夜校舎での再開
夜の学校、そして夏と言えば肝試しだが、朝香はオバケ、幽霊の類いを信じない。今、閉められた正門を乗り越えた人もまた、同様だった。
その人が昇降口の扉に手をかけた。
その時、
「何をしているの?」
「!?」
その声に振り返ると、朝香が立っていた。
「……どうしてここに?」
「アナタが三階から落ちて来たからよ、夜月」
「……なぜそれを」
「私、二一八号室なのよ、真上の三一八号室から何か落ちれば分かるわ」
「……」
夜月は扉に手をかけると、まるで鍵が閉まっていなかったのように容易に開いた。そのまま中に入っていく。
「ちょっと夜月!」
朝香が駆け出して昇降口の前へ、すると夜月は中へ入れぬように扉の奥手前に立ち止まった。
朝香は慌て立ち止まる。扉の中と外で、朝香の質問が始まった。
「アナタは何者?」
「……月の王子様、とでも言っておきましょうか」
「一昨日も夜の学校に着たわよね?」
「……はい、一応」
「あの時の蛇はなに?」
「……答えられません」
夜月は首を振った。
「じゃあ、アナタの目的はなんなの?」
「……」
首を振った。
「答えなさいよ!」
朝香は思わず怒鳴ってしまった。すると夜月は、
「……知りたいのなら」
「え?」
「知りたいのなら、こちらに来てみて下さい」
一歩後ろに下がり、朝香を校内へと招いた。
朝香は、何言ってるの? と思った。特に障害があるわけではない、昇降口の入り口だ。
「簡単じゃない、待ってなさいよ夜月、すぐに行く…」
「ただし」
朝香が一歩進んだところで、夜月は付け足した。
「こちらに来るということは、命の危険がある。ということです。それでも朝香さんはこちらにこれま…」
「分かってるわよ」
夜月が言い切る前に、朝香は校内に入った。躊躇いも無く。
「な……!」
それを見て驚く夜月を指差して朝香は、
「命の危険が怖くて首を突っ込める訳ないでしょ? 私はね、夢の為なら命は惜しくないの、そう、惜しくはないのよ!」
勝ち誇った顔で宣言した。
「……いえ、そういう意味だけではなかったのですが」
「え?」
夜月は徐に校舎を出た。そこら辺に落ちていた小石を拾い、開かれた扉から校舎内目掛けて投げつけた。「ちょっと、何して…」
瞬間、小石は校舎内に入ることなく地面に落ちた。
小石はまるで目の前に壁があるかのような、扉の開かれた枠内に当たったのだ。
「えぇ!?」
驚く朝香を見ながら校舎内に入った夜月が語る。
「この扉を境に、学校と同じ姿形をした別の空間になっているんですよ」
「別の空間!?」
「はい、今投げた石は本物の校舎の開かれていない扉に当たったのです。これにより外部からの侵入は難しく、内部で大体のことをしても本物の校舎に影響はあまり与えませ……って、朝香さん?」
夜月が訪ねた朝香は、目を輝かせて、上の空だった。
別の空間……やっぱりあるのね! 似て非なる世界、パラレルワールドが! それに今、よく入れましたねって……ひょっとして、何か選ばれた人しか入れないとか!?
「ふふふ……」
「あの……朝香さん?」
不適な笑みを浮かべる朝香に恐る恐る声をかけた。
「ふふ……え、あ、えっと、は、はい!? なに!?」
朝香は慌てて我に帰った。
「……ちなみにですが、恐らく一昨日に自分より早く校内にいて、知らずに空間を張ったことが原因だと思います。それが抗体となったのでしょう」
「あ、そ、そうよね……ははは……」
内心はショックな朝香だった。
「ともかく、約束しましたので、自分が何者なのか、お話しします」
「目的もね」
「はい」
時刻は7時20分を過ぎた。