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イリーガル・コール  作者: 山吹
Ver 1.0
1/37

プロローグ的な、

未だ未完の作品にどん詰まり、思わず逃げたこの作品。

はたして作者の行く先は…。


その旨理解し納得した人だけお読みください。

超鈍亀更新推奨作品です。

劣化したインゴット、壊れたつちからの添加剤(課金物)等

フィールドに捨てずに各自で処分すること!


そんな注意書きがデカデカと書かれた看板の横で、1人の少女が黙々とつちを振り下ろしている。


巨大な溶鉱炉ようこうろを中心に据えて、その周囲には数十人が思い思いに槌を振り下ろし、金属と金属がぶつかり合う独特な音を響かせながら作業に没頭している。

一片が人の背丈程もある巨大な四角い石を組み上げて作られた壁は、炉と数十人を内包してもまだまだ余裕があるほどに大きく円形状に広がっている。ドーム状に組まれた天井は見上げるほど高く、溶鉱炉の真上には煉瓦レンガで組まれた煙突が溶鉱炉からの排熱と煙を外へとせっせと吐き出しているが、それでもその場には鉄の匂いと咽返むせかえるような熱気が立ちこめていた。


ただですら暑苦しいその場で作業する多くの者は、上下が一体になった『つなぎ』と呼ばれる作業着に身を包む、ズングリとした体型でいかつい顔をしたドワーフが大半を占めていた。その為か、実際よりも体感温度はかなり暑苦しく……むしろむさ苦しく感じるほどになっていた。


ムワっとする風が顔に当たり思わず顔を顰めてしまった少女が、ふぅっと息をつきながら額の汗を右手でぬぐったのはそんな過酷な場所で作業をはじめてからちょうど2時間程が経過してからだった。


「あっつぅ~……」


鍛錬たんれん鍛冶には欠かせない金床かなどこの左右にだらしなくも足を投げ出し、天井を仰ぎ見ながら左手でもってパタパタと胸元に風を送り込んでいる少女、チラチラと周囲のドワーフ達に鼻の下を伸ばしながら盗み見られているのに気付いていない少女は無防備にダラケきっている。


無理も無い、元々が鍛冶場において女性の存在自体が希少なのに、彼女はこの鍛冶場において唯一のエルフの女性なのだから……でも限度もわきまえずしつこく凝視していた幾人かには、軽微なハラスメント行為としてシステムからそこそこな電撃が見舞われていたが。



不意に少女は右手を振り上げる。人差し指に軽く親指を添える形のその指先には、半透明のウインドウが突如して現れた。

他者からはそのウインドウ内の表記は見えないが、本人には数種類のメニューが見て取れる。その中からスキル項目を指先でクリックするとスキル欄の新たなウインドウが現れ、少女は馴れた手つきでその中から鍛冶スキルを選んで詳細を表示させていく。


「う~ん、2時間で0.1%かぁ……」


ハハハと乾いた笑いを漏らしながらポリポリと頬を掻く少女。


突如として現れたウインドウにもこれといって周囲の者が驚く気配は無い。それどころかよく見れば他にも何人か同じようにウインドウを出してさえいる。

それもそのはず、今この場は現実の世界ではないのだから。




MMORPGに馴れ親しんだ者が夢に見たVRMMO、五感を伴い仮想現実の世界へとダイブする技術が確立されてから10年余りが経った時代。

黎明期には多少の問題と混乱こそおこったが、今では安全性も確保され外でハメをはずされるよりはマシと子供の頃からVRMMOを買い与える親も昨今では少なくない。

その為アカウント管理などにも気を使われ、国民全てに与えられた管理コードにより1人1アカウントが常識になり、合わせて現実との齟齬が大きくなりやすいVRゲーム内での性別も現実と同期させられている。



そんな『ネカマ』などというジャンルも無くなって久しい時代、王道スタイルなタイトルが発表された。


イリーガル・コール・オンライン


王道というだけあって、剣と魔法を駆使し魔物を倒していくオーソドックスなスタイルだったが、当初予定されていた人数の数倍のユーザーを獲得する人気タイトルへと数年で駆け上がっていた。

特筆すべき目新しさがあった訳ではないが、自由なシステムとそれに比例する不自由さのバランスが、玄人くろうとの好みに合ったのと、オーソドックス故に初めてVRMMOをやり始めた者にも敷居が低く受け入れやすかったのだろう。


アイテムインベントリから冷えたジュースを取り出し、かぁ~!とか言っちゃってるちょっと残念なこの少女も、このイリーガル・コール・オンラインが初のVRMMOであると共にオープンβから続けている古参メンバーでもあった。


