お前ら新マップ行けよ的な、
大人の事情にからむセリフ(18禁の類ではありません)を出してしまった…。
ヤバイでしょうか?
時は5月20日の明け方、後30分程で大規模なアップデートに伴うサーバーダウンの為、運営からの度重なる早期ログアウトが通知されてる時間。いつもは明け方といえど、それでもチラホラと人を見かける無限回廊都市『古代種の都』も、ひっそりと静まり返りすれ違う人も見かけなくなっている。
そんな街で地響きを立てて巨大な歯車が動き出す、一体何人の者がその光景に気づいただろうか。
尖塔の上で輝く台座の上の球体の数が4つに減った事も、新マップの情報の流れに押し流されひっそりと歴史の陰に消えていった。
「我が人生に悔い無し!」
「大げさな…でも言いたい事はわかる」
シュコーシュコーと、ダー〇〇〇〇ーの様な呼吸音で興奮しているのはゴスロリ服で身を包む舞姫、そんな舞姫にツッコミつつも同意するのは、テーブルの上にメンテナンス道具を広げるフーレンスジルコニアス。ここは『古代種の都』の一角にある、既にフーレンスジルコニアス達の溜り場に成りつつある銃職人工房の喫茶スペース。
興奮の原因、舞姫の膝の上に腰掛けながらテーブルの上のショートケーキにその手のフォークを突き刺しては、ウニャニャと嬉しそうに口に運ぶネコ精霊の愛らしさに舞姫の鼻息は益々荒くなり、ネコ精霊の後頭部の髪を揺らす。ムズムズするのか時折後頭部に手をやり、自身の髪を気にする仕草が更に舞姫のボルテージを加速させる。
そんな2人の姿を眼福と思いつつ、日課の呪印銃のメンテナンスを済ませ今はせっせと専用の布で艶出し作業をしているフーレンスジルコニアス。その視線をチラリと横にずらせば、テーブルに突っ伏して口から魂をニョロリとはみ出させたニャンデストが力なく横たわっている。
その容姿は初めて会った時から少しだけ変化していた。白と黒の髪だった頭髪には、フーレンスジルコニアスと同じように薄っすらと虹色の光沢が入り、今は力なく床に垂れ下がっている尻尾も2本になっている。虚空を見つめる目も左側だけネコ精霊とお揃いの琥珀色のオッドアイになっていた。
その容姿とネコ精霊が人目を引き、2人目の古代種としての物珍しさも相まって、色々な人に話しかけられたり今まで見向きもされなかったギルド勧誘にも多数あい、ここに逃げ込んで来た時には既に思考がテンパっていた様で安堵と共に大泣きした挙句、今は放心状態になっていたりする。
「逃げてる間、ネコ精霊ちゃん向こうに帰しとけばよかったのに…」
「こんなに可愛い子を一時でも帰すなんてできないにゃ!」
「その意気や良し、貴方とは美味い食事ができそうですわ。今後もここに出入りする事を許可します」
フーレンスジルコニアスの呟きに、ガバッと起き上がり力説するニャンデストと、うんうんと頷きながら手を差し出す舞姫。テーブルの上でガッシと握手を交わす2人の友人に、友好を深めた理由は置いといて仲良くなってくれて良かったと思うことにしたフーレンスジルコニアス。
ここの出入りはいつの間に舞姫の許可制になったんだろう?とか、喫茶スペースのカウンターの向こうにバーテンダーよろしく、シェイカーをシャカシャカと振るセバスちゃんに、もうどこから突っ込んでいいものか分からなくなっており、ラヴリー談義で盛り上がる2人をフォークを咥えながら見上げるネコ精霊ちゃんを見て可愛いからいいやと、まるっと横に置く事にしたフーレンスジルコニアスだった。
音も無く近寄って来たセバスちゃんが、シェイカーをヒョイっと放り投げる。クルクルと回転したソレは、鮮やかにその手の中に収まり、器用に親指で開栓すると片手に持った4個のグラスへと注いでいく。
一連の動きを凝視していたネコ精霊が、手渡されたグラスを興味深そうに眺めている。イチゴとバナナをベースに作られたミルクオレの甘い香りに、警戒心よりその魅惑に負けて両手で抱え持ちコクリコクリと飲む姿に一同が魅入る。
「何この可愛すぎる物体」
「にゃにゃ、絶賛名前募集中にゃ!」
「あぁん、思いつく名前が全て陳腐に思える可愛さですわ!」
