食堂での会話
この学校にある食堂。席は二百、メニュー数は多くないが、値段が学生に優しくリーズナブルな為、人気な所だ。今も何人組、あるいは一人で生徒が昼食を取っていた。
朝香も一人、端の席でオムライス(300円)を食べていた。
そこに、
「あの、前よろしいですか?」
夜月がお盆を持って現れた。中身は月見そば(200円)だ。
「えぇ、どうぞ」
朝香の返事に、夜月は前の席に座った。
「あの、朝香さんですよね? 隣の席の」
夜月が話しかける。
「え、は、はい」
朝香は少し驚き、応えた。
「凄いですね、学校に食堂なんて」
「外国の学校には無かったの?」
「はい、いつも弁当でした」
「ふぅん」
「ところで、朝香さん?」
「はい?」
「自分を観察しても、何も出ませんよ?」
「!?」
朝香は目を丸くして驚き、夜月はそばをすすった。
「……気づいてたの?」
「はい、さすがに」
「そう……じゃあ真正面から聞かせてもらおうかしら」
「はい?」
こうなったら何がなんでも聞き出してやるわ。
朝香がそう思って質問しようとした。その時、
「お〜い光〜」
明花が現れ、朝香の隣に座った。
なんてタイミングに来たのよ! と言いそうになった朝香は口にオムライスを放り込んで押さえた。あまり騒がしくしたくなかったからだ。
「あれ? 夜月くん?」
「どうも、加藤さん、ですよね?」
「うん! そうそう夜月くん、夜月くんのあだ名考えたんだ!」
「あだ名、ですか?」
「そうよ、明花は人のあだ名作るのが得意なの」
とりあえず話は置いておき、朝香は明花の話に乗った。
「えっとね、『月の王子様』ってどうかな? クラスでもコレが一番人気だよ」
「え……っと、すみません。それは恥ずかしいです」
「そっかぁ、じゃあ『つっきー』は?」
「月だから?」
「うん、月だから」
「安易ね」
「がーん!」
「すみません……それもできれば」
「うぅ〜、じゃあ明日まで待ってて! 絶対にいいの作ってくるから!」
そう言い残して、明花は食堂から出ていった。
「……あの為に来たんですかね?」
「ああいう子なのよ」
ため息まじりに朝香が答えた。
「では、お先に失礼します。朝香さん、また後で」
「えぇ」
食べ終えたお盆を持って夜月は立ち上がり、
「…………夜に忘れ物を取りに行かない方がいいですよ」
「え!?」
朝香がその声に振り向いた時には、夜月はすでに行ってしまっていた。
「……やっぱり」
しかし、それで朝香は確信を持ったのだった。