もう一度出会うために
午後の授業が終わり、生徒達は部活に行ったり帰宅したりと、各々の行動に移り始めた。
―――――よし。一緒に帰るフリをして、いろいろと聞き出してやるわ。
そう考え夜月の席を見る。
「あれ?」
そこに夜月は居なかった。
「どうしたの光?」
隣に来た明花が訊ねる。
「いや、せっかくだから夜月と一緒に帰ろうと思ったんだけど」
「夜月くんなら、あそこにいるよ?」
明花が指差す方向を見ると、
「夜月君! 部活はどこに入るの?」
「ぜひ、我がサッカー部へ!」
「いやいや野球部へ!」
「バスケ部へ!」
部活勧誘をするクラスメイトに囲まれる夜月がいた。
「あれじゃあいっしょに帰るのはむずかしそうだよ」
「そうね、てか、明花は行かなくていいの?」
明花は書道部で、朝香は帰宅部である。
「うーん。あの中に入って勝てる気がしないから」
それもそうね、と言った朝香は再び夜月を中心とした塊を見て思った。
結構重要なチャンスを逃したわね、でも、私にはまだ手があるのよ。待ってなさい夜月、すぐに正体を見つけてやるんだから。ふふふ……
「光? なんで悪者っぽい笑い方しながら夜月くん達を見てるの?」
朝香の考えた手とは、
「アイツはここにまた来る筈よ」
夜の校舎で待ち伏せる事だった。
時刻は昨日よりも少し早い7時54分。
朝香は校内をぐるぐると回って夜月を探していた。
しかし、
「……見当たらないわね」
一向に夜月どころか、昨晩出会った大蛇のようなものも現れなかった。
「ふわぁ……」
見つからな過ぎてあくびが出た。その時、
「! そこかぁ!」
後ろに感じた気配に、朝香は素早く振り向いた。
「キミ、こんな時間に何をしているんですか」
そこに居たのは、人だった。男にしては長めの黒髪を後ろで一本結びにして。長句と呼ぶのは難しいが、朝香よりも高く、すらりとした体型を黒の上下、その上に白衣を羽織っている。
「あ、いや……その……」
とりあえず朝香は冷静になった。そして、
「わ、忘れ物を取りに」
嘘をついた。
「……そうですか、目的が済んだら、早く帰るのですよ」
男はそれを信じ、暗い廊下の闇へと消えた。
ふぅ……どうにか誤魔化せたみたいね。
一息ついた朝香は、今しがた会った男の事を考えた。
白衣ってことは、保険の先生か理系の先生の筈よね? ……でも、あんな先生いたかしら? あ、ひょっとしたら保健室の人かもしれないわね。私あまり行ったことないから知らないだけなんだわ。
すでに一年以上この学校に通っている朝香だが、全先生の顔と名前を知っている訳では無い。保健室関連の人は、健康診断以外では来たことの無い健康児の為、特にだ。
「はぁ……ああ言った手前、下手に長いするとまた先生に見つかりかねないわね……」
仕方ない。そう思った朝香は、昇降口へと向かった。
「夜月の奴……どこに行ったのかしら」
一夜明けて、今はすでに放課後。帰宅部の朝香は一人帰路についていた。
今日学校へ行くと、夜月はすでに自身の席につき、クラスメイトに囲まれていた。隣の席の朝香はその集団に挨拶を済ませてから席に座り、会話に耳を傾けた。
いろいろな言葉が聞こえたが、一番朝香の耳に入ったのは、
「もう一日! もう一日だけ待ってて夜月くん! 明日にはすっごいの考えてくるから!」
あだ名が考え付かなかった明花の謝罪だった。
そして特出することもなく授業が進み、終わり、放課後となった。
朝香は今度こそ夜月と共に帰るべく、声をかけようとすると、
「あれ?」
夜月は席にいなかった。
教室内を見回すが、部活勧誘をうけてもいない、全く姿を見つけられなかった。
という訳で、朝香は一人歩いていた。
「ん?」
ふと前を見ると、引っ越し会社のトラックが横を通り過ぎていった。
その時、朝香は閃いた。
進行方向的には家屋がいくつもあるが、今一番にして引っ越し会社の世話になる確率が一番高いのは……
「間違いないわね」
全ての答えを出す前に、朝香は歩を早めた。