもならないんだ、女は度胸!大丈夫!」
気合一閃、フーレンスジルコニアスが槌を振り下ろす。悲劇の一閃だとも知らずに…。
それは見事なまでの失敗だった。過去に修理で失敗した事は数知れず、しかしここまでの最大耐久値減少は経験したことが無いほどだった。おそらくこの残り最大耐久値ではテンテアによる神聖魔法1発で耐久が0になってしまうだろう。
茫然自失の体でボンヤリと呪印銃を見つめていたフーレンスジルコニアスだったが、震える手でそっと金床の上にある呪印銃を包み込む。溢れる涙で視界が歪む、上手く呼吸が出来ない胸に優しく呪印銃を抱く。
「ごめん…ごめんね……」
やっと手に入れた呪印銃、悩んだ末に見つけた呪印銃の使い方、これからどんな改造をしようか楽しみにしていたのに、自分の手でそれを壊してしまった。
「ごめん…ごめんなさい……」
強く強く握り締め指が痛くなるほどに抱きしめる、やがて溢れ出た涙が一粒流れ落ちその胸の呪印銃へと落ちていく。
『オリジナルスキル『再生の雫』の発動条件がそろいました。スキルの封印を解除し効果を発動させますか?』
システム効果音と共に流れる言葉に、咄嗟には理解できなかったフーレンスジルコニアスだったが、唯一意識に引っかかった『再生』の言葉に藁をも掴む気持ちで、目の前に開いたウインドウの発動キーを押す。
するとフーレンスジルコニアスの涙に濡れる呪印銃が虹色の光に包まれる、淡い輝きはゆっくりと流れるように動き溶け込むように消えていった。
その光景をボンヤリと眺めていたフーレンスジルコニアスだったが、ハッと弾かれた様に呪印銃のウインドウを開いてみると、減少していた最大耐久値が元の数値にまで回復していた。
「よかった…よかったよぉぉぉ~」
「よかったねぇ~」
おいおいと泣くフーレンスジルコニアスだったが、不意に聞こえていた同意する声に、あれ?っと首を傾げる。ギギギっと音がしそうな動きで横を見るとつい最近見た記憶がある、能面のような笑顔を浮かべた句朗斗が真横に立ってフーレンスジルコニアスの手元を覗き込んでいた。
いぃぃぃぃやぁぁぁぁぁ~という空しい叫びが工房の中に木霊するのだった。
「お前そろそろいい加減にしないと、ホント痛い目みるぞ?」
「うん、ボクもそう思う。ちょっと自重しる」
うっうっと泣きながら接客をするフーレンスジルコニアスを見ながらオスマの意見に同意する句朗斗だったが、しっかりと接客はさせるのだった。
「しかし、減少した最大耐久値を回復させるなんて、レア子もついに正真正銘のチートキャラ?」
「でも耐久減少なんてNPCかエルフの修理でしか発生しないし、そこまで問題視される能力でも無いでしょ?」
「むしろエルフでしか修理できない呪印銃への救済措置と捉えるべきだろうな」
フーレンスジルコニアスによって運ばれたジュースや軽食を口にしながら、先程のオリジナルスキルについて話し合っている『アーカイヴミネルヴァ』のメンバー達。今まで発動すらさせることが出来なかった『再生の雫』だったが、そのトンデモな効果と反比例するように利用価値は現状フーレンスジルコニアス限定という、酷くアンバランスなものであった。
効果の内容にまたいらない注目を集めてしまうのではないかと、内心で冷や冷やとしていたフーレンスジルコニアスだったが、メンバーから出された結論と句朗斗の口止めが済んでいる事にホッと胸を撫で下ろすのだった。
「こんばんにゃ~」
「ニャニャ~」
「お師匠さま、お久しぶりですわ」
挨拶をしつつ当然のように工房へと入ってくるニャンデストとネコ精霊、そして舞姫とセバスちゃんの4人。定位置になっているそれぞれの席へと座り込むと、各々が注文を言ってくる。
「ちょっと此処は喫茶店じゃないんですからね。欲しい物は各自でやってください」
「あらお師匠様、私もいくつか秘蔵の動画を所持しているのですが……」
「にゃにゃ、私もいくつか持ってるにゃぁ~」
伝染していく服従の波に屈しそうになるフーレンスジルコニアスだったが、負けちゃダメ負けちゃダメと呟きキッと視線を上げると、べべべ別にそんなのこここ怖くないもんと強がると、そのまま椅子へと座り込み接客拒否の姿勢をとるのだった。
ふ~んとか、へ~とか言いながらユラリと立ち上がる舞姫とニャンデスト、その様子にあうあうと慌て出すフーレンスジルコニアスだったが、素直に自分で飲み物を仕度しだした2人にホッとした様子を見せるのだった。
その光景を両手の親指と人差し指で四角い枠を作り、満足そうに記録していくセバスちゃんには最期まで気づかないフーレンスジルコニアスなのであった。
ちなみにそんなフーレンスジルコニアスを口髭を付けたネコ精霊がポンポンと肩を叩き慰めるのだが、その光景をみたセバスちゃんが髭愛好家の同士と感銘を受け、珠姫と銘々したのだが、舞姫と名前が被ると反対したユカリアスとテンテアによって、少し読み方を変えたタマキちゃんでどうにか落ち着いたのだった。
変更されて舞姫がチッと呟き少し不満気味だったのが、酷く可愛く見えたフーレンスジルコニアスであった。
ネコ精霊ちゃんの名前が決定しました。
珠姫ちゃんのままでもよくね?という意見があるようなら修正も考えてます。
メッセージにて多くの方から励ましのご意見を頂きました。
とても励みになりましたが、メッセージの返信は控える事に決めましたので、この場を借りてお礼とさせて頂きます。
ありがとうございました。