両手の親指と人差し指で四角い枠を作り、ネコ精霊のSSをあらゆる角度から撮るセバスちゃん、会心の作が撮れました後で皆様にも送信しておきますの言葉に、女子からの支持率UPなのだった。
そんな至福な時間が流れる場所に、突然嵐が舞い込んでくる。乱暴に開け放たれた扉から、ユカリアスとテンテアが転がるように入ってくる。
「いたー!」
「うぉーマジだ、マジでネコ幼女だ!」
ドドドドっと目を血走らせて走り寄って来る2人に、フーと毛を逆立てて警戒するネコ精霊。反射的に『ママのお守り』がスキルを発動させるのと、扉からオスマと句朗斗が駆け込んでくるのは同時だった。
「土下座しろ!」
絶妙なタイミングでフーレンスジルコニアスの怒りが飛ぶと、テイムされた句朗斗がフライング土下座をする。いきなり足元で土下座される形になったオスマが、反応しきれずに句朗斗にぶつかり共に壁に突っ込む。
「悪は滅びるべし!」
「チェックメイトだにゃ」
「チェックメイトですわ」
「チェ、チェックメイ…ぶはw」
「前線組でチェックメイトですが大流行中よ、レアちゃん♪」
みんな若いなとか思いつつ歩いてきたコーネリアスが、銃職人工房の扉を潜る。
そこには壁に突っ込みながらも土下座する句朗斗と、上下逆さまになっているオスマ、何故か壁に向かって黄昏てるフーレンスジルコニアスとネコ精霊に群がる乙女達。
「あ~、現状の解説を求める」
「むしろ何で俺までこんな目にあってるのか聞きたいくらいだ…」
「ヤバイ、あのネコ精霊ちゃんはマジでボクには天敵かも…」
置いてきぼりな男性陣を無視して乙女達は盛り上がる、1人カウンターの中でシェイカーを振る全ての事情を知るセバスちゃんが、その光景に満足気にうんうんと頷いていた。
「いろいろ聞きたい事が山盛りなんだが、とりあえずそれは今は置いておくとして、」
収集付かないからな…と溜息をしつつ、コーネリアスが一堂に会してテーブルに付いた面々を見渡す、若干2名がシェイカーを振ってたり土下座したりしているが気にしないことにする。
「ニャンデストさんだったね、良ければ貴方が持ってる獣人の古代種転生条件の情報を聞きたいんだが」
「はいにゃ、むしろ公開したいくらいにゃ。でも私wikiの書き方がわからないにゃ」
「なるほど、ならその辺のフォローはお礼としてこちらでやらせてもらおう」
「助かるにゃ」
ニャンデストは転生条件の内、少なくとも魔獣との戦闘時の死亡回数0回を満たしていない為、コンプリート状態になっておらず公式ページが開放されていない。その為図らずも情報を隠蔽している状態になっており、それが街中を逃げ回る程の事態に繋がっている。
・リュカントロープ(上位種)
古代種が残した遺産を取り込み、より進化した種族。
苦手としていた魔力制御能力が向上し、属性防御能力と
魔力をスタンスとして使う能力に目覚めた。
スタンス発動には常時MPを消費するが、戦闘能力は格段に
向上する。
オフェンススタンス習得、アジリティースタンス習得、属性防御UP
・ライカンスロープ(古代種)
原始の種族の中で唯一、魔獣や実体化精霊を使役した種族。
非常に好戦的だった為、常に他種族と戦っていた。
しかし同胞が傷ついて消えていくのに耐えられなくなった精霊が、
反旗を翻し精霊界に消えたことで大幅に戦力が低下し、戦線を維持
できなくなり滅んでしまう。
死の間際、かつては友と呼んだ精霊達に詫びながらその幕を閉じた。
楔切りの大鎌取得、平和主義者習得、反響の鐘習得
「なんか、ニャンちゃんのプレイスタイルとはかけ離れた印象の種族だね」
「そだにゃぁ、でも最期に改心してたみたいだし、そこから繋がってるんだと思うにゃ」
それらの情報を元に皆で相談しあった結果、大まかな予想でいくつかの条件にまとまった。
・獣人種族における古代種への転生条件(予想)
・調教スキルマスターランク
・調教時に対象に敵意(攻撃状態)を向けていない
・ネコ精霊と友好関係状態にある
・テイム成功回数0回
・魔獣との戦闘時の死亡回数0回(未達成)
・?
