彼女の義務です的な、
昨日の夜に投稿したはずが、なぜか投稿できてませんでした。
本文が消えてなくて良かったですぅ。
上位種実装に合わせて新たに追加された新MAP。
それは地殻変動により、崩れた永久凍土の中から発見されたという、かつて神の中の1柱が生命を造り出す為に使ったとされる神殿であった。
大理石の上にガラスのような透明な膜を貼り、その中を光に変換された情報が流れるという、どこか魔法と科学が混在したような空間。各所に配置された神兵騎士達を廃し、閉ざされた扉を開ける為の謎解きを進め、又しても何故か住み着くオッサンの我侭で走り回りと、1週間程をかけて前線組総出で攻略を進めていた。
ギルド『アーカイヴミネルバ』のメンバー達も攻略を進め、最深部と思わしき場所で大きな門の前に立ちはだかる巨大な魔獣と対峙しているところだった。犀のような顔にゴリラの身体をつけた様なその全身は、顔以外は硬い剛毛で覆われていた。
巨大な爪を備えた豪腕が呻りをあげて振り下ろされる、大斧の腹を使って受け流すようにその軌道を逸らしつつ、地を抉るように踏み出すとその大斧を叩きつける。剛毛に覆われた脛を強打された巨大な魔獣は、その勢いに圧し戻され踏鞴を踏むが残念ながらダメージが通った様子は無かった。
「くはっ、キツイ。テンテアもっと下がりな、アンタ蒸発しちゃうよ!」
「だったらもっとしっかり圧し戻しな!野郎共ちゃんと働きな!」
「働いてるよー、でもでっか過ぎてボクの短剣じゃ効く気がしなーい」
「この剛毛で物理がまったく通ってねーな…」
「属性系のブレスも効いてないようだな」
愚痴を言いながらも各自が適切な動きで巨大魔獣の攻撃を無力化していくが、それでもジリジリと追い詰められて行く。全体を見ながら指示を出していたテンテアだったが、どうにも打開策が見出せずにいた時、ギラリと巨大魔獣の目が不吉な光を放った。
「てめーら退避! 聖典包囲結界」
テンテアの言葉を掻き消すように巨大魔獣が咆哮をあげる、同時に全身を覆いつくすように生える剛毛が、矢のように変化し全方位に放たれる。テンテアの力を持ってしても、そのMPの半分以上を削って発動する最強結界に深々と突き刺さる矢に、ユカリアス達は振り返ることなくその部屋から撤退していく。
「てめー、絶対死なす!」
全身に矢を受け、それでも巨大魔獣に向かって首を掻き切る仕草をしたテンテアが、鈴の音と共に砕け散った。
・聖典包囲結界(神聖魔法)
膨大なMPと引き換えに術者以外のPTメンバーに、強固な
結界を造りだす。
一定量のダメージを無効化する結界で、その効果は術者の
精神力に依存する。
キコキコキコキコ、フッ
魔弾を作り続け銃職人スキルのランクが上がると、次に作れるようになったのは呪印銃の消耗品の複製だった。
キコキコキコキコ、フッ
消耗品を作り続け銃職人スキルのランクが上がると、次に作れるようになったのは呪印銃の予備弾倉だった。
キコキコキコキコ、フッ
予備弾倉を作り続け銃職人スキルのランクが上がると、次に作れるようになったのは呪印銃の改造部品だった。
キコキコキコキコ、フッ……ウフフフフ
改造部品にヤスリをかけては息で粉を吹き飛ばす。少しづつ形になっていく部品に、思わずにやけるフーレンスジルコニアス。
「レアちゃん、流石にそれ怖いわ…」
「うひ!テ、テンテアさんいつの間に!?」
「ん、今さっきよ…」
未だに新MAPにも行かずに、銃職人工房に篭ってチマチマと生産活動に勤しむフーレンスジルコニアス、そんな彼女の住処となりつつある工房入り口の扉の横で、苦笑気味に笑っていたテンテアがフーレンスジルコニアスに歩み寄る、一瞬の違和感を覚えたがそれが何なのか考える前に、フーレンスジルコニアスの手元を覗き込んだテンテアが問いかける。