「よぉ~、相変わらずコツコツとがんばってるじゃねぇか」

「あー コダックスさん、こんにちは~」


たるのような身体に不釣合いな程に筋肉の付いた、丸太のような両腕を腰に当て1人のドワーフがノシノシと歩み寄りながら少女に声をかけてくる。口の周辺から左右へと伸びる髭はドワーフらしく立派な物だが、頭頂部の髪はすこし残念な感じになってしまっている。


「そろそろ鍛冶のランクも上がったんじゃないか?」

「はい、お陰様で先日マスターランクまで上がりました」

「おぉ、そりゃぁ豪儀ごうぎだな。めでてぇめでてぇ! じゃぁ今はマスタータイトル狙いか」

「そうですね」


開けっぴろげなコダックスと呼ばれた老ドワーフと話しながら、汗で張り付いた頬の髪を無意識に整える少女。

銀色に一滴だけ蒼を落としたようなブルーシルバーと呼ばれる髪色は、絹糸のように細く背の中程まで流れている。スッと通った鼻梁に細い顔立ち、髪色と御揃いの眉と影を落とすような長い睫毛に彩られたアーモンド形の目に納まるのは、イチゴのような甘さを感じさせる淡いピンク系の瞳であった。

スラリと細身のその身体には、一切の無駄な肉は付いてなく髪から覗く長めの耳もエルフ然としている。


「しっかし、何度見ても見事というかなんと言うか……。

さすがはTHEレアというところか」

「もう、そんな名前で呼ばないで下さい!私にはれっきとしたフーレンスジルコニアスという名前があるんです!」

「なげぇよw」

「ぶー」


可愛らしく口を尖らせて拗ねたようにする彼女は、殆ど名前で呼ばれることが無い。

THEレア、奇しくもそんな不名誉な名前が彼女の二つ名になってしまっている。


そんな二つ名が付いたのは複雑な経緯があったからではない、ただ彼女のスキル構成とそれに伴う行動、そして彼女の宿るアバターの外見からだ。

なぜたかがアバターの外見でそんな二つ名まで付くのか、それはこのイリーガル・コール・オンラインのキャラクター作成時の仕様に起因する。基本無料の形態を取るこのイリーガル・コールは直接ゲームを進める為には関係のない所での課金で成り立っている。

その1つがアバターの外見変更である。

変更する(・・・・)事無く(・・・)最初に作られた(・・・・・・・)外見で(・・・)ゲームを進める分には課金は発生しない、しかしアバター作成時にはランダムで(・・・・・)外見が決められる為に多くの者が課金をするハメになる。

何しろ自由を売りにしているだけあってアバター外見もそれはそれは自由・・極まりなく、髪型だけでも女性であってもアフロや坊主は当たり前、中には前衛的すぎて既に意味不明な髪型さえ多く存在する。課金しての再選択時でもランダムは貫かれ、気に入った外見を手に入れるだけで数万、中には十万単位で注ぎ込む者さえいた。


そして運営からのどういう配慮か、課金額によってアバターの上に表示される名前の色が変わっていく。

課金をすると青みがかかっていき、万の単位を超えると完全に青になり十万を超えた所で金に輝く。ある種の皮肉を込めてゴールド会員と呼ばれたりもするが決して珍しい事でもない。

現にユーザーの30%以上がゴールド会員であり60%が課金ユーザーで一般会員と呼ばれていた。


そんな中、イリーガル・コール内ランキング(非公認)で上位3位に入る外見のフーレンスジルコニアスの名前は白、入賞者で唯一の無課金者であった。その為、皮肉を大いに込めて天然物、非整形者、羨ましくなんか無いんだからね等の候補の中THEレアが見事定着してしまったのである。


そんな彼女が目立たないはずが無い、良い意味でも悪い意味でも。


「さてっと、じゃぁそろそろ私は落ちますね(ログアウト)、おやすみなさい」

「おぉ、お疲れさん、おやすみ」


話は弾んでいたものの、そろそろ就寝の時間だと、挨拶を交わしログアウトの為に右手を上げた彼女の無駄の無い(AじゃないよBだよ)胸から唐突に剣の切っ先が生えた。


「あ……」


という声だけを残して、心臓の位置(クリティカルポイント)を貫かれた彼女はアッサリとクリスタル化(死亡エフェクト)を起こし鈴のような音を残し砕け散った。




挿絵(By みてみん)




いきなりPKされとりますw

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