完全な情報ではないが、それこそ1人が全てを網羅する責任がある訳でもない。情報の穴埋めがしたいなら、それを望む本人が自身で検証すればいいことだ。そもそも、一発でコンプリートしたフーレンスジルコニアスが異常とも言えるのだ。
まぁこんなもんだろうと、各々納得した所で興味は次に移っていった。
「ところで、楔切りの大鎌ってどんな感じなの?」
「にゃ、これにゃ」
同じ古代種の武器として気になったフーレンスジルコニアスが何気なく聞くと、ニャンデストがどっこいしょとばかりにアイテムインベトリから取り出し装備した武器に、その場に居た一同が唖然とする。
光を反射しない漆黒の棒の先には、大きく鎌首を反らした刃が濡れたようにその存在を主張していた。ユカリアスの大斧にも匹敵するその大きさは、素早い動きが売りの獣人には余りにも不釣合いすぎた。
「いや、それは無いだろう…。完全に獣人のスタイルに合ってないぞその武器!」
同じ獣人のオスマが思わず興奮して立ち上がる、そんなオスマにニャンデストは少なくとも私にはそうでもないにゃ~と、楔切りの大鎌の詳細を公開する。
・楔切りの大鎌(神器)
ATK+120(+0)
一定時間テイマーと召喚獣の絆に楔を打ち込み、テイム
状態を解除することができる。
巨大魔獣との戦闘時には任意で形態変化をさせることが
できる。
「これに種族スキルの『平和主義者』を合わせると中々えげつないにゃぁ♪」
・平和主義者
テイマーが操る召喚魔獣から攻撃を受けると発動する。
攻撃を受けても敵意を向けないことで、一定時間その魔獣からの
好感度が大きく上昇する。
その為効果発動時間内はその魔獣から攻撃されなくなる。
「一度でも召喚魔獣から攻撃を受ければその魔獣を無力化できるにゃ、その上でこの武器でテイマーを攻撃すれば相手のテイム状態を解除できて、逆にその戦闘中は私がテイム状態になるにゃぁ~♪」
「なにそれ、完全にテイマーキラーじゃん!ていうかそろそろ土下座勘弁してください」
「跪け、命乞いをしろ!小僧からいしをムガムガ…」
「はいはいレア子、それ以上は大人の事情で言っちゃダメよ」
ネコ精霊のテイマーズテイマーといい、ニャンデスト自身の効果といい完全に句朗斗にとって天敵が生まれた瞬間であった。
でも一番のお気に入りはコレにゃ、と対巨大魔獣用形態へと大鎌を変化させると、それは巨大なネコじゃらしであった。反射的に飛びついてしまったネコ精霊とフーレンスジルコニアス、ハッと我に返った時には皆の生暖かい視線に赤面するのであった。
「でも結局、対人戦それも対テイマー以外だとその武器不便じゃね?」
「にゃ…」
オスマの呟きに絶句するニャンデストだったりする。
ところでなんでユカ姉とテンテアさんがネコ精霊ちゃんのこと知っててあのタイミングで来たんだろう?
お応えしましょう、それは私が御2人にもさっきのSSを送信したからで御座います。
あぁ、なるほどセバスちゃんさんが知らせてたんですね。
ちなみに先程の巨大ネコじゃらしと戯れるフーレンスジルコニアス様も、ベストアーングルで記録しております。
いやー、消して消して!
はっはっはっは、ご安心ください。既に送信済みでございます。
土下座しろ!!
という訳で、ネコ精霊ちゃんの名前募集してみたり。
あとアレックスさんの感想からちょっと言葉引用しちゃった、テヘ。