「それ、何?」
「んとね、さっき銃職人のランクが上がったの。それで改造部品を作れるようになったから、早速作ってみたの」
小さい筒のような部品を持ち上げテンテアに差し出すフーレンスジルコニアス。ニッコニコと得意気に渡されたテンテアだったが、正直それが何なのかサッパリわからないでいた。筒の片方にはレンズの様な物が付いており、LEDライトみたいだなと思ったテンテアが何気なく魔力を送ってみると、レンズ部分から緑色のレーザーが一直線に照射された。
「ぬお! 目がぁ目がぁぁぁ!」
ピンポイントでその光を目に受けたフーレンスジルコニアスが、残像が焼きついた~と悶える様子についにファンタジー世界に光線銃まで持ち出したかと、何処まで脱線して行くのかなぁこの娘と、フーレンスジルコニアスをますます興味深そうに眺めていた。
「えっとね、これは照準器って言って、呪印銃の照準を取るのに光を使ってやる部品だよ」
ニコニコと嬉しそうに説明しながらも、馴れた手つきで呪印銃を分解していくフーレンスジルコニアス。あ~でもないこ~でもないと小さなバネの様な物と格闘しながら、先程のLEDモドキを組み込んでいく。正直目の前の銃には興味は無い、銃が光ったからといってどうなるかも知ったこっちゃ無い、それでもテンテアはその光景を見つめ続ける。
現実世界もこの世界もテンテアにとっては『間々なら無い世界』でしかない、いつも自分はどこかイライラとしている。原因もわかっている、そしてそれがどうにもならない事だということも。
そんなテンテアを取り巻く世界の中で、彼女フーレンスジルコニアスは何処か飄々と生きている。誰も歩かなかった茨の道を、1人楽しそうに歩き続ける。フラリと現れていつの間にか自分の中で大きな存在になっていた彼女を見つめるのが、いつからかテンテアは好きになっていた。
「たのもう! ここにフーレンスジルコニアス殿は居るぐはぁぁぁあぁあぁぁー!」
テンテアを知る人が見れば、驚きのあまりキョドるような穏やかな顔をしていたところに、突然乱入してきた知らない人は、鬼の形相のテンテアの真空飛び膝蹴りを食らってそのまま扉から外にまで吹っ飛んでいった。
「はい、どちら様…って、あれ居ない?」
扉の所にはビッと首を掻き切るような仕草をするテンテアが居るだけだった。
「あ~、現状の解説を要求する」
「見たままよ」
「何でアイツ既にボロボロなんだ?」
「気のせいよ」
死に戻りで先に戻っていたテンテアにやっと合流した『アーカイヴミネルヴァ』のメンバー、コーネリアスとオスマの問いに素っ気無く答えるテンテア。その横ではウキウキと観戦モードになっているユカリアスと句朗斗が、ウッドテーブルのセットに腰掛けてジュースを飲みながら目の前の光景を眺めている。
銃職人工房の前の道で、フーレンスジルコニアスと大きな野太刀の様な両手剣を携えた男が見つめあう。困ったような表情を浮かべるフーレンスジルコニアスに対して両手剣の男は鋭い眼差しで見つめ返す。
「あの~、どういう経緯でこう言う話になってるんでしょうか?」
「経緯などどうでもいいこと、貴殿は全力でもって拙者と試合ってくれれば良いのだ」
道場破りの四十朗と名乗った男はそう言うと、別に道場を構えてるわけでもないフーレンスジルコニアスに一対一の対戦申請を送ってくる。
『四十朗からPVP対戦の申請が届きました。許可しますか?』
拒否します。ポチっ。
「…………」
『四十朗からPVP対戦の申請が届きました。許可しますか?』
拒否します。ポチっ。
「拒否るなよ!?」
「ええぇぇぇ、だって嫌だもん」
ぐぬぬと呻いた後、ならばとサッとアイテムを取り出す四十朗。
「対戦して貴殿が勝ったらこれを進呈しよう。これならどうだ!」
「何ですか、それ?」
「これは『七色の鞣し革』だ。これで作ると装備を任意の色にすることができるのだ、その銃のホルスターをこれで作れば好きな色にすることができるぞ」
その言葉にピクリと反応するフーレンスジルコニアス。視線で右斜め下を見た後、そのまま右上へと移す、フッと左下に移すと目を瞑り眉間に皺を寄せてしばし考える。
「貴方の熱意、受け取りました。いいでしょう、その対戦お受けします!」
『物欲に負けた!!!!』周囲の突っ込みをその意思の力でねじ伏せて呪印銃を構えるフーレンスジルコニアス。その姿に満足そうに頷きながら両手剣を正眼に構える四十朗。
周囲が固唾を飲んで見守る中、最初に動いたのは四十朗、『アーカイヴミネルヴァ』のメンバーから見ても中々の動きでフーレンスジルコニアスに切りかかる。しかし、句朗斗の通常攻撃とはいえ完全に避け続けるだけの回避能力を持つフーレンスジルコニアスはそれを難なく避けきる。
回転を加えたステップで剣を持つ手に2連射を放つが、体軸から外れた手を狙ったせいか少しの動作だけでかわされてしまう。
「ダメだダメだ、全力でと言ったであろう。貴殿の全弾射撃で攻撃するのだ!」
挑発するような四十朗のセリフに、フーレンスジルコニアスも周囲の見物客も罠かと勘ぐる。しかし罠を張ってまで対戦を挑んでくる理由が、フーレンスジルコニアスにはわからない。
「わかりました、全弾射撃。これでキメます」
わからないなら遭えて乗ってみようと、宣言をして弾倉を入れ替えて狙いを付ける。ついでに先程追加したばかりの照準器に魔力を送り込み、四十朗の胸へと狙いを付ける。
一瞬の空白の後、マズルフラッシュと共にフーレンスジルコニアスが舞い踊る。緑のレーザーサイトの輝きを周囲に煌かせながら7発全弾が、銃弾を受け入れるように大きく両手を広げる四十朗へと吸い込まれていく。
レーザーサイトの光に目をやられた数人が『目がぁ目がぁぁああ』と叫ぶ中、その四十朗の奇行にフーレンスジルコニアスが呆気に取られていると、嬉しそうな顔をしていた四十朗の顔が苦痛に歪む。
「ナゼだ! ナゼだぁぁぁあ!! ナゼ『チェックメイトです』と言わないだフーレンスジルコニアス!」
銃弾から発生した雷撃によりトドメを刺された四十朗が、クリスタル化しながら生チェックメイトですが見たかったと呟いて砕け散った。
ビッと首を掻き切る仕草をしてから、フーレンスジルコニアスは四十朗に背を向ける。
テーブルから転げ落ちて笑い転げる2人と、視線を反らし肩を震わせる2人、そして素晴らしい笑顔のテンテアに迎えられながら、もういいよこのネタ……と呟くフーレンスジルコニアスだった。
そしてその日、掲示板にて1つのアンケートが立った。
20〇〇年 5月26日 21:16
タイトル THEレアの行動に関するアンケート
拙者は今日THEレアに対決を申し込んだ。その際あろう事かTHEレアは勝利の際『チェックメイトです』を言わなかった!
これは許されざる行為だと拙者は思う。
よってこの件に対してアンケートを取りたいと思う。
チェックメイトですを、
言うべきだ。 21,072票
言わなくてもいい 1票
ついでに照準器も使用禁止になった。
いい加減このネタは今回までにしときますねw